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十八話 ニホンゴムズカシクテワカリマセーン!

 残念ながら、ここからの帰還手段はなさそうだ。

詰んだみたいだから、残された時間で覚悟を決めるか。


 せっかくだ。

残された時間でピリカに色々聞いてみるか。


 特に知りたいことは、第一に脳内PCの事。

後、それと同じくらい知りたいことがもう一つ。

俺がなんで子供の体で蘇生されたのか…… だな。

できるなら、【ラライエ】というピリカのいた異世界の事とかもぜひ知りたい。


「ところでさ、俺が死んでた時に俺の頭を潰していた筈のPCがどこにも見当たらないんだけど……。これがどうなったのか、ピリカは知らないか?」


 不可解な間ができる。


「えっと…… 【ぴーしー】ってなにかな? 日本語難しくてピリカよくわからないよ」


 えっと、何かな?


 その外人がよくやる【ニホンゴムズカシクテワカリマセーン!】みたいな逃げ口上。


 雰囲気がゆるふわ系少女のピリカだ。

挙動がおかしくなったら、判りやすいほど良くわかるぞ。

もうなんか、視線を俺から逸らすその動きからさ。

【ギギギギッ】て、錆びついた機械がきしむような音が聞こえてきそうだ。


 ピリカとは短い付き合いだが、確実にわかる。


 ……これは何かやらかしている。


「別に怒ったりしなしからさ。教えてくれないか?」


 甥っ子が幼稚園児ぐらいのころよく使ったお約束のセリフを使う。

ほんとに怒らないのかは内容によるのだが……。


「俺もさ、自分の身に起こっていることを知っておきたいし」


「ハルト、おこらない? ピリカの事、きらいにならない? またにげたりしない?」


 そんなに俺に嫌われるのが嫌なのか?

かわいいなぁ、もう!


「もちろんだ。怒らないし、嫌いにならないし、逃げたりしない」


「ほんとに?」


「ほんとだ」


 怒らないとは言ったものの……。

ここまで念押しされると、なんか嫌な予感が増してくる。

ピリカは最近愛用の国語辞典や百科事典を引っ張り出してきた。

忙しなくページをめくりながら言葉を選ぶ。


「あのね、日本語に合う言葉がなかなか見つからないの。うまく言えないかもだけど……」


 ピリカはこんな感じで、辞書や辞典を使って言葉や表現を調べながら話すことが多くなってきた。

時間はかかるが、一番誤解が少なく意思疎通ができる。


 逆に、ピリカの言語にはもちろん辞書など無い。

そのため、俺はピリカの話す言葉だけで学ばないといけない。

基本は脳内PCに音声データを集め、データベース化を進めている。

だが、思っている以上に捗っていない。

ちなみに、ピリカが話している言葉……。

ピリカ語ではなく【ラライエ第一共通語】というらしい。


 話が逸れてしまった。

ピリカは消えたPCがどうなったのかについて語り始めた。


「ハルトの体、脳とか大事な部分がすごく壊れてたから……。一度、……えっと、難しいな」


 ピリカはパラパラと百科事典の【イミデル】と国語辞典をめくる。

自分の認識に最も近い言葉を探す。

懸命に、質問の答えを伝えようとしてくれるのだ。

俺は、気長にピリカの次の言葉を待つ。


「これが一番近い言葉かな? ハルトの肉体を一度全部、分子レベルに分解してね。それから、肉体を生誕時の状態から再構成させて、元通りに戻すことにしたんだよ」


 今のピリカにとっても言葉や表現が難しかったらしい。

実際、難しい言葉使っているしな。

ここまで聞き出すのに三十分以上かかっている。


 とにかく、何かかなり高度なことを行った。

そこまでして俺の命をつなぎとめてくれた。

……ということは理解できた。


「この時はね。まだ【ピリカの世界】を創生していなかったから……。ハルトのおうちとか、色んなところでエーテル化が始まっちゃっていて……。そのうち、ハルトの頭をつぶしていた【ぴーしー】がエーテル化しちゃったの」


「よくわからないけど…… 【ピリカの世界】の外では、みんなエーテルになって溶けるってやつか……。【家の中で真っ先にPCが溶けた】ということでいいのか?」


「うん、そう」


 ピリカが俺の理解で間違っていないことを肯定する。


「このままじゃ、【ぴーしー】から連鎖的にハルトの体と魂もエーテルになっちゃうから……。急いでハルトの周りに結界を張って、体に魂を定着させたんだけど……」


「だけど? ……そこで何か想定外の事があったと?」


「うん。ハルトが死んじゃうと思って慌てたから……溶けた【ぴーしー】のエーテルがね。丸ごと一緒に結界に入ったことに気が付かなくって……」


 あっ! 分らんなりになんとなく、真相が見えてきた。


「それで、【ぴーしー】だったエーテルが混ざったままになってて……。一体化してハルトに取り込まれちゃったの」


「なるほどな……。俺の頭をつぶしていたPCだから、そのまま脳の中にってことか?」


「頭の中じゃないよ」


 ピリカはPCが脳内に存在するという、俺の仮説を否定してきた。


「脳にこんな異物が入って肉体再構成されたら、その瞬間ハルト死んじゃう。混ざっちゃったのは魂の方だよ。魂が【ぴーしー】を取り込んで一体化したの」


 なんだか訳がわからないな。

てっきり、脳内にあると思っていた俺のPC……。

魂という俺自身、存在を認識できないようなものの中にあるらしい。

さしずめ【魂魄PC】か……。

しかし、俺の感覚ではやはり頭の中にPCがあるような認識だ。

俺的には別にどちらでもいいかな。

面倒なので、今まで通り【脳内PC】と呼称しておこう。


「わからないが、わかったよ。それで……だ。これが重要なんだけど、魂がPCを取り込んでいるこの状態は、俺にとって何か重大な事態を引き起こしたりしないのか?」


「ハルトごめんね、ピリカにもわからないの。こんなの、初めてだもん」


 ここは全然平気! ノープロブレムと言ってほしかったが……。

気休めで嘘を言わず、正直に話してもらえるほうがいいだろう。


「そっか…… まぁ、俺を助けようとしてくれての結果だ。別に怒ったりしないよ」


 状況的にとても怒ったりできるようなものでないと判断した。


「無理矢理、PCに入り込まない限りは、特に痛いとか苦しいとか無いしな」


「ハルト、ありがとう! 好き」


 ピリカが俺にくっついてくる。


「ところで、こんな不純物が入り込んでいる魂でも、ピリカからすると綺麗なのか?」


「うん! とってもきれいだよ」


 わからんけど、きれいらしい。


「だって【ぴーしー】は生物じゃないからね。魂持ってないし、魔力(マナ)にも(けが)されてもいないし……。ハルトの魂のきれいさはこんなことじゃ変わらないよ」


「わかったよ」


 今のピリカの説明で納得するしかなさそうだ。


今のところ、PCが一体化したことのデメリットは限定的だ。

すぐにどうこうなるような、問題は無いだろう。


「あとさ、なんでキモオタおっさんの俺が子供になって復活してるんだ? これもPCが混ざったせいか?」


 このままの流れで、次の疑問をぶつけてみる。


「違うよ。ピリカは元の体に戻るように術式組んだよ。これはハルト自身と【どこでもない世界】のせい」


「俺自身のせいなのか?」


「うん、ハルトの魂が元の状態に戻ることを、強く拒絶したんだと思う。何か、この年頃に強い後悔とか、このころに戻りたいって思いがあったんじゃないかな?」


 ピリカは辞書で言葉を選びながら時間をかけて説明を続けている。


「生誕時から始めた肉体の再構成がね……。今のハルトの状態から、先に進むことを辞めちゃって、そのまま定着したんだよ」


「俺がこの体を望んだっていうのか?」


「そうだね。魂の深いところで無意識に望んだ事かもだけど……。ここは【どこでもない世界】だから、どんな世界の摂理にも縛られないの。だから、ハルトの強い思いが再構成術式を上書きして…… ハルトの魂の望みを反映させたんだと思うよ」


 この姿が俺の後悔、あるいはやり直したいという思いの結果か……。


 確かにそんな風に言われれば……。

心当たりは……あるな。


 子供の姿で蘇生してしまうほど思い詰めていた。

俺自身、今の今までそんな認識はなかったが……。


 本日の投稿は以上です。十九話の投下は明日、4月7日の21:30ぐらいを見込んでいます。


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