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百四十九話 真実は表に出すことなく墓まで持っていけ

 全ての泥ミミズ(マッドワーム)を片付けてボル車まで戻ったころには、すっかり日が落ちていた。

そのため一晩ここで野営することになったが、皆の表情は明るい。

理由は当然、大きな被害を出すことなくペポゥ討伐を達成したからだろう。

戦闘で消費した物資の空きスペースにはペポゥの主(マスターペポゥ)と数匹の泥ミミズ(マッドワーム)の屍骸が積みこまれている。

ギルドとしても初見の魔獣と魔物ということで、色々調べるらしい。

貴重な素材が獲れるかもしれないし、こいつらのもっと詳しい生態や攻略法が見つかるかもしれない。

この辺の事後処理はギルドに任せておこう。



 12月27日



 二日かけてラソルトに戻ってきた。

もちろん街はペポゥ討伐成功の報せに沸いた。

誰一人欠けることなく全員生還を果たし、帰りを待っていた親兄弟・友人・恋人との再会を喜び合っている。

地球にいる妹とその家族やダチと二度と会うことが出来ない俺がこんな光景を見てしまうと、さすがに少しセンチな気分にもなる。

だけど…… うん、俺も寝覚めの悪くなるような結果にならなくて良かったと思っている。

それにこの異世界にだって新しい家族とダチが一人ずついる。

ボッチで寂しいなんてことは無い。

コミュ障の俺にはこのくらいが丁度いい。


 俺は余所者だし、ピリカがいないと実はラライエ最弱だからな。

ヘンなボロが出る前に、俺のヒキオタライフの足掛かりを見つけねば……。

そして、注目を浴びる前にこの功績をアルドに向くように仕向けよう。


 さて、これで俺の旅を阻むものはいなくなり、大手を振って中央大陸本土に行くことが出来そうだ。

このままエーレに行ってしまおうかとも思ったが、ペポゥ討伐の報酬は貰っておきたい。

懐具合はかなり心細いことになっているからな。



 ……。


  ……。


 12月30日


 ラソルト帰還から三日が経過した。

お祭り騒ぎの街も日常に戻りつつあり、ミーデン島に避難していた人々も少しずつ戻って来ている。

ペポゥ討伐の報酬の準備が出来たとのこと報せが来たので、ギルドに足を運ぶ。

作戦に参加した他の冒険者たちも指名依頼の報酬を受け取りに来ている。

皆、ほくほく顔なので上々の収入になっているっぽい。

これは俺も期待できそうだ。


「あ、アルドさん! お二人が来たらご案内するように言われています。こちらへどうぞ」


 俺達の姿を見たギルドの職員がそう声を掛けてきた。

ま、アルドは日輪級で勝利の立役者だからな。

俺達はギルマスの部屋に通された。


「おっ、来たね。まずはお疲れさん! おかげでラソルトとエーレが守られたよ」


「いいんだ。それが俺の仕事だからな」


 こういう時のアルドの受け答えは淡白だが、そういうところもこいつの良さだと思う。


「早速、報酬の話と行きたいところなんだけど…… その前にアルドに話さなきゃいけないことが出来た」


 ギルマスの表情はとても真剣だ。

とてもめでたい話を切り出す顔じゃないな……。

場の空気が絶対に面倒な話だと告げている。


「昨日、ギルド本部から最新の通達が来た。アルドは気をしっかり持って聞いてほしい」


 ガキ大将属性のアマゾネスが嫌に話を引っ張ってくるな。


「あんたの勇者……。序列(カレッジ)402番の勇者セラスとそのパーティーが依頼に失敗して死んだ。パーティーはここにいるあんたを除いて全滅したそうだ」


「!! なんだって?」


 アルドが予想外の報せに固まる。

俺はなんとなく、状況が見えてきた。

なるほど…… そう来たか。

一応、この事態も想定はしていた。

アルド…… 余計なことは言ってくれるなよ。

ここの対応は大事だぞ。


「何か訳があって勇者と別行動していたんだろ? どうするんだい? 希望するなら次のモンテス行きの便に捻じ込んでやれるけど……」


 ギルマスはアルドの心情を汲みとって、すぐにモンテスに戻れるように取り計らってくれると言っている。


「いや ……大丈夫だ。今戻っても俺にやれることは無い。俺はこのままハルトと行くことにする」


 それがアルドの選択ならそれもいいだろう。

この状況ならモンテスに引き返してもアルドに身の危険は無いと思うけど……。

俺も内心、アルドが一緒に来てくれるのならうれしい。

この異世界でたった一人のダチだからな。


「あのさ…… 勇者がいなくなったらアルドはどうなるんだ? 勇者パーティーが無くなったら日輪級じゃなくなるのか?」


 当然に湧いてくる疑問をギルマスにぶつけてみる。


「いや…… アルドは日輪級冒険者のままだ。勇者ではないし、勇者パーティーのメンバーでもなくなるから連盟からの支援は無くなる。こんな風にメンバーを残して死ぬ勇者だっているからね。残されたメンバーの処遇については規定がある」


 そりゃこんな商売だ。

こういう時の対応の仕組みはあるだろうな。


「勇者が先に死んだ場合、連盟からの支援はそこで終了になる。だけど、ギルドで最高等級であるミスリル級相当の日輪級冒険者として扱うことになっている。失業の心配はしなくていい」


「なるほどね……。一応、腕利きの冒険者としての立ち位置は保障されるわけか」


「この手の日輪級冒険者はメンバーに欠員が出ている他の勇者にとっても貴重だよ。大抵は他の勇者からパーティーの勧誘があったりするもんだ」


「そういうものか……」


「ましてやアルドは勇者抜きでペポゥ討伐を成した日輪級だ。絶対に中央大陸の勇者が放っておきやしない。今頃、王都にペポゥ討伐の報せ持った早馬が走っているはずだ。情報が伝わったら覚悟しておいた方がいいよ」


「覚悟…… いったい何の覚悟が必要なんだ?」


 おい…… アルド…… わからないのか?

最近気づいたが、こいつ変なところでポンコツなところがあるよな。


「何言ってんだい! 中央大陸にいる勇者達がアルドを勧誘に来るよ。もう、より取り見取りだろうさ! 羨ましい話だな」


 ギルマスがニカっとアルドに笑いかけた。


「すまない…… それはありがたいが、そういう気分じゃないんだ」


「まぁ…… そうだろうね。自分の勇者と仲間を全て失ったばかりでする話じゃなかったね……。 それは気持ちが落ち着いてからゆっくり考えるといいさ」


 ギルマスは勝手にそう解釈して話を締め括ってくれた。

だけど当のアルドはこんな発表をした連盟の真意を測りかねているんだろうな。


「さて、あんた達の報酬を渡そうかね。リエラ!」


「はい!」


 ギルマスに呼ばれて受付嬢がトレイに乗った袋を二つ持ってきた。

まぁまぁデカいな。


「こっちがハルトの分だ。金貨で250枚ある」


 おっ!

等級無しの13歳の子供に払う金額にしては破格だな。

これだけあれば年単位で引きこもっていられる。

どうしたもんかな……。


「アルドはこっちだ。金貨400枚ある。アルドの方が高額なのはもちろんアルドが日輪級だからだ」


 俺は別にアルドの方が報酬が高くても全く問題はない。

俺は遠慮なく金貨の詰まった袋を受け取る。

アルドも続いて報酬を受け取った。


「これは多すぎないか? セラスが魔獣討伐を成した時でもこんな金額は出なかったぞ」


「いいんだよ。中央大陸でのペポゥ討伐にはそれだけの価値があるんだからさ」


「そうか…… わかった」


 アルドも納得したみたいで報酬を背負い袋に仕舞った。


「それで…… お前たちはこれからどうすんだい?」


「数日のうちにエーレに向かうよ」


「そうかい…… あんた達には感謝しかない。いい旅になることを祈っているよ」


「ああ、ありがとう」


 俺達はギルドを後にした。



 ……。


  ……。


 宿に戻った直後、アルドが俺とピリカの部屋にやってきた。

まぁ、来ると思っていたよ。


「ハルト、セラス達の事だが ……どういうことかわかるのか?」


「まあね……」


「早速だがお前の考えを聞かせてくれないか?」


『ピリカ、この部屋の会話を盗聴している奴はいるか?』


日本語でピリカに確認する。


『大丈夫! ピリカ達以外誰もいないよ』


「なら、結界を頼む」


「はーい!」


 ピリカが部屋の中に結界を展開させる。

これでどんな大声で話をしても容易に気づかれないはずだ。


「前に話をした通りモンテスを出る直前、俺はセラス達がやってきたことの全てをギルドと連盟の両方にリークしてきた」


「それは聞いた」


「その直後にアルドとピリカと俺、全員揃って出国だ。セラス達を始末したのが俺達なのは子供でも想像できるだろうさ」


「俺はてっきり勇者殺しの手配書が出回るんじゃないかと思ったけどな」


「最悪の筋書きだとそれもあり得た…… だけど連盟もギルドもそれはリスクが高いと思ってくれたみたいだ。何で二つの組織に真実を伝えたのか……。それは、セラス達のやった事を揉み消すのが難しいと思わせるためだ。情報隠匿の基本は、真相を知るものを一人でも少なくすることだからな」


 アルドは黙って俺の話を聞いている。


「国家を超える二つの組織が同時に真相を知ってしまった。これでギルドと連盟、どちらかがうっかりボロを出しただけで真実が明るみに出るかもしれない…… 勇者が保険金欲しさにパーティーメンバーの偽装殺人を繰り返している…… こんな前例は過去にあったか?」


「俺が知る限りは無い」


「だろ? なら、表沙汰になれば勇者がやらかす悪事としては前代未聞になる。でも、俺は過去にもこの手の勇者の不祥事はそれなりにあったんじゃないかと思っている。今までは連盟がうまく握りつぶしてこられただけでな」


「まさか…… 過去の勇者もそんなことを……」


 勇者だって人間だ。

真性オタク属性である俺は勇者の正義を最も疑っている人種だ。

そもそも、これだけの巨大組織が汚点無しで何千年も存続できるはずがない。

絶対に後ろ暗い所だらけのはずだ。


「だが、今回は真実を知ってしまったギルドも押さえ込まないといけない。短期間で冒険者ギルドのへの根回しをするとなると連盟も相当苦労したと思うぞ…… しかもだ……」


「しかも…… 何だ?」


「真実を知る精霊術師の小僧は見た事もない呪紋で、勇者本人とその仲間の肉声を赤裸々に再生できると来た。そんな小僧が生き残ったパーティーメンバーと国外脱出した。さぁ、連盟はどうすればいい?」


「マズいことになったと思うだろうな。もう追っ手を出してもすぐに追いつけないだろう」


「そういうこと……。国外の王都なんかで呪紋を何百枚もバラまかれでもしたら、連盟と勇者たちの名声と信用はガタ落ちだ。当然、隠ぺいも不可能になる。にもかかわらず、いまだに国内外でセラスの噂ひとつ出てこない。これで俺達がこれ以上、事を荒立てるつもりが無いことを連盟は察したということさ」


「どういうことだ?」


「連盟はこの発表で暗に俺達に向けてこう言ってるんだよ。【勇者セラス殺しはこれで手打ちにして不問とする。だからお前たちも真実は表に出すことなく墓まで持っていけ】ってな」


「本当にそうなのか?」


「多分だけどな……。しばらく連盟の出方は気にしたほうがいいとは思うけど、これで決着を図る気でいると思うぞ」


「で、ハルトはどうするつもりだ?」


「油断はできないけど連盟がそのつもりなら乗るつもりだ。きっとこれが連盟に出来るギリギリの妥協点と思ってるからな」


「……わかった。なら俺もハルトに合わせよう」


 ひとまず、ケルトナ王国の外で大人しくしている分には連盟も俺達の事を静観してくれそうだ。

完全に安心はできないが、それでも逃亡者生活になる可能性は大幅に減ったと言えるだろう。


明日からいよいよラソルトを出て中央大陸本土に向けて出発だ。

俺のヒキオタライフを見つけるために……。


 夢のシルバーウイークもあと一日ですね……。

もう今からブルーです。

社畜ライフは嫌だぁ……。


 何とか日曜日のうちにあと一話投下しようと思います。

引き続きよろしくお願いいたします。

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[一言] そういえばヒキオタライフが目標でしたね・・・
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