百七十二話 本命は俺じゃなくてアルド?
「すごいな。こんなに比重の小さい金属は初めて見た」
素直な感想を伝えておいた。
「何といってもこいつの最大の売りがその軽さだからな。その代わり錬成は馬鹿みたいに手間がかかるくせに、魔力の親和性は魔法金属の中では最低水準だ」
『そうなのか?』
ピリカに日本語で確認してみる。
『間違ってはいないね。リガウクムでも刻んだ術式は消失しないけど、ミスリルみたいな強気の術式は魔力が巡らなくて発動しないよ』
『なるほど…… 魔法金属の質はそんなところで差が出るわけか』
「何よ。ハルトってたまにピリカとヘンな言葉で話すわね」
「気にしないでくれ。他愛のない話だ。それよりも俺の武器だけど……。ミスリルは合金に?」
「いや、棍の本体はチタン合金だ。ミスリルは魔力を通すために芯の一部、あとは表面のコーティングに使ってある」
「ということは…… 金メッキならぬ、ミスリルメッキって感じか。だったら打ち合ってうるちに剥げてくるんじゃないのか?」
「そこは仕方がない。だがミスリルコーティングの強度はかなりのものだ。一介の冒険者が使う分には数年は持つ」
「そうか…… まぁ、武器も消耗品だからな……。割り切るしかないか」
「長持ちさせるためにもたまには手入れに持ってこい。正しく手入れすれば一生モノとして使える」
まぁ、正しくメンテナンスをするのは道具を長く使う上での基本だよな。
自動車なんかだってしっかり手入れすれば、何十年でも走ってくれたりするものだ。
「ありがとう。それじゃ帰るよ」
「ハルト、次はいつ出発するの?」
「明日か明後日か…… そのぐらいだな。アルエットの助言通りボル車を手配したからな。おかげで三週間はいけるぞ」
実際の所、ボル車や馬車なんかを使うことは考えていたんだけどな。
他に名案も浮かばなかったし、アルエットのおかげで踏ん切りがついたのは確かだ。
なので、アルエットおかげっぽく言っておいた。
「べ…… 別にそんなの誰にだって思いつくことじゃない。余計なこと言うんじゃなかったわ」
「何が? 全然余計な事じゃないぞ」
「そんなに長い間出かけたら私、ほとんど一緒に行けないじゃない!」
そうだろうな。
もとよりそれがボル車を使うことに決めた理由の一つだからな。
ガシャル達とギルドの仕事に出るとなれば、三週間も出ずっぱりというわけにはいかないだろう。
これで強引について来ようとするアルエット起因のリスクが大幅に低減できる。
「そいつは残念だったな。それじゃ、俺は明日の準備があるから」
そう言っておれはガル爺の工房を出る。
「ちょっとハルト! 原因が見つかったら絶対に知らせに来なさいよ! 勝手に手出ししたら承知しないから!」
後ろでアルエットが何か言ってるが構っていられない。
ピリカを連れて宿に戻ることにする。
……。
……。
宿に戻ると食堂のテーブルに見慣れない連中が座っていた。
見るからに冒険者のパーティーだな。
男三人に女が二人…… 全部で五人か……。
エーレに来たばかりの冒険者か?
元々エーレを拠点にしている遠征帰りのパーティーかもしれない。
新参者の俺には分からないな……。
そういえば、ラライエの冒険者のパーティー人数ってこのぐらいでまとまってくる。
20人パーティーとかって見た事がない。
やっぱり軍隊レベルの集団戦闘でもない限りは、小回りや連携なんかを考えるとこの辺りで落ち着いてくるんだろうな。
視界に入った連中を見てそんなことを考えていると……。
「おい、あの子供が連れている精霊……」
「服を着ているわね。あの子がそうじゃないの?」
「だな」
連中の会話が聞こえてきたが、連中の目的は俺なのか?
まぁ、ピリカはこれ以上ない程にわかりやすい目印になるからな。
これは【人違いです】なんて取ってつけたような言葉では誤魔化せそうにない。
予想通り、パーティーの中から物腰の柔らかそうなお姉さんがこっちにやってきた。
「ね、君ってケルトナ王国から来たっていう日輪級冒険者の仲間の子よね?」
ん? これは…… 本命は俺じゃなくてアルド?
見た目、俺のような子供相手に奥のリーダーっぽい厳ついあんちゃんじゃなくて、一番人当たりのよさそうなお姉さんに声を掛けさせるか。
これで俺の警戒心のハードルが下がれば儲けものって考えるあたり…… この連中、少しは対人交渉ってものを考えているのかもしれない。
「ああ、そうだ。で、あんた達は?」
「勇者セルヴォディーナとそのパーティーメンバーって言えばわかってもらえるかな?」
なるほど…… アルドのスカウトか。
ラソルトのギルマスもそのうち声がかかるんじゃないっかって言ってた気がする。
もう少し先かと思ったけど、思いのほか早かったな。
「なら、声を掛けるのは俺じゃなくてアルドだろ?」
「それが、出かけていていないみたいなのよ」
「なら、ここで待ってればそのうち戻ってくるんじゃないかな」
連中をこの場に残して部屋に戻ろうとしたが、そうはさせじとするお姉さんに引き止められてしまった。
「あ、ちょっと待ってくれないかな? よかったら君からもお話を聞きたいわ」
離脱失敗。
しかし回り込まれてしまったってやつだ。
仕方がない。
少しだけ話に付き合ってやるか。
「君たちがペポゥを討伐したって聞いたのだけど、本当なの?」
「【俺達】 ……という括りので言うなら本当だ」
「できればその話、もっと詳しく教えてもらっていいかしら?」
当然そうなるか。
中央大陸じゃ長きにわたって甚大な被害を出していたらしい魔獣討伐の話ともなればな。
「ハルトきゅん、お客さんかい?」
アルドとヴィノンが戻ってきたみたいだ。
二人共、手に箱を抱えていたから追加の買い出しにでも出ていたんだろう。
「ああ、アルドにお客さんだ」
「俺にか? 心当たりは無いぞ」
そりゃそうだろう。
アポなしの飛び込みスカウトみたいだからな。
「あんたがアルドかい? あたしは序列198番の勇者、セルヴォディーナ。あんたをパーティーメンバー勧誘に来た」
奥に座っていた少し気の強そうなもう一人のお姉さんがそう名乗った。
おっと…… こっちがリーダーだったか。
勇者はてっきり厳つそうなあんちゃんの方かと思ったんだけどな。
俺の人を見る目のなさが見事に露見した。
「序列200越えの勇者が俺を?」
「ああ、あんたの勇者はミエント大陸で残念なことになったって聞いたよ。勇者抜きでペポゥ討伐を成せるほどの日輪級…… 放っておく手はないよ。どうだい? あたしのパーティーに来ない?」
序列が200以上セラスより上位の勇者だ。
セラスがこの話を受けるのであれば、引き止めるつもりは無い。
隣のヴィノンはなんか悪そうな薄笑いを浮かべている。
『あのヘンな人間…… アルドがいなくなったらハルトを独り占めできるとか思ってるんだよ』
マジかぁ……。
『ハルトはピリカのハルトだから…… ヘンな人間の思い通りになんてならないのに…… バカだよね?』
まぁ、ヴィノンは冒険者としては優秀だし、頭もそれなりに切れるように見える。
そして決して悪いやつでもない。
しかし、一周回ってある種のバカなのも間違いないと思う。
さらに俺に対しての執着っぷりが、なんか振り切れているのはさすがに理解している。
それがピリカとヴィノンの距離が今一つ縮まらない原因であり、俺がヴィノンを完全に信用するのが危険かもしれないと感じる点なのだが……。
「ペポゥに通用する冒険者が序列400以下の勇者のメンバーなんて勿体なさすぎる。あたし達の所ならあんたの実力はもっと発揮できると思うんだけどな?」
「せっかくの誘いはとてもありがたいが、断らせてもらっていいだろうか?」
アルドは一切の迷いを見せることなく即答した。
マジで年末の社畜モードがアレで、めっきり更新できなくてすいません。
こんな状況にも関わらずブクマつけてくださった方、ありがとうございます。
土日は県外に出かけなくてはならず、更新は困難な状況です。
何とか来週中に一話……。
あとは年末年始のお休み中に可能な限り投稿したいと思いますので、
引き続きよろしくお願いいたします。




