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百三十六話 アレがペポゥとかいう魔獣でおk?

 街を出てすぐに視界に飛び込んできた景色はモンテスとは別物だった。

モンテスの外側はしばらく穀倉地帯が広がっていたが、ラソルトは農耕地のようなものは見当たらず、ただ長閑(のどか)な田舎道が続いているのみだ。


「ラソルトの外側には農耕地とかそういうのが無いのか」


「海に突き出ている半島だからね。いつもそれなりに潮風が吹き込むんだ。だから食用になるような作物を育てるには向かなくてね……。内陸の街に行けばそういった風景が普通に見られるよ」


 ヴィノンが俺の疑問にとても分かりやすい回答を返してくれた。

ということは、この辺にわさわさと生えている植物は塩害なんかに強い品種ということか。

植物はそれなりに自生しており、緑そのものは決して少なくない。

土地自体に若干の起伏こそあるものの平坦な部類、背の高い木々はまばらで、むき出しの岩塊が隆起しているような場所もちらほら見える。

この大陸の本土に着くまではこんな風景が続く感じかな?


 見通しは、モンテスの平原よりは悪い。

悪いと言っても、全然良いんだけどな。

あの平原の見通しが良すぎただけで……。

あそこと比べると地上の殆どが悪くなってしまうか。


「出てくる魔物はどうなんだ? 海からサハギンとか上陸してこないのか?」


 アルドが、当然の疑問を投げかける。

俺もそこは知っておきたかった。


「ははっ、無い無い。あいつらは海でしか生きられないからね。上がってくるのは精々船の甲板ぐらいだよ」


 軽いノリでヴィノンがそう答える。


「それは助かる。ここに来る途中、船の甲板で500匹ぐらい相手に戦う羽目になったからな」


 アルドは海の魔物との遭遇を想定しなくてもいいことに安心してそう返した。


「本当かい? それはツイてなかったね。それ程の群れと遭遇することは中々ないよ。それを蹴散らしてくるなんて、さすがは日輪級だね」


「それじゃ、目的地までは楽に行けるのか?」


「多分ね。この辺の魔物は本土から追いやられて流れてくるようなのばかりだからね。しかも途中でペポゥが陣取ってるとなると……」


 流れてくる魔物もここまで来られずにペポゥのエサになる ……か。

確かにある程度、平和に行けそうかな。



 ……。


  ……。


 日が結構傾いてきた。

ここまでは順調で脳内PCのマップ上では48km進んできている。

人間はもちろん、魔物にも遭遇することは無かった。

このまま進めば、ペポゥとは確実に夜間に鉢合わせする。

ペポゥが情報通りの場所に居座っているとしたらだけどな。


「今日はこの辺で野営にしよう」


「わかったよ。見張りの順番はどうするんだい?」


 ヴィノンが見張りの段取りについて尋ねてきた。


「問題ない。ピリカがやってくれる。安心して休んでくれていいよ」


「そうかい? だったら遠慮なく休ませてもらおうかな」


 ヴィノンは岩に背を預けてそのまま眠ってしまう。

ここまで敵に遭遇しないのなら結界も不要だろう。

何よりこの段階でヴィノンに見せる手の内は少なくしておきたい。

ギルドの見張り役兼任だろうからな。

こいつが見たものはそのままギルドに筒抜けになると思った方がいい。

アルドも特に何も言ってこない。

俺の考えを察してくれているんだろう。


「明日はいよいよ、ペポゥとかいう魔獣とご対面だが ……アルドも知らないんだよな?」


「ああ、名前すら聞いたことが無い。連中の反応だとかなり危険なやつなんじゃないか?」


「ピリカはどうなんだ?」


「ピリカも知らない。人類が勝手につけた名前に興味ないもん。実物を見れば分かるかもだけど」


ヴィノンの目が気にはなるが、出し惜しみして死んだら元も子もない。

明日は俺達の身の安全を最優先にして、切るべきカードは切らざるを得ないかな。

最悪の時はヴィノンを見捨てて【ポータル】で3人だけで脱出することも選択肢に入れている。



 ……。


   ……。


 12月15日


 独特の潮の香りを含んだ風を受ける感覚で目が覚めた。

これは偵察終わったころには潮風のせいで全身ベタベタになりそうだ。

我慢できなくなったらピリカに水出してもらって全身洗おう……。


「おはよう、ハルト君。よく眠れたかい?」


「睡眠時間だけは充分かな。快眠かと言われるとさすがに微妙だけどな」


「ははっ、そこは野営だからね。そんなものだよ。疲れが残ってなければ上出来さ」


「ピリカ、魔物の襲撃なんかはあったのか?」


「全然。何も出なかったよ」


「そっか。緑の泥にいた頃が嘘みたいだな」


「きっと、ペポゥのせいだね。ファルクス半島は中央大陸でも特に魔物の出現が少ない地域だけど、それでも普通はコボルトの一匹や二匹は出るものだよ」


「ここから先は慎重に進もう。ペポゥに気取られるのはできれば避けたい」


「それじゃ僕が前に立つよ。専門じゃないけど、少しくらいなら斥候も出来るからさ」


 ヴィノンはそう言って先頭を進み始めた。

特に反対する理由も無いので、ヴィノンに先行を任せて後に続く。

そしてピリカには魂の影に入る術式を発動させておく。



 ……。


  ……。


 時間は昼前に差し掛かってきた。

警戒を強めながら進んでいるため、速度は昨日の半分も出ていない。

少し前から道に高低差が出始めてきて、やや見通しが悪い。

脳内PCのマッピングアプリは今朝から10k程進んだことになっている。

ラソルトを出て58km、先日戻ってきた斥候パーティーが言っていた丘陵地帯というのはこのあたりだろう。

もういつペポゥに遭遇してもおかしくないはずだ。

少し前を進んでいたヴィノンがデカい岩陰に身を隠して、俺達に警戒を促す合図を送ってきた。

すかさず俺達も身を低くして警戒、念のためピリカを肩車する。

日中だから目立たないとはいえ、常時光っているピリカが一番発見されやすいからな。

慎重にヴィノンのいる岩陰まで進む。

幸い全員が隠れられそうな大きな岩だ。


「アレがそうじゃないかな? 僕も初めて見るから分からないけどさ」


岩陰から少しだけ顔を覗かせて丘陵地に視線を向ける。

丘の上になんかいる……いや、なんかある?

距離は200m弱ぐらいかな。

ここからじゃ、ちょっと遠くてわかりにくい。


「ペポゥって動きは結構早いらしいからね。これ以上迂闊に近づくのもどうかと思ってさ」


 ヴィノン、いい判断だ。

専門ではないって言ってたけど、なかなか優秀じゃないのか?

俺もやつの正体が分からん以上、近づくべきじゃないと思う。


「ピリカ、ここに結界を……。10mで障壁込みの奴だ」


「はーい」


 俺達がいる場所を中心に直径10mの結界を展開させる。


「とりあえずこの場所の安全は確保された。少し楽にしてもらってもいいぞ」


アルドが自分の荷物を降ろして腰を下ろす。

緑の泥でこの結界の力は体験済みだからな。


「あの、ハルト君? これは一体……」


「ピリカの結界だ。この中にいる限り大声で叫ぼうが、視界に入ろうが、魔物から見つかることは絶対に無い」


「それ、本気で言ってるのかい?」


「やはり驚くよな……。俺も初めてピリカの力を見た時は驚いた。こちらから敵に攻撃を仕掛けない限り、襲われることのない強力な結界だ」


「……。なんか、にわかには信じられない力だね。僕を騙そうとしていないかい?」


「どう思ってくれてもいいけどな。勝手に結界の外に出れば俺達は容赦なくあんたを見捨てる。そこはこの場ではっきり伝えておくよ」


 まずは、予防線を張っておこう。

連携を乱されて危機的状況に陥るのは勘弁してほしい。


「……わかったよ。まずはハルト君と精霊ちゃんの力を信じることにしよう」


「それでいい。奴の情報は俺とピリカで収集する。ここで大人しくしておいてくれ」


 俺はポーチからオペラグラスを取り出して、丘の上の物を確認する。


「アルド、ハルト君は何をしてるんだい?」


「ああ、遠眼鏡でアレを観察している」


「遠眼鏡? アレが? 恐ろしく小さくないかい?」


 ……なんだあれ?

とりあえず訳が分からん。

オペラグラスで覗いた先にあったのは、泥団子だ。

その大きさが半端ないけどな。

脳内PCは直径32mと算出している。

地球だと、8~11階建てぐらいのビルに匹敵する大きさの泥団子が丘の上にある…… という光景だ。

アレがペポゥとかいう魔獣でおk?

全然ゆるキャラじゃないな。

少なくとも【ぺぽーっ!】とか鳴きそうにはないな。



 すいません。今週は一話投下するのが精一杯でした。

シルバーウイークに有給突っ込んで何とか巻き返し……たい。

休みとれるかなぁ……とりたいなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやほんと執筆してるだけ偉すぎます。自分は空き時間の多くを費やす覚悟はできなかったので、尊敬しかないです。 にしてもこの世界、色々とサイズが規格外で面白いですねー。
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