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百三十七話 見た事あるのか?この変なヤツ

 さてさてどうしたものか……。

俺はアルドにオペラグラスを手渡す。


「気が済んだら、ヴィノンにも見せてやってくれ」


 アルドがオペラグラスを覗き込んで、丘の上の泥団子を確認する。

そしてそのままヴィノンにオペラグラスを手渡す。


「すごいねこれ……。この大きさでここまで見えるなんて……。どこで手に入れたんだい?」


「俺の故郷だ。それよりもどうなんだ? アレがペポゥとかいう魔獣で間違いないのか?」


「僕も実物を見た事が無いから、絶対そうだとは言えないよ。でも、多分そうじゃないかとは思うよ」


 動きは早いって事だったけど、そりゃそうだろうと思った。

あの大きさの泥団子だ。

その質量で丘をこちら側に向かって転がってくるだけでその速度と威力は…… あまり考えたくないな。

下手ながけ崩れや地滑りと変わらないと思われ……。


「とにかく、このままここでアレを眺めていても(らち)が明かない。もう少し寄ってみよう」


「えっ? さらに接近するつもりかい?」


「いや、俺達が結界を出るのは危険だと思っている。不本意だけど仕方が無いな」


 俺はリュックに手を突っ込んで【ピリカストレージ】からドローンを1機召喚する。

7機ある中の3番目に小型の機体だ。

最小のやつだと稼働時間に難がある。

大型のものは今後の持ち運びがかさばるし、高性能な分、簡単に撃墜されてほしくない。

異世界でドローンは貴重なので、可能な限り使い捨てにはしない。

そのあたりの兼ね合いを見て今回はこいつをチョイスした。


「それは一体何だい?」


「俺も初めて見る」


「できればあんまり見せたくなかったんだけどな。俺達の身の安全には代えられん。俺のとっておきの一つだ」


 ドローンを起動してBluetoothではなく、無線LANでドローンとの通信を確立する。

ペポゥまでの距離は約180m。

Bluetoothの通信では到底届かない。

遮蔽物のない屋外とはいえ、無線LANでも結構厳しい距離だ。

直接マニュアル操作し続けるのは厳しそうだ。

ギリギリまではマニュアルで操縦して、途中から自動運転でペポゥを観察するように設定する。


「こいつに奴の様子を見て来てもらう」


 設定が完了した。

ドローンに離陸コマンドを送信する。

ヒュイィーンと4枚のローターが回転してドローンがペポゥの上空に向かって飛び立っていく。


「おおっ! 飛んだよ! なんだかすごいアイテムを持っているんだね。これって神の遺物(アーティファクト)かい?」


 ヴィノンが興味津々に問いかけてくる。


「そういうものじゃないな。故郷の人間の技術で作りだされた道具だ」


 ヴィノンの口からなんかえらくオタク心をくすぐるワードが出てきたな。

機会があれば調べてみるか。


 ドローンは上空約50mの高度を維持しながら、ペポゥに向かって飛行していく。

150m程進んだところで急激に通信状態が悪くなってきた。

これ以上は無理だな。

コントロールを失ってしまう前に自動操縦モードに切り替えてあとは、ドローン自身に情報収集させるしかない。

撃墜されずに無事に戻って来てくれるといいのだが……。


 15分程、泥団子の上空を旋回してドローンが帰ってきた。


「何とか無事に戻って来てくれたようだな」


 足元に着地したドローンを拾い上げて、ドローンが持ち帰ってきたデータを脳内PCに吸い上げる。


「えっと、ハルト君? これがペポゥの上を飛び回ったことで何が分かるんだい?」


「ああ、俺にはこいつが何を見てきたのか分かるんだよ」


「ハルト、お前…… 【固有特性持ち】だったのか」


 アルドがちょっと食い気味身に尋ねてくる。

ああ、確かに脳内PCなんてもの地球にもラライエにもないよな。

俺だけのユニークスキルと言えなくもないか……。

そういうことにしておいた方が後々、説明が面倒じゃないかも。


「別に隠していたわけじゃないんだけどな。あまり戦闘には役に立たない能力だからさ」


「隠していたわけじゃないんだったら、教えてくれないかい? あくまで個人的な好奇心なんだけどさ」


 ヴィノンも興味ありそうだな。

こいつは、俺達の情報収集も今回の役目だろうから……。

まぁ、当たり障りのない感じで話しておくか。


「そうだな……。【同時に二つの事を思考できる能力】とでも言っておこうかな。能力の延長で一つの思考を特定の道具と同調させて、こんなことが出来ると思っておいてくれればいい」


「そうか…… だからセラスは……」


 アルドは気づいたかな? 俺がセラスを瞬殺できたカラクリに……。


「へぇ、実に興味深い能力だと思うよ。すごくキミのことが気になってきたなぁ」


「シャシャァーーッ!」


 ピリカさんがヴィノンを猛烈に威嚇している。

基本無欲なピリカだが、俺に対する独占欲的なものが突出している気がする。

リコが俺に馴れ馴れしくなってからは特にリコに対して風当たりが強かったしな。

アルドにはピリカも仲間認定しているせいか、そういった挙動は見られない。

俺が仲良くアルドと話をしていても特に気にしていなさそうだ。

だがヴィノン…… お前はだめだ。

ピリカの心情を代弁するとそういうことなんだろう。

ラソルトに戻るまでは頻繁にヴィノンに対して【シャシャァーーッ!】を見ることになりそうだ。


 脳内PCでドローンが持ち帰った映像を再生して確認する。

しかしデカい泥団子だな。

何なんだろうな…… これ……。

直径32mのほぼ球形の泥の塊にしか見えないけど……。

これが生物であるとはとても思えないんだけどな……。


「ん? 何だこいつ?」


「ハルト、どうしたんだ?」


「泥団子のてっぺんからなんか出てきた。何かいるな……」


 映像に映っている泥団子の頂上から何か黄緑色の変な魔物が姿を現した。

全長は1.5mぐらい。成人の人間より一回り小さい印象だ。

二足歩行だから人型と言えなくもないが、両腕は鞭状にしなっている。

頭は三角形状で前方に突き出していて体形はずんぐりしている。

外見で決めつけはいけないが、絶対に友好的には見えない。

しばらくドローンの方を見上げていたが、興味を失ったのか、そのままトプンと泥団子に頭から飛び込んで潜っていってしまった。


「ちょっと俺にはこれが何なのか分からん。みんなにも見てもらうよ」


「え? そんなことも出来るのかい?」


 俺は映像データをBluetoothでポーチにしまってあるスマホにコピーする。


「ちょっと見てくれ。これがドローンが空撮してきた映像だ」


「すごいね…… これがドローンってアイテムが見てきたものなんだね」


 ヴィノンが目をキラキラに輝かせてスマホの画面を凝視している。


「もうすぐだ。泥団子の頂上に変なヤツが現れる」


 映像に写り込んだ生物の姿を見た二人は共に【??】のエフェクトが頭上に見えそうな表情だ。


「えっと、なんだろうね。魔物…… かな?」


「俺も初めて見るな。すまないがこいつに心当たりはない」


 表情から想定通りの回答が帰ってきた。


「ピリカはどうだ? こいつに心当たりは……」


「多分あるよ」


 マジかぁ……。


「見た事あるのか?この変なヤツ」


「きっとこれ、土を操る力を持つ魔獣だよ」


「……ということは、この泥団子を作ってるのはこいつか?」


「でも、ピリカの知ってるやつはこんな団子作ったりしないから、亜種の魔獣じゃないかな」


「そっか、少しペポゥの正体が見えてきたな。えらいぞピリカ!」


「えへへへ、やったぁ!」


 ピリカが俺にくっついてほめられたことを喜んでいる。


「僕はこんな感情豊かに人間に懐いている精霊を見た事がないよ。ミエント大陸ではこんな精霊が普通なのかい?」


「いや、俺もこんな精霊はピリカ以外に知らない」


 ヴィノンの問いにアルドが答える。

俺はピリカ以外の精霊を見た事が無いから、その辺を判断することはできない。

もっとも、ラライエの人類の反応を見る限り、ピリカはかなり特別なんだということは分かるけどな。

それよりも、目前のペポゥだ。


「奴がドローンに気付きながら放置したということは、上空を飛ぶドローンを攻撃する手段が無いからと考えてよさそうか?」


「そうだと思う。あとあの魔獣、目で獲物を確認するタイプだから……。耳や鼻はそれほどじゃないよ」


 ピリカがあの魔獣について知っていることを教えてくれる。

遠距離攻撃の可能性は考えなくてもよさそうだ。


「泥団子に潜んでいる状態で敵を察知できないと……。外の様子を確認するにはああやっていちいち泥から顔を出す必要があるということだね」


 ヴィノンが情報を整理し始める。


「なら、やつを仕留めるには泥団子から顔を出した瞬間を狙うのが一番効果的ということか……」


 それはちょっと現実的じゃないな。

直径32mの泥団子の中を自在に移動できるのだとしたら、どこから顔を出すのかも分からない。

あれの攻略は中々に骨が折れそうだ。


 何とか、もう一話投下することが出来ました。

来週は月の変わり目なので、社畜モードが少しきついです。

ちょっと投稿ペースおちるかもです。


 よかったらブクマ・評価お願いします。

これが増えるだけでやる気ゲージが違ってきます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神殺しをした人間が神の作ったものを重宝するのなら何故殺したのかも疑問だが何より人間は邪悪な存在なのな。
2022/02/26 09:30 退会済み
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