百六十四話 まさかの逆効果だったとは……。
1月10日
朝食を食べながら昨日の成果をアルドとヴィノンに説明する。
「穢れの混ざった地脈が特定できたぞ」
「本当にあったのか。ということは……」
「この地域に魔獣が集まりやすい原因が存在する……。この仮説に俄然説得力が出てきたね」
説得力も何も俺は最初からピリカの言うことを300%信じているけどな。
「それで、これからどうするつもりだ?」
「地脈を辿っていくだけだ。穢れが流出している原因にたどり着くまでな」
「原因の場所に当たりはついているのか?」
「全然……。だけど予想通り森の方に伸びているっぽい。近いうちに調査範囲は森になると思う。だから村から出る時は一緒に来て欲しい」
「もちろんだ」
「当然だよ」
二人共、快諾してくれた。
「おはようハルト君! 迎えに来たわよ」
マジで来たのか……。
別に来なくてよかったのに。
「あれ、どうしたんだい? 何でアルがこんな所に……」
「ヴィノンさんもおはよう。あと、アルドさんでしたっけ?」
「ああ、確かガル爺の……」
「はい。孫娘のアルエットです。改めてよろしくお願いいたしますね」
アルエットがにこやかにアルドに挨拶する。
「それで、ハルトを迎えに来たと聞こえたが?」
「あ、はい。ハルト君が調べていることにすごく興味があって…… 私もハルト君の調査について行こうかなって」
「ええ~っ!? ハルトきゅん、僕が一緒に行こうとしたら来なくていいって言ったくせに……」
「安全な村の中で人数はいらないだろ? 別にアルエットにも来てくれなんて頼んで無いぞ」
「あ、興味本位で勝手について行ってるだけだから…… 私の事は気にしなくてもいいからね」
この手の無理やりついてくるタイプは、地味に始末に負えない。
「アル…… 君はやっぱりあの時のことを……」
なんだ?
ヴィノンはアルエットが地脈の調査に興味を引かれる理由に心当たりがあるのか?
「関係ないとは言わない……。この森にハルト君の言ってるような原因があるのなら、私は……」
【まさか、ここでアルが出て来るなんてね……。予想外の伏兵だよ……。でも、アルは【セントールの系譜】だからこの国からは……。この程度で僕の優位は揺るがないかな】
ヴィノンが何かゴニョニョと独り言をつぶやいている。
普通なら何を言っているのか判別できないような声のトーンだ。
しかし、脳内PCの疑似読唇術サポートアプリが独り言をバッチリ記録している。
なんか意味深なことを言ってる気もするけど、あまり気にしても仕方がないだろう。
「よし!! それじゃ僕も勝手について行くだけだから! 今日は僕もハルトきゅんと一緒に……」
ヴィノンはアルエットと一緒に俺についてくる気みたいだ。
良く分からないが、これってアルエットに対抗しているだけなんじゃないのか?
このままヴィノンが一緒に来ても面倒なことにしかならない気がする。
ここはヴィノンの同行を阻止しておくか。
「ヴィノンはアルドと防寒着を買いに行くんじゃなかったのか?」
「うっ……」
「【準備不足で森に一緒に行けません】は無しにしてくれよ。それなりに土地勘あるんだろ? これでも当てにしてるんだからな」
「はう! ハルトきゅん…… 僕を頼ってくれてるのかい?」
「同じパーティーメンバーだからな」
「ふっふっふ……。 そうだよね! 任せてよ! 森に入ったら僕が調査をバッチリサポートするからさ! ほら、アルド行くよ! いつまで食べてるのさ! 防寒装備を揃えに行くよ」
ヴィノンは少しでも早く出発しようとアルドを急かし始める。
「おい! そんなに慌てなくても、時間は充分あるだろ」
ヴィノンにせっつかれてアルドは朝食を慌てて済ませることになってしまった。
すまんな、アルド……。
「それじゃ、行ってくるよ。準備は僕たちに任せて、ハルトきゅんは調査に専念してくれていいからね」
「ああ、頼んだぞ」
アルドとヴィノンは一足先に宿を出て行った。
俺は自分のペースでゆっくり朝食を続ける。
二人がいなくなって空いた椅子にアルエットが座る。
「朝はもう食べてきたのか?」
「ええ、もちろん。あ、別に慌てて食べなくてもいいからね」
言われなくても別に一刻を争っているわけじゃないからな。
自分のペースでのんびり食事を続ける。
「ねぇ。穢れの原因にたどり着くのっていつぐらいになりそうなの?」
「知らん。俺にわかるわけないだろ」
「何よそれ…… 本当にあるの?」
「ピリカがそう言ってるからあるのは間違いない。……そうだな」
俺はラソルトで買ったロテリア王国の地図を広げる。
「地脈は北から流れてきているのは間違いない。原因はモルス山脈を含む北に広がる森林地帯にあることまではわかっている。……これは国土の三分の一近い広大な面積だ」
森と山脈をトントンと指で叩いて示してやる。
「これをしらみつぶしに調べていたら、一生かかっても原因に到達できないのはわかるよな?」
「ええ……」
「だが、ピリカは穢れの混ざった地脈を特定済みだ。あとは、地脈を辿って穢れの流出元まで一直線だ」
「そうよね! それじゃすぐに見つかるんじゃないの?」
アルエットの表情が少し明るくなる。
「甘いな……。ちょっと簡単な計算をしようか」
「えっ? 私そういうの苦手なんだけど……」
「昨日、ピリカが地脈を特定したのが昼過ぎだったな」
「お昼を食べて少ししたぐらいだったから…… 確かにそのぐらいだったわ」
「そこから夕方まで地脈を辿ったわけだが、どのくらい進んだかわかるか?」
「えっと…… 多分2㎞ぐらい?」
「そう、ピリカが地脈の流れを掴みながら移動できる距離は半日で2km……。ということは、一日かけて4km進める計算だ。ここまではいいか?」
アルエットは頷いている。
よしよし、理解は追いついているみたいだな。
「この地図で見る限り、エーレから街道を北上して森を突っ切るとすれば、その距離は約500kmだ。もし、穢れの原因が森の最北端にあった場合、このペースでそこにたどり着くのに125日かかる計算になる」
「辿りつくのは春の終わりか夏の初めぐらいになっちゃうわね」
「ああ。しかもこの4kmは安全な村の中で進むことが出来る距離だ。村から出れば警戒しながら進む分、さらに速度は落ちるだろうさ。魔物と遭遇して足止めを食らうこともあると思う」
「……確かにそうね」
「さらに、125日分の補給物資を持って森を進めるか? 絶対に無理だ。持てるのは精々、一週間分がいい所だろう。つまり、補給のために数日ごとにエーレに戻ってくる必要も出てくる。こういったロスを加味すれば最短の125日で穢れの原因までたどり着くなんてありえないのはわかるよな?」
「ごめん…… すぐなんて言って…… 結構大変なのはわかったわ」
どうやらわかってもらえたようだな。
これで、この小娘もお気楽についてくるなんて言わなくなるんじゃないのか?
ダメ押しをしておくか……。
「250日……」
「え?」
「穢れの流出元に到達するまでにかかると想定している時間だ。状況が悪ければ二年以上かかる可能性だってある」
「二年……」
「ま、そういうことだ。興味本位で見物して浪費するには勿体なさすぎる時間だろ? わかったらこれ以上俺達に構うのは……」
「上等じゃない!」
はい?
「200年以上、誰にもわからなかった森に魔物が増える原因が分かるかもしれないんだもの! たった二年でその元を絶てるんだったら安いものだわ」
「あのさ…… 元を絶てるとは一言も……」
「絶つわ! この私が! どんなことをしても……」
マジかぁ……。
まさかの逆効果だったとは……。
「朝ごはんも終わったみたいね。それじゃ、行くわよ! 昨日の続きからよね」
アルエットが意気揚々と宿を出ていく。
これは下手したらアルエットとは長い付き合いになるかもしれない……。
彼女はガシャルの臨時パーティーメンバーらしいし、余計な火種を抱え込まないように少し距離を取りたかったんだけどな。
何か保険をかけておいた方がいいかもしれないな……。
そんなことを考えながら、アルエットの後に続いて宿を出る。
日常回って何気に難しいですよね?
しれっと、引き込まれる日常回を書いてる方って
凄いと思います。
プロットから文章化するだけでもあり得ない程
エネルギー使います。
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引き続きよろしくお願いいたします。




