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二百二十四話 もしかしてラライエの魔族は……

 久留米でレンタカーを受け取り、ひとまず熊本市内の拠点に向かう。

そこで災害復旧に必要な機材を受け取り、今後の方針を打ち合わせる。

おそらく全国から集められた災害復旧作業に関わる人員が集結してくるはずだ。

この辺りは目に見えて地震の被害は無さそうだが、すでに熊本方面に向かう車、熊本から出てくる車で交通はかなり混雑している。


「ああ、こりゃ熊本市内入りはかなり遅い時間になりそうっすね……」


 運転席でハンドルを握る藤村がダルそうに毒づいている。



「ま、そこはしょうがない。気長に行くか。夕飯食ったら運転代わるぞ。それまでがんばれ」


「……っす」


 ネットニュースやSNS、カーラジオから流れてくる情報では熊本の被害状況は深刻そうだ。

熊本から脱出してくる人、俺達のような全国から災害支援に向かう人、熊本に家族や知り合いがいる人……。

多くの車両が被害を免れた限られたルートを通って熊本への出入りを試みようとする。

必然的に交通の流れが集中するため、それが交通渋滞に拍車をかけているのだろう。


 結局、俺達が熊本市内の災害復旧拠点に着いたのは日付がもうすぐ変わりそうなタイミングになっていた。

状況が状況だけに拠点には24時間体制でスタッフが詰めている。

すぐに機材を引き取って到着の報告をすませる。

その後、すぐに俺達が担当する地域が割り当てられた。


 俺達が担当するように指示された地域は南阿蘇村か……。

うん、震源地だな。

重篤な被害が出ていると想定される、最も危険な最前線の一つだ。


「益城町と南阿蘇村のチームにだけは組み込まれたくないっすね」


 ここまで車を走らせている道中でも藤村が散々こぼしていた。

それはフラグだから余計なことを言うなと突っ込んでおけばよかったかな……。

見事にフラグ回収達成だ。


 仕事だからな……

ここまで来てイヤだとは言えない。

拠点のサーバーから熊本県内すべての基地局の位置情報・図面や機器のデータなどを一通り持参したノートPCにダウンロードする。

もう夜も遅い。

今夜は拠点の仮眠室を借りて休ませてもらうことにする。

明日、朝一番に南阿蘇村の仮設指揮所に移動して、そこで次の指示を受けるようにとのことだった。




 8月6日


 またか……。

あの時の災害支援は結構印象に残っているからな。

こうして鮮烈に記憶がよみがえってくるのも、分からないでもない……。


 意識がはっきりしてきたので、そろそろ起きるか。

午前中には目的の封印の場所に到着できるだろう。


 ??


 目を開くと視界が全てプラチナの光に覆われていた。

どうやらピリカが俺の頭をガッシリ抱え込んで横になっているみたいだ。

これは一体……。


「あ、起きた?」


「お前、何やってんの?」


「だって、ピリカの場所が……」


 硬い地面で寝ると起きた時に背中が痛くなるせいだろうな。

野営の時は朝、目覚めると体勢が左向きになっていることが多い。

つまり背中が右側になるわけだが、そこにピリカがくっついていることはよくある。

だが、今朝のピリカは俺の頭を抱えているよな。

ん? なんで俺の背には何かが触れている感覚があるんだ?

そもそも精霊のピリカに触れられても、接触されている感覚は無い。

ということは今、俺の背にくっついているのは……。


 やっぱりアルか……。

そうじゃないかとは思ったよ。

この娘は家族を失ったばかりだ。

俺も両親を亡くして一人になった経験はあるからな。

一人だけ残った時の気持ちはなんとなくわかるよ。

もっとも、俺にはまだ妹がいたから天涯孤独というわけでもなかったけどな。

それでも一人でいると、住みなれた自分の家がとても広く感じたものだ。

そんな感覚はこれから時間が経つにつれてアルも実感してくるだろうな。

孤独を全く苦にしない真性ヒキオタの俺ですら、何となく一人で居たくない。

いい歳したおっさんだった俺でさえ、そんな気分になるほどだ。

こんな小娘の年頃で一人になってしまったアルの心情を俺なんかが慮ることはきっとできないだろう。

まぁ、気持ちの整理がつくまではアルの気の済むようにさせてやるのもいいかもしれない。


 ……。


  ……。


 脳内PCの時間はAM5:37か。

もうだいぶ明るくなってきているが、皆が起きてくるまではもう少し時間がありそうだ。


 俺はアルを起こさないようにそっと俺の服の背を握っているアルの手を解く。


「んっ……すぅ……」


 アルが寝言で変な声を上げるから一瞬、起こしたかと思ったが起こさずに済んだ。

ヴィノンとアルドもまだ起きそうにないな。

ピリカの結界のおかげで見張りを必要とせずに全員が安全に休息を取ることが出来る。

これって地味に他の冒険者パーティーにはできない大きなイニシアティブだよな。

皆が無防備に眠っている様子を見てそんなことを思う。


 丁度いい。

このタイミングで気になっていることをピリカに聞いてしまうか。


「ピリカ…… ちょっといいか?」


「ん? もちろんだよ」


 俺はピリカを連れて結界の外側に出て、皆から少し距離を取る。


『もう少し早く聞こうと思っていたんだけどな…… シュルクとは知り合いだったんだな?』


 念のため日本語で尋ねる。


『うん、まあね…… 人間達と戦争をしていた時は一緒に戦っていたから』


 やっぱりか……。


『精霊は魔族の側についていたのか。なんでそんなことになったのか聞いてもいいか?』


『人間達が魔族を滅ぼそうとしたからだよ。魔族がいなくなるとラライエの調和が崩れることになるから……』


『それは生態系のバランス的な…… そういう話なのか? あ、話したくなければ無理に聞こうとは思ってないからな』


『ううん、平気…… 魔族ってのはね。魔界という過酷な環境下で生きることに適合できる種族なんだよ。肉体、魔力(マナ)、魂…… 全てにおいて(けが)れに強くてね。瘴気化した(けが)れにも影響されることがないの。魔力(マナ)の受容体の容量が(けが)れをものともしない程に大きいから』


『その理屈はよくわからんな…… とりま、他の種族が生きるのが難しい魔界で生きていける仕様の人類が魔族って理解でおけ?』


『うん、今はそれでおけだよ。必然的に魔界はその(けが)れのせいで凶悪な魔獣がうじゃうじゃいる土地になるわけなんだけど……』


 あっ!

これはわかってきたかもしれない。

もしかしてラライエの魔族は……。


『魔界で文明を形成して生きるためには、魔獣たちと対等以上に戦える力が必要になるよね? だから魔族は他の人類よりもずっと強い力を持つんだよ。魔族は生きるために魔獣を狩る……。そんな魔族たちの生活様式によって魔界の外に溢れる魔獣は大幅に抑えられてきたんだよ』


 やっぱりか。


『人間がそんな魔族を滅ぼしたりしたら、魔界で生きる魔獣は……』


『もう分ったんじゃないかな。魔獣共は魔界の外に行きたい放題だよ。(けが)れの多い魔界の方が魔獣たちには居心地は良いけど、魔界の外の方が獲物は弱いし狩りやすい。居心地の悪ささえ我慢すればエサには困らないからね……』


『居心地よりも、飯の方を選んだ魔獣は世界中に生息域を拡げていくと?』


『要因はそれだけじゃないんだけど、まぁそういうことだよ。今も魔族は滅亡していないけど、残っている魔族たちだけで魔界で増え続ける魔獣の拡散を止めることはもう無理なんだよ』


 マジかぁ……。

だから精霊たちは魔族を滅ぼそうとする人間達と敵対することにしたのか……。


『シュルクはもう人間に復讐することに囚われすぎて正常な判断が出来なくなっていたから…… これでよかったんだよ。人間達を滅ぼすために世界を(けが)れで汚染する。こんなことされたら中央大陸が魔界化しちゃうかもだしね』


 ピリカは少し寂しそうな笑みを浮かべてそう言った。


『いやな役目を押し付けちゃったな。シュルクは戦友だったんだな』


『いいんだよ。あのシュルクはもう生きているとは言えないから……」


「あれ? ハルトきゅん、早起きだね。そんなところで精霊ちゃんと何やってるんだい?」


 おっと、ヴィノンが起きてきたか……。

ピリカとの内緒話はまたの機会だな。


「あとの二人はまだ寝てるのか? 朝食にしよう、起こしてきてくれ」


 ピリカとの話を切り上げて、朝食の準備にかかることにする。

封印の場所まではもうすぐだ。

 秋の新アニメシーズンですね。今期も豊作の予感……。

 

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 今後ともよろしくお願いいたします。

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