百八十三話 そういう意味じゃないんだけどな……
少し胃袋が落ち着いてきた頃合いを見計らって、村の外周を一周走ってから宿に戻った。
人口こそ少ないがエーレ村は広い。
身体強化に頼らず自分の体力だけで外周を一周走るのはそれなりに時間も掛かるし、十分なカロリー消費に足る運動量になる。
宿に戻ってきた時にはもう、太陽はほぼ沈んで夕食時の時間になっていた。
「おーい、ハルトきゅん! こっちだよ」
もうアルドとヴィノンは食堂のテーブルについている。
丁度いい。
ヴィノンからアルエット達が抱えている問題について聞いてみよう。
俺はピリカと共に二人が座っているテーブルの空いている席に座る。
「ずいぶんと遅かったな」
「ああ、ちょっと運動がてら村の中を走り回っていいた」
俺はごちそうになった昼食があまりにも多すぎた結果、カロリー消費のために外周を今まで走っていたことを二人に話した。
「実はアル、あれで料理の腕は相当だからね…… まさかハルトきゅんの胃袋から掴みにかかってくるとは…… 思ったより策士だね…… でもまだ僕の方が優勢のはず……」
このチャラ男は何をブツブツ言ってるんだ?
もはやこいつの思考は理解不能の領域を突っ走ってるな。
「むぅ…… ハルトはずっとピリカと一緒なんだからね! ピリカを置いてアルエットのところに行っちゃやだぁ!」
ピリカさんがまたガシィッっと全身でしがみ付いてくる。
「何言ってるんだ。俺はいつだってピリカ一筋だぞ。ピリカを置いてどこにも行ったりしない」
そう言ってやると、ピリカはパアァッと笑顔を咲かせる。
「ピリカも! ハルトしゅきぃ!」
ピリカさんはしがみついたまま頬をグリグリとこすりつけてくる。
可愛いなぁ、もう!
相変わらず触れられている感覚は全くないが、好感度MAXで無邪気に慕ってもらえて悪い気になる奴はいないだろう。
そんな俺達の様子をアルドは全く動じるそぶりも見せず、クールにお茶をすすりながら眺めている。
……。
……。
運ばれてきた夕食を食べながら、頃合いを見計らってヴィノンに本命の話題を切り出すことにする。
「さて、ヴィノン…… ちょっと教えて欲しいことがある」
「なんだい? 改まってさ。ハルトきゅんにならなんだって教えちゃうよ」
俺はガル爺とアルエットの魂が強力な永続魔法に縛られているとピリカが看破した事、永続魔法の影響で二人はある種【固有特性持ち】に近い状態になっている事、アルエットの偏り過ぎた魔法特性を何とかできないか相談されたことなどをかいつまんで話した。
「それで ……だ。二人の魂にかけられている永続魔法の正体を教えて欲しい。 ……ヴィノンは知ってるんだろ?」
ヴィノンは黙って俺の話を聞いていた。
いつの間にか、表情は普段のチャラ男スマイルから真剣なものにかわっている。
「ハルトきゅんは ……ガル爺、アルでもいいけどさ。二人にその魔法の正体を教えてくれるように頼んだのかい?」
「いや、聞いても教えてくれそうな雰囲気じゃなかったからな」
ヴィノンは少しの間黙っていたが、一呼吸入れて口を開く。
「だろうね。ハルトきゅん…… すまないけど、君の言う二人の魂にかかっている永続魔法の正体を僕の口から教えることは出来ないよ」
「さっきなんでも教えるって」
「ごめんね、いくらハルトきゅんの頼みでも…… 僕にだって通さないといけない義理はあるんだよ。これは僕の独断で教えていい事じゃないんだ。わかってほしいな」
少し意外だ。
結構あっさりと聞き出せるかもと、すこし期待していたんだけどな。
なら、無理に聞き出すわけにもいかないか。
隠し事は俺の方が多いわけだし……。
「わかった。ならこの話はこれで終わりだ」
「ごめんね。でも、この話はとても重いものになるかもしれないんだ。この中央大陸に生きる全人類に関わるかもしれないぐらいに……」
え?
何それ……。
確かにガル爺は知る人ぞ知る二つ名持ち勇者らしいけど……。
それにしてもそれは話がデカすぎないか?
そんなものに首を突っ込んでもろくなことにならない未来しか見えない。
「どうしても知りたいのなら、直接本人の口から聞き出してくれないかい? これが僕にできるギリギリの妥協点だよ」
二人の口から直接聞き出すことのどこにヴィノンの妥協が必要になるのかは分からないけどな。
こういうところが、こいつはまだまだ俺達に全てのカードを切っていないと感じさせる。
基本、良い奴だし信用も出来る。
だけど、何か心のどこかから完全にこいつを信頼するのは早計だとアラートが聞こえる気がする。
信用と信頼は似ているが別物だと俺は思っている。
「わかった。必要なら直接聞き出すことにする」
そう言って俺はこの話を切り上げた。
……。
……。
「さてと…… ピリカ、アルエットのあれはどうにかならないのか?」
部屋に戻ってすぐにピリカに相談してみる。
地球人である俺が魔力の概念を理解するにはまだ相当の時間を要する。
何せその存在自体を知覚できないのだからな。
地球で【幽霊の存在を科学的に立証しろ】と言われているのに等しい程の難題かもしれない。
魔石という間接的な形でようやく俺の肉眼に写る存在として観測できはしたものの、その実態についてはさっぱり分からん。
なので、この問題はピリカに可能な限り丸投げしてしまうのが解決への一番の近道のような気がする。
情けない限りではあるけどな……。
「むぅ……。ピリカとしては敵に塩を送るようなことはしたくないんだけどなぁ……。日本の言葉の【痛し痒し】ってのはまさにこのことだよ」
【敵に塩を送る】も日本の言葉だけどな……。
俺のせいでピリカの話し方はかなり日本人寄りの物になってしまっている。
「別にアルエットは敵じゃないだろ…… あ、昔人類と敵対していたピリカからすれば勇者の身内であるアルエットはある意味敵って事になるのか……」
精霊であるピリカが勇者の関係者に利する行為が精霊達にとって背信行為になるのだったら、悪い事を頼んでしまったのかもしれない。
「もぅ…… そういう意味じゃないんだけどな……」
そう言ってピリカは俺に寄りかかってぴったりとくっついてくる。
「ハルトのお願いじゃ、ピリカに断る選択肢はないよね。ピリカが断ったせいでハルトががっかりする顔するなんて、ピリカには耐えられないもん……」
「うぐっ…… なんかすまん……」
なんか、ピリカに悪いことをしてしまったような気になってしまった。
「別にいいよ。ピリカはハルトの頼みだったら何だってやっちゃうから」
ピリカふわりと浮かび上がってそのまま俺の膝の上に乗り、背中を俺に預ける体制で話を続ける。
「アルエットの魂は永続魔法の影響を強く受けすぎているせいで、限られた方向性の魔法をポテンシャルの最大出力でしか発動できないというハンデを抱えているんだよ。ここが最大の問題点だね」
「それがあのトンデモ突撃か……」
「そだね。槍を媒介した攻撃魔法の出力に肉体が引っ張られるから、槍を突き出した方向に突撃せざるを得ないんだよ……。現象としては地球の大口径拳銃【マグナム】だっけ? あれを素人がぶっ放したら反動でのけぞっちゃうのと同じだよ」
「つまりあの突撃は発動した魔法の反動というわけか」
「ピリカが見た感じではそう見えるね」
「なるほど…… 俺はミリオタじゃないから専門的なことは良く分からないけど、アルエットの使う魔法に拳銃の反動を抑止するパーツ【マズルブレーキ】のような役割を持った術式を被せてやれば……」
「ハルト正解! ピリカもいくつか対応策は思いつくけど、それが一番手っ取り早いと思う。あとは…… アルエットの壊れちゃった鎧だけど……」
……。
……。
アルエットの抱える問題についてどう対処すればいいのか……。
ピリカの意見をもとに紙に書き出していく。
「……これで、何とかなるんじゃないのかな。クソ勇者とアルエットが提案を聞き入れる事と、ハルトがあの二人に手の内の一つを見せるのなら ……だけどね」
「……だな。俺はもう肚を決めたぞ。明日プランをまとめて明後日もう一回ガル爺と話をしに行こう」
脳内PCにペンプロッタープリンタを起動させて、紙にプランに基づいた図面を書き出していく。
前回の投稿以来、ブックマーク二ついただきました!
どうもありがとうございます!
ヤバい…… ちょっとドキドキしてきました。
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今後ともよろしくお願いいたします。
そういえば、三月から第6回ラノベデスゲームが
始まりますがエライことになってますね。
私は本作の投稿だけで精一杯なので、不参加ですが……。
第4回デスゲームサバイバーとしては今回の行く末は
気になってます。
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