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百九十五話 俺の周りには爆弾が多すぎる

「それじゃ、最後の質問だ。国や連盟は何で【セントールの系譜】がアルエットとガル爺だけになるまで事態を看過していたんだ?」


「……」


 あれ?


 ヴィノンとアルエット…… 二人共、こいつ何を言ってるんだ?

そう言わんばかりの乾いた視線をこちらに向けている。

俺はそんなにマズいことを言ったか?


「それ…… 本気で言ってるのかい?」


「ハルトって、とても頼りになってなんか ……すごくかっこいいなって思えるかと思ったら、何にも知らなくってびっくりするような事を言ってみたり…… でも、そんな一面が、返ってかわいく思えちゃうところがゴニュゴニョ……」


 もうこの小娘は何が言いたいのかサッパリわからんな。

言動がすぐにあちこち脱線する。

まぁ、地球でもこの年頃の女子ってこんな感じだった気がしないでもないけど……。


「何かおかしいこと言ったか?」


「だって答えるまでもなく、ハルトきゅんもその身で体験しているんじゃないのかい?」


 なんだと?

ヴィノンの言ってる意味が分からん……。


「ハルトきゅん…… 君はどうして緑の泥の秘境集落から出てきたって言ってたっけ?」


「それは前にも言ったろ? ってまさか……」


 俺は緑の泥を出てきた理由を聞かれた時は【世代を重ねるうちに一族も減って、ついに両親が死んで、俺が最後の一人になったからだ】って作り話をしている。

この作り話を誰も疑うことなく、すんなりと受け入れてくれていた。

なので、あまり気にしていなかったが、ラライエにはこの作り話が信用に足る下地があるということか……。


「それって、ひょっとして……」


「そういうことだよ。ハルトきゅんが経験してきたそれは、何もハルトきゅんの故郷だけに起こっている事じゃない……。1000年位前から、世界中でほんの少しずつだけどね。子供が生まれにくくなってきているんだよ」


 マジかぁ……。

異世界に来てまで少子化問題か。


「人類は少しずつその数を減らしているが、魔物の数は年を追うごとに確実に増えている。人類はじわじわと魔物や魔獣に生存圏を削り取られているのが実情だって話だ」


 アルドがヴィノンの言葉をそう付け足した。


「秘境集落が世代を重ねるごとにその数を減らして行き、ハルトきゅんが一族最後の一人になったのと同じだよ」


 少子化の影響でセントールの血統がその数を減らして、ガル爺とアルエットが最後の【セントールの系譜】になってしまったというわけか。


「特に【セントールの系譜】は封印の護り手だからね、森に現れる封印を脅かしかねない魔物や魔獣と戦うことを宿命づけられている」


「魂を縛る魔法が封印を放り出して逃げることを(ゆる)さない ……か」


「そういうこと。だから戦いの中で命を落とす【セントールの系譜】はいつの時代でも多いんだよ。アルの両親も例外ではないね……」


「お父さんもお母さんもね…… 封印に近寄りそうな魔獣を相手に戦って…… もし、お爺ちゃんが一緒に行ってくれていたら……」


「アル…… そのことでガル爺を責めるのは少し可哀想だよ。【セントールの系譜】は全員が一度に戦場に出ることを掟で禁じているんだろ?」


 ヴィノンがその先を口にしようとするアルエットを窘める。


「そんな掟があるのか?」


 何でヴィノンがそんなことを知っているのかを突っ込みたいところだが、多分はぐらかされるだろうな。

アルエットはヴィノンの言葉を肯定するように頷いた。


「血族全員が戦場に出て、万一、全滅すれば封印が失われてしまう。それを防ぐためだね。すでに引退しているガル爺と幼いアルが残り、現役の勇者であるアルの両親が出たのは妥当な判断だと思うけどね……」


 確かにいくつかのツッコミどころはあるものの、ヴィノンの説明には一定程度の説得力がある。


「あの時、想定外だったのは出現した魔獣が強力過ぎた事…… それだけだよ。ここ数十年は出現する魔物や魔獣の凶悪化の傾向は特に顕著になってる。もう、今までの経験則で魔物の戦力を図るべきではないのかもしれないね」


「私だってそんなことはわかってる! ……でも、もうお父さんもお母さんも帰ってこない……。 お爺ちゃんは二つ名持ち勇者(ネームド)だよ? 引退していたってお父さんよりもずっと強いのに…… 掟だから仕方が無いねって ……お爺ちゃんに笑ってそう言えっての?」


 ああ、これは中々に根が深いな……。

やっぱり年頃の少女と空気の読めないジジイのジェネレーションギャップだけじゃなかったか……。

アルエットが森に出現する魔物や魔獣にここまで敵意むき出しにするのも納得だ。

森やモルス山脈に蔓延(はびこ)るやつらは、封印から離れることが出来ない【セントールの系譜】にとっては喉元に突き付けられたナイフに等しいのだからな。


 意図的に封印を解くことでアルエット達をこの魔法から解放することが出来ないのなら、何か別の手を考えないと……。

今日の所はアルエット達のことで向き合わないといけない問題の正体が分かった事でひとまずは一歩前進とするか。


「話してくれてありがとう、アルエット。今までずっと引っかかっていた疑問がまとめて腑に落ちた」


 アルエットの死はそのままこの国の滅亡に繋がりかねない……。

よくガシャルはアルエットを見捨てる決断を下せたよな。

後でどう言い訳するつもりだったんだろうか?

いや、そもそも後先の事なんて考えてなかったんだろうな。

自分が死ねば村や国の運命もクソも無いんだし……。

自分の命の価値をどこに置くのかで、そのあたりの判断は変わってくる……。

個人の価値観の相違というやつだろう。


 俺ならどうだろうか……。

俺だって見ず知らずの異世界の国や、顔も知らないその他大勢の命よりも、俺自身の命の方が重いと思っている。

同じような状況になったとしたら、ガシャルと同じ判断をした可能性はある。

ただ、見捨てるべきと頭では判断しているのに、リコが追躡竜(ついじょうりゅう)にタゲられた時も咄嗟にやっちまってる前科があるからな……。

その時になってみないと ……だな。


「あの、あまり気にしないでね。これは私 ……【セントールの系譜】が向き合わなきゃいけないことなんだってわかってるから……」


「ここまで聞いてしまったからな……。アルエットのために俺に出来る事があるのか考えてみるさ」


 そう声を掛けると、アルエットは何か決心したようにこちらを見据えてきた。


「アル……」


 唐突に自分の愛称を口にする。


「??」


「もう、そんな余所余所しい呼び方は無しよ! エーレで暮らす人はみんな私の事をアルって呼ぶの。私もハルトの秘密を聞いちゃったし、ハルトもここまで私の秘密を聞いちゃったんだから ……ね?」


「え? ハルトきゅんの秘密って何なんだい? まさか、アルには話せて僕には教えられないなんてことが……」


「ヴィノン、ちっと黙っててくれないか? そんなどうでもいい事は……」


「そ、そんなどうでもいい事だなんて…… ハルトきゅ~~ん! 僕がこんなにも君のことを想っているというのにぃ……」


 ええい! このチャラ男、ウザい!

そんな今にも泣きそうな表情をしたって無駄だ!

本当に何を考えているのやら……。


「それはそうと…… ヴィノンさんはどうして【セントールの系譜】の秘密を当然のように知っているのよ?」


「えっ? それは…… まぁ、細かいことは気にしちゃだめだよ」


 これ、国家機密レベルのネタなんだろ?

細かい事なのか?

ヴィノンはどうあっても、ここははぐらかして乗り切る気だな。

なら、これ以上いくら追及しても無駄だろうさ。


「もうっ! 今、私がしゃべっちゃったから、もうおんなじなんだけどさ……。アルドさんとピリカもだよ? これから私の事は【アル】……だからね?」


「ああ、わかった。改めてよろしく頼む、アル」


 アルドは素直に受け入れてアルエットを愛称で呼ぶ。


「はいっ!」


 俺は…… どうするかな……。

些細なことかもしれないが、人の呼び方って大きいと思っている。

気軽に愛称で呼ぶ関係を築いてしまうと、急速にその距離感が縮まって情が移ってしまうことはよくある。

特に俺はラライエから見れば余所者の異世界人だ。

生態学的には外来種の位置づけと言ってもいい。

異世界転生もののアニメや漫画のように、考えなしにこの世界の文明に深く根を張って社会や文化に干渉してもいいものか……。

そこは慎重に見極めていきたいと思っている。

理想はラライエの文明と一定の距離を取って、ひっそりとヒキオタライフを送らせてもらいながら、天寿を全うすることだが……。


 俺はこれまでに勇者を殺し……

歴史上、討伐実績のない魔獣を倒し……

今度は一国を滅ぼすかもしれない魔族の封印に干渉しようとしている。

もうすでに、手遅れなほどやり過ぎているかもしれない。

アルエットは【セントールの系譜】にして二つ名持ち勇者の縁者だ。

このままアルエットと親密になっていくようなことになったら……。

国や連盟が俺の存在を悪い方に嗅ぎ付けてくるリスクをさらに引き寄せかねない。

おまけにピリカは光の精霊王だ。

実際の所、俺の周りには爆弾が多すぎる。

かといって、このままアルエットを見捨てることはできそうにない。

どうしたものかな……。


「ちょっとハルト、どうしたのよ? 難しく考え込んじゃって……」


「え? ああ……すまない、アルエット……」


「むっ! 違うでしょ!」


 アルエットが目を吊り上げて抗議してくる。

これは俺だけが抵抗しても駄目っぽいな。

仕方がない……。


「ああ…… すまない、アル。これからも仲良くやっていこう」


「!! ……はい……」


 改めて愛称で呼ばれてアルは顔を赤くして少しだけ視線を落とし、もじもじしながら短く返事する。

自分から愛称で呼べと言っておきながらなんだかな。

どんどんややこしい性格になっていくな…… この小娘は……。

 ありがとうございます! 細々と投稿続けてもうすぐ11ヵ月……。

本日【100000PV】に到達いたしました。


 読んでくださっている皆様のおかげです。

ありがとうございます。


 一つの区切りとなるラインだとは思っていたので

嬉しさもひとしおです。


 よろしければ、ブックマーク・評価・いいねもお願いします。

引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 衝撃の事実ですね。これはハルトの主人公力が試されますね。 今まで思ってた疑問などが納得できました。ふわふわしてたのが一気にしっくりきたといいますか。 個人的にですが、今回は特にいい出来だ…
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