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一九六話 人類はあの子を称えてくれるのか?

 3月28日


 脳内PCの時計はAM02:39。

草木も眠る丑三つ時というやつだ。


「くぅ~っ……」


 日付が変わって二時間弱、アルが熟睡していることを確認して立ち上がる。

事前に必要な物を詰め込んでいるリュックを背負い、まだ起きているアルドとヴィノンに目配せで合図を送る。

もちろん、アルを起こさないようにするためだ。

二人も頷いて了解の意を返してくれる。


 アルに気付かれないように、俺とピリカの二人が静かに結界を出た。

ピリカ自身が光っているため、照明は必要ない。

夜の森を進むこと十数分、視界に人影が現れる。

ガル爺だ。

どうせアルが森に調査に出るとなれば、今まで通りこっそり見守りながらついてくると思っていた。

だから、もしこっそり来るのなら調査中は五日に一度、落ち合って定期連絡と情報交換を行おうと持ち掛けておいた。

アルに気取られないよう、最後に工房でガル爺に握らせた紙切れにそう書き記して……。


「来たか……」


 今夜はちょっと色々と話すことが多くなりそうだ。

俺はリュックを降ろして、中に入っている数個の包みをとりだしてガル爺に手渡してやる。

包みの中身は食料や燃料等の屋外活動に必要な消耗品類だ。

一人で三週間分の食料を携行するのはしんどいだろうから、ガル爺の分の食料も用意してボル車に積んでおいた。


「小僧、子供のくせに変なところで律儀だな」


 ガル爺はそう言いつつも、包みを受け取る。


「ガル爺、あんたもいい歳なんだ。調査中、アルは俺達に任せてそこまで無理はしなくてもいいぞ」


「ん? お前その呼び方……」


「ああ、アル本人の希望だからな……」


「そうか……」


「…………聞いたよ、全部…… 【セントールの系譜】の事」


「ヴィノンの奴か?」


「いや、アル自身の口からだ。ヴィノンは【自分にも通さないといけない義理はある】って最後まで話すことは無かったよ」


「そうか…… 奴ならそう言うだろうな」


「……でだ。あんたどうする気なんだ? アルの事……」


「……」


 ガル爺は視線を少し落として答えない。

俺は構わず言葉を重ねる。


「今日明日は大丈夫だとしても、ガル爺がいつまでもアルを守り続けることはもう無理だろ? 状況はもう尻に火がついているようにしか思えないぞ」


「そんなことはお前に言われずともわかっとる! だが、わしにこれ以上のことは出来んのだ!」


「だから、その先を見越してアルを俺達に押し付けようと画策か?」


「そこまでわかっているのなら……」


「アルを引き受ける時、最初に言ったよな? 俺は地脈の原因がどうにもならないと判断すればここを出ると……」


「アルの身の上を知ってなお、その判断をするか…… 中々に冷徹だな」


「あのな…… 俺だって苦渋の決断なんだ。だが、俺がこのラライエで最優先にしているのはピリカの幸せだからな。これは場合によっては俺の命よりも上になることだってあり得る」


 この言葉を聞いたピリカは、俺に体を預ける。


「ハルト…… ピリカもハルトの幸せが何よりも大切……。もちろん、ピリカの命よりもだよ」


 そこは、ピリカ自身の命の方を優先してほしい所だが……。

ピリカが譲らない以上、俺の命はピリカの命でもあると思って精々大切にするしかないな。


「やれやれ…… 精霊なんぞにそこまで入れ込むとはな……。 契約精霊なんて契約魔法が失われれば、野生に帰るだけだろうに……」


 ラライエの人類はやはり何か根本的な思い違いがあるように思える。

精霊達がいかにも野生動物か何かのような物言いだが、人間よりも確実に高い知性を持ち、俺達と変わらない心がある。

そもそもピリカと俺の間には、この世界の人類が言うような契約関係は存在しない。

まぁ、ピリカは地球人の俺の魂に惹かれているだけの可能性もあるが……。

それだけではなく、家族にも匹敵しうる互いを思いやる絆がある。

……そうであってほしいと俺自身は願ってやまない。


「俺としてもここまでアルと縁を持ってしまった以上、できる限りのことはしてやりたいと思っている。ここは思い切って故意に封印を解いてしまったらどうだ? ……とまで考えたんだぞ」


「貴様!!」


「わかってるよ。それはどうあっても認められない ……だろ? さっき満場一致で反対されたよ」


「当然じゃろうが! わしらが連綿と守ってきたシュルクの封印を何だと思っとるんだ!」


「だったらどうするつもりなんだ? って話だ。これ…… 普通に詰んでるだろ? 数年のうちにあんたは寿命でいなくなる。そうなったらアルはエーレで生きられなくなるんだろ? それでもアルが天寿を全うするまでモルス山脈で生きたとして、封印が保つのはあと50年か? 60年か?」


 ガル爺は苦虫を噛むつぶしたような表情で黙っている。


「将来、アルがその生涯を終え、封印が失われてこの国が滅亡するとき、人類はあの子を(たた)えてくれるのか? 最後の最後まで封印を守り抜いてくれてありがとう! って」


「……そ、それは……」


「絶対に無いね。この国の大多数の人々は封印の存在さえ知らないんだ。アルは凶悪な魔族の武将を蘇らせた歴史的大罪人の(そし)りを一身に受けることになるだろうさ……。金貨一万枚賭けてもいい」


「……ならばどうしろというんだ?」


「冷たいようだけどさ ……俺のような小童(こわっぱ)に聞くなよ。 残された時間はあまりないけど、すぐに最悪の事態が訪れるわけでもないんだ。だからこそ、この国のため…… 何よりアルのために動くことを決断するならさ。ここいらがラストチャンスじゃないかと思うけどな……」


「小僧は国よりもアルのため…… そう言ってくれるのか……」


「俺は秘境集落最後の一人って触れ込みだからな……。境遇はアルに似ていると言えなくもない。まだ何もしてもらっていないロテリア王国よりも、俺達に良くしてくれたアルの方が大事なのは当然と思うけどな」


「……そうか」


「そうだよ。よく考えてみてくれ…… おっと、そうだ」


 野営地の結界に戻ろうとしていたその時、一つ言い忘れていたことを思い出した。


「なんじゃ? まだ何かあるのか」


「ああ、言い忘れるところだった。明日から当分、魔物の露払いを止めてくれ」


「何?」


「むしろ、魔物と遭遇するように積極的に誘導してくれてもいいぐらいだ」


「どういうつもりだ……」


「新しい装備と魔法でアルに実戦経験を積ませておきたい。俺達もアルを交えた連携に慣れておく必要がある」


「ふむ……」


「ここまで戦闘らしい戦闘がないと、いざというときに動けなくなる。遭遇する魔物は少々強力なやつでも問題ない。デカネズミやオークばかりじゃ訓練にならないからな……」


「しかし…… アルに何かあれば……」


「あるわけないって! 俺は頼りにならないけど、ピリカがいるんだぞ。それにアルドとヴィノンもいる。実戦での連携が確立できないままでいる方が、長い目で見れば危険だ」


「……わかった。しばらくは魔物どもを素通りさせる。ただし、危険だと判断したら……」


「いや、悪いけどそこは(こら)えてくれ…… 危険に見えるところは連携の穴…… 改善するべき課題って事だからな。程々の敵が相手の時にそこは洗い出しておいた方がいい。凶悪な魔獣相手の時に初めて露見するようなら、それこそ命取りになる」


「まったく、いちいち正論を…… 可愛げのない小僧だ……」


「それじゃ、そういうことで…… また五日後にな」


 今度こそピリカと共に野営場所の結界に戻ってアルド達と合流する。



 ……。


  ……。



「……と、いうわけで明日からは普通に魔物と遭遇するからな」


 俺はアルドとヴィノンに、ガル爺に魔物の露払いをしないように話してきたことを説明した。

アルは熟睡しているから、起こさないように小声で話す。

ガル爺が暗躍しているのはアルにだけは秘密だからだ。


「了解した」


「それじゃ、お気楽な調査もおしまいということだね。ハルトきゅんから話は聞いてるけどさ。アルの戦いがどう変わっているのか、この目で見るのはちょっと楽しみだね」


「そこは自分で見て是非驚いてくれ。魔物の性質や数次第でアルを前面に押し出した連携も積極的に試して行こう」


 アルを交えた陣形や立ち回りを軽く確認して、俺達はようやく横になる。

もう夜明けが近い。

少しでも眠っておかないとな……。

 ブックマークが1増えました。つけてくださった方ありがとうございます!

とても嬉しいです。


 交通系ICカード無くしちゃった……。

まだ残高12000円ぐらいあったのに……。

しょぼぼーんです。


 明日はお休みなので何とか一話積みたいところですが……。


引き続きよろしくお願いいたします。

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