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百五十五六話 了解! ひゃっほぅ!

「てめえ ……ずいぶんと生意気なクチを利くようになったじゃないか」


 これはマズい流れだな。

以前、ヴィノンがここにいた頃になんかやらかして、居づらくなったエピソードがありそうな気がする。

そのあたりの真相は分からないし、確認もできないが……。

このガシャルとかいう粗暴で決して頭のよくなさそうな男。

エーレの冒険者の中で結構幅を利かせている存在と見た。

新参者の俺達が絡まれているこの状況……。

この騒ぎにも関わらず、冒険者たちもギルドの職員も誰も止めに入ってこないもんな。

俺のいじめられっ子キャリアの経験則で言えば、ここまでヒエラルキーが決まってくるとこれをひっくり返すには結構なエネルギーを必要とする。

小学1年生で固まった立ち位置が結局、最上級生の時に起こしたあの事件まで脱却できなかったように……。

ヴィノンはこの状況でもあっけらかんとしているところを見ると、あまり問題にしていないようにも見える。

むしろ、こいつらの事はそもそも眼中になかった ……が、正しい気すらしている。


 だが、俺はこの状況を甘受するつもりはない。

異世界に来てまで小学生の時と同じ轍を踏むなど愚の骨頂だ。

動くと決めたらすぐ実行が必要な時もある。


「ヴィノン、知り合いか? 紹介してもらっても?」


「え? ハルトきゅんが気にかける価値のある連中じゃ……」


「臆病者は黙ってな! 俺はガシャル。金等級の冒険者で、エーレギルド最強パーティのリーダー。そして次期村長だ」


「それは、今の村長の息子的な?」


「おう、そういうことだ」


 なるほどね。

武力・権力・おそらく財力もかな?

三拍子でマウント取れる立ち位置か……。

こういうのは微妙に崩しにくいな。


 地脈の問題が解決可能そうなら、ここを中央大陸の拠点にするのも選択肢に入ってくる。

こういった手合いに絡まれる事態は避けたいところだ。

となれば、いくつか対応の選択肢は出てくる。

目先、この状況を切り抜けるのに一番手っ取り早いのはここでヴィノンを切って、こいつらに付くことだが……。

こいつらの人間としての底がまだ見えない。

この先も調子に乗ってマウント取り続けるようなクズだったら、それは得策ではない。


 それ以前に俺の矜持がガシャルに付く選択肢の存在を許さない。

不本意ではあるが、ヴィノンは今さっきここのルール上、正式にパーティーメンバーになってしまった。


 パーティーの仲間を切る?


 無いわ!


 相手の方から裏切ってこない限りはな。

なら、奴らが優位に立っている三拍子の根拠の一角を崩すか……。

権力と財力は今すぐどうにもならないので、武力一択か。


「そっか。それ程の冒険者だったら俺達も挨拶しておかないといけないよな……」


「ふん、仲間の小僧は身の程をわきまえているじゃないか」


「まぁね…… 俺はハルト。こっちは精霊のピリカだ」


 ピリカさんは相変わらずツーンとしている。


「そして、こっちがリーダーのアルド……。 今日からエーレ最高戦力になる冒険者パーティーだ。よろしく頼む。今日から二番手パーティーリーダーのガシャルさん」


 ガシャルのこめかみが時折、ピクピクしてきた。


「俺は寛大な男だ。今すぐ取り消せばガキの戯言ということで、許してやるぞ?」


「いや、すまない。どこを取り消して何を許してもらう必要があるのか分からないんだが……。許してくれる?」


 ガシャルのこめかみがさらにピクピクしてきた。


「ああ、もちろん許してやるとも。そして、俺は優しく器の大きい男だからな。お前が何を取り消して許しを請わなければいけなかったのか…… 教えてやるよ。その体に直接な!」


 はい釣れた。


「それはありがたい。ガシャルさんの厚意にあまえて是非とも教えてもらおうかな」


「お前ら表の訓練所に来な。身の程って奴を思い知らせてやる」


「了解! ひゃっほぅ!」


 ガシャルとその取り巻きは、次々とギルドの外に出て行った。

連中の姿が見えなくなるとギルド内は急にざわつきだした。

これはいい感じで噂になりそうだ。

こうなった以上はある程度ギャラリーも集めたい。

目撃者は多い方がいいだろう。


「ちょっ…… ハルトきゅん!」


 ヴィノンは俺がこんなくだらん挑発に乗るとは思っていなかったらしく、かなり慌てている。


「心配ない。想定の範囲内だ」


「おい、本当に大丈夫なのか?」


 アルドも俺の突然の行動に声を掛けてくる。


「もちろん。まぁ、相手の出方を見ないとだけどな…… あいつらが追躡竜(ついじょうりゅう)と対等に戦えるほどの力があるならさすがにヤバいけど」


「もしそうなら連中は金等級ではなく勇者パーティーになっている。そこは大丈夫だろう」


 アルドのお墨付きも出た事だし…… 多分、俺の筋書き通りに事を運ぶことが出来そうな気がする。


「それじゃ、アルドとヴィノンに頼みたいことがある。俺達がエーレで快適に暮らしていくためにもあいつらの鼻っ柱を折っておきたい」


「ハルトきゅんの頼みなら何でも聞いちゃうけど、危なくないかい?」


「ああ、二人が動くときには危なくなくなってる」


「ということは、それまでは危ないって事なんじゃ……」


「まぁ、何とかなるだろ」


「ハルトが危ないのはやだぁ!」


 ピリカが後ろから俺の首に手をまわして背中にぶら下がってくる。


「もちろん俺はピリカを一番頼りにしてる。ピリカが手伝ってくれないと俺は死んじゃうかもしれないからな。頼むぞ」


「うん! ハルトのお願いなら何でも聞いちゃう! あいつら殺せばいいの?」


 おいおい、物騒なことを言わないでくれ。


「いやいや、あいつらじゃ俺達には勝てないってわからせればそれでいいんだ。ピリカに頼みたいのは二つ。一つ目は……」


 俺はピリカにやってほしいことの内容を二つ日本語で説明した。

周囲に【聞き耳スキル】的なものを持ってる奴がいてガシャル達に告げ口されたりしたら面倒なことになるからな。


「いいよ。でも、危なくなったらピリカが助けに入るからね」


「ああ、その時は頼む」


 ピリカが乱入するような事になったら、えらいことになる。

うまく立ち回らないとな。

ギルドを出て訓練所に向かって歩きながら、二人に段取りの確認をする。


「二人に頼みたいことは、まずできるだけギャラリーを集めて欲しい。あともう一つは……」


 二人にやってほしいことを二つ、ざっと説明した。


「ギャラリーは問題ないよ。もうみんな興味津々だからね。放っておいても訓練所は見物人で一杯になるって」


「もう一つの方も了解した。あまり気は進まないが…… 俺も日輪級になるまでは銅等級だったからな」


 アルドはそんな微妙な答え方をしてきた。

そう卑下する物でもないぞ。

ここまで見てきた冒険者たちの感じだと、アルドの実力は決して低いものではないと思う。

もういなくなってしまったリコもだけどな。


 冒険者の格付けは実力 ……というより、積み上げた実績評価の方が比重が大きいと見た。

単純な戦闘力だけなら、ラソルトのギルマスよりアルドの方が上だと思う。

勇者はセラスしか知らないから、マジもんの勇者がどこまで規格外なのかは今後の情報収集で確認するしかないけどな。

このままいけばアルドもきっと……。



 ……。


  ……。



 アルド達と話をしながら移動していたので、少し時間がかかってしまった。

既に訓練所…… とはいっても、木製の柵に囲まれただけの空き地ような場所だが。

柵の外側にはそれなりの見物人が集まっている。

冒険者以外の村人も数人混ざっているのが見えた。

うん、悪く無いな。


「遅かったな。逃げ出したのかと思ったぜ。別に逃げてくれても良かったんだけどな」


 そこは本当かもしれない。

逃げたら逃げたで負け犬とか言いふらすつもりだったのだろう。


「お待たせ。それで俺達の身の程を教えてくれるんだよね?」


「ああ、誰でもいい。訓練所に入りな」


 ガシャルが親指をクイッっとさして訓練所を差す。


「ああ、手合わせして格の違いを……って事ね。もちろん俺が行くよ」


 当然、俺がそう仕向けたのだから分かっている。

俺は木製の柵をくぐって、真ん中に進み出る。

続いてガシャルが木剣を手に柵の内側に入ってくる。


「くくくっ、安心しな。これは訓練だ。殺しやしないさ。ただし、当分ベッドから起き上がれるとは思うなよ。生意気なガキにはお灸を据えてやらないとな」


「魔法一切なし、もちろん精霊もなし……。相手を殺したら負け。負けを認めるか戦えなくなったら負け…… そういうことでいいんだな?」


 俺が、手合わせのルールを確認する。

ガシャルがニヤリと口角を上げて頷く。


「ガシャルのやつ…… あんな子供相手に……」


「あの子…… 精霊術師でしょ? 精霊はあそこに座ったままよ。精霊無しでどうするつもり?」


「精霊術師は魔法使いと同じで身体能力は高くない。このままではあの小僧、なぶられて終わりだ」


 柵の外からそんな話声が聞こえてくる。

ピリカさんは俺のお願い通りに柵の上に座ってこちらを見ている。

その膝の上には今回の勝負を決める物を乗せている。


「おい、そこから好きな獲物を選びな」


 ガシャルが指差す先に、剣や槍などの木製の武器が一通り並べてある。


「あ、素手でいいよ。武器なんか使ったら殺しちゃうから……」


「な・ん・だ・とぉ?」


 怒りでガシャルの目がつり上がる。

ラライエの一般的な冒険者の能力は大体わかってきた。

魔法一切なしなら、地球のプロ格闘家クラスと大差ない。

ラライエの人類を魔物と対等に戦い得る存在にまで押し上げているのは間違いなく魔法の力だ。

獣人などの亜人は人間より頭二つ抜けているみたいだけど、ガシャルは人間だ。

で、あるならこのルールの枠組みの中でガシャルに勝ち目はない。

ある種、俺はイカサマする気満々だからな。

いや、この男が単純で助かる。

なまじお山の大将でいる事が大好きな性分だから、こうやって煽るだけで冷静さを欠くし、力みも入ってくる。

もう一押しいっとくか。


「あっ、ガシャルさんこそ一人でいいのかい? 俺は他の三人まとめて一緒に相手でかまわないぞ」


「ふ、ふざけんなぁ! ガキ相手に4人がかりとか、俺達が他の奴らになめられるだろうが!」


 いやいや、こんな子供をボコる気満々な時点でお察しでしょう。

まだ煽れそうだな。


「そっか、でもこのままじゃ一方的な弱い者いじめになってしまう」


「おいガキィ…… 思い上がりも程々にしておかねぇと、さすがの俺様も力加減を間違えて殺しちまうかもしれねぇぞ……」


「ああ、それは気を付けてくれ。殺したらあんたの負けだからな。無理とは思うけど……」


 俺は周囲のギャラリーをざっと見まわす。

おっ、丁度良さそうなのがあるな。


「ちょっとそこのお姉さん!」


「え? あたしかい?」


 ギャラリーに来ていた若い女性の冒険者に声を掛ける。


「お姉さんが付けてるそのヘアバンド、貸してくんないかな?」


 女冒険者が額に巻いている濃紺のヘアバンドを指す。


「これ? ま、まぁいいけど……」


 女冒険者がヘアバンドを外して俺に手渡してくれた。


「どうもありがとう! 終わったら返すよ!」


 ヘアバンドを受け取って、訓練所の中心に戻ってきた。


「あ、そうだ! 一つ言っておかないと……」


 懐から冒険者ギルド証を取りだす。

最低ランク…… 木製の等級無しのものだ。


「な…… 等級無しだと?」


「見ての通り、俺はパーティー最弱だ。俺ごとき簡単にひねれないようじゃ、ヴィノンやアルドの足元にも及ばないぞ。くれぐれも忘れるなよ」


 そう伝えて、ギルド証をしまう。

そして俺はヘアバンドを目の位置につけて目隠しをする。


「うん! 全然見えんな! お待たせ、ガシャルさん!」


「てめえ…… 何のつもりだ?」


「さっきも言ったじゃないか。このままじゃ弱い者いじめになるかもって。このくらいのハンデがあればもしかしたら少しは勝負になるかもしれないだろ?」


「クソガキが…… お前…… 死んだぞ!」


「よしっ! いつでもいいぞ。それじゃ始めようか!」


 今日投稿できなかったら、週末まで投稿できなくなってしまうので

何とか一話投稿で来てよかったです。


 今回の投稿までにブクマ2増えてました。

どうもありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで好戦的なのは珍しいですねー いじめを受けていたという過去があったハルトならではの反応で、いいと思います。
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