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百七十八話 オタク歴40年以上の俺は分かっている。

 歩くこと2時間弱…… 魔物に遭遇することなく街道に係留しているボル車の所まで戻ってきた。


「ね…… 見張りもなしで何日も放置して何でこのボル車は無事なの?」


「やっぱりアルもそう思うよね。僕も最初はハルトきゅんとアルドの正気を疑ったからね。ボル車が無事なのは精霊ちゃんが結界を展開しているからなんだよ」


 ヴィノンが諦め気味の乾いた笑いを浮かべながらアルエットにそう説明した。


「ピリカって本当に凄いのね。ミノタウロス三匹がかりでもまるで歯が立たないし、私の怪我もすぐ直しちゃったし…… それにこの結界……」


 ピリカさんがない胸を精一杯張って【どやぁ!】とアルエットに勝ち誇っている。

どうやらアルエットにはマウントを取っていたいみたいだな。

別に張り合わなくてもいいぞ。


「そんなピリカを契約精霊として従えているということは…… ハルトってもしかしてピリカ以上の……」


「んなわけないだろ! 何度も言ってる通り、俺自身はこのパーティー最弱だ。ピリカがいなければコボルト二匹相手でも一分で負ける自信があるぞ」


「ハルト…… あのね、実力を隠して自分を弱く見せるのも、行き過ぎると嫌味に見えるわよ」


 いやいや…… 俺はまごうことなき客観的事実を伝えているんだけどな。

これ以上反論しても平行線だろうから、アルエットの言葉に逆らわないように受け流して、荷物をボル車に積み込んでいく。

燃料や食料…… かなりの消耗物資を使ったのでボル車の中は広くなっている。

これなら全員が乗っても十分な広さを確保できる。

まぁ、俺は乗らないけどな……。

地球の乗用車の快適さを知っている俺には、こいつの乗り心地は到底受け入れられない。


「さて、それじゃエーレに戻ろうか」


 ボル車はエーレに向かってゆっくりと街道を南に進み始める。

ヴィノンが御者席に座り、アルドとアルエットはボル車の幌の中だ。

ピリカさんはボルロスの背に腰を下ろして機嫌よさげに鼻歌を歌っている。

もはやピリカの指定席として定着してきた感がある。

俺はといえばボル車と並んで街道を歩いている。

いい有酸素運動にもなるしな。


 ボルロスは馬と違ってのんびり歩く。

走らせても大した速度は出ない。

使役型の経済動物としてはまるでいいところ無しに見えるが、馬よりも安価。

従順でしつけもしやすい。

そして、馬よりも丈夫でスタミナもある。

魔物などに襲撃を受けても丸くなって、ある程度自分の身を守ることも出来るというメリットがある。

この速度なら無理にボル車に乗らず、横を歩いても置いて行かれる心配もないし、俺には馬車よりもボル車の方が性に合っている気がする。

何考えているのかよく分からないぬぽーっとしたボルロスの顔も、二週間以上も付き合っていると愛嬌があるような気がしてくる。


 幌の後ろに回ってボル車の中を覗き込むと、アルエットが横になって毛布をかぶって寝息を立てている。


「くうぅーーっ…… スゥ……」


「よく、こんなガタガタ揺れるボル車で熟睡できるよな……。 俺には無理だ」


「あんな目に遭ったばかりだからな。よっぽど疲れていたんだろう。寝かせておいてやれ」


 アルドがアルエットの熟睡っぷりにフォローを入れてくる。

こういった言葉にも面倒見の良さが伺える。

孤児院でも兄貴分だったアルドらしいと思う。

アルエットに毛布を被せたのもアルドだろうな……。


「ああ、わかってるよ。寒いから毛布をはだけさせないように見ておいてやってくれ」


 ……。


  ……。


 2月4日


 二日かけてボル車はエーレまで戻ってきた。

村の入り口を抜けて、そのままボル車でガル爺の工房の前までアルエットを送り届けてやる。


「お疲れさん。とりあえず、落ち着くまでゆっくりすればいいと思うぞ。また、様子を見に来るよ」


 ボル車を降りたアルエットが荷台から突撃槍を引っ張り出す。


「みんな、助けに来てくれてありがとう。それに調査を中断してエーレまで送ってくれて…… 私……」


「だから気にするな。ちょうど物資も心許なくなってきて、調査も切り上げ時だったんだ。アルエットを死なせずに済んだし、ミノタウロス討伐で儲けさせてもらった」


 こんな子に負い目を感じさせるようなこともしたくなかったので、敢えて打算的な損得計算でやった事だって印象になるように言葉を選んだ。


「またまたそんなこと言っちゃってぇ! ハルトきゅんは素直じゃないんだからさ!」


 おい! 何を言う気だ? このチャラ男は……。

せっかく俺がアルエットの負い目を軽くしようとしてるのに余計なことを言うんじゃないぞ。


「ハルトきゅんったら、ガシャル達からアルがピンチだって聞いた途端に【すぐにアルエットの救出に行く!】って言ってさ。ボロボロのガシャル達を放置して真っ先に走りだしたんだよ?」


「!!」


 アルエットが両手で口を覆って目を見開いて俺の方を見る。

この馬鹿野郎……。

なんかキモくてヤバいやつじゃないのか? って思われたかもしれないじゃないか……。

オタク歴40年以上の俺は分かっている。

年頃の女子に一度でもキモオタのレッテルをつけられると、これを払しょくするのは至難だということを……。

まぁ、そうなったら時間と労力が勿体ないから、払しょくするつもりもないけどな……。

ヴィノンはさらに畳みかけるように言葉を重ねる。


「先行させた精霊ちゃんが大ピンチのアルを見つけた時、ハルトきゅんが精霊ちゃんになんて命令したと思う?」


「……えっ…… ハルト…… な、なんて言ったの?」


 なんか、アルエットの目がうるうるしてるじゃないか……。

これ…… もうドン引きじゃないのか?


「【何としてもアルエットを助けろ! 絶対に死なせるなっ!】だよ。突然、そんなこと叫ぶからさ。僕も驚いちゃったよ」


「ハルト…… それ、ほんとなの?」


「し、知らん! 忘れたよ!」


 そう言ってはぐらかしておく。

ヴィノンのやつ……。

余計なことを言うんじゃないよ。

まったく何を考えてるんだって話だ。

アルエットにキモいやつ認定されたら、ガル爺との関係を保ちにくくなるだろうが……。

森の調査・武器のメンテナンス等……。

エーレでの活動を続ける以上、ガル爺とはイヤでも関わっていかないといけない。

孫娘のアルエットとの関係を悪化させる事態は避けたいというのに……。


「まぁ、あの時は非常時だったからな……。あまり気にしないでくれ」


「う……うん……」


 ほらぁ、なんかまたもじもじやりだしたじゃないか……。


「早く、ガル爺に無事な顔を見せてやりな。きっと心配してるだろうから」


「そんなこと…… だってお爺ちゃんは……」


 やっぱり、ガル爺とアルエットの間の距離感は微妙な気がする。

そんなことを言っているが、止めを刺されそうになった時にアルエットが発した言葉は……。


【死にたくない…… 助け…… て ……お爺ちゃんっ】


 心の奥底では、アルエットもたった一人の肉親である祖父を間違いなく信頼し愛していると思う。

俺も両親の事を【偏屈のクソおやじ】【KY過ぎるクソばばあ】なんて10万回ぐらい思った。

それでも両親が我が子である俺の事を思ってくれていることは理解していたし、俺も両親が幸せに長生きしてくれることを願わずにはいられなかった。

なんだかんだ言っても、家族ってそういうもんだ。


「いいから、今は帰ってガル爺に【ただいま】ってひとこと言ってやれ」


「う…ん、わかった。ハルトがそう言うなら……」


 なんかやけに素直に聞き入れてくれたな。


「それでいい。また近いうちに様子見に来るからさ」


「うん、じゃあまたね……」


 そう言ってアルエットは工房の扉を開けて入っていった。


「俺達も宿に戻って今日はゆっくり休んでもう。荷物の整理は明日からでもいいだろ」


「ああ、そうだな」


 ヴィノンがボルロスの頭をぺしっと叩く。

のっそりとボルロスが歩き始めてボル車は宿に向けて進み始めた。

 朝起きたら、ブックマークと評価が増えてました!

たった一晩で増えたのが嬉しくて、これはすぐに次を投稿せねばって

モチベーションが爆上がりしました!

 ……と、いうわけで今日も一話投稿します。


 もう無理ぃ……。

明日も朝早いのにちょっと無茶しすぎました。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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