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百四十七話 少し黙ってろ! アルドの邪魔をするな!

 アルドとヴィノンを狙ってくる泥ミミズ(マッドワーム)はヴィノンのブーメランの餌食になっていく。

両手で巧みに二つのブーメランを操って泥ミミズ(マッドワーム)を始末していく。

二人は問題ない。


 俺はというと……。

ぶっちゃけ、何もしていない。

アルドとヴィノンの少し後ろについて走っているだけだ。

俺を狙ってくる泥ミミズ(マッドワーム)は俺の視界に入ることさえできない。

俺を狙って動いたら、次の瞬間【ピリカビーム】の餌食である。

本気で俺の護衛に専念しているピリカさんに一分の隙も無い。

川の中に潜むスライムさえ見逃さないピリカの目をかいくぐって俺を襲うのはこいつらには無理ゲーのようだ。


 程なく、泥団子まであと30mぐらいのところまで接近できた。

アルドは足を止めてミスリルの剣を構える。

ここまで接近されれば、さすがに中のペポゥの主(マスターペポゥ)が気付いていないわけがない。

接近してくる外敵に気付いたら即座に転がってくると思っていたのに、全く動きだす気配が無い。


 もしかして【クリメイション・改】の炸裂に巻き込まれて死んだのか?

いや、そんなことは無い。

奴は確実に健在だ。

もしペポゥの主(マスターペポゥ)が死んだのなら、こんなデカさの泥団子が強度的に形を保っていられるはずがない。

この泥団子は奴の能力で維持されているはず。

大体、直径4mを越える泥団子が……?


 !!


 そういうことか!

【クリメイション・改】が炸裂した直後の泥団子は直径4.4mだったが、今、俺の目の前の泥団子は直径5.6mになっている。

ペポゥの主(マスターペポゥ)は俺達を迎え撃つよりも泥団子の修復を優先しているだけだ。

人間三匹程度で鉄壁の泥団子をどうこうできるはずがない! ……とでも思っているのか?

甘いな。

泥団子の修復を後回しにして突撃していれば、勝てないまでも俺達を突破して逃げられる可能性ぐらいはあったかもしれないのに……。

だが、もう無理だ。

アルドが泥団子を射程に捉えた以上、お前の死と俺達の勝利は確定した。


「泥団子を修復してるぞ! 泥団子がペポゥの主(マスターペポゥ)に攻撃が届くデカさのうちに仕留めろ!」


 アルドに泥団子とペポゥの主(マスターペポゥ)の状況を伝える。


「コルムワナシャヲミモニイノソハババタメノツノテアヲヤクイウガタム! アタヤイナヨケハトテニコバリキド!」


 アルドは呪文を続けて二つ詠唱する。

もちろん防御無視の攻撃と遠隔斬撃だ。


「ふぁっ!? ちょ、ちょっとアルド! 何やってんのぉ! そんなことしたって魔力(マナ)が拡散するだけで意味なんて……」


「ヴィノンうるさい! 少し黙ってろ! アルドの邪魔をするな!」


 ヴィノンを叱りつけて黙らせる。

ヴィノンは不満そうな表情を向ける。

アルドが集中しているのに邪魔をさせるわけにはいかない。


「ハルトきゅん…… いきなりひどいじゃないか……」


「ヘンな人間うるさくてウザい! 永遠に黙ってろ! ハルトに面倒かけんな!」


 ピリカが俺の真似をしてさらに言葉をヴィノンに被せる。


「精霊ちゃん…… 言葉に殺意がこもってないかい?」


「シャシャァ!」


 さらに【シャシャァ】を食らわせて追い討ちをかける。

ほんとにヴィノンには容赦が無いな。


 そんなことをしている間にアルドは攻撃態勢が整ったようだ。


「行くぞ…… つぁりゃあぁっ!」


 渾身の連撃を泥団子に向けて放つ。

斬撃の軌道は泥団子全体に散らして放たれ続けている。

泥団子のどこに潜んでいようとも、躱すことが出来ないように……。


 数発の斬撃が泥団子に命中したところで、急に泥団子がこちらに向かって転がり始めた。

中に潜むペポゥの主(マスターペポゥ)に命中した攻撃があったのだろう。

アルドの攻撃が自分に届くことを理解して、大慌てで俺達を押しつぶすことにしたか。

一撃で死んでくれるのが理想だったが、なかなか思惑通りにはいかないな。


「アルド怯むな! 斬りまくれ!」


「え…… えっ? 何これ? アルドの攻撃って届いているのかい?」


 ヴィノンが信じられない物を見てるような表情で、アワアワしている。


「うおおおぉっ!」


 アルドは攻撃の手を緩めることなく、斬撃を放ち続ける。

アルドの魔力(マナ)で、何発行けるのか分からんけど……。

斬撃を受けながら泥団子は転がってくる。

どうだ? 行けるか?

いよいよダメそうなときは、全員で泥団子の突撃を回避するセカンドプランを用意はしてあるが、出来れば使いたくない。


 ……ちょっと無理かな?

ピリカにセカンドプラン発動の合図を出そうと身構えたその時……。

頂上から20mほど斜面を転がってきたところで、泥団子がドチャアッっと音を立てて全て崩れた。


 わずかに盛り上がった泥の山の上の方にペポゥの主(マスターペポゥ)がうつ伏せに倒れている。

すかさず【フルメタルジャケット】を発動させて、ペポゥの主(マスターペポゥ)の頭に打ち込んでおく。

泥団子が維持できなくなっているということは、土を操る能力が失われているということだろう。

もう死んでいるとは思うが、確実な止めを刺しておきたい。


「や、やったのかい? これ……」


 ほらな。

こんなフラグをおっ建てる空気読めない奴がいるから……。

泥の山を登ってG管でペポゥの主(マスターペポゥ)を小突いてみるが、反応はない。

死んでいるな。


「お疲れさん! ペポゥの主(マスターペポゥ)討伐だ!」


 アルドは肩で息をしている。

ミスリルの剣を使った新技はかなり消耗するみたいだ。

ふらついて尻もちをつきそうになったアルドにヴィノンが肩を貸す。


「アルド…… あれは一体何だい? あんな離れ業をやってのけた剣士は歴史上誰もいないはずだよ?」


「それは後だ。まずここを離れよう。まだまだ泥ミミズ(マッドワーム)は健在だ。ヴィノンとピリカで先行して泥ミミズ(マッドワーム)を頼む。アルドは俺が引き受ける」


 泥ミミズ(マッドワーム)に対してあまり相性の良くない俺がアルドを支えるのがいいだろう。

ヴィノンと交代して俺がアルドを支えて、最前線からの撤収を始める。

事実上アルドはこれ以上戦えない。

はやく泥だらけのエリアから脱出して安全を確保しないとな。


 ……。


   ……。



 泥の丘を三分の二ぐらい下がってきた。

散発的に襲ってくる泥ミミズ(マッドワーム)はヴィノンのヨーヨーのような動きをするブーメランか【ピリカビーム】の餌食になる。

冒険者たちが戦っているエリアまで下がってきたのでここまでくれば、泥ミミズ(マッドワーム)に奇襲を受けるリスクはかなり低くなっていると思う。


 冒険者たちは3~5人ぐらいのパーティーに分かれて泥ミミズ(マッドワーム)を各個撃破している。

泥の中に肉の塊を投げ入れて、肉の匂いに釣られて喰いついてくるやつを集中攻撃で倒す作戦か。

俺の予想通り、肉の臭いで容易く釣れるようだ。

これなら時間さえかければ、全ての泥ミミズ(マッドワーム)を狩り尽せそうだな。


「お前達、戻ったのか! 首尾はどうなんだい?」


 ギルマスが俺達の姿を見て駆け寄ってくる。

自力で歩けないほど消耗しているアルドの様子を見て、ギルマスの脳裏に嫌な予感がよぎったみたいだ。


「おい、まさか……」


「大丈夫だよ、ギルマス。丘の上にペポゥの主(マスターペポゥ)の死体が転がってるよ。アルドは魔力(マナ)の使い過ぎで消耗しているだけさ」


 ヴィノンが状況と成果をギルマスに伝える。


「は、ははっ! そうかい! よくやってくれた! 下がってゆっくり休んでくれ! あとはあたしらに任せてくれていい」


 ギルマスは全身で喜びを表して、アルドの背中をバンバンと叩く。

もし鎧無しで、あんなムキムキアマゾネスに背中叩かれたら、叩かれた数だけくっきりと手形が残りそうだ。

アルドは何とも言えない乾いた笑みだけ浮かべている。

鎧を着ていても背中痛そうだが、ギルマスがアルドの戦果を称賛してのことだと理解して、そこは抗議せずに受け入れているんだろうな。


「お前ら! 気合い入れろ! アルドがやってくれたよ! あとはこのミミズ共を始末すればあたし達の勝利だ!」


 ギルマスが戦っている皆にペポゥの主(マスターペポゥ)討伐成功を伝えて士気高揚を図る。


「そうか! さすがは日輪級だ!」


「いける! いけるぞぉ!」


「人類初のペポゥ討伐依頼達成だぜ! 報酬も期待していいんだよな? ギルマス!」


 冒険者たちの泥ミミズ(マッドワーム)を倒すペースがさらに上がる。

こいつらが泥の中でしか生きられない魔物なら、もはや逃げ場はない。

全滅は時間の問題だろう。


 最後方のボル車のところまで下がってきた。

ここにテントが二つ組まれていて簡易的な支援拠点になっている。

負傷者の治療や前線に薬・泥ミミズ(マッドワーム)をおびき寄せる肉・矢などを供給するためのものだ。

運搬役(ポーター)の冒険者が数人、せっせと物資を持って前線と拠点を往復している。


 アルドは地面に敷かれた革製のシートに腰を下ろして、ようやく一息ついた。

テントの中で泥ミミズ(マッドワーム)にやられた冒険者が治癒術式で治療を受けているのが見えた。

泥ミミズ(マッドワーム)に噛まれたにもかかわらず、脚がまだ体に繋がっている。


「大丈夫か?」


 あまり重傷のようなら、ピリカに治癒術式を頼む方がいいかもと思って声を掛けてみる。


「ああ、何とかな……。けどあのミミズ、洒落にならねぇ。普段の装備だったら膝から下が無くなっていた」


 冒険者は横に置かれている金属製の脛当て(グリーブ)を見てそう言った。

脛当て(グリーブ)泥ミミズ(マッドワーム)の口の形にへこんで、牙がある部分に穴が開いている。

話を聞くと、今回の作戦に参加する冒険者と駐留軍兵士は全員、金属製の脛当て(グリーブ)を装備して参加していたらしい。

泥の中から真っ先に足を狙われるのが事前にわかっていたからな。

ギルドと駐留軍も対策は取っていたわけか。

これなら、脚を失うようなダメージを負うリスクを大幅に軽減できる。


 あとは冒険者たちに任せても大丈夫そうだな。


 明日は有給取れたので、四連休です! 

何とか一日一話ペースで投稿したいところですが……。

ダメだったらごめんなさいです。


 前回投稿から、評価ポイント・ブクマが1増えました!

つけてくださった方ありがとうございます!

これからも見てもらえると嬉しいです!


引き続き、よろしくお願いします。

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