百八十五話 そんな魔法、聞いたことが……
「それじゃ、話の続きをしよう。壊れてしまったアルエットの鎧についてなんだけど……」
「お爺ちゃんがハルトと私の鎧の話を? なんで?」
「ここで話の腰を折らないでくれないか? 話が前に進まない」
「あ、ゴメン……」
「このまま前と同じ鎧を誂ても、次またミノタウロスのような魔獣に遭遇したら攻撃を防げないだろう。今回は命を拾ったが次は分からない」
「そんな話をするからには、小僧にはアルの次の鎧をどうにかする当てがあるんだな?」
「そういうこと……。 俺がアルエットの鎧の素材を提供する。ガル爺にそれの加工・錬成ができるならアルエットの生存率はこれまでより向上するはずだ」
「それで…… その素材はどこだ? ブレストプレート一つ作る程の素材を持ってきているようには見えんぞ」
「ああ、それなんだけどな…… これも絶対他言無用だ」
俺は二人の目を見て念を押す。
二人とも黙って頷く。
「ここでは無理だな。素材を拡げる広さが確保できて、他人の目に触れないような場所はないか?」
「なら裏の倉庫を使うといい。……こっちだ」
ガル爺が工房を出て裏手に向かう。
俺とアルエットが後に続く。
工房のすぐ裏に離れとなっている建造物が見えた。
あそこがガル爺の言ってる倉庫か。
ガル爺が南京錠を外して少し古びた鉄の引き戸を開く。
中は少し冷えていて真っ暗だな。
まぁでも、背中にピリカがくっついているので真っ暗でも全く問題ない。
なんせピリカ自身が光っているからな。
そこいらのLED蛍光灯よりもよほど明るい。
「この広さなら問題なさそうだ。少し離れていてくれ。これから目にすることは絶対に秘密だからな」
そう言って俺はポーチから【ピリカストレージ】の術式を一枚取り出す。
術式を発動すると地面に魔法陣が拡がっていく。
魔法が発動した次の瞬間、目前に高さ2mを越える氷の塊が現れた。
ただでさえ寒い倉庫の中の温度が更に下がる。
「……ちょっとハルト ……なにこれ?」
「こいつは一体……」
ガル爺が氷の塊に近づいて観察する。
「中で何か氷漬けになっとるな…… これは亀…… 魔物か?」
「ああ、なんかのデカい亀だ。緑の泥でピリカが狩ったやつだけどな」
「緑の泥ってハルトが暮らしていたミエント大陸の魔境よね。魔界に匹敵するって話の……」
「そうだ。こいつの甲羅を素材にアルエットの鎧を作ってくれ。ピリカの話じゃ、この甲羅には【アダマンタイト】が含まれているらしい。これで作られた鎧や盾なんかを身に付けて、精霊相手に善戦した勇者なんかもいたらしいぞ」
おとといの夜、ピリカから聞いたこのデカい亀の特性をそのままガル爺に説明した。
ちなみにこの亀が何て名前の魔物なのかはピリカも知らなかった。
結局、こいつ名前は今なお【デカい亀】のままだ。
「小僧、こんなもの…… 一体どこから出した?」
「緑の泥にある俺の家からだ。俺は事前に仕込んである物なら、こうやっていつでも手元に引き寄せることが出来る」
「……うそでしょ。そんな魔法、聞いたことが……」
「小僧が絶対に秘密にしたがるわけだ」
この魔法がどうヤバいのかは改めて説明の必要はないだろう。
ガル爺は充分察しているみたいだしな。
「それで…… だ。どうだ? こいつの加工できそうか? 何で丸ごと一匹氷漬けにしているかと言えば、俺じゃどうやってもビクともしなくてな。解体どころか甲羅にキズ一つつけられなかったからなんだが……」
「確かに…… 含有率が分からんが【アダマンタイト】が含まれているのなら素人にどうこうできまいよ。詳しく見てみないことにはわからんが、何とかしてみよう」
「それじゃ、俺の用事はここまでだ。調査が終わったらまた様子を見に来る。アルエットのためにここまでのリスクを負ったんだ。成果が上がるといいな」
俺は宿に戻るために倉庫から外に出る。
後ろからアルエットが追いかけてくる。
「ハルト…… ありがとう、私のために……」
「シャシャァ!」
駆け寄って俺に抱きつこうとしたみたいだが、そこには既にピリカさんがガッツリしがみついている。
ここは自分の指定席だと言わんばかりにピリカが全力でアルエットを威嚇する。
既にピリカがしがみ付いている以上、アルエットがそれ以上近づくことは無かった。
「そう思ってくれるなら、くれぐれも秘密は厳守でたのむぞ。ああ、それと全部うまく行ったら成功報酬は金貨14枚だからなってガル爺に言っておいてくれ」
頷くアルエットを残して俺は宿に戻ることにする。
なんで金貨14枚なのかはそこまで深い理由はない。
アルエットにボランティアでやってるんじゃないぞって思わせる意味もあるが、実は棍とランタンの代金として俺がガル爺に払った金額の合計だ。
それを取り返して±ゼロにしてやろうと思っただけの事で、こいつが適正金額なのかは全く分からない。
……。
……。
2月10日
翌日、俺達はボル車を使った二回目の地脈調査に出発した。
調査期間は前回と同じく、地球時間で3週間を予定して物資を積みこんでいる。
……。
……。
2月24日
今回の調査は大きなトラブルもなく順調と言える。
地脈は間違いなく西に向かい始めている。
既にかなり森の街道に近い所を平行に走っているような感じだ。
街道に近い所は冒険者たちも積極的に魔物の間引きをしていることもあって魔物の遭遇率もかなり低い。
俺の想定よりもいいペースで調査が進んでいる。
この分だと次回の調査でモルス湖から流出している川に到達しそうだな。
今回は思惑通りに調査を終えることが出来そうだ。
3月3日
月が替わって二回目の調査を終えて、エーレに戻ってきた。
前回出発して21日……。
地球の暦で言えばきっちり三週間だが、ラライエでは四週間を少し超えたぐらいだ。
「お疲れ…… 次の出発まで少し時間を空けようと思う。ゆっくり休んでくれ」
「わかった。次の準備だけは進めておくぞ」
さすがはアルド…… 何も言わなくても分かってくれるのな。
「すまない。よろしく頼む」
「それで…… 今回、間が開いてるのはやっぱりアルの事が気になるのかい?」
「まぁな。不本意ながら乗りかかった船ってやつだからな」
「【セントール】の問題は親切心で首突っ込むには大きすぎると思うけどね。 ……でもそんなハルトきゅんだからこそ、僕は君のことが気になって仕方がないんだけどね」
俺もヴィノンの事は気になっている。
捉えどころが無さ過ぎてこのままこいつの事を信じていいのか……。
いまだに判断できていないからだ。
気持ちとしてはこいつの事を信じたいし、信じさせて欲しい。
しかし、そう踏ん切りをつけるための決定的なパーツが足りないような…… 喉の奥に魚の小骨が引っかかっているような感覚が拭えない。
さて ……それよりもアルエットの事だ。
ガル爺の進捗はどうだったのか……。
うまくデカい亀アーマーを作る道筋がついたんだろうか。
3月4日
一日宿で休んで調査の疲れを取った。
今日はガル爺の工房に向かうことにする。
今回は少し短めになってしまいました。
この先を書くと逆に長くなりすぎそうだったので……。
(それに明日からまたお仕事が始まるので……。)
これが今月最後の更新となります。
なんとか今週中に一話積みたいとは思っていますが……。
引き続きよろしくお願いします。




