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二十九話 うん、知ってた。

 5月5日


 きっと、自分の置かれている状況は相当悪い。

今、俺は死と隣り合わせなのだとなんとなくでも理解できた。

そんなわけで、昨夜はおびえて眠った。


 ラライエに転移して五日目だ。


 ピリカはまだ復活してこない。

そろそろ再出現してきてもいい頃だが、やはり消耗が激しかったのだろう。


 さてさて、ひとまずの片づけは終わった。


 次は目を背けていた問題の一つに向き合おう。


…… 極限まで節約して持たせていたが、いよいよ食料があと一日分しかない。

水の備蓄はまだ一か月は持つが……。


 今、取れる選択肢は二つだ。


① 食料を探しにジャングルに踏み込む

② 裏技で食料を拠出する。


 実は、結論は俺の中ではすでに出ている。


 ①を実行しつつ②も併用する。


 そもそも、ラライエに着いた以上、②も裏技というほどの物でもなくなった。

なぜ、裏技なのかというと、電力や火を必要とするから……。


 【ピリカの世界】では酸素が有限である可能性があった。

だから、発電機を回したり火を使うといった行為は、あくまでも最終手段だった。

 

 だが、ここなら太陽光で電力の確保ができる。

いざとなったら発発も使える。

(ガソリンは絶対に手に入らないだろうから、発発は今でも最終手段だ。)


 火を使うこともまぁ、可能だろう。

(森林火災を起こさないように注意は必要だが。)

……と、いうことで火や熱を使った調理ができる。


 そうなると床下収納にある米やカップ麺、そうめん・パスタなどが食べられる。

多分、二週間分はあるはずだ。

切り詰めれば、ひと月はいけるだろう。


 それだけの時間が捻出できれば、何とか次の一手は見つかると信じたい。


 そして…… 忘れていたのだが、オタクとしては異世界に来たからには絶対に検証しておかなければならないことがある。

ひょっとしたら、今の状況を一撃で覆す超絶チートがあるかもしれない。


 信じることが大事だ。


 異世界ならお約束!


 出来て当たり前!


 そう強く思い込んで、精神を集中して腹から声を出す。



「ステータスウインドウ・オープン!」


 …………。

 …………。


「アイテムストレージ・オープン!」


 …………。

 …………。


「スキルポイントメニュー・オープン!」


 …………。

 …………。


 うん、知ってた。


 実はそんな気はしてた。


 こんなゲーム設定、今までかすりもしてないもんな。


 まぁ、脳内PCと肉体年齢の巻き戻りだけでも十分チートだよ。

出来ないものは出来ない、無いものは無いと切替えよう。


 それじゃ、準備して少しだけジャングルに踏み込んでみようかな。


 まずは、家に入って手足に虫よけスプレーを吹きかける。

次に服装も長袖のなるべく露出の少ないものに着替える。


 こんな異世界の熱帯っぽい謎ジャングルだ。

初手で一番警戒したいのは、蚊やダニ・ヒルなどの害虫類だ。


 地球で言うところの、マラリアやデング熱などに類する病気を媒介されたら命取りだ。


 異世界の未知の病原体などは、地球人の俺では抗体もないだろう。

たやすく命を落とす可能性がある。


 地球製の虫よけスプレーで防げるのかは疑問だが、今は気休めでも使っておきたい。

これを節約していたら駄目な場面と判断した。


 次に武器が必要だろう。


 子供の肉体でも相手が小動物程度なら、多少は素手の古流拳法でも戦えるかもしれない。

だが、そんなリスクを負う意味は無い。


 俺が習得していた拳法は、黒帯になってからは武器の使用も学ぶ。

もちろん、対人の試合などは無い。

そんな事をすれば普通に怪我人・死人続出だ。

武器はあくまでも【演舞】。

実戦を想定した型の正確さや美しさを競う競技的な形で行うものだ。


 武器の種類は刀剣術やトンファーなど何種類かあったのだが、俺が最も得意としていたのは【棒術】だ。

リーチも長く、威力だって決して弱くない。

まぁ、俺が棒術を選んだのは趣味ではなく、俺の指導をしてくれていた師範が【棒術】を得意としていたからだ。

師事する師範を変えることなく、練習できたからという、安易な理由に過ぎない。


 ……が、今回選んだ武器は棒ではない。

密林で長尺武器の棒なんて振れるわけがない。

万一、戦う場面があったとしても、棒術は役に立たないだろう。

素手による格闘の方がまだましなくらいだ。

そんなわけで俺が選んだ武器は棒術以外で少しだけ齧った【サイ】という武器だ。


 これを一対、倉庫の奥から引っ張り出してきた。

この釵(以降カタカナ表記に統一)という武器、時代劇に出てくる十手を三つ又にした感じに似ている。

先端部が尖っていて、防御・打撃(時々刺突)に使う近接武器である。

たまにアニメやゲームなどでザクザクと刺して使っているキャラがいるが、俺の流派では防御と打撃がメインだ。

棒術に比べれば習得度はかなり低い。

それでもジャングル内では圧倒的にこちらの方が有用だろう。


 あとは植物を払うためのナタ。

(一応武器にもなるはず)

電工ナイフ…… 単純にサバイバルナイフが無かったので、採取用にこれを代用する。


 耐候仕様のLEDランタンと飲料水のペットボトルをリュックに詰めて、いざ出発である。


 全く人の手が入っていない密林。

道に迷えば遭難確定なので、踏み込むのは徒歩10分、もしくは100m圏内とする。


 来た道を見失わないように、脳内PCで視界に映る映像を録画しながら慎重に踏み込む。

さながら、人間ドライブレコーダーだ。

これで、道に迷うリスクは大幅に減るだろう。


 人の手が入っていない自然林というのは、進むのも本当に大変である。

仕事をしていた頃、年に数回、山の奥地にある携帯電話基地局の調整のために、この手の山林に入ることもあった。

しかし、ラライエのジャングルはその時の比ではない。

山の中ではないので、斜面が殆ど無いのがせめてもの救いである。

ただ、植物の量が凄まじい。

ナタで草や枝葉を払うのも一苦労だ。

1m進むのに数分かかっている。


 普通に腰辺りまでの雑草がぎっしりと生えている上に、身長以上の草も平気で群生している。


 視界は極めて悪い。

熊や虎のような肉食大型生物が近くにいても、鉢合わせするまで気付けないかもしれない。


 覚悟はしていたが、予想以上の環境の悪さだ。

目標の半分、50mほど進んだところで、少し大きい目の木の枝に何か黄色い実が何個か生っているが見えた。

大きさも形状もグレープフルーツによく似ている。


 何だか食べられそうな気がする。


 まずはあれを収穫してみようか。

木に登り、実がついている一番低い枝に手をかける。

一番低いと言っても高さは4m近くありそうだ。


 そのまま枝にまたがって一番手前の実を電工ナイフで切り取って収穫する。


 うまくいった!



 結構重量のある実だ。

実をリュックに入れて、ふと更に上の枝に生っている実に視線を移す。

そこには、カブトムシが実に齧りついていた。

ただし、その大きさが地球のものと比較すると規格外だ。


 全長は50㎝くらいありそうだ。

地球最大のヘラクレスオオカブトの倍以上ある。


 ここまでデカいと逆にキモイ。


 異世界のカブトムシは、果実の汁や樹液だけでなく、自分より大きな相手も襲って食べる雑食である可能性だってある。

こんな樹上で襲われたらかなり危険だ。

俺は気付かれないように、そっと木から降りる。

そして、そのまま来た道を引き返す。



 何とか家に戻ってきた。

今回の収穫はこの謎グレープフルーツもどき一個だけ……。


 問題はこれが食べられるかどうかだ。

ためらいなく齧りつく勇気が無かったので、ひとまず保留にしてテーブルに置いておく。

まぁ、二~三日くらいなら保つだろう。


 今日の探索はここまでにする。

食料は米を三合だけ電気炊飯器で炊いて、一日分の食料にする。

かつお節と醤油の猫ご飯でも十分なごちそうである。


 何せ半年ぶりの熱いご飯だ。

米の味をかみしめて、あとは戸締りをしっかりして、ゆっくりと休むことにする。



 5月6日

 

 今日は昨日のグレープフルーツもどきが取れた所を中心に、探索範囲を広げよう。

あそこまでは、昨日切り開いたルートがある。

距離も50mほどしかないので。すぐに到着する。


 昨日はデカいカブトムシに遭遇したが、あれが危険なのか無害なのかすら不明だ。

とにかく情報が無さすぎる。

せめて食べられるものと、そうでないものの見分けがつかないと、一か月以内に詰んでしまう。

比較的リスクの低そうなものとなると……。


 ウサギやハトなどの小動物の肉かな?

あとは、ドングリなどの木の実系か……。


 趣味で集めていたサバイバル系の資料が脳内PCには保存されている。

そこにはそんな感じの事が書いてあるな。


 小動物の狩りは、今の装備ではとても無理だろう。

落ちている木の実系で食べられそうなものを集めてみるか。


 注意して足元をよく見てみると、ドングリ的な木の実は結構落ちている。

その中でも、割れたり腐ったりしていない物を選んで集めておく。

食べられるかどうかは分からないが……。


 夕方までかかって、レジ袋一つ分くらいの木の実を集めた。

キノコ的なものも結構あったが、異世界キノコは怖すぎる。


 論外である。


 今日はここまでにしよう。

昨日果実を取った木を中心に直径15m程度の範囲を切り開いた。

電気も水道もない密林だ。

夜に徘徊するのは危険だろう。


 俺は家に戻ることにする。

昨日炊いたご飯の残りで、おかかおにぎりを作って食事にした。

明日は思い切って、木の実と果実を食べてみるかな。


 大丈夫だよな?


 そんなことを考えながら、眠りに落ちる。

 三十話の投下は今から1時間後、22:30ぐらいを見込んでいます。

今日は奮発して3,000円越えのMX4D席でエヴァンゲリオン観てきました。

値段相応の迫力で見られてそこはよかったです。

 でも……終盤のアレって狙ってやってること……なんでしょうか?

十分すぎる製作期間があり、コロナの影響で延期もあったから

そうなんだろうとは思いますが……。ネタバレはやらないので

ここまでにします。円盤買ったときに検証します。


 さて、次回の三十話は今から1時間後、22:30ぐらいの投下を

見込んでいます。

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