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三十三話 この水はどこから出てきたんだ?

 暴君ディランを擁する帝国の版図は、急速に広がっていく。

帝国に従わぬものはことごとく蹂躙される。

敗れた者には、例外なく死がもたらされた。


 帝国に降る国や都市の民に人権などは無い。

ただ、理不尽に帝国の富を支える…… それだけのために搾取されるばかりである。


 帝国はその支配域を人間だけでなく、亜人や獣人の領域にまで広げ始めた。


 帝国はついに、全ての人々に服従か死の二択しか与えることがなくなった。

そんな帝国と暴君ディランに対して、抗う人々は最後の抵抗に打って出る。


 帝国に抗う人間・亜人種達が暴君ディランと帝国に対し、一斉に武力蜂起したのであった。



         ラライエ創成記より一部抜粋

 




 さて、ピリカの復活で活動再開だな。

とにかく、食料と飲料水の安定確保の道筋をつけなければ……。


 デカネズミを瞬殺したピリカの手並み……。

あれを見る限り、ピリカの戦闘能力は低くは無いのだろう。


 ラライエ最強はどこまで本当かわからないが……。


「まずは食料と水の確保だ。水はまだ少し余裕があるけど、食料事情は少々深刻だ。出来れば安定的に確保できる当てを見つけたいな」


「お水はこれに溜めていけばいいんだね?」


 ピリカは空になっている20リットルポリタンクの蓋を開けながら言う。


「ああ、空になってるタンクが全部満タンなら、半年は大丈夫だ」


「じゃあ、お水入れるね」


「え?」


 ピリカが手をかざすと、魔法陣が現れてそこからドバドバと水が流れ出る。

ものの10秒ほどで、ポリタンクに水が満たされる。


「はい、お水だよ」


「ちょっち待てぇ!」


 思わずどこかの深夜バラエティ番組ばりの突っ込みを入れてしまった。


「ん? どうしたの?」


「ピリカ、その水どうやって出した?」


「もちろん魔法だよ」


 それはもう分かってる。

異世界で今更、魔法に突っ込んだりはしない。


「魔法なのは良いんだ…… 言い方が悪かったな。その水、どうやって作りだした? 俺が無事に生きてるから、空気中の水分や原子の組換で作ったわけじゃないだろ?」


 ピリカが意外そうな、うれしそうな微妙な表情になる。


「凄いね、ハルト。分かるんだ?」


「水っていうのは、地球じゃH2Oって化学式で表すことができるんだ。水分子1個作るのに水素原子2個と酸素原子1個必要だ。今、このタンクに20リットルの水があるということは……。20リットルの水を構成するのに必要な水素原子と酸素原子を調達してきたということだ」


 地球では小学生でも知っていることを説明する。


「そうだね……。でも、ラライエじゃ、そんなこと考えて水魔法を使う人間は誰もいないよ」


 俺はそのまま俺の疑問をピリカにぶつけてみる。

ピリカは言動やしぐさこそ幼い印象だが、その実、知能は極めて高い。

きっともう、俺が何を問題にしているのかわかってると思う。


「わずか10秒やそこらの短時間で水20リットル分の酸素と水素原子が周囲の空気から消えたら、室内の酸素濃度がほぼゼロになる。俺はあっという間に酸欠なって、最悪死ぬことになるだろう。だけど俺はピンピンしている……。じゃぁ、この水はどこから出てきたんだ? と、いう話だ」


「この水はね、魔力(マナ)を使ってエーテルを変換して作られているんだよ」


 エーテルというとあれだな。

俺とピリカが漂っていた【どこでもない世界】に充満していたやつだったな。


「【どこでもない世界】にあった、触ると溶けるとかいうあれだな?」


「そうだね…… エーテルは世界の存在そのものを構成する、原初の存在。どんなものでも、エーテル化して溶かすけれど、魔力(マナ)と意思の力で、魔法を組上げることができればね。どんな物にだって、どんな現象にだって創生することが出来るんだよ」


 き・た・よ!

異世界のトンデモ理論!

俺に限らず、地球の高レベルオタク属性の同志たちなら、今の話で分かるに違いない。

ラライエでは魔法というやつがどんなものなのか……。


「エーテルという世界の存在そのものから魔力(マナ)を使って、物質的・事象的な結果を引っ張り出す。それこそが魔法ということか……」


「さすがハルト! 賢者って呼ばれている人間達の中にだって、このことを理解して魔法を使っているのは数えるほどしかいないよ」


 それはダメだろ!

ラライエの賢者たち!

賢者なんだったらもう少し考えろよ!


 これ、地球の常識で見たら、結構やばいんだけどな。


「そもそもこんな力、簡単に手に入れていいものじゃないでしょ。質量保存の法則…… というものがあってだな。これを容易くぶち壊す、魔法の力を皆が使い続けていたら、いつかラライエは……」


 ピリカは驚いた表情を俺に向ける。


「ほんとに凄い! ハルト……。ピリカの魔法を見ただけで、気づいちゃうんだね」


 ピリカは嬉しそうな、寂しそうな笑みを浮かべる。


 魔法でこの世界の皆がピリカと同じ水魔法を使ったとする。

結果、どこからともなく水が現れる。

何も失われることなく、水の分子がラライエという世界に増えるわけだ。


 世界の水の総量が魔法という力で増え続ける。

数万年・数十万年のスパンで見れば、南極や北極の氷が溶けなくても、海面上昇が起こるほどになるはずだ。


 じゃあ、それと同程度の土魔法や岩魔法が使われていれば……。

バランスが取れていいじゃないか。

……とはならない。


 この分だと、土魔法や岩魔法的なものも、きっとあるだろう。

土や岩がどこからともなく現れ、水が増量した分ラライエの陸地をかさ増ししたとする。

これがまた、数十万年のスパンで為されたとすれば……。


 結果、増えた水と大地の分だけ、ラライエという世界(惑星)の質量が増大することになる。


 惑星の質量が増えればその分、重力も増える。


 俺は空のポリタンクを持ってきて、体重計に乗せてゼロ調整を掛ける。

次にピリカが20リットルの水で満たしたタンクを体重計に乗せる。


 重さは20.05Kgと出ている。


 そもそも、元々ラライエが地球と同じ1Gであったとは限らないが……。


 ほらね、地球よりも2.5%重力が大きい。


 今はこの程度だが、この先1000世代・10000世代先では質量が増えすぎて……。

この惑星は、生命が生存できる範囲の自転や公転をしていない可能性だってある。


 このラライエは、地球とは違った形で滅びに向かっているような気がした。

 本日の投稿はここまでです。

次回、三十四話の投下は明日、4月12日の21:30ぐらいを見込んでいます。


明日から再び社畜な日常が始まります。心の平穏を保つ魔法の呪文を唱えねば……。


【イキタクナイ。ハタラキタクナイ。】


 そんな、私の心の支えにぜひブックマークと評価ポイントをお願いします。

これが増えてくれるだけでもっと戦えます。よろしくお願いいたします。

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