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百八十四話 俺とピリカはお前を殺す。

 2月9日


「ガル爺、居るかい?」


工房の扉を開き、開口一番にガル爺の姿を探す。


「小僧か…… まだ調査に出ていなかったのか」


 奥の扉からガル爺が姿を見せる。

アルエットは居ないのか?

なら好都合。

さっさと話を済ませてしまおう。


「ああ、早く話をしておいた方がいいと思ったんでな」


 ポーチから折りたたんだコピー用紙を数枚引っ張り出して作業台に置く。


「なんだこれは?」


「俺が昨日一日使って引いた図面だ」


 ガル爺にも理解できるように、ラライエ第一共通語とラライエの単位で寸法を書いてある。

ガル爺が図面に目を通している間にリュックからミスリル板(小)を引っ張り出す。


「これは…… アルの槍か。小僧、よくここまで正確に槍の寸法が分かったな」


「まあね。こういうのは得意なんだ。数少ない俺の取り柄だと思ってくれていい。この図面通りに槍を加工してほしい」


 俺ではなくて脳内PCのおかげなんだけどな。


「あとこいつは何だ?」


 二枚目の紙を確認してそこに書いてある物を見て言う。

まぁ、見ただけでこれの用途はわからんよな。


「このミスリル板でこいつを四つ、あと…… この大きさのミスリルプレートを一つ作って欲しい」


「こんなものを一体何に使うんだ?」


「ガル爺…… これから話すことを他言しないと約束できるか?」


「なんだいきなり……。 それこそ話してみないと約束できる物かどうか判断できんだろう」


「できないならこの話は無しだ。俺の秘密を他人に話すのはそれなりに危ない橋を渡ることだからな」


「わしが約束を守れば、アルの事が何とかなるというのか?」


「完全には無理だな……。だけど今よりは大幅に状況を改善できるんじゃないかとは思っている」


 しばしの沈黙。


「……わかった。裂空剛拳のガルバノの名に懸けて他言しないと約束しよう」


 俺にとって勇者の名など、なんの信用の根拠にもならない無価値なものだ。

だけど、この老人の孫娘を案ずる心は本物だと思っている。

この言質を取ったことでガル爺という人間としては信用してもいいだろう。

俺は頷いて話を続けることにした。


「ガル爺もうすうす感付いているみたいだったけどな。俺には呪文で魔法を使う素養はない。その代わり自力で術式を構築することが出来る」


 ガル爺が一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻る。


「やはりそうか……。でないとお前に渡した棍が化けた説明がつかんからな」


「多分だが、これが出来るのはラライエで俺一人じゃないかと思う。そういう【固有特性】だと思ってくれていい」


「……じゃろうな」


「マジで頼むぞ。このことはパーティーメンバーのヴィノンにすら秘密にしてるんだ。もし、このことが大っぴらに知られたりすれば……」


「分かっとる。国家だけでなく、連盟ですら小僧の身柄を押さえにかかりかねん。おそらく幽閉に近い扱いで、一生神の遺物(アーティファクト)を作らされることになるじゃろうな」


「わかってくれたならいい。そうなったら俺は世界中を敵に回してでも抵抗する覚悟がある。一生、緑の泥の故郷にピリカと引きこもるからな」


 ガル爺は黙って頷いた。

まず、俺はガル爺とアルエットの魔法効果がとんがってしまうのはもはやどうにもならないこと、もはやこれは【固有特性】と化していることを説明した。


「ガル爺がミスリルからこいつを作ってくれたら、これにアルエットの魔法特性を軽減する術式を刻む」


「そんなことが出来るのか?」


「まぁね。あとこのプレートだけどな。アルエットの新しい鎧が出来上がったら、こいつを仕込めるように加工しておいてくれ」


「それもアルの魔法特性を押さえるための物か?」


「いや…… こいつは単純にアルエットの生存率を引き上げるためと、仲間と戦うときに戦法の幅を広げるためだ」


「……わかった」


「で…… だ。そのアルエットの新しい鎧なんだけどな」


 ガチャッ。


 工房の入り口の扉が開いてアルエットが入ってきた。

何処かに出かけていたみたいだ。

いやなタイミングで帰ってきたな。


「あっ! ハルト来てたんだ! どうしたの? そろそろ出発じゃないの?」


 アルエットが嬉しそうに駆け寄ってきて背後から俺の首に手をまわしてくっついてくる。

え…… あれ?

この小娘は何をしてるんだ?

なんか日を追うごとに馴れ馴れしくなってくる。

この馴れ馴れしさはもはやリコに匹敵するぞ。


「あぁ~~っ! ハルトに触るなぁっ! くっつくなぁ! そこはピリカの場所なんだからぁ! シャシャァッ!」


 予想通り速攻でピリカさんの【シャシャァ】が発動する。

当然、アルエットはピリカの威嚇など全く意に介していない。

【シャシャァ】に効果がないと見るや、俺からアルエットを引きはがすべく、掴みかかって引っ張り始める。

アルエットはそうはさせじと頑強に抵抗する。

ピリカもかなりの力で引っ張っているだろうに、離れる様子がない。

……というか、これは俺の首が締まるぞ。

ものすごい力だ。


「ううぅ~っ! なによ! 別にいいじゃない! ピリカはいつだってハルトと一緒なんでしょ?」


「シャシャァっ!」


「ちょっ…… ちょっとまって…… 首が締まる…… しぬ…… マジで……」



 ……。


    ……。



 数分後、ようやくアルエットが俺から離れた。

さっきまでアルエットがいた場所にはピリカががっつりしがみついている。

もはや今日は俺が寝る時までは離れないような気がする。

ピリカは俺の背中にくっついてアルエットを最大レベルで警戒しているみたいだ。


「あんまりピリカを挑発するような行動は自重してくれないか?」


「ハルトは人間、ピリカは精霊…… 種族が違うんだよ? ピリカがハルトの契約精霊なのはわかるけどそれって……」


 何となくアルエットの言いたいことはわかるけどな。

だがその前提がそもそも違うんだよな。

ピリカは純粋な俺に対する好意だけで俺といてくれているだけ。

契約精霊でも何でもない。

俺にとってピリカは……。


「そこはあまり関係ないな。俺にとってピリカはかけがえのない家族であり、俺の半身なんだ」


「そう! 関係ないんだよ! ハルトはピリカの全て…… ピリカの身も心もハルトのものなんだから!」


 ピリカさんは余計なことを言わないで欲しいな。

その言い方は誤解しか生まないような気がするから……。


「ま、まぁいいわよ。それで、今日は何しに来たの?」


「ガル爺に大事な話があってきた。アルエットは気にしなくていい」


「気にしなくていいから!」


 背中にくっついているピリカが野良ネコを追い払うようなしぐさで、シッシッとアルエットを(あお)って言外に出ていけと伝える。


「ふ、ふ~ん。ハルトはお爺ちゃんには話せて私には秘密にするような隠し事があるんだ。……そんなもの ……ないよね?」


「あのな、アル……」


「お爺ちゃんは黙ってて! 私はハルトと話をしてるの!」


「うぐっ……」


 アルエットに一喝されてガル爺は押し黙る。

おい!

何だこのジジイ…… 何で孫娘にすごまれただけでいいなりになってんだ!

仕方がない…… ガル爺がアルエットのためにどれほど心を砕いているのかを俺が説明してアルエットには席を外してもらうように頼むか。


「あのな、この話は元々ガル爺がアルエットのために……」


「小僧! 余計なことは言うんじゃない! 良いな!」


 突然、ガル爺が俺の話を遮ってくる。

なら、この状況をどうしろと……。

なんで俺が板挟みにならないといけないんだ?

仕方がない。

不本意だがアプローチを変えよう。


「あのさ…… 俺がガル爺にしている話は俺の秘密に大きく関わる。不用意に他人に知られると俺の命に関わる程のな……」


「えっ? なんでそんな話をお爺ちゃんに……」


「ガル爺が他言しないと約束してくれたからだ」


「じゃぁ ……私も他言しないと約束するわ」


 ……どうだかな。

78歳のガル爺と18歳のアルエットでは人生経験から来る言葉の重みが違う。

ちょっとカマを掛けてみるか。


「アルエットは俺達がやっている調査の事、ガシャル達に話したろ?」


「え? ええ、話したわ。ハルト達がギルドの依頼を受けるでもなく、頻繁に森に入っているから…… あれは何をしてるのか知らないか? って聞かれたから……」


 ほらな…… そういうところだ。

若いな…… 基本、まだまだおこちゃまなんだよ。

森でガシャル達に出会ったとき、あいつらは俺達に【こんな所で何してるんだ?】とか言ってくると思ったんだけどな。

なのに、連中の第一声は【なんだ…… お前らか…… 驚かすんじゃねえよ】だった。

だから、連中は俺達が森で何をやっているのかすでに知っているんじゃないかと思った。

案の定だったな。

確かに地脈の調査の事や、俺達の最終目的を内緒にしろとも言ってないし、秘密にしているわけではない。

だけど、調査を開始して二ヶ月ちょっと……。

この短期間ですでに俺達のやっていることはアルエットの口からエーレの村長一族の知るところになっているわけだ。


「それで、アルエットは他言しないと言う言葉を俺に信じろと? この秘密が表沙汰になれば俺はきっとこの中央大陸で生きていけなくなる。そんな話を一生、胸の内に秘めて生きていけるのか?」


「そ…… それは…… それでも知りたいの! ハルトがお爺ちゃんとどんな話をしているのか…… ううん、違う……」


 アルエットの表情から浮ついた感じの印象が消える。


「もっとハルトの事を知りたいっ! だってハルトは……」


 そう来たか。

さてさてどうしたものかな……。


「はぁ…… わかったよ」


「!! だったら……」


「ただし、もし俺の秘密がアルエットから漏れたと判断したら俺とピリカはお前を殺す。それでもいいか? 俺達の力はその目で見ただろう? 俺達が本気で殺しにかかったら、アルエットに逃れる術はないぞ」


「なっ! おい、小僧!」


 ガル爺が表情を強張らせて色めき立つ。


「ガル爺は悪いけど黙っていてくれ。俺はアルエットの意思を聞いているんだ。どうする? それでもお前はここで俺達の話を聞くのか?」


 これで引き下がってくれればそれが一番いいと思っている。

だが、もしこれでも食い下がってくるのなら……。


「いいわ。それでも、私も一緒に聞くからっ! どうせこのままだと私だって……」


 食い下がってきたか……。


「わかった。だったらここで一緒に続きを聞いてくれていい」


「アル!」


 ガル爺がアルエットを思いとどまらせようと声を掛けようとする。

しかしアルエットは即座に言葉を被せてガル爺の次の言葉を遮る。


「私の人生は私だけの物よ。この先どう生きるかは私が決めるわ!」


「……わかった。好きにするがいい」


 どうやら話がついたようだ。

それでも俺はアルエットに全ての秘密を話すつもりは無い。

アルエットからこれから話す秘密が漏洩しても、別にアルエットを恨むつもりもないし、殺すつもりもない。

秘密を守らせるための楔として働くように、俺が本気だと思わせられればそれでいい。

本格的にマズい自体なったら【ポータル】で緑の泥にある俺の家に引きこもるだけだ。


「わかった ……ならいい。アルエットもこのまま話の続きを聞いてくれ」

 ちょっと、長くなってしまいました。

日曜日にもう一話積みたいとは思っていますがどうだろ……。

頑張りますが無理だったらごめんなさい。


 ブックマーク・評価よろしくお願いいたします。

ここからが三章はどんどん見せ場に向かって突っ走る

……はず。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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