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百九十二話 いいよ、ハルトのお願いなら……

 3月12日



 今日からまた地脈の調査に出発する。

まずは朝食にありつくために、食堂に降りるとアルエットがテーブルに座っていた。

うん、実はもういるんじゃないかと思った。

アルドとヴィノンはまだ降りてきていないようだな。


「ハルトおはよう! お寝坊さんだねっ!」


 いやいや…… 何時だと思ってるんだ。

脳内PCの時計はAM6:32と表示されている。

お前…… この時間にここに来ようと思ったら、絶対夜明け前に起きて家出てきただろ?


「ああ、おはよう。朝食は食べてきたのか?」


「まだよ。みんなと食べようと思ってきたから。もう代金払ってあるから心配無用よ」


 ピリカが速攻でアルエットの隣の席に座る。

もちろん、アルエットが俺の隣に来ないようにガードするためだろう。

ピリカの意を汲んで俺はピリカの隣に腰かける。

瞬間的にアルエットの方眉がぴくっとしたような気がしたが、気にしないことにした。

程なくヴィノンが食堂に降りてきた。


「あれ? アル早いね。ここで僕たちと朝ごはんかい?」


「ヴィノンさん、お早う。そうなの、最初だからね。挨拶もしておきたいから」


「ふ~ん……」


 ヴィノンはなんか意味深の流し目でアルエットを見る。


「な、何よ……」


「ま、そういうことにしておこうかな」


「しておかなくてもそういうことなの!」


 そんな二人のやり取りを眺めていると、アルドも姿を現した。


「今日は俺が最後か…… みんな早いな」


 全員揃ったところで、アルエットが立ち上がってパーティーメンバー加入の挨拶を始める。


「私のパーティー加入を受け入れてくれてありがとうございます。人類初のペポゥ討伐を成し遂げた皆さんの足を引っ張らないように精一杯頑張ります! どうかよろしくお願いします」


 アルエットは深々と頭を下げる。


「こちらこそよろしく頼む」


「いまさら知らない間柄でもないんだし、気楽にいけばいいんじゃないのかな」


 そこはヴィノンに同意だな。



  ……。


    ……。



 朝食後、ヴィノンは牧場までボル車を借りに行った。

ボル車が来るまでの間に、それぞれの部屋に押し込んであった食料や燃料などの物資を宿の前におろしておくことにする。

荷物の見張りはアルエットに頼んであるから、力仕事は男共の役割だ。


 俺とアルドの二人で粗方、荷物を降ろし終えてしばらくすると、ヴィノンがボル車に乗ってやってくるのが見えた。


「あ、来たみたいよ」


「だな。それじゃ早い所、積み込んで出発しようか」



 ……。


  ……。



 村を出て街道をボル車はゆっくりと北上している。

さすがに三月に入ってくると、寒さもピークを越えて少しずつだが暖かくなってきたな。

この分だと次の調査には防寒用の装備や燃料はもう少し減らしても平気かもしれない。

そんなことを考えながら、ボルロスに並んでのんびりと歩く。

今日はピリカもボルロスの背中の上ではなく俺の隣をてくてくと歩いている。


 こいつとの付き合いもそろそろ長くなってきた気がする。

言ってしまえばただのデカいアルマジロだが、ちょっと愛着のようなものも湧いてくるよな。


「ねぇ、ハルト…… 出発の時からずっと歩いてるけど、乗らないの?」


 幌の中からアルエットが顔を出して声を掛けてきた。


「ああ、俺の事は気にしなくていい。中でゆっくりしていていいぞ」


 そう答えたにも関わらず、アルエットは幌の後方から飛び降りて俺のところにやってくる。


「別に降りてこなくてもよかったのに……」


「よかったのに……」


 ピリカさんが俺の言葉に追従する。


「まぁ、良いじゃない。私を助けてくれた時も、ずっと歩いていたみたいだし……。だからってわけじゃないんだけど、なんか気になって……」


「ごくごく単純な理由だ。移動中のボル車の揺れがな…… どうにも合わなくて中にいても休んでいる気にならないんだ。なんか、体の節々が痛くなる」


「ふふっ、何それ…… ボル車なんてどれに乗ってもあんなものじゃない。ハルトったら、王族用の特製馬車にしか乗ったことがないみたいな言い方ね」


 アルエットは年相応の少女のように笑ってそう返してきた。

まぁ、当たらずとも遠からずだな。

日本の乗用車の居住性を知ってしまえば、こんな振動直撃の物にはとても乗っていられない。

ハッキリ言って地球のリヤカー以下の乗り心地だ。

乗り物酔いとかそういう次元の話にすら行きつかない。

15分、中で座っているのも正直なところ勘弁願いたい。


「こんなのは慣れの問題だって! 緑の泥みたいな魔境じゃ、ボル車や馬車は使えなかったんだと思うけど、中央大陸で冒険者やっていくなら慣れておいた方がいいと思うよ」


 アルエットの言い分も一理あるのは認めるが、こればかりはちょっとやそっとで克服できない気がする。


「そこは追々な……」


 ここはのらりくらりとはぐらかしておこう。

アルエットもさすがに無理やりボル車に乗ることを強要してきたりはしないだろう。


「それはそうと…… この前からピリカが靴を履いてるわね。これって……」


「ふふん! もちろんハルトに貰ったんだよ!」


「何これ…… こんなデザイン見たことがないわ。ずっと気になっていたんだけど、すごくかわいい…… ね、ハルト ……これってどこで手に入れたの?」


「もちろん俺の故郷だ。元々は妹の物なんだけどな」


「へぇ、故郷に妹さんがいるのね」


「もう、二度と会えなくなってしまったけどな……」


「!! ご、ごめんなさい」


「いや、気にしなくていい。そこはもう気持ちの整理がついている」


 別に死別したわけじゃないし、今はどうだかわからないが、俺が飛ばされた時点ではまだ元気に暮らしていたのは間違いない。

無事でいて欲しいと心から願ってはいるけど、俺が地球にいる妹にしてやれることは無いからな……。


「そう、妹さんの…… そんな大切なものをピリカにあげたんだ……」


 【どやぁ!】というエフェクトが出てきそうなどや顔で、アルエットに自慢する。

これはアレか……。

ここ最近、アルエットの前で俺の背中にくっつかずに自分の足で歩いていたのは、これをアルエットに見せつけるためか。

さてはアルエットがこの話題に触れてくるのを今か今かと待ち構えていたな……。


「でも、私だってハルトにジャケット買ってもらったし…… この鎧だって……」


「だから、鎧は()()()()()()()()()だからノーカンだよ!」


「【のーかん】? 何それ、精霊特有の言葉かしら……」


「靴だけじゃくて、この服も、ネックレスも、ベルトも、これも、ピリカの名前だってぜーんぶハルトに貰った物なんだからねっ! だからハルトはピリカの全てなの!」


 ちなみにピリカの言ってる【これ】とはフォトンブレードの事だ。

それはともかく、ピリカさん ……地味にアルエットの心を折りにかかっていないか?


「ハルト ……本当なの? 精霊術師が自分の契約精霊に名前を付けるのはたまにあるって聞くけど…… ピリカが身に付けているものって全部……」


「ああ、それは本当だ。俺がピリカにあげたものだな」


「 ……そんなことって…… 精霊が人類から与えられたものを身に付けるなんて話は聞いたことが……」


「人類の創造物なんて精霊には何の価値も無いからね…… でも、ハルトがピリカにくれるものは別…… 一番はハルトの命、二番はピリカ自身の命、ハルトがくれたものはその次に価値があるものだから……」


 その優先順位には異議ありだが……

ピリカには自分の命の優先順位を一番に持ってきておいて欲しいのだけどな。

その話をすれば平行線になりそうだから突っ込まないでおく。


「ピリカ、別に俺のあげたものなんて壊れたり無くなったりしても気にしなくていいんだぞ」


「やぁだぁ! 全部ピリカの宝物なのっ!」


「ピリカ…… あなた、精霊なのにそこまでハルトの事を…… でも、私だって負けないんだから……」


 ピリカの作戦は功を奏さず、アルエットの対抗心を逆に煽る結果になったぽいな。



 ……。


  ……。



 3月27日



 アルエットを加えての調査開始から二週間と少しが経過した。

まれに魔物に遭遇することはあっても、精々オークが3匹以下……。

魔物は俺達の視界に入る前に【ピリカビーム】やヴィノンのブーメランの餌食である。

俺やアルエットに出番は全くない。

概ね予定通りに調査を続けられている。


 ……。


  ……。


 ピリカの結界の中、俺達は火を囲んで夕食を済ませて一息ついている。

そろそろ頃合いだろう。

この二週間でアルエットも俺達のパーティーの空気に打ち解けて来ている。

それに、ここまでくればさすがに【孔明の罠】などではなく、間違いないと判断していいだろう。

アルエットは俺に対して好意を抱いていると……。

アルエットの気持ちを利用している感は否めないが、それでもここが切り込みどころだ。

【セントールの系譜】の正体、そしてアルエットの魂を縛る永続魔法の正体を聞き出す。

アルエットの抱える問題を解決するには絶対に避けて通れないと思っている。

だが、ガル爺とヴィノンは絶対に口を割らない。

聞き出すならアルエットからしかない。

ヴィノンはアルエット本人が話すのなら黙認すると言ってるから、ここでアルエットが話しても横槍は入れてこないはずだ。

やつに黙認する権利があるのかは知らんけどな。

なんとかできるできないは聞いてみないことには分からないが……。

これからも同じパーティーでやっていく以上、俺達全員が真実を知っておく必要がある。


「なぁ、アルエット……」


「ん? どうしたの? 改まって……」


「そろそろ俺達に話してくれないかな?【セントールの系譜】の真実…… そしてお前の魂を縛っている永続魔法の事……」


「!! ハルトはどうしても知りたいの? 私達の…… 【セントールの系譜】の事を……」


「ああ、どうしても知りたい。大事な仲間だからな」


「そっか…… いいよ、ハルトのお願いなら…… 私だってハルトの秘密、聞いちゃってるもんね。教えてあげる。私達一族と村長の一族しか知らない【セントールの系譜】の真実……」



 散々引っ張ってきたアルの抱える秘密が次話から明らかに……。

明日もお休みなので何とかこの一話は投稿したいと思ってますが……。


 良かったらブックマーク・評価・いいね、いただければ嬉しいです。

引き続きよろしくお願いいたします。

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