百八十二話 俺を何だと思ってるんだ?
下手したら満漢全席に迫りそうな昼食だった。
食えるだけ食ったがもう無理だ。
アルエットとガル爺もこれ以上、食べられそうにないように見える。
これならお残しも勘弁してもらえそうかな。
「ごちそうさま…… もう限界だ」
「あはは、そうだね…… ちょっと作り過ぎちゃったかな」
アルエットが緩く笑う。
ちょっと…… なのか?
本人がそう言ってるからちょっとということにしておこう。
さて、昼ご飯で摂取したカロリーをどうやって消費しようか……。
地球にいた頃の俺は30代後半には見事なメタボ体形に仕上がっていたからな。
同じ轍を踏まないように今の内から摂生しておかねば……。
引きこもりだって健康でなければ楽しくできないからな。
村をぐるっと一二周走ってから帰ろう。
アルエットが残った料理を片付けるのにキッチンへ向かった。
このタイミングでガル爺が声を掛けてきた。
「おい、小僧」
「??」
「次の調査はいつ出発する?」
「二、三日のうちには出るつもりだけど」
「そうか…… 調査から戻ったら一度ここに顔を出せ」
「別にかまわないけど何で?」
「貴様ならアルの魔法的制約をどうにかできるんじゃないのか?」
このジジイは何を言ってるんだ?
「できるわけないだろ。俺を何だと思ってるんだ?」
「小僧の精霊はわしら【セントールの系譜】が背負っているものに気付いているように見えたんだがな……。この制約は【セントールの系譜】である以上、避けられんものだ。わしはもちろんアルもそれは受け入れておる」
「あのさ、そんなことを言われても俺は神様じゃないんだ。できないものはできないぞ」
「神などいるはずがないし、神が人類を救うことがないのは赤ん坊でも知っとる。それは故郷の秘境集落の諺か? わかりにくい例えだな」
あれ?
なんか話が今一つかみ合わないな。
ラライエの人類はあまり信心深くないのか?
こういったファンタジー系異世界じゃ、神様とかってものすごく人々の生活や思想に深く根付いていそうなものだけど……。
「完全に克服できずとも、せめてわしと同じくらいにまで制約を緩和できれば、【セントールの系譜】の冒険者としてやっていけるかもしれん。考えるだけでも考えておいてくれ」
「はいはい…… 期待はしないでくれよ」
片づけを終えたアルエットが戻ってきた。
「二人で一体何を話していたのよ?」
「いや、別に大した話はしとらん。次の調査が終わったら一度、状況の報告に来いと言っただけだ」
いや、そんな話はしてないけど……。
ガル爺がアルエットの抱える問題を何とかしようとしているのは知られたくないみたいだ。
ま、適当に話を合わせておいてやるか。
「そうなんだ。だったら戻ってきたらまた来るんだね?」
「ああ、そうなるな」
「じゃあ、次もご飯作ってあげるから、朝ごはん食べ過ぎないようにして来てね。ふふふっ」
なんか機嫌よさそうだ。
「それじゃ、お昼ありがとうな」
そう別れを告げるとガル爺の工房を後にした。
工房を出た俺達はそのまままっすぐ宿に向かって歩いている。
村の外周を走って帰ろうと思ったけど、おなかが一杯過ぎてすぐに走ると内容物が逆流してきそうだ。
走るのは少し落ち着いてからにしよう。
ピリカは俺の手をつないで隣を歩いている。
なんだか上機嫌だ。
道すがら、ピリカにガル爺とアルエットが縛られているという永続魔法について聞いてみる。
「なぁピリカ、ガル爺達の魂を縛っている永続魔法が追躡竜のマーキングに似ているみたいな言い方をしていたよな」
「うん、そう言ったね」
「ということは、二人の魂が繋がっている魔法の相手が存在するということなのか?」
「さすがハルト! その通りだよ」
「その相手というのは一体、何なんだ?」
「それは分からないよ。二人の魂を引っ張り出して術式を調べればわかると思うけど、それをやったら……」
「二人共死ぬ ……か」
「だね。魂のなくなった肉体はただの血肉の塊に過ぎないからね。何が二人の魂を縛っているのかはアルエット本人から聞けばいいんじゃない? きっと知ってると思うよ」
だよな…… 俺もそう思う。
しかし、二人共それを俺に教える気は無さそうだ。
「なら質問を変えよう。追躡竜を倒したら、俺達の魂についていたマーキングは消えたよな? だったら永続魔法の大元を断てば、同じように二人の魂を縛っている制約も消えるんじゃないのか?」
「そうだね。魂に刻まれている永続魔法はそれで消えるよ。でも、そう簡単な話じゃないかも」
「ん? どういうことだ?」
「この世に生まれる前から、魂に刻まれる永続魔法だからね。生まれた時にはもう魂が歪な形で出来上がっちゃってるんだよ。だから、術式が消失しても二人が魔法を使うときの制約がなくなることは無いね」
「マジかぁ……」
そいつは困ったな。
「もう二人が魔法を使うと、とんがった効果しか出ないのはそういう【固有特性】なんだって割り切っちゃった方がいいよ」
「そうか…… なら、そのアプローチで問題解決は難しそうだな」
「あの術式はクソ勇者の血統そのものに何かを強いるとても重いものだよ。複雑で手が込んでいる…… 人間なんかに組めるような代物じゃないからね」
「そうなのか? じゃあ誰が……」
「多分、ピリカと同じ精霊だよ。大昔は精霊も人類と仲悪くなかったら……。大昔に精霊に刻んでもらった術式を流用したものじゃないかな。わかんないけど」
ガル爺に頼まれはしたものの、これはどうにもならないような気がしてきた。
アルエットの魂に刻まれた術式は無くなっても、もはや使う呪文は正常に発動することは無い。
出来上がってしまった魂の形がもはや元に戻らないから……。
「なら、二人にかかっている永続魔法を取り除く意味はもうないのか?」
「そんなこともないんじゃないかな」
「どういうことだ?」
「魂を縛っている永続魔法が無くなったら、最低でも次に生まれてくるアルエットの子供の魂は健全なものになるよ。それに、魔法が正しく使えないのはあくまでも永続魔法の副作用に過ぎないから……」
確かにその通りだ。
まったく無意味というものでもないのなら、一応気にはしておいた方がよさそうだ。
それよりもピリカが今、しれっと口走った内容の方が気になる。
「ピリカさん、魔法が正しく使えないのが副作用って事は…… 二人にかかっている魔法の本命の効果はなんなんだ?」
「分かんないね。あそこまで高度な多重術式だと、魂引っ張り出してばらしてみないと……」
「そっか…… だったらそれを知っている奴に聞くしかないか……」
本人たちはそれを教える気はない。
本人達以外に二人の魂を縛る魔法の正体を知っていそうな人間は……。
実は何人か心当たりがある。
俺はミノタウロスと遭遇したときにある人物が口にした言葉を脳内PCで確認する。
【前に言ったでしょ? 僕たちは何を犠牲にしてもアルを救わないといけないって…… ガシャルのやつ…… 村長の一族なんだから知らないなんてことは無いのに……】
村長の一族……
エーレの村長と息子のガシャルは確実に何か知っている。
ガシャルが二人の秘密を俺に教えてくてるだろうか?
うん、無いな。
俺がガシャルの立場なら絶対に教えない。
まず間違いなく、トップシークレット級の秘密のはずだ。
……と、なればもう一人……。
この言葉を口走った張本人…… ヴィノンだ。
なんであのチャラ男が二人の秘密を知っているのかは謎だけどな。
無駄に交友範囲の広いあの男の事。
なんか独自の情報網を持っている可能性も普通にあり得そうだ。
「二人の魔法の秘密はヴィノンから聞けるかもしれないな。戻ったらヴィノンに話を聞いてみよう」
「あのヘンな人間がハルトの役に立つとは思えないけど……」
ピリカはなぜかヴィノンとアルエットには妙な対抗心を持っているところがあるからな。
早速、ヴィノンに塩対応の片鱗を覗かせる。
意外なところからガル爺の頼みまれごとの突破口と【セントールの系譜】二人が内に抱えている秘密が分かりそうだ。
さて、どんな真相が飛び出してくるんだろうな。
ブックマークが1増えていました。
つけてくださった方ありがとうございます。
とても嬉しいです。
コロナの影響が大きくなってきてますね。
リアルの職場でもチラホラと感染者が出てきています。
濃厚接触者になってしなった人も含めて、このペースで
隔離対象者が増えたら残った人員で仕事を回すのも
きつくなってきそうです。
皆様の健康管理にはお気を付け下さいませ。
引き続きよろしくお願いいたします。
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