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百三十九話 意外に鋭いな、このチャラ男

 全ての影像を確認し終って少しした頃。

ペポゥがゆっくり転がって丘の斜面を登って登頂部に戻ってきた。

そして再びその場に居座ってじっと動かなくなった。

比較的見通しのいいあの場所に居座って、獲物が来たら一気に転がって襲い掛かる。

多分、安定的に獲物がいるうちはあそこから動く気はないのだろうな。


「ハルト…… 大丈夫か?」


 アルドが俺を気遣って声を掛けてくる。


「ああ、大丈夫……。 大丈夫だ」


「顔色が少し良くないね。そのドローンが見てきたもののせいかい? これは一体何を見てきたんだい?」


「かなり凄惨な内容だ。あまり見るのはお勧めしないぞ」


「いやいや、そういうわけにもいかないでしょ。僕たちはアレの実態を知るためにここに来たんだからさ」


 確かに見てもらった方がいいのかもしれない。

あのミミズか蛇かよくわからない奴について二人は知っている可能性だってある。


「それじゃ、見せるけど覚悟だけはしてくれ。中々エグい光景だからな」


 映像データをスマホに転送して再生してやる。

アルドとヴィノン、そしてピリカがスマホの液晶画面を覗き込んで俺が見た映像データを確認する。


 ……。


    ……。


「確かにひどいね……。冒険者やってると人の死はどうしてもついて回るけどさ。ここまでのは中々お目にかからないね」


「それで ……だ。このミミズか蛇か分からんこいつについて何か知ってるか?」


「俺は初めて見る」


 アルドがそう答えた。

俺も六年近く緑の泥にいたわけだが、こんなのには遭遇してないな。


「僕も知らないよ。なんだろうね……」


「ピリカも知らないかな。見た事あるかもだけど、全然記憶にないからきっと大したことないよ。(けが)れの感じも魔獣じゃなくて魔物だし」


 そりゃ、精霊王のピリカさんから見たらなんでも大したことないだろうさ。

大したことあるのは多分、人の力ではどうにもならないようなレベルになるんじゃないか?

ピリカがこのミミズは緑の魔獣よりも格下と判断しているということはわかった。


「皆、こいつらが初見なのはわかった。とりあえず名前が無いと不便だから、仮に緑の魔獣を【ペポゥの主(マスターペポゥ)】、キモいミミズを【泥ミミズ(マッドワーム)】と呼称するぞ」


「いいんじゃない? ギルドに記録が無ければ新種の魔物・魔獣としてそれで登録されるんじゃないかな」


 新種の名付けに関われるかもしれないなんて、人生初体験だ。


「それじゃ、次にどうしても確かめておきたいことがある。ピリカ…… 頼まれてくれるか?」


「ピリカの出番だね! 任せてよ! ハルトのためなら何でもやっちゃう!」


 ピリカが【はなまるの笑顔】でやる気をアピールしている。

まだお願いの内容を何も話して無いんだけどな……。


 ピリカへの頼みごとにはそこそこのサイズの石が必要だ。

最悪、魔法で生成してもらおうかと思っていたが、結界の端の方にちょうどいい大きさの石が転がっているのが見えた。

俺は5kgほどの容易に抱えられる大きさの石を拾い上げる。


「こいつを泥団子の真上、高度50mから落としてきて欲しいんだ」


「なんだ。そんなこと? いいよ」


「頼むよ。ドローンじゃこの大きさの石は持ち上がらないからさ」


「フフン! 勝ったな。 やっぱりこんなのよりピリカの方が頼りになるでしょ?」


 ピリカがどや顔でバッテリーが尽きたドローンを見下ろして勝ち誇る。

俺はリュックに手を突っ込んで【ピリカストレージ】でドローンの交換用バッテリーを召喚して交換する。


 ピリカは石を抱えてふわりと浮かび上がると泥団子に向けて飛んで行った。

俺もドローンを起動して手動操縦でピリカの後を追わせる。

ドローンは無線LANが届くギリギリの150m地点で空中静止(ホバリング)状態で待機させて望遠撮影にしておく。


 先行しているピリカは泥団子の真上に到着した。

ピリカはドローンに向けて声を掛ける。


「もう石、落としてもいいの?」


 ドローンのマイクを通じてピリカの声が聞こえてくる。

俺はドローンのライトを二度点滅させて【OK】の合図を送った。

合図を確認してピリカは石を抱えている手を放す。

石はそのまま重力に引っ張られて泥団子に向かって落下する。

【ボチャッ】と音がして石はなんの抵抗もなく泥の中に沈んでいった。

すぐにペポゥの主(マスターペポゥ)が顔を出して石が落ちてきた上空を見上げる。

もちろんそこにはピリカが浮かんでいる。

ペポゥの主(マスターペポゥ)はしばらくピリカの様子を伺っていたが、再び泥の中に潜ってしまった。


 俺はドローンを撤収させる。

ドローンが引き返していくのを見て、ピリカも撤収を開始する。


 結界にドローンが戻って来て、一分ほどでピリカも結界に戻ってきた。


「おかえりピリカ。すごく助かったよ」


「ほんと?」


「ああ、おかげで知りたいことは大体分かった。ありがとう」


「えへへっ、ハルトの役に立ててピリカも嬉しい!」


 ピリカは背中から俺にしがみついてご機嫌である。

今回のミッションでドローンの役目は終わりなので、壊れないように布でくるんでリュックに片付けておく。

ドローンやバッテリーなどはラライエでは代用の利かない物だ。

これらは可能な限り持ち運ぶことになってしまう。

一度召喚したものは、送り返すことが出来ない。

そのため、持ち歩くか使い捨てるしかない。

残念ながら、容量無制限の異空間収納なんてものはラライエでは夢のまた夢だった。

とはいえ【ピリカストレージ】だって十分チートだからな。

こういうのをあまり召喚しすぎると、荷物がかさばりすぎて移動がどんどん大変になっていく。

これ以上【ピリカストレージ】に頼るのは考え物だな。


「ピリカに石を落とさせて、何をしたかったんだ?」


 アルドにはピリカがやってきたことの意味が分からなかったみたいだな。


「僕も教えて欲しいな。あれで何が分かったのか……」


 ヴィノン、お前もか……。


「ああ、これでいろんなことが分かった。もうここでやれることは無いと思っている。奴に見つからないようにラソルトに戻ろう」


 ペポゥの主(マスターペポゥ)はさっき泥団子に潜っていったばかりだから、すぐには出てこないだろう。

奴が主に目視で獲物や外敵を確認しているのなら、すぐにここを離れれば簡単に発見される可能性は低いと思う。


「今なら多分、安全に撤収できる。慎重にここを離れよう」


「わかった」


 アルドはとは緑の泥で苦楽を共にしてきた間柄だからな。

こういう時、すぐに俺の言葉を信用してくれる。


「ちょ、ちょっと! いきなり引き上げかい? もう偵察はおしまいなの?」


 ヴィノンが慌てて荷物をまとめ始める。

俺達は出来る限り音を立てないように、慎重にこの場を離れる。


 ……。


  ……。



 300メートル程離れたところで、少し警戒を緩める。


「ここまで来たら奴に見つかる心配はないだろう。あとはラソルトに戻ってペポゥをどうするのか考えるだけだな」


「えっと…… ハルト君? 僕には君がペポゥを【どうするのか】じゃなくて、【どう倒すのか】を考えてるような気がするのだけど……」


 意外に鋭いな、このチャラ男。

勘のいい子は嫌いだよ…… なんて言ったりしないから安心していいぞ。


「まぁ、そうだな。確実じゃないけど何とかなるんじゃないかな? ……とは思っているかな。ただし、アルドの頑張り次第とこっちの準備が終わるまでアレがあそこに居座ってくれれば ……だけどな」


「本当か? どうやって? どう見ても追躡竜(ついじょうりゅう)より厄介な相手に見えるが……」


「アルドの言う通り、単純な戦力だけならあのトカゲより厳しい相手だ。でも、あの時は四人だけで何とかしないといけなかったろ? 今回は頭数が違う。俺の故郷には【戦いは数だぜ、兄貴!】って格言があるんだぜ?」


「なんだそれは? なぜ兄貴なんだ?」


「ま、まぁそれは話すと長くなるからいいよ。……と、いうわけでヴィノン。ラソルトに戻ったら冒険者や駐留軍から、ペポゥ討伐志願者を一人でも多く集めるのがあんたの仕事だ」


「今、さらっと無茶な事言ったよね?【ペポゥと戦うから一緒に来る人集まれぇ!】ってそんなの呼びかけても、誰も来ないよ」


「そこを何とかするのがあんたの仕事だろ? 何も勝算のない戦いに死にに行けなんて言わないさ」


「ほんとにあるのかい? あのとんでもない魔獣に対する勝算が……」


 ちょっとヴィノンの目つきが変わった。

一応、真剣に話を聞く気にはなったみたいだな。


「やれるかどうか検証が必要だから、今時点では断言はできないけどな。ラソルトに戻るまで一日以上あるから道すがら色々考えるよ」


「君の【固有特性】で…… ということかい?」


「そう捉えてくれていい。同じことを何回も説明するのも手間だから、俺の考えはギルドに戻ってから話すことにするよ」


「わかったよ。僕も君の作戦に乗るか乗らないかはその時に決めさせてもらうよ」


 ヴィノンは元のチャラい表情に戻ってそう答えた。



 ……。


  ……。


 日が落ちてきたので、野営に入る。

火を囲んで保存食に齧りつきながらアルドに質問を投げかける。

ペポゥ攻略の重要なカギになる大事な確認だ。


「アルド……」


「ん? どうした?」


「アルドの遠隔斬撃と防御無視の攻撃は同時に使えないのか?」


「前に言ったような気もするが無理だ。……というか、あれは絶対に両立しないというのは剣士の常識だ。俺の知る限りその二つを同時に使った剣士はいないはずだ」


「そうなのか……」


 なかなかに厳しいな。

まず、これを何とかしないと作戦が詰む。

仕方がない……。

何か別の手を……。


『出来ると思うよ』


 ピリカが横から日本語で割り込んできた。


『マジで?』


『マジで』


「マジかぁ……。ピリカさん【1マジかぁ】進呈だ」


「やったぁ! ハルト好き!」


「うわ…… 突然どうしたんだい?」


 ヴィノンからすれば、突然意味不明の会話した上に【ハルト好き!】だからな…… 訳が分からんだろうさ。

アルドは【また内緒話か……】といった感じだけどな。


『それで、どうやってアルドの魔法を両立させる?』


『ミスリルの補助術式で二つの魔法を破綻しないように繋ぎ止めればいいんだよ』


『そうか ……ミスリル何でもありだな』


『ただ、呪文を使うときにアルドがミスリルの術式を手に持っている必要があるよ』


『そこは何とかなるかもしれない。教えてくれてありがとうな』


『うん! これでハルトが困らなくなったのならピリカも嬉しい!』


「……で、内緒話の結果はどうなんだ?」


 アルドも気になったみたいだな。


「ああ、勝ち筋が見えてきた。あとは戻ってから話をしようか」


 何とか道筋がついてきたので、見張りをピリカに任せて俺は横になって眠りについた。


 前回の投稿からの短時間にブクマ・評価つけてくれた方が増えました!

メッチャ嬉しいです。どうもありがとうございます。

やる気ゲージが上がりました。

明日からも頑張って書きます。


 平日はやっぱなかなか進みませんが、ご容赦ください。

これからもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一体どうやって倒すのだろうか。 球体が分厚くて本体に届くとは思えん
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