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百八十六話 もう信じらんない!

 ガル爺の工房に入ると、ガル爺とアルエットが二人揃っている。

ピリカさんは宿を出た時からずっと俺の背中に張り付いている。

なんでも対アルエットの絶対防御フォーメーションらしい。

訳が分からないが、工房を出るまで背中から離れる気は無いようだ。


「小僧、戻ったか」


「ああ、昨日戻った。頼んでいた物は出来てるのか?」


「あっ、ハルト! 何よっ! 三週間って言ってたのに遅かったじゃない! もう、四週以上経ってるわよ」


 ぷくっと頬を膨らませてアルエットがそんな抗議の声を上げてくる。


「俺の故郷じゃ一週間は7日なんだ。きっかり三週間で戻ったはずだけどな」


「そんなの屁理屈じゃない! 待ちくたびれちゃったわよ……」


 いや、別にそこまで待っていなくても…… そんなに急いで復帰したいのか?


「これでいいんじゃろ?」


 ガル爺がミスリルで製作を頼んでいたものをまとめて無造作に転がした。

机の上に落ちたそれらはジャラリと金属がこすれる音を立てる。

一辺3㎝程のミスリルの立方体が四つ。

その全てに細く小さなミスリルのチェーンが繋がっている。

あとは、3㎝×5㎝程度の薄いミスリルのプレートだ。

どれも注文通りの出来栄えだった。


「……確かに。注文通りだな」


 俺は出来上がって来たこれらのアイテムをポーチに仕舞う。

とりあえず、今日ここに来た最低限の目的はこれで達成だ。


「それで、あのデカい亀はどうなんだ? 素材として使えそうだったか?」


「さすがは世界最大級の魔境よな。あんなとんでもない甲羅を持つ魔物がいるとは」


「そこは今問題じゃないだろ? 使い物になりそうなのか? それともダメなのか?」


「小僧…… 誰に言ってる? すでに出来上がっておる」


 早っ!


 オーダーメイドの金属鎧なんて、地球の技術でもそんなすぐできる物じゃないと思うけどな。


「ずいぶん早くないか? 金属鎧がそんな短期間で出来る物なのか?」


 いや…… カメの甲羅製だから金属鎧というわけじゃないのか……。


「あれをそのまま加工していてはとても無理だ。だが、秘伝の錬成術を使えば元素材の性能そのままに別の形に再構成できる」


 なんだそれ……。

これだから異世界の魔法というやつは……。


「そんなことが簡単に出来るなんてな……。恐れ入ったよ」


「簡単なわけがなかろうが! 錬成に必要な大型魔導炉を使うために、わざわざ王都の連盟本部にまで行ってきたんじゃからな。今のわしは王都まで行くのだって命がけなんじゃぞ! ……全く……」


 何で、王都に行ってくることが命がけになるんだ?

道中がそこまで危険なものになるなんて話は聞いたことがない。

大体二つ名持ち勇者(ネームド)が命がけになるような道のりなら、一般人の往来なんてとてもできないだろう。

意味不明だな。


 だが、なるほど…… さすがにそんな離れ業をやってのけるにはそれなりの設備が必要だったか。

いくら何でもありの異世界魔法でも、そこまで万能では無かったことに少しだけ安心した。


「この前、アルの鎧をやり替えたばかりだったのも不幸中の幸いじゃった。前の鎧の金型がそのまま使えたおかげで大幅に時間短縮できた」


 今の話だけでは魔導炉を使った錬成というものがどういうものが良く分からない。

まぁ、必要そうなら今度詳しく教えてもらうことにするか。

とりあえず、今は錬成の事を気にするのはやめた。


「で、鎧が出来てるなら是非見せて欲しいな。デカい亀の甲羅がどんな鎧になったのかは興味があるぞ」


「鎧はアルが自分の部屋に持って行っておる。アル、小僧に鎧を見せてやれ」


 ガル爺にそう言われて、アルエットはとても嬉しそうに答える。


「え? ハルトはやっぱり見たいの? 私の新しい装備……」


 もう、笑顔がこぼれそうになっているのを必死でこらえて平静を装っているのが丸わかりだ。

はいはい…… 実は見せたくて仕方がないんだな……。

ここは話を合わせておいてやるか。


「そりゃ見たいに決まってるだろ。半分はそれを見るためにここに来たようなものだからな」


「!! そ、そうよね! だってあの素材はハルトが秘密にしていた魔法を使ってまで私の為に…… きゃぁ! ちょっと待てなさいよ。すぐに戻るから!」


 そう言ってアルエットはパタパタと工房の奥の扉から出ていった。

多分、自分の部屋に鎧を取りに行ったのだろう。

しかし、あの小娘…… 大丈夫か?

日を追うごとに挙動が怪しくなってくるような……。


「あれは一体何なんだ?」


「知らん…… 最近はずっとあんな調子だ」


「ま、いいか。それはそうと、槍の加工も終わっているのか?」


「うむ、これでいいんだな?」


 工房の隅に立て掛けてあった突撃槍をガル爺が持ってきた。

槍の柄の一番後ろ…… 石突のあたりに直径2cmにも満たないミスリル製のリングが溶接されたみたいについている。

これも俺の注文通りだ。

……というか、今回はピリカに全部丸投げなので、ピリカの注文通りなんだけどな。


「ああ、問題なさそうだ」


 仕上がりを確認してガル爺に突撃槍を返す。



 ……。


  ……。


「なんか遅くないか?」


「確かに遅いな…… 全く何をやっとるんだか……。少し様子を見てくるか」


 ガル爺がアルエットの様子を確認するために奥の扉に向かおうとしたとき……。

扉が開いてアルエットが戻ってきた。


鎧を持ってきてくれって言ったのに……。

なんでこいつは騎士服に着替えて鎧を着て来ているんだ?

しかも、このどや顔……。

メッチャ期待に満ちた顔でこっちを見ている。

目がなんかキラッキラなんだが……。


「うふふっ! どう? これが新しい私の鎧よ!」


 なんだこれは……。

デカい亀の甲羅って錆色に苔むしたお世辞にも美しさを感じられるような色彩では無かったんだけどな。

今、アルエットが身に付けている鎧は前に着ていた白銀色のようにも見えるが、光の当たり方で薄い紫色の光沢を放っているようにも見える。

少し紫水晶(アメジスト)が混ざっていると言われればそんな気もしてしまうような……。


「あの汚い色をしていた亀の甲羅がどうすればこんな風に化けるんだ?」


 ここは率直に聞いてみることにする。


「魔導炉で錬成したときに、甲羅に含まれていたアダマンタイトの特性が強く出たせいだ。さらに仕上がった鎧をわしが手ずからしっかりと研磨したからな」


「これは驚いたな……」


「こいつは物理・魔法共に強力な防御性能を発揮する。世界広しと言えども、これ程の逸品は中々見つからんぞ」


 アルエットが嬉しそうにこちらを見ている。

目で早く感想を言えと猛烈に訴えかけて来ている。

はいはい……。


「思っている以上に良いものに仕上がっていて驚いた。光の当たり方で薄い紫に輝くのもきれいだ。アルエットに似合っていると思うぞ」


「あ、ありがとう。私…… 大切に使うからね。 だって ……ハルトが用意してくれたものだから……」


「錬成したのも仕上げたのもわしなんじゃが……」


「この亀仕留めたのはピリカだから! だからハルトが用意したわけじゃないよ!」


 ピリカがアルエットに横槍を入れる。

ピリカとしてはこの鎧を俺からのプレゼントとアルエットが認識することを阻止したいようだ。


「な、何よ二人して…… ハルトが私の為に素材を引き寄せてくれたんだから ……別にいいじゃない!」


「わしからも礼を言おう。アルも余程この鎧が気にいったみたいでな。部屋で鎧を枕元に置いてベッドでコロコロ転がっておるのをたまに見かける」


 ガル爺の何気ない爆弾発言にアルエットの顔は一瞬で真っ赤に変色する。

地球の漫画なんかだと、次に【ボンッ!】ってエフェクトが出る奴だな。


「な…… なななななな何言ってんのよ! もう信じらんない! あたし、そんなこと絶対にしてないんだからね! 大体、何でお爺ちゃん、あたしの部屋の様子覗いてんのよっ! ハルトは信じちゃダメなんだからね! これはお爺ちゃんの見間違いなんだからぁっ!」


 爺さん…… これはきっと目撃しても生暖かく見なかったことにしてやらないといけないやつだろ。

アルエットとガル爺の距離が今一つ微妙な原因の一つはそういう所じゃないのか?

空気の読めん年寄りと年頃の小娘……。

異世界においてもこの両者の間には、決して埋まらないジェネレーションギャップという溝が存在しているに違いない。

いつの時代、どこの世界でもそれは変わらんのかもしれない……。

それにしてもアルエットは完全に語るに落ちているな。

それじゃぁ枕元に鎧置いてベッドでコロコロ転がってました。

……と自白しているのと同じなわけだが……。

突然の暴露にバツが悪くなって、いまだに顔の赤いアルエットがなんかクネクネしている。


「で、この鎧にこいつを収めることは出来るのか?」


 ポーチからガル爺が制作したミスリルのプレートを取りだす。


「ああ、左の肩当ての裏側にな……」


「そうか」


俺はアルエットが着ている鎧の左の肩当てを軽く持ち上げて確認する。


「ちょっ…… ハルト何を……」


 突然、近づいて肩に手を伸ばしたので驚かせてしまったかな?


「ああ、いきなりすまなかった。ちっと鎧の肩パーツを確認させてくれ」


「……」


 アルエットは少しもじもじしているが、特に抵抗する素振りはなかった。

ビンタやグーパンが飛んでくることも無かったので、別にこのまま確認しても良いということだろう。

確かに肩当ての裏側に、定期入れに似たスリットが見えた。

脳内PCはプレートがぴったり収まる大きさであると算出している。

問題は無さそうだ。


「確かに大丈夫そうだ。すぐにこいつの仕上げにかかりたい。今日はもう宿に戻るよ」


「えっ? もう帰っちゃうの?」


「ああ、一週間以内にまた来るよ」


「一週間って五日よね? また七日とか屁理屈言ったりしないわよね?」


 今はそこまで急ぐ理由もないだろうに……。

この時期の二日ぐらいは誤差の範囲だろう。

そんなに鎧と槍の完成が待ち遠しいのだろうか?


「ああ、五日以内で来るよ」


「わかったわ。 ……待ってる」


 アルエットは俺の回答に納得したのか、しおらしく答えた。


 背中にピリカが張り付いたままの状態で俺はガル爺の工房を後にする。

宿に戻ったら、早速ピリカさんに術式を刻んでもらうことにしよう。

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どうもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルエットがどんどんヒロインらしくなって……! 今更ですが、ハルトって鈍感系だったり? それとも本当の年齢的に、子供をみてる感じなのかな?
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