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百五十五話 勇者が持っていてもおかしくないな

「もう用事は済んだのだろう? だったらさっさと……」


 俺達を追い返そうとするガル爺をヴィノンが制する。


「おっと、忘れるところだったよ。もう一つ……」


「なんだ? さっさと言え」


「今後、僕たちの装備の手入れをお願いしたいんだよ」


「エーレには他にも工房はある。それは別にわしのところでなくてもいいだろう」


「そうもいかないんだ。特にアルドの剣はね……。できればガル爺に頼みたくてね」


「理由がありそうだな。見せてみろ」


 アルドが剣をベルトから外してガル爺に手渡す。

ガル爺はそのまま鞘から剣を抜いて確認する。


「これは…… ミスリルか。勇者が持っていてもおかしくないな」


「そ、だからこそガル爺に頼みたいんだよ。なんせペポゥを斬った神の遺物(アーティファクト)だからね」


「なんだと? 確かに相当の年代物だが神の遺物(アーティファクト)というには新し過ぎる。だが、二つ術式が刻まれているな。何らかの特殊効果が出るのだろうが……」


「ガル爺はこの剣を見てどんな力があるのかわかるかい?」


「わかるわけなかろう。それは、色々試しながら突き止めていくものだ。わかっているのならさっさと言え」


 マジかぁ……。

ラライエの人類は本当に術式の内容を理解できないのか。

既存の術式を模写することでしか術式を再現できないのは間違いなさそうだ。

もちろん、ピリカの描く魔法の全てを理解するのは俺ごときの頭脳では到底不可能だが……。

それでも俺は世界でただ一人、断片的とはいえ術式の内容が理解できる人間っぽい。


「この剣を使えば【ペネトレイション】と【プロパゲイション】が併用できるんだよ」


「!! 本当…… なのか?」


「アルドがこの剣でペポゥを倒したからこそ、僕らは今ここにいるんだよ。これが神の遺物(アーティファクト)じゃないっていうなら、一体何だっていうんだい?」


 洞窟で見つけたミスリルソードにピリカさんが術式を刻んだだけの剣だっていうんだよ。

……なんて言おうものならエラいことになるんだろうな。

そこはアルドも分かっているらしく、沈黙を貫いている。


「確かに、神の遺物(アーティファクト)と考えるしかあるまい。この術式を劣化させずに剣の手入れをするとなると、エーレじゃわしがやるしかあるまいな」


「そゆこと。よろしく頼むよ」


 ガル爺は剣を鞘に戻してアルドに返した。


「まぁ、ついでだ。お前たちの武器もわしが見てやる。小僧、お前の武器を見せてみろ」


俺はサイとG管をガル爺に渡す。


「なんだこれは? 見た事のない武器だな。これでどうやって戦う?」


 サイを使ってどう戦うのかをガル爺にかいつまんで説明した。


「ふむ…… 捌きを主体にした近接武器だな。こいつはもうしばらく手入れなしでも大丈夫だ」


そう言ってサイを返してきた。


「問題はこっちの棍だ。これはもうダメだな。とっくに限界を超えておる」


 そりゃまぁ、そうだろうな。

そもそもそれは、建材であって振り回して戦う武器じゃないからな。


「いつ折れ曲がってもおかしくない。ここに捨てていけ。戦闘中に折れたら命とりになる」


 仕方がないか。

G管の処分をガル爺に任せることにした。


「長さや重さはこれと同じぐらいでいいのか? わしが代わりの棍をあつらえてやる」


 それは助かる。

代わりを探す手間が省けた。

持ち運ぶときにかさばらないように、ばらせる仕様で代わりの棍を頼んだ。


「小僧、何か魔法金属は持ってないのか? コーティングして魔力(マナ)を通せば、ゴーストや精霊にも通用する武器になるぞ」


 そういえばラライエに来てこの方、ゴースト系の魔物に遭遇したことは無いな。

ピリカ以外の精霊にも遭遇したことないけど……。

ここいらでゴースト系の魔物に通用する武器を用意しておいた方がいいかもしれない。

俺はリュックからミスリル板(小)を取りだしてガル爺に渡した。

船の結界を拡張するときに使ったやつだ。

今後使い道もなさそうだし、ここで素材にしてしまってもいいだろう。


「どうだい? こいつでいけそうかな?」


「まさかすぐに出てくるとは思わなかったぞ。しかし、いいのか? 何か術式が刻まれているぞ」


「構わない。あってもかさばるだけからな」


「……わかった。ならこれで新しい棍を用意してやる」


 完成までは二週間以上かかるらしい。

ガル爺にあとは任せて、俺達は工房を後にした。



 1月6日



 今日から村の外に出て地脈の調査に取り掛かることにする。

その前に冒険者ギルドのエーレ出張所に寄ることになった。

俺としてはどうでもよかったのだが、ヴィノンがパーティーの届け出をするようにやたらと勧めてくるからだ。

アルドも特に反対して来ないので、仕方なく…… という感じだ。



 ……。


  ……。


 ギルドの大きさはラソルトよりデカい。

結構な人数の冒険者が依頼の確認や、出発前の集合場所として使っているようで朝の時間は結構にぎわっている。

さっさと用事を済ませるために、カウンターへと向かう。

近寄ってくる俺達の姿を見て、受付嬢の一人がカウンターで出迎えてくれる。


「あらヴィノンさん、戻ってきてらしたのですね」


「またエーレでお世話になるよ」


「そうですか。ふふっ、話は聞いてますよ。ラソルトじゃ大活躍でしたね。ペポゥ討伐参加者リストにヴィノンさんの名前がありましたよ」


 受付嬢が嬉しそうにそんな話を切り出してくる。


「まぁね、パーティーの申し込み良いかい?」


「ええ、もちろん。こちらのお二人とですか?」


「そうだよ。リーダーになるのがこっちのアルド、そしてこっちがハルトきゅんだよ」


「きゅん? ……って何ですか? その呼び方」


「俺もそう思うよ、何とかならないのかって言ってやって欲しい」


 無駄たと知りつつ、受付嬢に援護射撃を要請してみた。


「多分、何とかならないと思うわ。何しろヴィノンさんですからね」


 やはりエーレでもそういう認識か……。


「それじゃ、パーティー受付を頼めるかい?」


「はい、それではギルド証をお願いします」


俺達は揃ってギルド証をカウンターの上に置いた。


「まずはアルドさん…… え? これって……」


 ヴィノンは人差し指を立てて【しーっ】ってしぐさで静かにさせる。


「その通り。……実質ペポゥを倒したのはここにいるアルドとハルトきゅんだよ」


 声のトーンを落としてヴィノンが受付嬢に説明する。


「……わかりました。では、アルドさんがリーダー、ヴィノンさんとハルトさんがメンバーで処理しますね」


 受付嬢がギルド証を確認しながら、書類にギルド証の内容を書き写している。


「はい、これで皆さんのパーティー申請を受理いたしました。これで依頼の実績や報酬は皆さん共有のものとして扱われます」


 無事にパーティー申し込みが終わったようなので、早速調査に出ようと外に向かって歩き出した。


「ははっ、本当に戻って来ていたのか……」


恰幅の良い鎧に身を包んだ男が、俺達の進路を塞ぐように立ちふさがった。

さらに三人の男が俺達を取り囲む。


「ガシャル…… 久しぶりだね」


「はっ、大した実績も上げられずラソルトに逃げ出した役立たずが何をノコノコと戻って来てるんだ?」


「それは見解の相違だね。僕はより僕を必要としてくれるところに行ったに過ぎないよ」


「ふん! まぁ、いいさ。それで、今度はその弱っちそうな男とガキが仲間ってわけか。お前にはお似合いの奴らを見つけて来たじゃないか」


「そうだろ? 結局、君とは合わなかったけど、人を見る目だけはあるじゃないか! 僕はついに出合ったんだよ。僕と共に歩みうることが出来る仲間 ……運命にさ!」


 こいつ ……馬鹿にされているのを理解してこの返しをしているのか?

いや、本気でそう言ってるような気もしないでもない。

それよりもこの状況だ。

ついにテンプレのギルドで絡まれる展開が来てしまったか……。

よもやこのチャラ男が原因になるのは想定外だな。

さてさてどうしたものかな。




 日付をまたいでしまいましたが、何とか一話投稿です。

明日は祝日ではなく平日なのが切ないです。


 ああ、働きたくない。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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