十六話 すき。ずっといっしょ
相互学習を始めて五日目。
地球ではクリスマスの12月25日だが、このシャボン空間では全く関係がない。
ここで一つ問題が発生した。
ピリカの光の色が赤く変化した。
どうやらエネルギーが消耗してきているようで、消失が近いようだ。
ピリカは食料も水も一切摂取しない。
睡眠もとっている様子はない。
ピリカの消耗を防ぐ手段がわからない以上、俺にはどうすることもできない。
たった五日では、ろくなコミュニケーションを取るほどの学習は出来ていない。
よく使われる単語については断片的に判明してきた。
だが、それだけで意思疎通は難しい。
如何せん、ピリカ語は未知の言語だ。
脳内PCのピリカ語辞書も都度更新しているが、よくわからない表現がものすごく多い。
日常レベルで意思疎通が取れるようになるには、年単位の時間が必要な気がしている。
だが、俺はあと五ヶ月弱でこのシャボン空間から地球に戻れなければ死ぬことになる。
ちょっと厳しいな。
とにかく、効率的に学習を進めてピリカから生還方法を聞き出す必要がある。
ピリカがそれを知っていれば……だが。
しかし、ピリカの消耗は本格的に深刻なようで、それどころではなくなっていた。
「ピリカ、大丈夫か? 光が大分弱っているけど……」
「ハルト……ピリカ、ねる」
それだけ言って、ピリカは再び姿が消えてしまった。
さて、ピリカが消えてしまうと俺はやることが無くなってしまう。
ピリカがまた現れるまでの間は、おとなしくピリカ語の復習とオタクライフに勤しむしかなさそうだ。
多分だが、ピリカの出現条件は時間経過のみだと思われる。
前回は姿が消えてから再出現まで一週間かかっていた。
今回も同じくらいのスパンで出てくるのではないだろうか?
それから三日後、ピリカが姿を現した。
自室のベッドで目を覚ましたら、俺の隣に並んで横たわっていた。
もちろんすっぽんぽんである。
今回は青紫色になっていた。
どうやら、ほぼ全回復しているということだろう。
断片的ではあるが、少し言葉が通じるようになってきたので、今回は服を着せることができないか挑戦してみよう。
さすがに、こんな美少女が素っ裸で徘徊しているのはどうかと思う。
「ピリカ、あのな」
「ハルト、おはよう!」
「ああ、おはよう。三日ぶりだけどな……。
ピリカ、お前さ……。服着たりしないのか?」
「ふく?」
「ああ、服……。これを着られないか?」
俺はピリカに見繕った服を見せる。
ピリカが消えていた間に、離れの倉庫から引っ張り出してきたものだ。
俺の妹がJK時代に着ていたライトグレーのワンピース。
30年以上前の物なので、ファッションに無頓着な俺でも古臭いデザインだと感じる。
ピリカの見た目の年齢や体格は、今の俺と大して変わらないので結構ブカブカだ。
だが、今時点ではそこは大きな問題ではない。
とにかく、ピリカに服を着せてみることにする。
こちらからは、物理的な接触はできないため、ピリカに服を着せられるのかどうかは微妙だが……。
俺の心配をよそに、ピリカは特に抵抗するそぶりも見せずにワンピースを身に着ける。
ふと、服が全身から出ている光の玉の出現を阻害するのではと思ったが、ワンピースの色がピリカの発する光と同じ青紫色に変わる。
そして、そのまま光のワンピースになってしまった。
これは…… 服がピリカと一体化してしまったのだろうか?
光の玉は相変わらず出続けている。
ピリカと一体化した服から……。
訳が分からないが、目のやり場に困らなくなったので、とりあえず良しとする。
さて、目先の問題が解決されたので相互学習を再開する。
俺は可能な限り、ピリカ語を話すようにして、ピリカには日本語を覚えさせて話させるように仕向ける。
とにかく残された時間は少ない。
……。
……。
ピリカとの共同生活を続けて分かったことが新たに一つ。
浮遊や壁抜けなど、消耗するような行為をしない限り、ピリカは大体一週間程度現れて、青紫→黄緑→赤と色が変化していく。
そして赤くなると、半日ほどで【寝る】と言って消える。
大体三日くらいで青紫色に戻って再出現を繰り返すみたいだ。
とにかくピリカが現れている間は可能な限り、お互いの言語の習得に時間を使うようにした。
こうして毎日ずっと、ピリカとのコミュニケーションのための努力を続ける。
さらに二週間が過ぎた。
ようやく、お互いに簡単な意思疎通を図ることができるようになってきた。
驚いたことに、ピリカの知能水準は極めて高い。
俺がピリカ語を習得するスピードよりも、ピリカが日本語を習得していくスピードの方が速い感じがする。
俺は脳内PCの全面バックアップを受けているのにも関わらずだ。
ちょっとへこむ。
ピリカ語で伝えきれない部分をピリカが日本語でフォローしてくれる局面の方が多くなってきた。
お互いにまだ拙い会話ではあるが……。
ピリカの言語力躍進に大きく貢献したのは、幼児教育用の知育番組である。
お隣の家にあるソーラーパネルに繋がっている蓄電池の電力を使って、テレビとDVDプレイヤーを起動した。
再生した日本の教育番組は偉大であった。
それから二度、消失と出現を繰り返したころから、ピリカは拙いなりに色々なことを日本語で話してくれるようになっていた。
「ハルト、すき。ずっといっしょ」
ピリカは暇さえあれば、俺に好き好きアピールをしてくる。
ここまでストレートに好意を伝えられたことは、五十数年生きてきて一度もない。
若い頃に短い間付き合っていたことのある元カノでも、こんなにはっきりと言ってくれたことは無かったよな。
むずがゆくはあるが悪い気はしない。
あまり気にしていなかったが、本当の俺はもはや初老と言える年齢の、ぶよぶよメタボのおっさんである。
しかも、重度のオタク属性ときている。
好感度が上がる要素などまるでないはずだ。
にもかかわらず、ピリカは確実に好感度MAXの状況に見える。
全く意味不明だ。
俺の人生におけるチョロインは、若い時に付き合っていた元カノではなく、ピリカなのだろうかと思ったりもする。
ピリカには、こちらから触れることすらできない。
こんな人間ですらないような子から【熱烈好き好き光線】を浴びせられるとはな。
オタクマイスターの俺には似合いなのかもしれない。
確実に言えるのは、ピリカが俺に対して好意的であるのはとても大きなプラス材料だ。
ここからの脱出に関して、ピリカの協力は得られたも同然と考えていいだろう。
あとは、ピリカがヤンデレ属性でないことを祈るのみだ。
更にピリカとのコミュニケーションを取るべく、言語習得を進めていこう。
お仕事から戻ってすぐに投稿準備……。
ここから一気に三連投下……。地味にきついかも……。
平日が始まってたった二日で泣いちゃいそう。
毎日折れることなく投稿を続ける他作品の作者様方に心からの尊敬を……。
自分の心の支えはやはり見てくれる人のブックマークと評価ポイントです!
今朝、確認したときに評価入れてくれた人が増えていたんですよ!
昨夜、★を入れてくれたこの人のためにもストックがあるうちは
毎日投稿を続けないと!……と思いました。
十七話の投下は1時間後、4月6日の22:30ぐらいを見込んでいます。
明日も折れずに投稿する気力を繋ぐためにも、ブックマークと★の評価を
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