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百八十一話 くちゃい…… 鼻が曲がりそうだよ

『それで…… その魂にある術式のせいでガル爺達は使える呪文に制約があるということか?』


『だね。理屈全部飛ばしてわかりやすく言っちゃえば、ゴムホースの口を押さえて蛇口をひねってるのと同じだよ。限られた形でしか魔法が発動しない。しかも発動する魔法は強い力でしか効果を発揮しなくなる感じだね』


 ガル爺に聞かれてマズい内容だったときのことを考えて、念のため日本語でピリカに確認したわけだけど、そこまでの事は無かった。

ピリカが俺に理解しやすいように、例えに使ったゴムホースとか蛇口なんかの言葉は地球人にしかわからんだろうけど、多分聞かれても問題はないと思う。

蛇口が呪文・出口を指で押さえたゴムホースガル爺やアルエットの魂、そして水道水が魔法に置き換わった魔力(マナ)というわけだな。


「お待たせ! たくさんあるから遠慮しないでどんどん食べてよ」


 アルエットが奥のキッチンから次々と料理を運び入れてきた。

なんか、シイラに似た中々ボリューミーな焼き魚が出てきた。

これを三人でつついて食うのか?

物量的に無理じゃね?

出された料理の量は、間違いなく俺の胃の容量を上回っている。

他にも料理が次々と出てくる。

これをどうしろと……。

とりあえず、メインディッシュのシイラぽい魚を、俺が食べられそうな量だけナイフで切りだして取り皿に乗せる。

以前、村の中の地脈を調査していた時にアルエットの料理を食べた事があったが普通においしかった。

ラライエでは食堂で金を払って食べる料理ですら結構微妙なものは多い。

この異世界でおいしく食べられる料理を出せるということは、アルエットの料理スキルは高い水準にあると判断してもいいだろう。

まずはこの焼き魚を頂いてみようかな。

……普通にうまい。

風味は何というか、地球のサワラに似たあっさり風味だ。

余計な味付けはせずに塩だけで味を調えているのか?

料理は素人だから分からんけどな。


 ……。


  ……。


「あのさ、魔石を使って動かすタイプの魔道具ってどこかで手に入らないか?」


「ずいぶんと曖昧な話だな? どんな魔道具が必要だ?」


 今日、こんな話をするつもりは無かったのだが、昼ごはんに誘われて滞在時間が増えてしまった。

魔石の事を調べるためにいずれ必要になるアイテムだ。

この機会にここで教えてもらってもいいか…… と思ったので、ちょっと話題を振ってみた。


「言葉の通りだ。魔石で動作すればなんだっていい。できれば安全で長く使える物が望ましいな。ただし、発動したら最後、爆発したりして危険だったり、一回で無くなってしまう使い切りのものは論外だ」


「そんなもの、なんのために必要なの?」


「こいつを調べるためだ」


 ポケットからミノタウロスの魔石を取りだして見せる。


「魔石じゃな」


「ああ、これがどう魔道具に魔力(マナ)として作用するのか……。そのプロセスを自分の手で調べてみたい」


「わしにも難しい理屈はわからんが、そんなものは王都の図書館で調べれば専門の学問書もあると思うがな」


「俺には自分の体を流れる魔力(マナ)を感知する素養がない。だから、魔力(マナ)を知覚できる人間が書いた書物や論文は参考にしにくいと思っている。多分、自分の力で調べるのが一番な気がするんだ」


 ラライエの専門書も多少は参考になることもあるかもしれないけどな。

どちらにしろ、地脈の調査を中断して王都に行くような手間をかけてまでやるような事でもないと思っている。

あくまでも最優先は地脈の調査だ。

王都に調べる手段があるとしてもそれはこの先、王都に行く用事が出来た時のついでで構わない。


「少し待ってろ」


 ガル爺は席を立ち、工房に向かってしまった。

ガル爺の姿が見えなくなると、アルエットが興味津々に身を乗り出してくる。


「ね、ハルトが呪紋で魔法を使うのってもしかして……」


「もしかしなくてもそうだ。俺は呪文の詠唱で魔法が使えないからだ」


「そっか、ハルトも魔法の制約があって苦労してるんだ。私とおんなじだね」


 何でうれしそうなんだ?

別に俺はそこまで魔法で苦労しているとは思っていない。

なにせ、ピリカのおかげ魔力(マナ)の残量を気にしたことは無いし、呪文を詠唱するより術式の方が発動は圧倒的に速い。

手持ちの術式が無くなれば打ち止めになるリスクはあるが、そこは事前に十分な量を仕込んでおければ克服できる。

おそらく、他の魔法使いよりも大きなアドバンテージを持っているはずだ。

将来的な課題としては地球製並みに高品質の紙を安定的に入手できる当てが欲しいけどな。

それは今考えても仕方がないだろう。


「待たせたな。小僧の言う魔道具はこれで事足りるだろう」


ガル爺がなんか手のひらサイズのアイテムを持ってきた。


「これは?」


「ランタンだ。魔石で使える。その大きさの魔石なら、一生魔石の交換無しで動くかもしれん」


「まじかぁ……」


 魔石のエネルギー効率はそれ程か。

だが確かにランタンなら爆発もしないし安全だろう。

しかも長く使えるならおあつらえ向きだ。


「これはどうやって使うんだ?」


「ここが魔石を入れるふたになっとる。ここに魔石を放り込むだけだ」


ガル爺がランタンの下の方にある扉を開く。

中は空洞だな。

暗くて良く分からないけど、そこに何か術式が刻まれているのが見える。

多分、底板がなんかの魔法金属製とみた。


「あとはここを押せば、明かりがつく。もう一度押せば消える」


「ふむ…… シンプルでいいな。だけどこれじゃ、魔石が術式に作用している様子が見えない」


「ふたを閉めずに、明かりをつければいいだけだ」


「確かに……」


 それで動くのなら問題ない。

日本の多くの電気製品なんかはふたを開けっぱなしだと動作しないものが多いからな。

ついついそんな簡単なことが思いつかなかった。

早速、ランタンに魔石を押し込んでふたを閉めずにスイッチを入れてみる。

すぐにランタンに明かりがともる。

俺のLEDランタンとほぼ同等の光量だな。

十分実用に耐える物になっていそうだ。


「こいつを貰っていっても?」


「金貨三枚に負けておいてやる」


 まぁ、ただじゃないよな。

魔道具というだけあって、それなりに高価だな。

多分、他の道具や魔法で代用の利くこんなアイテムに金貨払う奴は中々いないんじゃないのか?

動力源の魔石だって高価なものと来れば尚更だ。

ポーチから金貨三枚を取りだしてガル爺に手渡した。


 開けっ放しにしているふたの場所から内部を覗き込んでみる。

内部の空間に魔石が転がっている。

なんか光が変な反射の仕方をしてる気がしないでもないけど、それ以外に変化は見られない。

ぶっちゃけ、何が起こっているのかさっぱりわからん。

これは腰を据えて調べてみないとダメっぽい。

結局最後の最後まで、このメカニズムは理解できずに徒労に終わる可能性も高そうだ。

それならそれで仕方がない。

焦らずじっくり行くとしよう。


「…………ふみゅぅ」


 ピリカさんが顔をしかめている。


「ん? ピリカ、どうしたんだ?」


「くちゃい…… 鼻が曲がりそうだよ」


 ピリカさんがまた、斜め上の何かをぶっ込んできた。


「!! あ、あたしじゃないわよ!」


 アルエットが顔を真っ赤にして速攻で全否定してくる。

年頃の女子の反応としてはまぁ…… 当然なのだろうな。

別にアルエットが原因とは誰も一言も言ってない。

それよりも、ピリカは精霊なので臭いに反応することは殆どない。

そのピリカが臭いでここまでのリアクションを見せる方が気になる。


「ピリカ…… 俺にはこの料理の匂い以外は感じないぞ。一体何がにおうんだ?」


「わしもだ」


 ガル爺に続いてアルエットもこくこくと力強く頷ている。

別にそんな全力で頷かなくても……。

誰もアルエットが臭いの原因だなんて思ってないって。

やはり悪臭を感じているのはピリカだけで間違いないみたいだな。


「これだよぅ」


 ピリカは魔石の力で光を放っているランタンを指さす。


「え? これか?」


「魔石から漏れる(けが)れが臭くてたまんないよ」


「おおぅ…… まじかぁ」


 臭く感じる気体には有害なものがそれなりにある。

硫化水素やアンモニアはその代表だが、空気中に漏出した(けが)れはどうなんだ?


「その(けが)れは精霊にとって有害なのか?」


「臭くてたまんないけど、これのせいでピリカの命が脅かされることは無いよ」


「そうか。だったら人間はどうなんだ? これを吸い込んでも平気なのか?」


 地味にガル爺とアルエットが固唾をのんでピリカの答えを待つ。

多分、大丈夫だとは思っている。

まだラライエに来て日が浅いので、知らないだけの可能性もあるが、魔道具が原因で重篤な健康被害が出るといった話は聞いたことがないからな。


「心配しなくてもハルトは全然平気だよ」


 あれ? 少し含みのある答えが返ってきた。

これってもしかして……。


『それは俺が地球人だからか?』


『そうだね』


 一応日本語で確認してみた。

やはり予想通りか。


「な、なによ。急に知らない言葉で話しちゃって…… 気になるじゃない」


「ああ、俺は(けが)れの影響を受けない体質だから平気だってさ」


「なんじゃと ……なら、わしらには有害なのか?」


「心配しなくても別に何ともないよ。全然平気…… 生きている間はね」


 やはり、そんな回答になるのか。


 以前にラライエの人類が詠唱魔法を使うことで魂に蓄積していく(けが)れの話が出た時にもそんな言い回しをしていた。

なので、今回もそんな答えが返ってくるような気はした。


 だが、まずは一安心だ。

とりあえず、今すぐどうこうなるようなことはなさそうだ。


「しかしこれは…… 精霊がここまで嫌がるとはな。ひょっとして、このランタンは精霊除けとして使えるかもしれんな」


「そうだね。ピリカだってハルトと一緒じゃなきゃこんな所にいつまでも居たくないもん」


 ピリカが(けが)れの匂いに顔をしかめながら、ガル爺の言葉を肯定する。


「やはりそうか」


「でも、魔物や魔獣は(けが)れの匂い大好きだからね。近くでこんな匂い垂れ流していたら次々集まってくると思うよ。それに(けが)れは生物が生きている間は無害だけどこの世界にとっては確実に有害だからね」


「マジかぁ…… だってさ、ガル爺。 ……精霊を遠ざけるかわりに魔獣を引きよせるリスクを取るか?」


「そうか…… 少なくともこの地域に精霊が現れることは無い。これを精霊除けに使うメリットは極めて低そうじゃな」


 これ以上、ランタンを光らせていても分かることは無さそうなので、ランタンを止める。

今回分かったのは、魔石で動作する魔道具を使うと周囲に(けが)れを垂れ流すみたいだ…… と、いうことだけだった。

 前回の投稿以来、ブクマが3、しかも評価入れてくださった方も……。

どうもありがとうございます。

ここしばらく、投稿後ドキドキしながら反響を見ています。


 よかったら、ブックマーク・評価お願いします。


引き続きよろしくお願いいたします。


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