表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/255

百六十話 地脈って何? はじめて聞く言葉だわ

 お互いに価値観や共通の話題があったことで、美沙さんとは出会って数ヶ月ほどで深い仲になっていた。

俺と同じレベルでオタトークが出来る人間は社会人になってこの方、一人もいなかった。

それは美沙さんも同じのようで、彼女と過ごす時間はとても楽しいものだった。


 ジャンル的には二人共ほぼオールラウンドにOKではあった。

それでも強いて言えば俺はアニメ・ゲームに寄せた属性のオタク。

美沙さんはラノベ・コミック・アニメに寄せた属性のオタク。

アニメに関してはお互いかなり深い知見があった。

しかし他の嗜好に若干の違いがあって、そこがまたお互いに知らないオタクの世界を知るきっかけとなり、彼女との交際はとても楽しかった。


 俺とてラノベやコミックの蔵書量は千冊単位。

そこいらのにわかオタクどもに遅れを取ることは無い。

それでも彼女の蔵書量に比べれば赤子同然だった。

何しろ彼女の書庫はちょっとした図書館レベルだったからな。

これはさすがに恐れ入った。


 逆にアニメ・ゲームの保有量は俺に軍配が上がった。

俺は美沙さんからおすすめのラノベやコミックを借りて読むことが増え、逆に美沙さんはアニメ円盤やゲームソフトを俺から借りて鑑賞したり、遊んだりすることが増えた。


 俺は彼女から勧められて読むラノベやコミックを通じてなんとなく、彼女の好みの方向性が見えたような気がした。

そして、俺のお勧めアニメやゲームを通じて美沙さんも俺の好みの方向性を理解してくれているんじゃないかと思った。




 1月7日


 またか……。

最近ちょいちょい地球にいた頃の事を思い出す。

しかも、夢にしてはかなり鮮明に……。

まぁ、別に実害があるわけでもないし気にしても仕方がない。


 今日こそ地脈の調査を始められそうだ。

ベッドから起き上がって、ピリカと共に宿の食堂に向かう。


 食堂にはすでにアルドとヴィノンが来ていて俺達の到着を待っていた。


「おはようハルトきゅん、精霊ちゃん!」


「ああ、おはよう」


「ハルト、体の調子はどうだ? 結構無茶してガシャルと戦っていただろ?」


 さすがはアルド…… 気付いていたのか。


「ああ、ピリカの治癒術は完璧だ。全然問題ない」


「え!? ハルトきゅん、無茶していたのかい?」


「そりゃそうだろ。地力ではガシャルとの力量差は歴然だ。これをひっくり返すならどこかで無理は必要になる」


 どんな無茶をしていたのかをヴィノンに教えるつもりは無いけどな。

アルドにも格ゲードライバの事は教えていないが、それでもなんとなく察してくれているのはありがたい。


「さて、今度こそ地脈の調査を少しずつ進めていくわけだけど……」


「いよいよだね。僕たちは何をすればいいんだい?」


「特に何も無いな。二人共、好きに過ごしてくれればいい。ピリカと二人だけで大丈夫だ」


「そんな、危険だよ。いくら精霊ちゃんが強力でもいきなり魔物の奇襲を受けたりしたら……」


「ああ、その心配はしてないから。今日は村の中を走っている地脈を探して調べることにした」


「え? 村の中?」


「ああ。だから魔物の心配はしていない。精々ガラの悪いチンピラが絡んでくるかもだが、その可能性も低いと思っている」


「ガシャルとの模擬戦か……」


 アルドがその根拠に思い至ったようだ。


「そゆこと。面積は広くても規模は小さい村だ。噂は簡単に広まる。金等級のガシャルを圧倒するような子供に絡んでくるような奴は想定しなくてもいいだろう」


「確かに……。なら俺は自由に過ごさせてもらう」


「ああ、村の外に出る時は声を掛けるよ」


「じゃぁ、僕はハルトきゅんと一緒に……」


「俺はピリカと二人で大丈夫だ。自由行動でいいぞ」


 ヴィノンに最後まで話すことさえ許さずに言葉を被せた。

悪いやつではないのだろうが、過剰に付きまとわれるのは勘弁してほしい。


「自由行動でいいぞ!」


 ピリカが俺の真似をしてさらに追い打ちをかける。

誰にも邪魔されずに二人だけで過ごせることが嬉しいようで、ヴィノンの同行を絶対阻止する構えだ。

これは次にヴィノンが食い下がってきたら【シャシャァッ】を食らわせる気満々だな。


「ううっ、わかったよ。 村の中なら平気だと思うけど、危ないことはしないようにね」


 意外にもヴィノンはあっさり引き下がった。



 ……。


  ……。


 朝食を終えて、必要最低限の装備でピリカと共に村の中を散策する。


「どうだ? 地脈は見つかりそうか?」


「かなり近いと思うんだけど…… ちょっと深い所を走ってるみたい。見つけるのは少し時間かかりそう」


「別に急がないからゆっくりでいいぞ。確実にいこう」


 ピリカはいつものゆるふわスマイルで返してくる。


「多分こっち」


 ピリカは東の方を指さして、テクテクと歩き始める。

俺は長閑な村の風景を眺めながらピリカの後に続く。



 ……。


  ……。



 太陽はちょうど真上あたりまで来た。

一日で最も気温の高い時間帯だが季節は冬だからな。

お世辞にも暖かいとは言えない。

これはいよいよ防寒着の調達が必要そうだ。


 道を少し外れた草むらに腰を下ろし、宿で用意してもらった微妙なパンに齧りついて昼食にする。

ピリカは地脈を探しながら移動しているので、その歩みは決して早くない。

半日かけて移動した距離は2kmぐらいだ。

俺には分からないが、(けが)れが混ざっている地脈を探して特定するのはピリカにとってもそれなりに手間のかかる作業に見える。

パンを食べる俺の隣でピリカが鼻歌を歌いながら、フォトンブレードをこねくりまわしている。

モンテスにいる頃からずっとやっているよな。

こっちもかなり苦戦しているのか。


「ピリカさん、なかなかてこずってるみたいだな。大丈夫か?」


「うん。これがミスリルで出来ていたら解決したも同然なんだけど…… あとちょっとがうまくいかないんだよ」


 なるほどな。

フォトンブレードのグリップに直接術式を刻んだら、一回使うだけで消滅する使い捨てのアイテムになってしまう。

それはピリカにとっては絶対に受け入れらないということか。


「なんだ。だったら別にミスリル板使っていいぞ。それでうまくいくのかはわからんけど」


「ほんと? ハルト大好き! それならきっとうまくいくよ!」


 ピリカが【はなまるの笑顔】でくっついてくる。


「あなた…… 確かハルトだったかな? こんな所で何してるの?」


 俺達の姿を見て、道の方から声を掛けにやってきたのはガル爺の孫娘、アルエットだ。

今日も村娘の服装だから冒険者としての仕事は無いのだろう。


「こんにちは、アルエット。見ての通りここで昼ご飯だ」


「あ、そうじゃなくて…… こんな村の中で精霊を顕現させているから」


 ピリカは常時姿が見える状態でいる事、それを望むピリカの意思を最大限尊重している事などを説明した。


「そう。服を着ていたり話したりすることも含めて、本当に不思議な精霊ね」


「俺はピリカ以外の精霊を見た事が無いからな。ピリカが特殊だと言われてもピン来ないぞ」


「そうなんだ。この国じゃエーレに精霊術師が来ること自体が珍しいの。聞いた話じゃ、この付近では精霊が十分な力を発揮できないって……。 野良の精霊も北の森じゃ見かけることは無いわ」


 なんだそれは。

まさかピリカさんも弱体化したりとかしているのか?

俺はピリカの方を見る。

もし、ピリカを弱らせるほど精霊にとってエーレ付近の環境が悪いのなら、ここに無理して留まる理由はない。


『心配しなくても大丈夫だよ。ただ、居心地が良くないってだけ。他の精霊もこの場所で弱体化するわけじゃないよ』


 日本語でピリカは俺の心配が杞憂であることを教えてくれた。


『なんか嫌なにおいがどんよりと漂っているみたいな感覚がまとわりついてくるの。そんな居心地の悪い場所に進んでやってくる精霊はいないってだけだから……』


『そうか、無理しなくていいからな。我慢できないようならいつでも言ってくれ』


「?? どうしたの? 突然訳の分からない言葉で……」


「ああ、気にしないでくれ」


 いつまでもここに居ても仕方がない。

パンも食べ終わった事だしそろそろ、調査再開といこう。


「ごちそうさまでした。それじゃ、俺達はそろそろ行くよ。ピリカ、もう休憩終わりでいいか?」


 ピリカは笑顔で頷く。


「行くって…… どこに?」


「村の中に走っている地脈を見つけに…… かな?」


「地脈って何? はじめて聞く言葉だわ」


「俺もそれが何なのか説明しろって言われてもよくわからん。この世界の血管みたいなものかな?」


 魔力(マナ)(けが)れなど、ラライエ特有の存在を知覚できない俺には、オタ知識をもとにこの程度の説明しかできない。


「君もその精霊と同じぐらい不思議な子ね。そんなものを見つけてどうするつもりなの?」


「それはこの前、ガル爺のところに行ったときに説明したぞ。ガル爺から何も聞いてないのか?」


「いいえ、おじいちゃんからは何も聞いてないわ。お爺ちゃんとは必要最低限の話しかしないから……」


 そんなことないだろ。

ガル爺はアルエットの事、かなり気にしていたように見えた。

この前、工房で見かけた時はアルエットの行き先を確認したりしていたぞ。


「別に隠すような事でもないか……」


 俺は簡単にガル爺に説明したことと同じ内容をアルエットに説明した。


「……君…… 本気でそんな突拍子もないようなことを言ってるの?」


「もちろんだ」


 俺にとっては全然、突拍子なくないけどな。

ピリカがそう言ってるのなら絶対そうなんだろう。

地脈に混ざっている(けが)れは300年以上に引き起こされた人為的なもの。

それは俺の中では確定事項だ。

この分だとアルエットに鼻で笑われてこの話は終了だな。

そう思っていたのだが……。

アルエットの目はものすごく真剣なものになっていた。


「ごめん、もう少し詳しくその話…… 教えてもらってもいいかな?」


 ……あれ?

この娘…… この話題に食いついてくるのか?


 今回の投稿までにブクマと評価をつけてくださった方がいます。

とても嬉しいです! ありがとうございます。


 明日29日と30日は有給を使って、ちょっくら出雲まで

本作最終章のプロット調整の取材に行ってきます。

年内であと三日有給使わないと働き方改革の法律に

引っかかっちゃうし、規制も緩和されてきたしこのタイミングで

行くことにしました。


 そんなわけで、次回の投稿は最速でも31日になると思います。


 実の所、プロットは完成しているのであまり手を入れるところは

無いと思っていますが、実際にこの目で見てくることで、

変わってくるところがあるかも……。

そのぐらいの軽いノリですけどね。


 自分にはコツコツ少しずつ投稿を続ける事しかできませんが、これからも

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ