百四十六話 俺が遅れても構わず行ってくれ!
「アルド! 行くぞ! お前がペポゥの主を倒さないと逆転負けもありうるからな!」
アルドは頷いて冒険者や兵士達と共に駆け出す。
「ヴィノン! アルドを守れ! 泥ミミズにアルドの邪魔をさせるな!」
「もちろんさ! ハルトきゅんの期待に応えて見せるよ!」
いや実際のところ、そこまで期待はしてないけどな。
ヴィノンもアルドの横に並んで共に丘の上を目指して走り出す。
俺も【ブレイクスルー】と【プチピリカシールド】の術式を発動させ、G管を腰に差してアルドの後に続く。
小さい坂を上りきったところで、その向こうにあるやや大きい丘が視界に入ってきた。
その光景は前回来たときとは全く別物に変貌していた。
丘一面に泥が流れだしていて、地面の色が茶色一色になっている。
【クリメイション・改】によるガンサイザーの効果で、泥団子の大部分が崩れされたせいだ。
ここまでは目論見通り。
そして、その丘の上に泥団子が鎮座している。
やはり全ての泥団子を崩すことはできなかったか。
残っている泥団子の大きさは……。
直径4.4mと脳内PCの測量アプリが算出している。
ざっくり重量を推定して約40トンぐらいか……。
2万4千トンを残り40トンまで削れたと考えれば成果としては上出来だ。
だが、それでもあれが転がってくればその威力は凄まじい。
転がってくる泥団子にぶつかったら普通に死ぬ。
ここにいる冒険者たちがあれと戦うことになれば、どれほどの犠牲が出るのか分からない。
もたもたはしていられない。
足元はそろそろ、流れてきた泥のエリアに差し掛か買ってきた。
もう、いつ生き残った泥ミミズが襲ってきてもおかしくない。
「よし、このまま行くぞ!」
アルドが躊躇いなく泥の中に踏み入る。
「ワアルミコワハガルワイヲタシズイノバガマクルヤタハル」
呪文を詠唱しながらヴィノンが続く。
初めて聞く呪文だ。
どんな効果があるんだろうか?
「ピリカ、最優先でアルドを守ってくれ」
「や! ピリカが守るのはハルトが一番だもん!」
「俺には【プチピリカシールド】がある。泥ミミズに噛みつかれてもいきなりやられたりしない」
「やぁだぁ!」
ピリカの優先順位は一貫してブレない。
「頼むよ! アルドは噛みつかれたら一発アウトなんだよ」
「じゃぁ、アルドに【プチピリカシールド】使えばいいじゃない! これでアルドも一発アウトじゃなくなるよ!」
!!
「それだ!」
正直、その発想はなかった。
なんせ異世界に来てほぼ六年、ピリカ以外の誰にも会わない生活だったからな。
確かに魔法を使う対象は俺自身である必要はない。
ポーチから【プチピリカシールド】を二枚取りだして、アルドとヴィノンに向けて発動させる。
二人は自分に魔法をかけられた事に気付いたみたいで、急に立ち止まる。
「!! ハルトきゅん、今、僕たちに魔法使ったよね?」
「分かるのか?」
「当たり前だ。魔法をかけられると独特な魔力の波が体にまとわりつくからな」
うんうんとヴィノンもアルドに同意している。
そういうものなのか……。
地球人の俺には分からない感覚なんだろうな。
「二人に防御魔法をかけた。これでいきなり泥ミミズに足を食い千切られたりしないと思う」
「ハルトがよく使っているあれか?」
「そう、あれだ!」
アルドは【プチピリカシールド】の効果を見た事があるからな。
どんな物かはわかっているからこれで通じる。
「もちろん、万能無敵じゃないから過信はするなよ」
「ああ、わかっている。それでも助かる、ありがとう」
アルドは再び泥団子に向かって走り始める。
「なんだよ! 二人だけで通じ合ってさ! 僕もハルトきゅんとそんな関係になりたいんだよ!」
会話の内容が理解できなかったヴィノンは、不満を口にしながらも走り出したアルドの後を追う。
俺はヴィノンとそんな関係になりたいとは思えないのだが……。
ヴィノンがどういう奴なのか、さっぱり理解できない。
多分、悪いやつじゃないとは思うけど……。
アルドの少し前方の泥が不自然に左右にうねりながら接近してくる。
速度がかなり早い。
来たか。
泥ミミズだ。
この動き……。
こいつは生物的にはミミズじゃなくて蛇か?
ミミズのような移動方法ではこの速さは出ない。
脳内PCの計算では時速15kmは出ている。
俺達が身体強化無しで走る速度と大差ない。
確か地球最速級の毒蛇【ブラックマンバ】が時速11kmぐらいと聞いたことがある。
水田のような抵抗の強い泥の中にもかかわらず、こいつはこれよりさらに速い。
確かに動き自体は蛇のそれだ。
しかし、蛇は獲物を丸呑みにするがこいつは獲物を嚙みちぎって食らう。
これは、ミミズでも蛇でもない別のナニかと判断するべきかもしれない。
「させないよ!」
ヴィノンが腰のブーメランを投擲する。
ブーメランは真っすぐ泥ミミズに飛んでいって命中する。
命中したブーメランはその場で猛回転して泥ミミズをズタズタに切り裂いてヴィノンの手元に戻ってきた。
泥ミミズはバラバラになって、肉片や内臓を泥の中にぶちまけている。
こいつはオーバーキルじゃないのか?
ヴィノンのブーメランは物理法則無視のトンデモ軌道で飛ぶとは思っていた。
魔法のある異世界だし、リコの苦無もそうだったからな。
しかし、これは想定していなかった。
これじゃまるでヨーヨーだ。
ブーメランに魔力の見えない糸でもついていてヨーヨーのような軌道で操作できるというのだろうか?
今度は左右から一匹ずつ、二匹同時に来た。
目がないくせにかなり正確に獲物を認識してくるな……。
「ヴィノンは右を! 左は引き受けた!」
ヴィノンは右から来る個体に狙いを定めてブーメランを振りかぶる。
俺は【フルメタルジャケット】を左から来る泥ミミズに向けて発動させた。
ギルティングメタルの弾丸が泥ミミズに命中した。
「んなっ!」
【フルメタルジャケット】は確実に命中したにも関わらず、泥ミミズは全くひるまずに突っ込んでくる。
さらに【フルメタルジャケット】を追加でお見舞いする。
二発…… 三発…… 四発……
少しずつ泥ミミズの動きが鈍くなってきて、俺の足に食らいつく少し手前で動かなくなった。
一匹倒すのに銃弾四発か……。
こいつは想定外だ……。
生命力が強すぎて致命傷一つぐらいじゃ即死しない。
【フルメタルジャケット】はピンポイントで敵を打ち抜く攻撃だ。
虫のように致命傷を受けても、すぐに死なないような敵には効果が薄い。
こいつには剣でぶった切ったり、ハンマーで叩き潰すような広い面積でダメージを与える攻撃が有効と見た。
であれば、ヴィノンのブーメランは泥ミミズは有効な攻撃かもしれない。
「すまん! 俺の攻撃は泥ミミズに相性が悪そうだ。 あまり援護できないかもしれない」
「大丈夫! ハルトきゅんもアルドも僕がバッチリ守ってあげるからさ!」
ヴィノンが歯をキランっと光らせて、アピールしてくる。
ああ、そんなアピール要らないから……。
「俺の事はいい! アルドの護衛に専念して、もし俺が遅れても構わず行ってくれ!」
アルドは俺の言いたいことがわかっているので、黙って頷いてくれる。
「そんな…… ハルトきゅんを残して行けるわけが……」
「誰がこんな所に残るかっての! 援護が難しくなったと言っただけで、一緒にこのまま進むに決まってるだろ!」
こんな所で突っ立っていたら、次々とキモいミミズが集まってくる。
多分、泥団子が崩れた時の【クリメイション・改】の衝撃と高温の毒ガスで大部分の泥ミミズは死滅しているはずだ。
それでも100、下手すれば200匹以上の泥ミミズが生き残っていると思っている。
「ピリカ、すまん。俺の代わりに泥ミミズを始末してくれ」
「もちろん!ハルトはピリカが守るから!」
ピリカは満面の笑顔で横に飛んできて俺の護衛につく。
現状、戦力的に俺が一番襲われるリスクが高い以上、ピリカに助けてもらうことにためらいはない。
こんな所で、キモいミミズのエサになるつもりは無い。
だが、一匹狩るのに四枚も術式を使ってもいられない。
【フルメタルジャケット】での迎撃は諦めてG管を装備する。
ピリカが撃ち漏らして、接近してきた奴だけ棒術で叩き殺す方がよさそうだ。
キモいし数が多いかもしれないので、あまり近接戦闘はやりたくないが、この際仕方がない。
俺達は再び泥団子に向けて走り始める。
半年かかりましたが、おかげさまで50000PV達成です。
トップランナーは1時間で達成してしまう数字ですが……。
これが、今の自分のポテンシャルなので自分のペースで
投稿を続けていきます。
引き続きよろしくお願いいたします。




