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百七十三話 緑の泥に比べれば、どんな森だって安全だ

「まさか取りつく島もなく断られてしまうとはね……。理由を聞いても?」


 アルドは頷いて答える。


「勇者セラスとそのパーティーメンバーはここにいるハルトとピリカに返し切れない借りがある。だから、最低でもハルトの旅の目的が達せられるまではハルトの力になると決めている」


「なるほど…… ピリカというのは彼の契約精霊かい?」


「ああ、そうだ」


 この期に及んですっとぼける理由もないので、素直に肯定しておく。


「旅の目的を教えてもらっても良いかい?」


「そんなに大層なものじゃない。ピリカと二人で気楽に生きていける場所を探しているだけだ」


「……わかった。つまり、今は私たちのパーティーに加わってくれる気はないということね。 ……気が変わったらいつでも来てちょうだい」


 それだけ言うと勇者セルヴォディーナとその仲間たちは宿の食堂から出て行ってしまった。

思ったよりあっさりと引き下がったな。

もっと強引に来るかもしれないと思ったけど、そんなこともなかった。


「アルド、よかったのかい? 悪い話じゃない気がしたけど」


 ヴィノンがアルドに声を掛ける。


「ああ、問題ない。ミエント大陸を出る時から決めていることだからな」


「……ならいいけどさ」


 アルドが決めた事なら何も言うまい。

ここは素直にアルドの厚意に甘えさせてもらおう。

ラライエの文明圏に来てまだ4ヶ月ぐらいしか経っていない余所者の俺には日輪級のアルドの助けはとてもありがたい。


「アルド、俺の事はあまり気にしなくてもいいからな。でも、ありがとう。一緒にいてくれるのは助かるし嬉しい」


 アルドは黙って頷いてくれた。


「それで武器はどうだった?」


「ああ、ばっちりだ。念のため、明日一日慣らしで振ってみたい。調査の再開は明後日からでいいか?」


「僕はそれで大丈夫だよ。アルドもそれでいいよね?」


「わかった。明後日からだな」


 調査の再開を明後日からにすることを確認して、俺とピリカは部屋に戻ることにした。



 ……。


  ……。


 部屋に戻ってすぐに、新しい俺の棍を取りだす。


「さて…… ピリカちょっといいか?」


「ん? もちろんいいよ」


「こいつは芯とコーティングがミスリルなわけだが…… こいつに術式を刻むことは出来るか?」


 ピリカは四分割されている棍をひとつ手に取って確認する。


「大丈夫そうだよ」


「そうか。だったらこういう効果が欲しいんだけど……」


 ミスリルメッキが施されている状態なら、これに魔法的な効果を付与できるんじゃないかとこれを見た時から思っていた。

術式自体は時間を掛ければ俺にも構築できるかもしれない。

ただし、俺には魔法金属に術式を刻む手段はない。

時間も掛かるしピリカに頼れるところは頼ってしまう方がいい。

この棍に追加したい機能を説明する。


「いいよ。ハルトのお願いならお安い御用だよ」


 【はなまるの笑顔】でピリカは俺の頼みを引き受けてくれた。


「どのくらいの時間でいけそうだ?」


「術式を刻む場所が曲面で小さいからちょっと時間かかると思う。……明日のお昼を過ぎるくらいかな」


「充分だ。頼んじゃっていいか?」


 ピリカは笑顔で頷いて、俺の新しい棍に術式を刻み始める。



 1月23日


 調査再開に一日余裕を持たせていたおかげで、ピリカの術式構築も間に合った。

今、宿屋の前にボル車が一台止まっている。

少し前に、ヴィノンが牧場から回してきてくれたやつだ。

アルドがせっせと荷台に物資を積み込み始めている。

俺も出来る範囲で積み込みを手伝う。

ピリカさんはボルロスの背中? 甲羅? の上に座って俺達の様子を眺めている。

ボルロスは背中に精霊が乗っているのに全く意に介さず、眠っているように見える。

動物にとって精霊は恐れるような存在ではないのだろう。

精霊を恐れるのは魔物と先入観に凝り固まったラライエの人類だけ……。

結局のところそういうことなんだろうな。


 荷物を積み終えていよいよ出発だ。

御者席にはヴィノンが座っている。

アルドもボル車の運転はできるそうなので、ヴィノンと交代で御者をやるみたいだ。

機会を見て俺もボル車の操り方を教わるようにしよう。


「準備完了だね。それじゃ出発しようか」


 なんか細長いしなる棒でペシペシとボルロスの頭を叩く。

頭を叩かれたボルロスがのっそりと起き上がって歩き始める。

なんでも背中の甲羅みたいなところは硬く分厚いので殆ど感覚が無いらしい。

なので、ボルロスへの指示はあのしなる棒で出すのだそうだ。

ガラガラと幌付きの荷台を引いてボルロスが村の中を進む。


 ……。


  ……。


 時間は昼を過ぎた。

ボル車はすでに村を出て森を突き抜けている街道を北上している。

俺はボル車を降りてボルロスの隣を歩いている。

何故自分の足で歩いているかというと……。

このボル車、乗り心地が最悪だからだ。

アルドとヴィノンは今でも普通にボル車に乗っているが、俺は無理。

普通に無理だ。

ピリカさんはボルロスの背に腰かけているけど、よく落ちないな。

分かってはいたが、地球…… 特に日本製自動車の乗り心地と同じ居住性をこのデカいアルマジロが曳く乗り物に求めてはいけない。

ボルロスそのものの歩く速度は、超遅いので別に隣を歩いても置いて行かれる心配はない。

俺はボル車に荷物の運搬と雨風をしのぐ以外の機能を求めてはいけないことをこの身をもって学習した。


 ……。


  ……。


 脳内PCのMAPを見た感じこの辺りかな。

前回調査を切り上げた場所に一番近い場所だ。


「この辺にボル車を繋ごう」


 俺が声を掛けるとヴィノンは街道の隅っこにボル車を寄せて停止させる。

幌からアルドが降りて来て、引き棒をボルロスからから外して、ロープでボルロスを木に繋いでやる。

ボル車では道のない森の中に入れないので、しばらくボル車はここに置いて行く。

もちろん数日分のボルロスの飼料と水の用意も忘れていない。


「ピリカ、結界を」


「はーい」


 ピリカがボル車とボルロスを結界で覆う。

これで、ボル車の安全は確保されただろう。


「ハルトきゅん、これ、本当に大丈夫なのかい? 確かにペポゥには見つからなかったけどさ……」


「俺は大丈夫だと思っている。多分誰にも見つからないし、見つかったとしても手出しできない」


「アルド、その辺どうなんだい?」


「これでボル車がやられるなら諦めるしかないだろう」


 アルドが率直な見解を伝える。


「わかったよ。ならボル車の心配をするのはやめにするよ」


 俺達はボル車から自分たちが持てる分の荷物だけをとりだして、森の中へ分け入っていく。

前回調査を中断した場所はここから、東へ一時間ほど進んだところのはずだ。



 ……。


  ……。


 予定通り前回調査を終えた場所に到着した。

初日はまだ一度も魔物に遭遇していない。


「ピリカ、続きを頼む」


 ピリカはにこやかに頷いて(けが)れが含まれた地脈を遡って北へ歩き始める。


「ハルトきゅん、初めての森なのに全然自分の場所を見失わないよね? なんか僕の道案内って必要なくないかい?」


「そんなことは無い。一度行った場所は忘れない自信がるけどな。それだって限度はあるし、行ったことのない場所は全く分からない。土地勘のある仲間は絶対にいた方がいい」


 実の所、俺自身は筋金入りの方向音痴だ。

だが脳内PCの改造アプリ【グルグルラライエ】がMAP内の現在位置をリアルタイムでモニターしてくれているからな。

基本、MAPのサポートがある場所では迷う要素がない。

ヴィノンが未踏破エリアの探索をサポートしてくれているから、MAP作成は緑の泥の探索に比べたらはるかに捗っている。


「そうかい? 君の役に立てているのならいいんだ。これからも頼ってくれてもいいからね」


 ヴィノンはそう言って、ピリカの少し前を先行して前方の警戒を買って出てくれる。



 ……。


  ……。


 日が落ちて来て、そろそろ周囲も結構暗くなってきた。

空気も一気に冷え込んできたので、今日はこの辺がやめ時かな。

結局、初日は魔物に遭遇することは無かった。

おかげで調査自体は順調に進んだといえる。


「今日はここで切り上げよう」


「わかった、あそこが少し広くなっていそうだ」


俺が声を掛けると、アルドはすぐに野営場所に当たりをつけてくれる。


「それじゃ、そこに野営準備を頼む。ピリカ、今日はここまでにしよう」


 ピリカはぴゅーんと俺の隣まで滑空してくる。


「ヴィノンは?」


「もうちょっと先だね」


 相変わらず、ヴィノンには一切興味なさげな様子だ。


「わかった。アルド、ヴィノンを呼び戻してくる」


 俺はピリカを連れて先行しているヴィノンに調査終了を知らせに行く。



 ……。


  ……。


 ピリカが展開した結界の中で火を囲んで、最初の夕食となった。


「さすがにこの時間になると一気に冷え込んでくるよね。ハルトきゅん、スープのおかわりは?」


 頷いて、空になったカップを手渡す。

ヴィノンは火にかけられた鍋に入ったスープを空になったカップに注いでくれる。


「ありがとう。今日は魔物に遭遇することもなく、順調だったな」


「この辺はまだ街道に近いし、頻繁に魔物の間引きもされいてるから…… しばらくは大丈夫じゃないかな」


「緑の泥に比べれば、どんな森だって安全だ。この寒さだけは勘弁してほしいが……」


 そう言って、アルドは早々に寝袋にくるまってしまう。


「ちょっ、アルド……。いくら何でも無防備過ぎるんじゃない?」


「俺はピリカの結界を信頼しているからな。緑の泥で安全に夜を過ごせるこの結界が破られるなら、どうやっても助からないさ」


 さすがアルド…… わかってるじゃないか。


「ヴィノンもさっさと寝たらどうだ? 見張りと火の番はピリカがやってくれる。ピリカ、よろしく頼む」


 ピリカはにこやかに頷いてくれる。

俺もアルドと並んで寝袋にくるまって横になる。

 新年あけましておめでとうございます。

年が明けるまでにせめて一話だけでも投稿を……。

とは思っていましたが、無理でした。


 仕事納めの後、コロナのおかげで二年会えていなかった

ダチに会いに行って……。

家に戻ったのが31日のAM4:30でした。


 4日からまた社畜の生活かぁ……。

せめてあと1話、できれば2話投下したいところです。

今年もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルドの目的が気になっていたので、知れて良かったです。一緒に逃亡してからなんとなく付いてきてるだけと思っていましたから。 いちいち考えずに割り切ってる所なんかいいですねー。
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