百六十九話 俺達は一体何を見せられたんだ?
昨日、調査を終えた場所に到着したときにはもう昼過ぎだ。
帰り道の時間を考えると、やはり調査に費やすことが出来る時間はあまりない。
日帰り調査はもう限界だな。
「それじゃピリカ、続きを頼む」
「はーい」
ピリカは北に向かって歩き始める。
俺達はピリカの後ろをついて歩きながら、明日以降どうするか話をする。
「野営の資材を持ち込むとして何日ぐらいいけそうだ? 出来れば一週間は保たせたいところだけどな」
俺の個人的希望を伝えてみる。
「うん…… まぁ、春以降ならそのぐらいはいけると思うけどさ。今の時期はしんどいよ。野営も防寒対策しないと凍えちゃうからね。毛布や燃料もそれなりに必要だし、精々三日だね」
確かに……。
この寒さで野営中に雨でも降られようものなら、体温奪われて一晩で命に関わりそうだ。
最低限、雨対策にタープぐらいは必要かもしれない。
「あのさ…… だったらもうボル車借りちゃえば? いっぱい荷物運べるよね?」
話を聞いていたアルエットが横からそんなことを言ってきた。
もちろんそれも考えはしていたんだけどな……。
「僕らは三人パーティーだからね。ボル車の見張りに人を取られると厳しいんだよね」
ヴィノンがアルエットにそう返す。
だが、その問題はピリカの結界を使えば解消できてしまう。
ペポゥの偵察に行ったときに結界はすでにヴィノンに見せてしまっている。
いまさら感はあるが、この結界がとんでもないチートなのは確定なので大っぴらに使いまくるのも躊躇われるよな。
ただ、村の外に出ても三日しか持たないようなら最悪の場合、調査期間は二年どころではなくなってしまう。
ここはリスクを取ってでもボル車を調達するべきかもしれない。
俺には異世界チート主人公のような容量無制限のアイテムボックスは無いのだから……。
「エーレでボル車を手配できる当てはあるのか?」
さすがはアルド。
俺もその質問をしようと思っていた。
俺とアルドはこの村に来てまだ日が浅い。
脳内PCで作っている村内MAPにもまだそれらしい施設はない。
「西側から村を出たすぐのところに、馬やボルロスを飼育しているところがあるよ」
ヴィノンがアルドの問いに答える。
ボル車を調達する当てはありそうだな。
コスト的に許容できそうなら、冬の間だけでもボル車を使うことも考える場面だろう。
ボル車の事は二人を交えて帰ってからゆっくり話をしよう。
そんな話をしながら、ピリカに続いて森を北上していたわけだが、ピリカが立ち止まる。
「ん? どうした?」
「魔物が来るね。多分デカネズミ」
またか……。
「数はわかるか?」
「四匹だね」
四匹ぐらいなら問題ないな。
アルドとヴィノンに丸投げでいいだろう。
多分、ガル爺がアルエットに気付かれないように魔物を間引いているはず。
それでも、一人で全部の魔物を狩るのは無理だし、アルエットが全く魔物に遭遇しないと怪しまれもする。
なので、ガル爺も弱い魔物はわざとスルーしたりもするらしいと、ヴィノンは言っていたな。
「ピリカ、どっちから来るの?」
アルエットがピリカにデカネズミのいる方向を確認する。
「このままだと真正面で鉢合わせするね」
アルエットと目を合わせることもなく、ドライに答える。
アルエットがピリカの事を名前呼びするようになってからは、ピリカもアルエットの言葉に最低限の受け答えはするようにしたみたいだ。
「そ、だったら私に任せてもらおうかな」
アルエットが突撃槍を手にピリカを追い抜いて最前に進みでる。
「ちょっとアル! デカネズミぐらいなら僕たちが……」
ヴィノンが慌ててアルエットを止めようとする。
「いいから、私に任せておきなさいって! 七光りのお飾り日輪級じゃないってところを見せてあげる」
「いや、アルの実力は僕も良く知ってるから! だからさ」
ヴィノン…… なんか必死でアルエットを止めようとしてないか?
「ヴィノンさんは知っていてもハルト達は知らないでしょ? これから一緒にいる事も多くなりそうだし、一度見てもらっておいた方がいいと思うの」
「そうかもしれないけどさ! 何もこんな所でデカネズミ程度に……」
「来るよ」
ピリカがデカネズミとの遭遇を警告する。
ピリカの警告通り、俺達の目にも四体の魔物が視界に現れた。
四体ともデカネズミだ。
「ハルトきゅん、絶対にアルの前に立っちゃだめだよ。アルドと精霊ちゃんもね」
真剣な顔つきでヴィノンが釘を刺してきた。
一体どういうことだ。
まぁ、魔法主体なら後方からでも援護はできるか。
ここはヴィノンの言葉に従っておこう。
デカネズミも俺達の姿を視認している。
数の上では同数だが、デカネズミはこちらをかなり警戒している。
これならちょっと脅かしてやれば、逃げていきそうだ。
だが、ガル爺には遭遇した魔物は必ず狩るように言われている。
ここは狩ってしまう方がいいだろう。
こちらのフォーメーション的にはアルエットが一人だけ前に出ている。
デカネズミも突出して浮いているアルエットを総がかりで襲うことにしたみたいだ。
「ふふっ、じゃあ行くわよ。【チノハムハヒリカハヲバミワチミノバシモガシナナスルンク】」
アルエットが詠唱を終える。
一瞬、ブワッと風圧のようなものがアルエットの方から飛んできた。
デカネズミ達が一斉にアルエットに襲い掛かる。
アルエットは突撃槍を構えてデカネズミに猛然と飛び込んでいった。
まるでミサイルだ。
うっすらと槍の穂先に流線型の光の幕のようなものが見えるな。
先頭のデカネズミに突撃槍が発していると思われる光に触れた瞬間……。
ボッ!!
デカネズミは爆散して無くなってしまった。
死体どころか、血肉の一片すら残っていない。
なんだアレは……。
アルエットの突撃はデカネズミどころか、地面も木も……。
突撃槍の攻撃範囲に入っている全てのものを問答無用に砕きながら進んでいる。
ボッ!!
ボッ!!
ボンッ!!
立て続けに二匹目、三匹目、四匹目のデカネズミが爆散…… というか、消失と言った方がよさそうな最期を迎える。
それでもアルエットの勢いは、一ミリも衰えることはない。
50m程進んだところでようやくアルエットは止まった。
目の前にはきれいに直径2.5m程の円形にくりぬかれた何もない空間……。
それがアルエットの立っている50m先まで続いていた。
「……。これは一体……」
流石のアルドも言葉を失う。
マジかぁ……。
何なんだこれは?
俺達は一体何を見せられたんだ?
あのデカい突撃槍の突進がこの惨状を作り出したというのか?
突撃槍を担いだアルエットがにこやかに戻ってきた。
「片付いたわよ。調査を続けましょ?」
「これさ…… 何から突っ込んだらいいんだ?」
「何からでもいいよ。気持ちはわかるからさ」
ヴィノンが乾いた薄笑いを浮かべながらそう返してきた。
「まずやり過ぎだろ! オーバーキルもここまで来ると笑えん。きょうび、異世界ラノベの俺TUEEE主人公でもここまではなかなかやらんぞ」
「確かにな。もう少しやりようがあるんじゃないのか?」
「そんなの無理よ。私の技は手加減なんてできないもの。かといってこれ以上、威力が上がることもないけどね。ラノベ? 俺つえ? 意味が分からないわ」
さも当然のように、アルエットは言ってのける。
「じゃあ何か? このトンデモ突撃は、使えば絶対にこんな結果をもたらす威力固定攻撃ということか?」
「ハルトってばなんかヘンな言い回しするわね。そうよ。多分、ハルトの言ってる通りで間違いないと思うわ」
マジかぁ……。
「だったら、もうちょっと大人しい目の攻撃魔法をだな……」
「ないわ」
ふぁっ!?
凄く嫌な予感がする。
「私が使う攻撃魔法はこれだけよ。だってこれ一つあれば十分だもの。これで負けたこともないしね」
「マジで?」
「ええ」
マジかぁ……。
デカネズミとの戦闘一回で、アルエットは【3マジかぁ】を持って行ってしまった。
「まぁ、アルはこんな感じの子だよ。戦闘中にアルの前に立っちゃダメな理由はわかってもらえたかい? この子の攻撃に巻き込まれたらきっと死体も残らないからね」
ヴィノンは肩をすくめてそんなことを言ってのける。
俺はこの時、初めてガシャルの事をすごいと思った。
こんなピーキーな攻撃魔法しか使えないやつをパーティーメンバーとして連れて行きながら成果を上げているなんて……。
いくらガル爺の暗躍があってリスクが軽減されているとはいえ、一歩間違えば味方を容易に巻き込みかねない諸刃の剣ならぬ諸刃の突撃槍だぞ。
「アルエットがとんでもないのは良く分かったよ」
「そう? ならよかった」
もし、ペポゥ討伐戦の時にアルエットがパーティーにいたなら、アルドに頼らなくても泥団子を5mまで崩した状態のペポゥを一発で始末できただろうな。
「ああ、本当によかったよ。早い段階でアルエットの力を知ることができて……」
「ふふっ、でしょ?」
「軽はずみにアルエットを戦闘参加させちゃだめだってわかってよかった」
「えっ?」
俺の言葉はアルエットにはとても意外なもののようだ。
驚いたような表情を浮かべている。
今日はお休みだったので、一話積むことが出来ました。
アルエットの残念っぷりな正体はプロット作ってる時から
決めていたので、今回はノリノリで書いてました。
残念ながら前回からブクマは剥がれちゃいましたが
取り戻せるように腐らずに投稿を続けます。
ブクマ・評価共に引き続きよろしくお願いいたします。




