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十五話 君の名前を教えてくれないか?

 静寂と漆黒の平穏な時間が戻って、一週間が過ぎた。


 12月20日。

至福のオタクライフは、早くも終了になりそうだ。


 自室のベッドに腰かけて、脳内PCで録り溜めていたアニメを鑑賞していると、自室の扉が不意に開いた。

ドアの向こうには、全身が黄緑色に光っている発光少女が立っている。


 最初に遭遇したときは青紫色だったが、今回は黄緑色だ。

全回復を待たずに再出現したのだろうと推測する。

もはやあまり意味のないことだが……。


 意外と早かったな……。


 次に遭遇した際は絶対に逃げ切れないので、諦めると決めていた。


「やぁ ……もう逃げないからさ」


 意外と恐怖心はなかった。


「せめて、痛くないように一瞬で終わらせてくれると嬉しいかな」


 そう、発光少女に声をかける。


「bkj5fjut@uhuZa’Zqk.0qdkpte0ed@w@guhuZqo3uqmdud@’4to3;ed@」4]a’w@guhZw」

 

 相変わらず何を言っているのかわからない。

やはり意思の疎通は無理っぽい。

発光少女がゆっくりと部屋の中に入ってきた。

もはや覚悟は決まっているが、自分の体が爆散したり、ガジガジと食い散らかされたり引きちぎられたりする様が、最期の光景になったりすると、気分的に痛さ倍増だ。

目を閉じて、襲い来るであろう苦痛に備える。




 ……。




    ……。




 多分、目を閉じて三分以上経過している。

 

 苦痛どころか何の感覚もない。

ただ静寂の時間が過ぎているだけだ。


 さすがに状況を確認せざるを得ない。

 

 意を決して目を開くと、発光少女はすぐに視界内に確認出来た。

俺の左隣に横並びに腰かけて俺の左腕を抱きかかえ、身体を預けてよりかかっていた。


 えっと……。

 これは一体……。


 【恋人座り】とかいうやつだろうか……。

もちろん、出現時からずっとすっぽんぽんである。

さすがにこの距離だと発光少女の顔もはっきりわかる。

線のやや細い体つきで、へその少し上まで髪が伸びている。

そして、凄まじい破壊力の美少女である。


 ふわっとした雰囲気と言えばいいのだろうか。

きっと、フラットより気持ち垂れ気味の目と、マンガだと【にへら~】と擬音が書かれそうな緩い微笑み方がそんな印象を与えるのだろう。

見た目の年齢は今の俺と大して変わらない感じだ。

まぁ、そもそも人間ではない以上、外見から年齢を推測するのは意味がないだろう。

発光少女は俺の左側に密着しているが、触れられている感覚は全くない。


 まるで空気だ。


 発光少女と目が合うと、ただでさえ緩い雰囲気の顔をさらに弛緩させて、にこっと柔らかく微笑む。


「m4i:@ueyq@,.0qdmeZd」ieo;w4;de9.r@ZseZd)ie94,」


 満面の笑みで何か言っているが、やはりさっぱりわからない。

相変わらず全身から光の玉が漏出し続けているが、特に実害は無さそうだ。

俺の方から発光少女に触れてみようと思い、手を伸ばしてみる。


 しかし、俺の手は発光少女をすり抜けて虚空を掴む。

どうやら、俺の方から発光少女に物理的な接触は出来そうにない。

触れられている感覚が全くないので、見た目は寄りかかられているように見えるが、実際には接触してないのかもしれない。

俺に危害を加える意思もないようだ。

もしかしたら、この状態で俺の寿命とか生命力的なものをドレインしている可能性もあるが、疑い出せばきりがない。

そうであるならおとなしく、ドレインされて干からびるだけである。

とりあえず、危険は無いと信じることにする。



 そうなると、前回の遭遇時に命がけで逃げ回った三日間がばからしくなってくる。


 今更だが……。


 いつまでもこうしていられないので、食事のために一階のダイニングに移動しようとベッドから立ち上がる。


「ちょっと、ご飯食べに行くよ」


 言葉は通じないが、一応発光少女に声をかける。


「s@btehk? 0qdmeZd」ieh,」


 何か返答しているようにも聞こえるが、さっぱりわからない。

部屋を出てダイニングに向けて移動を開始すると案の定、発光少女はすぐ後ろをついてくる。

前回と違って逃亡されないことがうれしいのか、ニコニコしているので機嫌はよさそうだ。


 倉庫にある備蓄のタンクから飲料水とフルーツの缶詰を取り出しダイニングの机に置く。

小鉢に缶詰めのフルーツを少し入れて、コップに水を注ぎ席に着く。

発光少女は俺の隣で機嫌よさげに立っている。

とりあえず、俺の隣の椅子を引いて


「そんなところに立ってないで座りなよ」


 と、声をかける。

言葉は通じないが座れと言われていたのは理解できたのか、発光少女も椅子に座る。


「どうぞ、人間? 地球人? と同じものを食べるのかわからんけど」


 小鉢に取り分けたフルーツを発光少女の前に置いてフォークも並べてやる。

俺は缶に直接フォークを突っ込んでフルーツを食べる。

俺の食べている様子を見ているので、目の前のフルーツが発光少女のための物なのは理解していると思うのだが……。

発光少女がフルーツに手を付ける気配はない。

口に合わないのか、そもそも食事を必要としないのか……。

次に水の入ったコップを彼女の前に置いてやる。


「食べ物は口に合わないか? じゃ、せめて水くらいは飲んだらどうだ?」


「3k,<0qdfiy:@ysat@Zwq^@mkst6nr@f^@zieoue9.jufp@yp@yqlwue:s@,」


 会話は全然成立しない。

何とかならないものかな。


「水、飲まないのか? み・ず」


 コップを手に取って、発光少女の目の前に持っていく。

発光少女はコップに手を伸ばし、俺からコップを受け取る。

やはり発光少女の側から触れようと働きかけるものは触れたり掴んだりできるようだ。


「み・ず? nr@03uqkbsf@w@c4e4k,?」


 !!


 発光少女が今、【みず】って発音したよな?

こちらの言いたいことは伝わっていなさそうだが、俺の言葉を復唱したようだ。

これって、使っている言語が全くの別物ではあるが、発光少女自身は明確な知性のある存在ということなのでは?


 もしそうなら、発光少女との意思疎通はワンチャンあるんじゃないか?

状況を打破できうる希望が出て来たかもしれない。

ほんのわずかな可能性だが……。


 俺の取るべき選択肢を【四・】から【三・】に変更する。


三・次に発光少女が出現したとき、コミュニケーションを試みて脱出方法を聞いてみる。



 最大の問題は、発光少女の言葉が地球上のどの言語でもないだろうということだ。

だが、今の俺には地球上のどんな人間にもないイニシアティブが一つある。

もちろん脳内PCだ。

発光少女の言葉を音声データとして蓄積し、辞書化して発光少女の言語を分析していけば……。

脳内PCのおかげで容量の許す限り、俺は擬似的な瞬間記憶能力者になれる。

発光少女が使っている謎言語の習得も、並の人間よりはるかに速いはずだ。


 敵意の無い知的存在であるならば、いつまでも発光少女呼ばわりは失礼だろう。

まずは自己紹介をしてみようか。

そもそも名前がわからないとコミュニケーションの取っ掛りもないからな。


「今更だけどさ、自己紹介をしようかな。俺の名前は大山 悠斗(おおやま はると)。君の名前を教えてくれないか?」


「b@/y,.0qdfooe5kq@eeag」4z4b@dtiy:@ykbsf@f0touek」


 だめだこりゃ。

もっとシンプルなところから入っていかないと。

それこそ、0歳児相手に言葉を教えるレベルからだな。

俺自身を指さしてシンプルに名前だけを伝える。


「俺の名前、大山 悠斗。は・る・と」


「?? 5Zs,3uqk6uj5Zwbsw@eektu?」


「は・る・と」


「???」


「は・る・と」


「ハ・ル・ト?」


 おっ、通じたか?


「そうそう! は・る・と」


「ハ・ル・ト」


「はると」


「ハルト」


 どうやら、俺の名前が「悠斗(ハルト)」であることは理解してもらえたようだ。


「ハルト、ハルト、ハルト!」


 俺の名を嬉しそうに連呼している。


 そんな彼女を指さして


「次は、君の名前を教えて欲しいんだけどな」


 そう声をかける。


「0qdkuj5? ue9.pe;eiuj5Zw3jlent@ueto」


「名前は?」


「iy:@yqaftZwipe;eib84kuj50z:w92@bs3.toハルトm0qdkbsrgi9yw@ee9」


 これは、厳しいな。

名前を聞き出すだけで大苦戦だ。


 仕方がない。

暫定的に何か呼び名をつけよう。

何か良い名前は無いかな。


 イメージ的に和名をつけるのもあれだしな。

全身は光っているし、体からピカピカと漏れ出ている光球からとって【ピカリーヌ】……。


 うわ、無いわ。

【ピッカリ】……最悪だな、俺のネーミングセンス。

子供向けのモンスターコレクションゲームに出てくる、モンスター名並みの稚拙さだ。

もう難しく考えずに、既存の言葉から語呂の良いものをチョイスするか。


 早速、脳内PCの辞書を検索する。


【ピリカ】


 アイヌの言葉で【美しい】【良い】みたいな意味があるようだ。

うん、いいんじゃないかな。


「君の名前がわからないからさ。とりあえず、名前がわかるまで君のことを【ピリカ】って呼ぶよ」


「ハルト? 0qdf3uqseZd」ieo;qoc;w@eeto」


 さっきと同じ要領で、ピリカを指さして名前だけを伝える。


「ピリカ」


「??」


「ピ・リ・カ」


「ピ・リ・カ?」

 

 彼女が復唱した。

伝わったかな?


「そうそう! ピリカ」


「ピリカ」


「ピリカ。わかってもらえたかな? ピリカ」


「ピリカ! ピリカ!」


 ピリカは自分を指さしてそう言っている。

どうやら、俺が彼女の事をピリカと呼ぶことにしたことは理解したようだ。


 俺のことを指差して「ハルト!」次に自分を指差し「ピリカ!」と繰り返している。



 ここからが本番だな。

ピリカの言葉を理解する、またはこちらの言葉をピリカに理解してもらうことが必要なわけだが……。

俺がピリカから彼女の言葉を教わりつつ、日本語をピリカに教えてお互いに学習をするのが良いような気がする。


 ここで俺は一計を講じる。

確か、押し入れの奥の方に、甥っ子が産まれた時に買った知育玩具とか教材が残っていたはずだ。


 甥っ子は生まれた時から小学校に入るまで、ほとんどこの家に入り浸っていた。

そのため、この手の玩具や教材的なものには事欠かない。

よく処分せずに残していたものだ。


 押し入れの奥から、ごそごそと知育玩具を取り出す様子を、ピリカが後ろで興味津々に眺めている。

まずは、二歳以下を対象にした知育玩具でピリカと遊んでみながら相互に学習してみようかな。


 これを使って甥っ子の子守をしていたことを思い出して、少し懐かしい気分になる。



……さて、始めようか。


 ひとまず、十六話は明日4月6日の21:30の投下を見込んでいます。

この辺からちょっとセリフが増えてくることもあって、投稿直前の最終推敲の手間が

増えてきます。

 頑張って予定通り投稿しようとは思ってますが、その気力を何卒ブックマークと

評価の★をポチることで頂ければ嬉しい限りです。

 ブックマーククリックに五秒。★一個つけるのに五秒。

どうか10秒の手間を割いていただけないでしょうか?よろしくお願いいたします。

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