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百七十一話 そのセリフは説得力がないわよ

 1月17日


 アルエットを連れて行った森の調査から二日後。

今日はボル車を見に行くことになっている。

ヴィノンの話ではエーレを西に出てすぐのところにボルロスや馬などを飼育している牧場があるらしい。

エーレは人口の少ない村だが、王都やラソルト・トランといった主要都市を繋ぐ街道が交差する重要な中継拠点になりうる場所だ。

こういった施設は当然あると思っていた。

ペポゥ討伐を知らせる早馬も、エーレから各地に走らせたとラソルトのギルマスが言っていたような気がする。

ボル車なんかも有償で借り受けることが出来るだろう。


 ……。


  ……。


 なんかこういう景色は30年ぐらい前、北海道に長期出張していた時によく見かけた。

ボル車の手配は全てアルドとヴィノンに任せているので、俺はまったりと牧場の景色を眺めているだけだ。

同じ柵の中で馬とボルロスが放されて牧草をはむはむと食べている。


「ボルロスは馬と一緒くたに飼育しても平気なのか」


「知らないけど大丈夫なんじゃないの? どっちも草食獣みたいだし……」


 俺の隣に並んで腰かけていたピリカが興味なさげに答える。


 俺に酪農の知識は皆無だ。

見た感じ平気そうだからおそらく大丈夫なのだろう。

そんなことを話しているとアルド達が戻ってきた。


「おかえり、どうだった?」


「問題ないよ。ここの親父さんも顔なじみだし……」


 ヴィノンが地球のOKサインと同じ合図を返してきた。

ラライエには地球と同じ用途のジェスチャーがいくつかある。

ヴィノンがやっているOKサインの他にピースサインなんかも地球と同じだ。

地味に興味深い。

感性というか、着想というか…… 地球人と近い部分があったりするのだろうか。


「一頭立てのボル車だが、ハルトの希望通り幌付きのものを貸してもらえることになった」


「リーダーのアルドが日輪級だからね。このぐらいの希望は受け入れてもらえるよ」


 日輪級のギルド証は勇者パーティーにいた事があるという証明だ。

やはり、社会的信用は大きい。

日本で言えば公務員や銀行員以上の社会的信用がある。

おかげですんなりと幌付きのボル車が調達できた。

これで雨が降っても、野営はボル車に戻れば何とかしのげる。


 見た感じ車体の大きさは充分だ。

見せてもらったボル車のデータを脳内PCに取り込んでおく。

これで車体の重量や体積などから、積載量のあたりをつけることが出来る。

うん、良いんじゃないか。

これなら一度出発すれば一週間どころか三週間はいけるだろう。

出発の準備だけでもそれなりの日数がかかるだろうから、今日の所はボルを借り受ける約束を取り付けるだけにしておく。

これで足と補給の心配はひとまず解決の道筋がついた。



 ……。


  ……。



 1月21日



 ボル車の手配が出来てから4日……。

次の調査の準備は粗方終わっている。

それでもあえて出発しなかったのは、今日、ガル爺が作ってくれている俺の新しい武器が出来るからだ。


 ……。


    ……。



 ピリカと二人で二週間ぶりにガル爺の工房を訪れる。

いや、ラライエの一週間は六日だから二週間以上経過していることになるな。

工房に入るとガル爺がカウンターで一人、暇そうにしていた。


「来たか小僧。お前の棍、出来上がってるぞ」


 ガル爺はカウンターの下にしまってある棍を取りだした。

端に連結用のスリットがついているだけの、なんの装飾もない銀色の金属棒が4本。

パッと見だと溶融亜鉛メッキを施しただけの鉄パイプに見えなくもない。

脳内PCが一本当たり45cmと算出している。

持ってみた感じ、前のG管と大差ない感じだ。

前使っていたG管は連結のためにタップを切って加工していた。

なので、連結の時にはくるくると締めこむ必要があった。

一方、こいつはスリットに合わせて押し込んで捻るだけでカチッと音がして連結完了する。

これはいいな。

短時間で組み立てが完了するし、強度も申し分無さそうだ。

容易く折れたり曲がったりしなさそうだ。

重量感も前のものと変わらない。


「ありがとう。手に馴染むし連結も簡単だ」


「当然だ。お前のような小僧が持つには過ぎた逸品だからな」


 俺はガル爺の言い値通りの代金を支払った。

金貨12枚……。

この金額、追躡竜(ついじょうりゅう)討伐でもらった俺の取り分ほぼ全額だ。

これが高いのか良心的なのか分からんけど……。

確かミスリルの加工には特別な炉が必要だってピリカが言っていたから、おそらく妥当な値段なんだろう。

ペポゥの討伐報酬が破格だったので、これを支払っても金銭的にはまだまだ余裕がある。


 ……とはいえ、なんだかんだで出費は(かさ)んでいくな。

これは調査のついでにできそうな依頼を受けておくとか、遭遇した魔物の素材を換金するなど、ちょっと収入を得る道筋をつけておいた方がいいかもしれない。

ペポゥ討伐報酬の額を聞いた時は、15年ぐらい無収入でも大丈夫かも…… なんて思っていたが、このペースの出費が続くと3年もたないんじゃないか?


「あら、ハルトとピリカじゃない。今日はどうしたの?」


 奥からアルエットが出てきた。


「ガル爺があつらえてくれていた武器を引き取りに来た」


「そうなんだ。これがハルトの武器なのね?」


「そうだ。こいつとサイを状況で使い分けている」


「ふぅん……。 ね、ちょっと私と手合わせしてみない?」


 アルエットが少し嬉しそうになんかぶっこんできた。


「この話の流れでどうしてそうなるんだ? 絶対にお断りだ! 俺はパーティー最弱だって言ってるだろうが!」


「目隠しした上に素手でガシャルを圧倒しておいて、そのセリフは説得力がないわよ」


「なんだと? アル、その話 ……本当なのか?」


 えっと、何でガル爺がそこに反応するんだ?


「うん、この目で見たからね。ガシャル相手にハンデだって言って、素手に目隠しだよ。それで木剣持ったガシャルを赤子扱い。なんの冗談かと思ったわ」


「あのなぁ、なんか勘違いしてないか? あれはすでに完璧に作戦が出来上がっていたから出来ただけだ。戦う前からガシャルは俺の掌で勝手に踊って自滅しただけ…… あれは模擬戦じゃなくてただの作業にすぎない。俺なんかがまともにガシャルとやりあったら普通に死ぬぞ」


「何言ってんのよ。そんなことで私の目は誤魔化されないわ。一分の無駄もない動き、見えていないはずなのにあの反応速度…… アレが素人の動きなわけないでしょ」


 まぁこれでも古流拳法の有段者だし、ズブの素人というわけじゃないけどな。

あの時、体を動かしていたのは格ゲードライバだから最適で無駄のない動きなのは当然だ。

それにドローンのカメラを通じて実はガシャルの動きは筒抜けだった。


「ほう…… それ程か……」


 ガル爺…… まさかあんたまで手合わせしろとか言ってこないよな?


「今すぐにあの時と同じ動きをしろって言われても、もう無理だからな。あれには種も仕掛けもあるってことだ」


「……ほんとにぃ?」


 アルエットとガル爺が疑いの眼差しでこちらを見る。

格ゲードライバをリミッター解除して起動したらすぐにでも再現はできるが、その代償が大きすぎる。

やれば全身が激痛に襲われる。

何より自分の体を壊すようなまね…… 軽々にできる物じゃない。

それには覚悟も勇気も必要だ。


「そういうわけで手合わせは無理だ。大体、俺みたいな凡人があんな超重量の突撃槍で薙ぎ払われたら内臓が破裂して、さらに背骨が折れて命に関わる」


 そう言って俺は工房の壁際に立てかけてあったアルエットの突撃槍を指さした。


「失礼ね! ひょっとして私の事、オーガみたいな馬鹿力だと思ってるわけ? これ、ハルトが思ってるほど重くないわよ」


 アルエットは突撃槍をひょいと持ち上げて俺に手渡してきた。


「なっ…… おい!」


 咄嗟に両手で受け取った突撃槍が重すぎて、自分の足の上に落としてしまうことを覚悟した。


 あれ?


 俺の両手は突撃槍を落とすことなく握り続けている。

さすがに羽のような軽さ ……なんてことはないが、驚きの軽さだ。

脳内PCは突撃槍の重量を約7kgと算出している。

ヘタしたら100kgを越える重量になると想定していたからな。

これでも少女が持つ装備としては決して軽くはない。

だけど鍛錬を積んだ冒険者なら自在に振り回せる重量ではあるだろう。

強化魔法を併用すればなおのこと扱うのは容易になるはずだ。


 しかし、この大きさで7kgって ……何なんだ?

地球で軽量級の金属と言えばアルミニウムやマグネシウムだけど、それどころじゃない。

これはリチウム以上の軽さじゃないのか?


「どう? すごいでしょ?」


「ああ、これは驚いたよ。この槍って一体……」


「当然だ。この槍は世界最軽量の魔法金属、リガウクムで錬成してあるからな」


 ガル爺がどや顔で自慢してきた。

 年末の追い込みがきつすぎて、投稿ペースが大幅に鈍化しています。

さりとて、給料を払い収入をもたらしてくれる会社に不義理はできないわけで……。

社畜のつらい所です。

 前回の投稿から1ブックマークが増えて1減りました……。


 ブックマーク付けてくださった方ありがとうございます!

剥がれてしまったブックマークを取り戻せるように頑張って投稿続けます!

どうやら、ここが正念場かも……。


 あと誤字報告くださった方、ありがとうございます!

ひとりだけの確認だと、びっくりするような誤字に気付けないことって

往々にしてあるんで助かります。

(これは仕事でもあるあるですが……)


 引き続きよろしくお願いいたします。

ブクマ・評価いただけるととても嬉しいです。

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