二十三話 これは俺のエゴだ!
「うん! ピリカ、頑張るよ! 絶対にハルトを助けてあげる。ピリカの命に代えても!」
「ありがとうな、ピリカ。宜しく頼む……って……なぁ、ピリカ」
「なぁに?」
何をしれっと爆弾発言してるんだ? この娘は……。
「『命に代えても』ってさ……。俺を【ラライエ】に連れて行くと、ピリカは命が危ないのか?」
「そうだね。ピリカにはもう境界を超えるだけの力が残ってないから……。でもね、ピリカの命も魔力に変換して術式につぎ込めばきっとうまくいくよ」
いつものゆるフワスマイルで、臆面もなく自分の命を捨てると言い放った。
それは受け入れられない。
「あっそ。じゃぁ却下だ。俺は【ラライエ】に行かない」
「だめ! ピリカはハルトを助けるの!」
「半年近くもずっと一緒にいればさ……。さすがにコミュ障の俺だってピリカに情の一つも湧くってもんだ。ピリカの犠牲の上に、俺の生存ルートを成立させるなんてのは、断じて認められん」
「でも、そうしないとハルト死んじゃうんでしょ? ……ハルトがここで死んだら、ピリカもここで死ぬからね!」
「何と言ってもダメなものはダメだ。俺より先にピリカが死ぬことは絶対に認めない。これは俺のエゴだ!」
「【エゴ】なんて言葉、ピリカ、分かんないもんっ!」
ピリカの両目がものすごい勢いでウルウルし始めてきた。
……あ、これはアカン。
「やぁだあぁ!」
うぅっ、少し持ち直していたのに、また駄々っ子モードになってしまった。
「あぁもう、わかったよ、ピリカ。【ラライエ】に行けさえすれば助かるもしれないことは分かったんだ。どうすれば二人とも無事に【ラライエ】に行けるかを考えよう」
「ハルト……。ぐすっ、うん」
光の涙と鼻水を垂れ流していたピリカだったが、泣き止んだのでとりあえず納得してくれたようだ。
あの光の涙と鼻水は一体どこに消えたのか……。
その正体も含めてまだまだ謎の多いピリカである。
「さてと、境界を超える力が残ってないという話だけど……。残ってない力というのは体力的なものか?」
「違うよ」
だろうな……。知ってた。
念のための確認というやつだ。
「人間と違ってピリカに肉体的な体力は関係ないかな」
「そんな気はしたよ。じゃぁ、話の流れ的に足りないのは魔力とかいうやつか……。命を魔力に変換するとか言ってたもんな」
「そうだね…… 一番足りないのは魔力だよ。ラライエに行くには、ピリカが飛ばされてきた転移陣を反転させて帰還陣を作るんだけどね。これをやるのに、ものすごく魔力が必要なの」
ピリカはすっかり慣れた手つきで、百科事典と国語辞典をめくりながら俺に説明してくれる。
「帰還陣をラライエに戻る呼び水にして、エーテルの流れを作って……」
「なんかよくわからんが、大がかりそうだな」
「こんな事一人でやってのけるのは、きっとラライエでもピリカ以外じゃ片手で数えるほどしかいないよ」
「そうか、よくわからんがすごいんだな、ピリカは……」
「えへへ……そう! ピリカすごいんだよ! だからもっと褒めて!」
ピリカは俺に構ってもらえると、それだけで上機嫌になる。
マジでチョロすぎである。
「ピリカは偉いな…… それで、作ったエーテルの流れをどうするんだ?」
ピリカをおだててばかりでは埒が明かない。
話の先を続けさせる。
「エーテルの流れをラライエの境界に向けて、一点集中でぶつけて一時的に穴をあけるの」
「なるほどな。その一時的に空いた穴を通り抜けて、ラライエに行こうってわけか」
「そうなんだけどね……。ハルトがエーテルの流れに触れると数分で溶けてエーテルになっちゃう」
「おぉう ……ということは、溶ける前に穴を抜ける必要があると」
「さすがハルト! よくわかったね。でも、エーテルは肉体を持つ生命体には、触れるだけでとても有害なの。溶けて死ななくても、数秒触れただけでも全身不随になったりするよ」
「なんか、高濃度の放射性物質並みに危険じゃないのか? それ」
「その放射性物質ってのは分からないけど……。 あとから辞書で調べておくね。エーテルは直接触れない限りは大丈夫だよ。触れた部分から、どんな物質もどんどんエーテル化するけど……」
さっきから聞き捨てならないワードが頻発している。
ピリカの話を遮るのは申し訳ないが、ここは突っ込んでおきたい。
「ちょっと待て…… 話の腰を折って悪いんだけどさ。俺って復活するときにエーテル化したPCが混ざったんだよな? ホントに大丈夫なのか? なんかすごく嫌な予感がする」
「わかんないけど、今大丈夫なんだったら、多分大丈夫じゃないかな? 前も言ったけど、混ざったのは肉体じゃなくて魂の方だから……」
「そうか……。激しく不安だけど、今は考えないようにしよう。 ……で、エーテルが触れただけで危険なのはわかった。じゃぁ、どうやって空いた穴を抜ける? どっかの宇宙刑事の変身所要時間並みの0.05秒で穴を突き抜けろ! とかは無理だぞ。俺は生身の状態だと、加速の荷重が多分、10G超えたあたりで死ぬぞ」
「わかってるよ。だから、このハルトのおうちをお船の代わりにしてエーテルに浮かべてね。おうちごと穴を抜けるんだよ」
「そいつは名案な気がするな。 ……で、家が溶けて俺がエーテルに触れて死ぬまでどのくらいの時間があるんだ?」
「【地球】の時間で五分くらいかな?」
「次に、俺と家が死なない範囲の加速でエーテルに流されて、境界を抜けるのに必要な時間は?」
「一分くらいだと思うよ」
「四分程余裕があるか…… 行けそうだな」
「でもね……」
「……やっぱり、『でもね』があるか……。でもなんだ? スパっと言ってしまおうか、ピリカさんや」
「帰還術式を作るには【ピリカの世界】を壊してピリカの力を開放しないとできないの。術式の構築に二分……。術式が発動して、エーテルの流れが最大になるまで、更に一分はかかるよ」
「大前提として準備に不可欠な時間が三分…… 境界の穴を抜けるのに一分。余剰時間は一分か……。まぁ、それでもやるしかないわな」
二十四話は1時間後、23:30ぐらいに投下いたします。
このまますぐに二十四話の原稿の最終チェックにかかります。
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