二十四話 ハルトにピリカの事を見てもらえないなら、死んだほうがましだよ!
「うん。ピリカがんばるね」
「それでだ。最大の問題は、二人とも死なずにこれを実現する。そのために何が足りないのか……だ。足りないのは魔力だけなのか?」
「えっとね、術式を使うのに必要なのは魔力、エーテル、あとは光だよ」
「光っていうのは、太陽光とかライトとかの事でいいのか?」
「そうだよ、その光。【どこでもない世界】には光がないから……。この姿もハルトの目にピリカの姿が見えるように魔力を光に変換しているんだよ」
魔力が足りないと言いながら……。
こいつ、こんなことに魔力とやらを無駄遣いしていたか。
「えーっと、ピリカさん? 足りない魔力を節約するために、まずは自分が光るのを止めたらいかがかな? ……と提案したいのだけど……」
「やだっ! ハルトにピリカの事を見てもらえないなら、死んだほうがましだよ!」
俺がピリカの存在を認識できないことが、ピリカ自身の命より重いと来たか……。
これは説得できなさそうだ。
「次にエーテルも足りないのか?」
「今は足りないけど……。エーテルは【ピリカの世界】の外側に満たされてるから、それを使うよ。術式が発動したときは、むしろあり余ってるね」
「じゃぁ、決定的に足りないのは魔力と光か」
「そういうことだね。光は魔力で作り出せるけど……。【どこでもない世界】じゃ魔力はピリカの内から湧き出るものしかないから……」
ピリカは珍しく難しい顔をしている。
「厳しいね……。水増しするには、ピリカが休眠中にやっているみたいに、エーテルを魔力に変換する手もあるけど……。帰還術式の使用中はエーテルの魔力変換は術式リソースが足りなくなるから絶対に無理だよ」
ピリカは真剣な表情で次の言葉を紡ぐ。
「だから、術式リソースが必要ないピリカの命を変換するしか……」
「それは絶対にダメだ」
俺の矜持にかけてそれは絶対にさせない。
この状況を照らす希望の光は無いのか?
……って、おい! 光はどうなんだ?
「ピリカ、必要な光を魔力以外で調達できれば、光に変換する分の魔力を不足分に回せないか?」
「それは出来るけど……。光を作るだけなら魔力はそんなに沢山要らないよ。上乗せできるのは、ほんの少しだけ」
「そっか…… ままならないものだな」
これは……。
詰んでるんじゃないのか?
「節約できるのはほんの少しだけど、魔力を一切使わずに必要な光を作れるなら……」
「光を作ることが出来たら、何か状況が変わるのか?」
「わからないけど……。ピリカの命を全部魔力に変換しなくても、術式を発動できるかもしれない。ピリカがギリギリ死なない程度は命が残るかも……」
「えっと、その死なない程度に残ったピリカの命というのは、【ラライエ】に着いたら回復するものなのか?」
「うん、きっとピリカは休眠状態になると思うけど……。【死にさえしなければ】ピリカは元通り回復できるよ」
「本当だな?」
「本当だよ」
「よし、じゃあ必要な光は俺が何とかする。だから俺をピリカと一緒に【ラライエ】に連れて行ってくれ」
「うん! ピリカ、頑張るよ! 絶対に一緒にラライエに行こうね!」
「ああ。絶対に一緒に行こう」
ピリカに命の危険を背負わせるのは本意ではない。
……が、ピリカが死ぬリスクを低減できる可能性が見つかったのだ。
この辺りがお互い納得できる妥協点だろう。
「そうと決まれば、術式を発動させるのにどのくらいの光が必要なのか……だな」
「えっとね、ラライエの太陽の光と同じくらいかな?」
「いや、それじゃわからん。俺は【ラライエ】に行ったことがないからな。【ラライエ】の太陽の光がどれほどの物なのか見当もつかない。一瞬で皮膚が焼けるような、強烈な紫外線が降り注いでいたりしたらお手上げだ。地球人が生存可能な環境であることを切に願うよ」
「それはきっと大丈夫だよ。ラライエにも人間はたくさんいるもん」
「とにかく、必要な光エネルギー量の当たりをつけよう」
俺はダイニングに向かう。
そして、ピリカとの鬼ごっこの時に、彼女の視覚を確認するのに使った【光パワーメーター】を持ってくる。
「あっ、それ……」
「覚えていたか? こいつで以前、ピリカを試させてもらったんだけどな」
「なんだか不思議な光が出るアイテムだね」
「そうだな、地球では【クラス1レーザー光】って呼ぶんだけどな」
俺は【光パワーメーター】の光源のスイッチをONにする。
「俺の目には全く見えないけど、ピリカにはこいつの光が見えるんだな?」
「うん、見えるよ。でもすごく弱い光…… 力もすごく弱い」
「そうだな……。こいつの光ではもちろん足りないよな?」
「全然お話にならないくらいにね」
「ここからが本題だ。ピリカが術式を発動させるのに必要な光……。こいつで全て賄うとしたら、こいつがあと何個必要になる?」
ピリカの知力の高さと目に賭けて、こんな質問を投げかける。
ピリカが的確な答えを出してくれれば……。
必要な光の量が数値化出来て活路が見えるかもしれない。
ピリカは【パワーメーター】を真剣にしばし見つめ……
少し思案した後、俺の方を見て問いの答えを告げる。
「三百万個……。術式を作り上げる光を全部、このアイテムから集めるには、これと同じものが最低でもあと三百万個必要だよ」
「なるほど…… わかった」
本日の投稿は以上です。二十五話の投下は明日、4月9日の21:30ぐらいを見込んでいます。
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このままだと、私もエーテルになって溶けてしまいそうですぅ~。
ちなみに、明日で序章は終了です。