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百四十四話 ハルトきゅんったら、照れ屋さんだね

 12月24日


 地球ではクリスマスイブか……。

滅亡の危機に瀕している地球でメリクリも何もあったもんじゃないけどな……。

朝食のために宿の食堂に向かうと、なぜかヴィノンが食事をしている。


「!! ハルトきゅ~~ん! アルドぉ! 精霊ちゃ~~ん! おっはよー! 今日はいよいよ出発だね!」


「お前…… こんな所で何やってんの?」


「朝ごはんに決まってるじゃないか!」


 ヴィノンはにこやかに俺の方を見て自分の隣の席をポンポンと叩く。

隣に座れって事か。

そこへピリカがふわりと飛来してヴィノンが指定している隣の席に座り……。


「シャシャァ!!」


「……はぁ、わかったよ。精霊ちゃんがここでいいよ」


 ヴィノンはがっかりした表情を隠そうともしない。

ピリカさんGJ!!

俺は横並びでピリカを挟んで席に座る。

アルドは俺の向かいの席に座った。


「まったく…… 精霊ちゃん、ハルトきゅんのこと好き過ぎでしょ!」


 ピリカは隣の席からガシッ! ってエフェクトが見えそうな勢いで俺にしがみついている。

そして凄い形相でヴィノンをにらみつけている。

ガルルルルッって唸っていそうな気がする。


「ハルトきゅんったら、照れ屋さんだね。出発当日になっても僕のところに来てくれないなんてさ」


 何を言ってるんだ?

俺がお前のところに行く理由が無いのだが……。

大体、ヴィノンがどこに住んでいるのかさえ知らない。


「何で俺がヴィノンのところに行かないといけないんだ?」


「はははっ! 面白い冗談だね。魔獣相手に戦うんだよ? 背中を預ける仲間として、さすがに連携の確認ぐらいは必要だろ?」


「え……」


「えっ?」


「ええぇぇぇ!?」


「ん?」


 このシチュエーション…… なんか二か月ぐらい前にも体験したぞ。


「お前…… 偵察任務は終わったよな? もう俺達と一緒にいる必要ないだろ!」


「そ…… そんなこと言わないでくれよぉ! 絶対役に立つからさぁ!」


 ヴィノンは今にも泣きだしそうな顔で俺に縋りつこうとしてくる。

いい歳して子供の足にしがみつこうとするんじゃない!


「シャシャァ!!」


 そんなヴィノンにピリカさんは一切容赦なく渾身の【シャシャァ】を食らわせる。

俺達、地味にメンドクサイ奴に付きまとわれてないか?


「今回の戦いの鍵はアルドだ。俺とピリカは安全圏から魔法ぶっ放せば、ほとんど役目は終わりだからな。一緒に行って良いかはアルドに聞けよ!」


 あまりにもウザくなってしまって、アルドに丸投げしてしまった。

このチャラ男…… 俺が今まで見て来たどの種類の人間にも当てはまらなさすぎる。

ヴィノンは猛スピードでアルドに駆け寄ってしがみついている。


「アルドぉ! お願いだよぉ! 一緒に行っていいだろぉ? 僕も君達と一緒に戦いたいんだよぅ!」


「よせっ! お前…… マジ泣きしてるのか! おいハルト! これは…… うわっ、鼻水が付いた! 汚ねぇ!」


 うわぁぁ……。


「マジかぁ……」


「ハルトぉ! あんな奴に【マジかぁ】あげちゃやだぁ!」


 なんか収拾がつかなくなってきた。


「ああもうっ! わかった! 一緒に来ればいいだろ!」


 アルドが根負けした。


「アルドありがとおぉ! 君の事も大好きだよぉ!」


「わかったから! 鼻水まみれの顔を擦りつけるな!」


 ()()()()

……こいつ ……やっぱり危ないやつなんじゃ……。

ピリカのヴィノンに対する警戒ゲージがカンストしていそうだ。

ピリカはいつでもヴィノンに【シャシャァ】をお見舞いできるように身構えている。

確かにアルドはこの街ただ一人の日輪級だ。

こんな状況下では周りから頼られるのも、分からないでもない。

しかし、ヴィノンのこれは明らかにそれとはベクトルが違うだろ……。


「それで、僕はどうすればいいんだい? めいっぱい頼ってくれていいからね!」


 さっきまでマジ泣きしていたのに、【はなまるの笑顔】で朝食を食べている。

俺達と一緒にいるということは、しくじれば真っ先に死ぬことになるというのに……。

何でわざわざ俺達と一緒にいようとするんだ?

こいつの思考回路は俺の理解を越えている。

この分だと、何を言っても無理やりついてくるに違いない。

予想外の事をされて作戦に悪影響を出されるよりも、敷いたレールの上を走らせておく方が良いだろう。

だったら……。


「さっきも言った通り、この戦いの鍵はアルドだ。何としてでもアルドを守れ! アルドの攻撃が泥団子に届くところまで、アルドを無傷で届けろ」


 泥団子を崩した後、アルドの護衛は俺とピリカだけでやるつもりだったが、泥ミミズ(マッドワーム)が何匹残るか分からない。

手数は多い方が良いだろう。


「!! それはとても重要な役回りだね! 任せてくれていいよ! 必ずアルドを守り抜くからさ! アルド! 僕がついてるから、安心してペポゥの主(マスターペポゥ)と戦いなよ!」


「あ、ああ……。よろしく頼む」


 ヴィノンのテンションにアルドも返答に困っているみたいだ。



 ……。


  ……。



 朝食を済ませた俺達は冒険者ギルドに向かう。

ギルドには完全装備の冒険者や駐留軍兵士達が集まっている。

数は二十人より少し多いぐらいだ。


「来たね。もう少しで全員揃う。もうちょっとだけ待っておくれ」


 ハードレザーに身を包んだギルマスが入ってきた俺達を出迎える。

背中にバカでかい曲剣を背負っている。

あんな剣、まともに振れるのか?


「その恰好…… ギルマスも行くつもりなのか?」


 一応確認で聞いてみる。


「当たり前だろ? ラソルトがやられちまったら、あたしの仕事場も無くなるじゃないか。ペポゥを何とかしないとあたしの居場所がなくなるからね」


 ギルマスはニカっと笑って、準備に奔走している職員たちの指揮に戻っていった。


「ギルマスはアレで銀等級だ。きっと頼りになると思うよ」


 ヴィノンはギルマスの実力をわかっているのか、そう言って空いている椅子に腰かける。

俺達の到着後も、パラパラと冒険者や兵士が集まってきて最終的に総勢40人ぐらいの戦力となった。

全員が揃ったようで、ギルマスが全員に檄を飛ばす。


「皆、良く集まってくれたね。知っての通り、ペポゥに街道を押さえられてラソルトは孤立状態だ。だけど、日輪級冒険者アルドと連れの坊やがペポゥの正体を見破ってきてくれた」


 ギルマスが全員を見まわす。

先週、偵察から戻った時にペポゥの正体、あれとどう戦うかは説明済みだ。

ここにいる連中はそれが分かった上で集まっているというわけだ。


「冒険者ギルド・ラソルト支部はここにいる全員に指名依頼を発出する!【ファルクス半島の街道に出現した魔獣、ペポゥを討伐せよ!】」


「うおおぉ!」


 全員が拳を上げてギルマスの依頼に応える。


「じゃあ出発するよ!」


 皆が次々とギルドを出て街の出口に向かっていく。


 ……。


   ……。


 街の出口の広場には結構な数の人が集まっていた。

作戦に参加せずに街の防衛や住人の脱出支援に回った冒険者や駐留軍兵士。

まだ脱出の順番が回ってきていない住民たち。


「頼んだぞ! 俺達の分までぶちかましてくれ!」


「任せておけ! もし駄目だったときは後を頼むぞ」


 兵士たちが握手を交わしている。

同僚の兵士達なんだろうな……。

別々の作戦に振り分けられたようだ。


「親父、おふくろ…… 心配するな。二人を魔獣のエサになんてさせねぇ!」


 若い冒険者が両親と思われる男女の肩を抱いて別れを惜しむ。


 あちこちでこんな光景が繰り広げられている。


「アルド」


 人混みをかき分けてから工房の店主が姿を見せる。


「頼んだぞ…… 俺をもう一度、家族に会わせてくれ」


「ああ、任せてくれ。この剣ならやれる」


 アルドは工房の店主と握手を交わして街の出口に向かう。

出口にボル車が一台、曳かれてきた。

冒険者や兵士達・ギルドが準備していた物資が積まれているんだろう。


「名残は惜しいだろうけど出発するよ!」


 ギルマスの合図を見て衛兵が出口の門を開放する。


「開門!」


 俺達は門をくぐって街道を北上を開始した。

明日はいよいよペポゥとの決戦だ。


 台風、大丈夫かな……。

大きな被害が出ませんように……。

どうせお出かけも出来ないだろうから、土日はちょっとでも

執筆を進めます。


 ブクマ・評価つけていただければやる気のブーストもかかります。

これからもよろしくお願いします。

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