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二十二話 ハルトは絶対死なせないから!

 俺は友達一人いない孤独のまま、小学校を卒業した。

その後、中高一貫の私立男子校に行くことになる。

孤立した小学生活を過ごしてきたせいで、コミュ障っぷりに磨きがかかった。

もちろん友達などできないが、もう慣れっこだ。

このころから、本格的にアニメやゲームなどのサブカルに傾倒することになる。


 古流拳法は高校三年まで続けたところで、大学受験を理由に辞めてしまった。


 練習をさぼっていたわけでは無い。

だから、自分自身のポテンシャル上限辺りまでは上達が早かった。

だが、別に好きでやっていたわけでは無いので、ここらで肉体的にも技術的にも限界が来た。

ここから先は、本当に高みを目指すものだけが進める領域だ。

真剣に強さを追い求め、時間のほとんどを拳法につぎ込んでいる人達に、どんどん追い抜かれていくようになった。

やがて、全国のその他大勢の有段者たちの中に埋もれていく。


 勉強も同じだ。

小学校・中学校辺りまではトップクラスで居られた。

だが結局、高校では埋もれていくことになった。

最終的に入ることのできた大学は、三流大学の商学部。


 大学では以外にも、同じオタク趣味の気心の知れた友達にも恵まれもした。

まぁ、ほんの数人だけどな。


 結局、俺にはオタクライフが一番性に合っていたわけだ。


 アニメやゲームに没頭している時間が一番幸せだった。

だから、コミュ障の青春時代自体には後悔はない。


 本当はずっと働きもせずに、引きこもっていたい衝動に駆られていた。

だが、両親に対する負い目がそれを許さなかった。


 最低限、普通の社会人として生きていこうと決めた。


 ただし、こんな無気力な人間が所帯を持つことなどあるわけがない。

大学生の頃や、社会人になりたての頃には付き合っていた彼女がいたりもしたが、長続きしなかった。

 

 社会に出てからは、運動もあまりすることもなくなり、体形もどんどん丸くなる。

中年になる頃には晴れてメタボ体型だ。

そして何の因果か今、俺は人生で最も業の深いあの頃の体で【ピリカの世界】にいるという訳だ。




「……? ハルト? どうしたの?」


「いや、ピリカにそう言われるとな。確かに、この体になった心当たりが有るかもしれないな、って思ってさ」


「そうなんだ」


「ところでさ」


 俺は次に気になっているピリカの身の上を聞いてみることにした。


「ピリカはなんで、こんな【どこでもない世界】にいるんだ?」


「それがね、よくわからないんだよ。多分、なんかのトラップに掛かったと思うんだけど……」


 漫画にすると【ふにぃ】という擬音とか【???】のエフェクトが描かれそうな表情で答える。



「何それ?」


「草原を散歩していたら突然、転移陣に取り込まれてね。それも、世界の境界を飛び越えるような大掛かりな奴だよ。前の日はそんなの草原になかったのに……」


「それで、ここに飛ばされたのか?」


 ピリカはかぶりを振る。


「ううん、ここに居るのはね……。ピリカが転移陣に抗って術式を書き換えたからなの。だって、世界を超えるほどの転移陣なのに、行き先がどこにも指定されていないんだもん。嫌な予感しかしないよ」


「どこにも指定されてないから、この【どこでもない世界】じゃないのか?」


 普通に湧いてきた疑問をぶつけてみる。


「ちょっと違うかな。確かに、行き先が指定されてないと【どこでもない世界】に行くことが一番多いけど……。ピリカが巻き込まれた転移陣はね、はっきりと決まった行先に引き寄せられていたんだよ。……多分、ハルトのいた【地球】だと思う」


「え? 地球にか?」


 ちょっと気になる話だな。


「ピリカは【地球】のこと知らないし、術式を書き換えたからもう分からないけど……。ハルト自身とハルトのおうちがここにあるから……」


「えっと、俺がここに居るのは、ピリカを飛ばした転移陣のせいなのか?」


「そうなるのかな。無理矢理、転移陣を書き換えて術式を強制停止させたからね。力の放出先を失った反動で、ピリカが飛ばされるはずの場所の地形が、ここと丸ごと入れ替わったんだと思う」


「……そうか。俺はそれに巻き込まれて……」


 俺が巻き込まれた超常現象の真相までわかってしまった。


「ピリカもびっくりだよ。こんなきれいな魂を持った人間が飛ばされてくるなんて……。絶対に運命だよ! ずっといっしょにいようね?」


「まぁ、帰る手段が無いんならそうなるかな」


「わーい! ハルト好き!」


 ピリカは俺に抱き着いているようだが、触れられている感触は全くない。

残念なことに……。


  ……。


    ……。


 それから【ピリカの世界】でまったりと過ごして時間は過ぎていく。

ピリカとの意思疎通はかなりできるようになってきた。

そのおかげで、ピリカの事で新たに分かったこともある。


 ピリカの色が変わって消えるのは、やはりピリカ自身の消耗が原因だった。

ピリカは【ピリカの世界】を維持するために魔力(マナ)を放出し続けている。

失った魔力(マナ)を回復させるために、定期的に休眠状態に入る必要があるらしい。


 休眠状態に入ると消えたように見える。

しかし、実際は本当に消えているのではない。

人間の可視領域の光を出さなくなっているから、視認できないだけとのことだ。


 眠っているだけで、間違いなくそこにいて魔力(マナ)も【ピリカの世界】の維持に必要最低限分は放出しているらしい。


 俺の方からは視認することも触れることもできない。

俺からすれば、それは消えているのと同じなのだが……。




 脳内PCのカレンダーは4月25日。


 日本ではそろそろゴールデンウィークだ。

今の俺にも、滅亡に瀕している日本にもあんまり関係は無いが……。


 それだけの時間が経過したということは、俺に残された時間はもうそれほど長くない。


 食料の備蓄があと一週間程度になってきた。

そろそろ、ピリカとの共同生活も終わりになりそうだ。


 ピリカも分かっているだろうけど……。

一応、お別れを言っておかないとな。


「ピリカ」


「ハルト、どうしたの?」


「食料の残りがあと一週間くらいになってきた。今のうちに、お別れを言っておこうと思ってな」


「お別れって、ハルトどこか行くの? ダメだよ! 【ピリカの世界】から出たらエーテルになっちゃうよ」


「いや、そうじゃなくてだな。食料が無くなったら、生きていけないからさ。俺の命はあと一週間と少し…… 大体10日くらいだって話だ」


「ハルト、死んじゃうの?」


「まぁ、そうだな…… こればっかりはどうしようもないからな」


 ピリカは悲しそうな表情を浮かべて、無茶なことを訴える。


「ハルト、まだ死んじゃやだ! ピリカと一緒にいるの!」


「いや、そんなこと言われてもだな……。【ラライエ】じゃどうか知らないが、地球の人間は水・食料・空気・太陽の光が無いと生きられないんだよ」


「やだ! ハルト死んじゃダメ!」


「でもな、【ピリカの世界】でこれ以上、俺が生き延びることはどうやってもできないんだ。地球に戻れない以上、俺が助かる可能性はゼロだよ」


「やだぁ!」


 ピリカはついに泣き出してしまった。


「ごめんな…… 俺が死んだあと、こんな真っ暗闇の中にピリカ一人残すことになってさ」


「やだ! ピリカ、ハルトと一緒にいるんだもん!」


 知的ゆるふわ系のピリカが完全に駄々っ子モードだ。

実は、こうなるような気も少ししていたが……。

ピリカは水も食料も必要としている様子が無かったからな。


 俺が水・食糧が尽きたら生きられないことに気付いていないか、失念している可能性はあった。

知力は高いが、見た目だけでなく、おつむもフワフワしているところがあるからな。


「ハルトは絶対死なせないから! そうだ! ピリカと一緒にラライエに行こ? ラライエなら、ご飯もお水も空気も太陽の光もあるよ?」


 なん……だと?


 その発想はなかった。


「!! 行けるのか? 【ラライエ】に? 地球には行けないって言ってただろ?」


「【地球】は無理だよ。ピリカ【地球】に行ったこと無いもん。世界の境界を越えて全く知らない異世界【地球】の場所を感知なんて、神様じゃないとできないよ」


「じゃぁ【ラライエ】は?」


「ピリカが生まれた世界だし、ラライエ創生時からずっとラライエにいるんだもん。ラライエの存在はここからでもわかるよ」


「そうか…… 地球に戻れないっていうからさ。もう、ここからの脱出は不可能だと思い込んでしまっていたよ。俺が生き延びるには、その可能性に賭けるしかないな」


「ラライエに行けたらハルト死なない?」


「死なない可能性がある。 ……が、正解かな。まぁ、ここに居たら間違いなく死ぬから、行けるのなら行くしかないな。【ラライエ】に……」


 次回、二十三話の投下は1時間後、4月8日の22:30頃を予定しています。

ここ数日、ブックマークと評価ポイントはビクともしなくなっちゃいました。

まぁ、ビクともするほどのポイントがそもそも無いのですが……。

 どうか、ブックマークと評価ポイントよろしくお願いいたします。

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