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二百四十五話 わかっているよな?

 序列(カレッジ)1番……。

つまるところこの世界…… ラライエの人類最強でもっともエラい男か……。

これ程の高ランクになってくると序列(カレッジ)の高さがそのまま戦闘力の強弱というわけでもないかもしれないが……。


 若干の制限があったとはいえ、シュルクとガチンコの格闘戦が出来たガル爺が序列(カレッジ)22番……

あれより20以上の高ランクか……。

誤差込みでも確実にガル爺以上と想定しておいて間違いないだろうな。


「君がガル爺の孫娘、アルエットかい? 本当に惜しい勇者を失くしたよ……」


「あの、お爺ちゃ…… いえ、祖父の事をご存じなのですか?」


「それはもうねぇ…… 俺が勇者になりたての頃【一端(いっぱし)の勇者なら最低でも体術で互角にわしと戦えるようになれ!】……てね。鍛錬と称して問答無用でボコボコにされて、二週間ベッドから起きられない体にされたからな」


 そう言ってグランツは少し遠い目をした。


 あのジジイ……。

体術だけなら人類最強だったのかもしれない。


「ははっ…… あれはどっちもどっちだろ? グランツがガル爺を(あお)るような事を言うからさ……」


 ヴィノンが当時の事を知っていたかのようにかぶせてくる。

この男はなんでそんなエピソードまで知ってるんだ?

何となく、突っ込む気も失せてきた。


 ああ、あの爺さんならやりかねないかも……

同時にそんな感想も頭に浮かんだ。


「そんなわけでさ。あのじじいの馬鹿げた強さはこの身をもって知っているわけなんだけど…… ガル爺が命を捨てないと倒せない程の脅威ともなると…… シュルクが野放しになった場合の被害は洒落にならなかったのは確実だ。君達には感謝しかないよ。ありがとう」


 グランツが俺達に頭を下げる。


「いえ…… そんな。祖父も長きにわたる【セントールの系譜】としての使命を果たすことが出来て…… そこは満足していると思います」


 アルが少し寂しそうにそう返答した。


「確かにそれもそうなんだろうけど…… あの爺さんのことだ。君を最後の【セントール系譜】の宿命に縛られた者にする前に開放出来た事…… それを一番喜んでいる気がするな」


 俺もそんな気がする。

この男、さすがに連盟のトップだけあって【セントールの系譜】の真実についても当然のように知っているということか。


 それよりも ……だ。


 今、問題なのは俺とアルドの立ち位置だ。

序列(カレッジ)ではほぼ末端とはいえ、俺達が勇者殺しをしている事をこの男が知らないはずがない。

このこととはいずれは向き合わないといけないとは思っていたが、想定よりも早すぎる。


 一応、ミエント大陸を出る時に事の真相と俺達の意思表示はしてきたつもりだが、俺達の事を連盟のどこまでが知っているのか…… そして、どうするつもりなのか、連盟側の出方が分からなさすぎる。


 グランツが現れた事で俺の警戒レベルはほぼ最高まで高まっている。

一人とはいえ、目の前にいるのは人類最強かもしれない男だ。

戦ってどうこうなる相手ではない可能性は高い。


 かといって、ポータルを発動させたところで素直に逃がしてくれるのかどうか……。

逃げるにしても、逃げるのは俺とピリカ、アルドの三人だけでいいのか。

アルとヴィノン、シアさんを置き去りにした場合、連盟は三人を何も知らなかったからと無罪放免にしてくれるのか……

それとも勇者殺しの仲間として断罪してくるのかそこも分からない。


 最悪の事態に備えつつも、今はとにかく連盟がこちらの意図を汲み取ってセラスの事をこのまま黙殺してくれることを祈るしかない……。

そんなことを考えながらグランツの挙動を注視する。


「君がアルドだな。元序列(カレッジ)409番、勇者セラスのパーティーにいた日輪級だったかな」


 来た。

アルド…… 大丈夫だとは思うけど、余計なことは言うなよ……。


「はい、そうです。勇者リデルの直系…… 序列一桁(シングル)にお会いできて光栄です」


「いやいや、俺の方こそ会えてうれしいよ…… 人類初のペポゥ討伐者…… そしてガル爺と共に勇敢にシュルクと戦った真の英雄…… 君のような男が序列(カレッジ)下位の勇者パーティーメンバーに甘んじていたなんてね。全く…… ミエント大陸の勇者連盟は何をしていたんだ」


「いや、俺のそれは全部ハルトが……」


 おいバカ! 余計なことは……

俺がアルドの言葉を遮ろうとするより先に、グランツがアルドの話に強引に言葉を被せた。


「もっとも勇者に必要なのは結果と実績だよ。人々の尊敬と信頼を勝ち取るためには、まずそれが必要だ。それらを持つ者は当然、それに見合う実力を持っているものだ。すでに君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大きく上回る実績を持っている。そして、中央大陸で君の名を知らない冒険者は今やほとんどいないだろうさ」


「そして、君が【セントールの系譜】であるガル爺やアルと共にシュルクを討ち、アルが加わるパーティーメンバーのリーダーだと連盟から知らしめられれば、何もしなくても民衆はアルド…… 君のことを敬うようになるさ。それこそ、二つ名持ち勇者と同じかそれ以上にね」


 ヴィノンが横からグランツが続けて言おうとしたことを、代弁するようにそう補足した。

後ろのシアさんもうんうんと満足げに頷いている。

まぁ、この人はシアにとって悪いようにならなければそれでOKみたいなところがあるからな。


 だが、これで何となく連盟…… というか、グランツが俺達をどうしたいかが何となく見えてきた気がする。


 こいつ…… 俺達のパーティーを高名な勇者パーティーとして担ぎ上げ、衆目に(さら)すことで俺達に鈴を付ける気か。


 お前達は連盟のおかげでこれ程の社会的名声と好待遇を受けるんだぞ。

それなのに連盟の意にそぐわないことを今後やらかしたらどうなるのか…… わかっているよな?


 きっと、そう言いたいんだろうな。


 俺としてはそんなものは要らないし、連盟に楯突く気もない。

ただ、そっとしておいてくれれば、ヒキオタニートとして大人しく天寿を全うしてこの世界から消えていきます。


 そう言いたいのはやまやまだが……。


 アルド達、他のパーティーメンバーの望む人生がそうではないことも分かっている。

ここはお互いが妥協できる最適解としての落としどころを模索していくしかないだろうな。

ピリカと二人、この世界の人類社会と適度な距離感を持てそうな居場所を与えてもらっている身だ。


 その対価は必要だろう。

勇者パーティーメンバーとして最低限の協力はせざるを得ないだろうな。

今時点はそのあたりを着地点として定めることにした。


「そして…… ハルト君、君が最後だね」


「あれ? 僕! 僕がまだ残ってるでしょ?」


 グランツが小さくため息を吐いた。


「今更お前になんの口上が必要だというんだ。それじゃ、お前には寝言は寝て言えと言葉を送っておいてやる」


「なんだよそれぇ…… あのさ、僕だってペポゥやシュルク相手に勇敢に戦ったんだよ?」


「あ~ はいはい…… 凶悪な敵相手にもひるまず戦ってえらかったよ。日輪級への昇格おめでとさんっと……」


 グランツのヴィノンに対する対応が予想以上に塩過ぎてちょっと内心ウケた。

それにしても、このチャラ男……。

推定世界最強にして最高権力者とも面識ありか……。

しかも友達感覚で接しても(とが)められない間柄とはね。

さすがこいつの素性が本格的に気になってきたな。

ヴィノンのウザがらみを軽くあしらって、グランツが俺の方へ向き直る。


「何とも形容しがたい不思議な雰囲気をもつ少年だな。あの緑の泥からやってきた秘境集落出身というのも納得だ」


「それはどうも……」


「そして、ハルト君の契約精霊……」


 ピリカの方に視線を向ける。

ピリカは相変わらずツーンとそっぽを向いて、グランツに視線を向けようともしない。

というか、連盟本部に到着してから一言も声を発していない。

ここの勇者や職員達がよほど気に入らないのだろう。


「確かに服を着ている精霊というのは俺も初めて見る。そもそも光の精霊は個体数が少なく、契約精霊ともなればさらに希少なんだけどな……」


 グランツは真剣な目つきでピリカを観察しているが、ピリカはお構いなしにガン無視である。


「報告じゃ、他の精霊と違って常に顕現することを好み、魔獣にも通用するほど強大な力を持っている。さらに感情豊かで言葉まで話すと聞いていたんだけどな……」


 おい、何でそんなことまで知っているんだ?

どこ情報だ? ……って、考えるだけ意味がないか。

そのあたりは俺自身、もう隠し立てはしていないし、連盟職員のシアさんやヴィノン辺りが普通に連盟やギルドに報告しているだろう。

ピリカの戦う姿は多くの冒険者の目にも止まっている。

行く先々の町や村でも普通に話をしているところを結構目撃もされている。


 グランツがピリカに手を伸ばしてみるが、当然、ピリカに触れることなどできない。

その手は虚しくピリカの身体をすり抜けて、虚空を掴むだけだ。

見ず知らずの人間が、軽々しく触れようとしてくるのに【シャシャァッ】を喰らわさないだけでも、ピリカさんが相当我慢しているのがわかる。


 ピリカなりにこいつと問題を起こすと、あとで俺が面倒なことになると理解してくれているんだろう。


 えらいぞ!

帰ったらいっぱい褒めてやろうと思った。


「ふむ、見た目は確かに珍しいがそれだけだな。俺の印象だと他の精霊と同じ反応に見えるな……」


「えっと、それはどういう所が?」


「無反応なところがだ」


 ああ、そういう……。


「俺も勇者だからな。それなりに精霊も討伐してきている。こいつからすれば、同族を多く殺されている憎むべき相手…… なのかもな。実際の所、精霊が何考えてるかなんて知らんけど……」


 グランツの言葉にちょっとムカッと来た。

確かに、俺はピリカ以外の精霊の事をよく知らない。

かつて精霊と人類の間で戦争があったとは聞いているが、この世界で精霊が人類に何をしてきたのかも知らん。

だからこそ、この男の態度がピリカを(さげす)んでいるように見えて(しゃく)にさわった。


 この時、グランツの物言いに、ほんの一瞬だがアルとアルドの目じりがピクっとしたのにも気づいた。

さすがにピリカと長く過ごしているうちに、二人共、ピリカにも情が移ってきたんだろうな。

ピリカが悪く言われたと感じて、序列(カレッジ)1の勇者にさえ悪感情が出てくる。

そんな二人の反応が少しだけ嬉しかった。


 ちなみにヴィノンとシアさんの表情に変化はなかった。

特に思うところが無かったのか、それともポーカーフェイスを貫いているのか……。

そこは分からない。


「まぁ、いいか…… ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…… ハルト君……」


 グランツが意味深な笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。


「……こちらこそ」


 思うところはあるが、差し出された手を握り返す。

これでも俺はこの中じゃ一番の大人だからな……。


 少し投稿が遅くなってしまいました。

本当は、もう少しだけ進めてから投稿したかったのですが

長くなりそうだったので、ここでいったん切ります。


 ブックマーク・評価いただきました!


 つけてくださった方、ありがとうございます!

とても嬉しかったです。


 このまま、続きの投稿準備に着手します。

ブックマーク・評価ポイント・いいねなど、反響お待ちしています。


引き続きよろしくお願いします。

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