百三十四話 俺達はどちらも選ぶつもりは無い
「さて、あんた達はずっとここに座ったままで全く動かなかったね。このまま援軍要請組に加わってもらえると受けとっていいのかい?」
アルドが答えようとしたのを手で制した。
絶対【ああ、構わない】って言おうとしただろ?
ここでそんな回答をさせるわけにはいかない。
「俺達はどちらも選ぶつもりは無い」
「ほう、じゃあどうするつもりだい?」
ギルマスの目つきが少し鋭くなった。
「俺達は中央大陸に来たばかりだ。あんた達をそこまで絶望的な状況に追いやっているペポゥとかいう魔獣がどんな奴なのか、さっぱりわからん」
「実の所、あたし達もペポゥの実態はよくわかっていないんだ。あれと遭遇して生還できたやつがあまりにも少ないんでね」
「わかっていることを教えてもらっても?」
「あたしも実物を見たわけじゃないからね。ギルドの資料によるとだが……」
ギルマスはそう前置きをして、ペポゥについて語ってくれた。
「中央大陸で十数年に一度、無作為に突然現れる巨大な泥の魔獣だよ。その重量で相手を押しつぶして、表面にこびり付いた血肉を食らい続けるおぞましい怪物だ。見た目に反して動きは早く、あたしの知る限り討伐実績はない。幾人もの勇者があれのエサになっている」
「……マジかぁ」
「散々他の生物を食い散らかして気が済めば姿を消し、また十数年間は姿を見せなくなるって言われている。街や村が襲われれば、ほぼ確実に滅ぶ」
話を聞く限りでは、追躡竜よりタチが悪くないか?
討伐実績なしって…… あのトカゲは討伐証明部位や素材に価値が付くぐらいには個体数がいるって事だろ?
こいつはどうなんだ?
ワンオフの怪物なのか?
あまりにも情報が無さ過ぎるな……。
このまま、ペポゥと一戦交えるのはどう考えても危険すぎる。
丸腰でホオジロザメに水中戦挑むようなものだ。
勝負として成立するのかも怪しいな。
「わかった。やっぱり俺達の選択に変わりはない。右も左も選ばない……。第三の選択をさせてもらう」
「なら、聞かせてもらうよ……。あんた達の選択ってやつ」
「まず、自分たちの目でそのペポゥがどんな奴か確かめてくる。その上でどうするか決めさせてもらう」
「なんだって? そんな自殺行為は認めないよ」
「このガキ ……精霊術師だからって調子に乗りすぎだろ! そんなこと言って自分達だけ逃げるつもりだろ?」
「残念だったな。半島のど真ん中にペポゥが陣取っている限り、逃げ場なんてないんだよ!」
話を聞いていた冒険者たちが色めき立つ。
「俺達は別に自殺行為だなんて思っちゃいないよ。むしろこの絶望的な状況を打破するのに必要なことだと思っている。この中で最大戦力の俺達が行くのが一番成功率は高い」
「精霊術師の坊やとこの若造が最大戦力だって言うのかい? まさか……」
さすがにギルマスは察したかな?
「もちろん! アルド……」
アルドはやれやれといった表情で胸ポケットから冒険者ギルド証を取り出す。
「!! 日輪級……」
「勇者 ……なのか?」
冒険者たちが驚きや希望・羨望など、様々な感情が入り混じった視線を橙色のギルド証に集中させている。
これでギルマスはもちろん、周囲で騒いでいた冒険者たちも一瞬で静かにさせることが出来た。
「残念だが勇者ではない。 今は勇者と別行動中だ」
流石はアルド ……ちゃんと空気を読んでくれたか。
もう勇者は死んだとか言われたら、また面倒なことになるかもしれなかったからな。
「あんたの勇者の序列を聞いてもいいかい?」
「……402だ」
「リエラ!」
「は、はいぃ……。えとえと…… 今、序列402番の勇者はケルトナ王国の勇者セラス様です」
「名前は ……アルドか」
ギルマスは日輪級カードに記されている名前を確認する。
予想通り、このパーティーがアルド以外全滅しているという情報は伝わっていないようだ。
ラライエの通信や情報ネットワークは地球のそれとは比べるべくもないほどお粗末だ。
勇者セラスパーティー全滅の知らせが届いたらどうなるのか分からないから、それまでにこの街を出たいところだな。
「確かにセラス様のパーティーにアルドさんの名前があります」
受付嬢が勇者とそのパーティーメンバーの名簿と思われる冊子を確認してそう補足する。
「……なるほど。わかったよ。あんたがここの最大戦力に間違いなさそうだ」
ギルマスがアルドを最大戦力と認めた。
これで幾分動きやすくなりそうだ。
「日輪級がいるならひょっとしたら……」
「ペポゥを討伐できたやつはまだいないんだぞ。日輪級たった一人じゃ無理だろ。それに序列は殆ど最低だ」
一時、静かになったがまたうるさくなってきたな。
ここは少々強引に動いた方がよさそうだ。
「そういうわけで、俺達はそのペポゥを確認してくる。戻り次第、見てきたことはギルドにも伝えるよ。どう動くかはその時に改めて話し合わせてくれ」
俺はそうまとめて席を立とうとしたが、ギルマスが制止してくる。
「アルドが日輪級なのはわかった。でもね、本当にこんな無茶を二人だけでやってのけられると思っているのかい?」
二人ではなく三人だ! ……と突っ込みたいところだが、ラライエではこれをいくら言ってもきりがないので、ぐっとこらえる。
「もちろんだ……。三か月ほど前に仲間一人とハルト、そして精霊のピリカで一か月以上の間、緑の泥を踏破して魔獣を討伐したばかりだ」
「なんだって? ……たった三人で魔獣討伐? 勇者抜きでかい?」
ギルマス、めっちゃ驚いてるな。
確か、モンテスでも勇者抜きで追躡竜討伐は歴史的快挙かもしれないとか言われてたっけ。
実際のところはピリカがいれば、大体何とかなる気がするけどな。
「それじゃ、俺達にも準備があるんでこれで失礼するよ」
「待ちな!」
まだなんかあるのか? このギルマスも中々粘るな。
「わかったよ。あんた達にペポゥの様子を見て来てもらおうじゃないか……。とはいえ、初めての土地じゃ何かと不便だろ? 案内役をつけよう」
さすがはギルマス、狸だな…… 劇場版ガキ大将属性のくせに……。
案内役と言えば聞こえはいいが、これは俺達につける鈴の役割も兼ねているとみた。
他国から来た俺達が勝手な真似をしないように……。
そして逃げ出したりしないか監視するためってところかな?
「誰か、二人の案内役をやってくれる奴はいないか?」
……。
……。
名乗り出る奴はいなさそうだ。
これは好都合、余計なやつが現れないうちに行こう。
……そう思ったときだ。
「なんだ…… 誰も名乗り出ないのかい? だったら僕が行くよ」
冒険者たちの中から一人、ノリが軽そうな男が進み出てきた。
軽装で肩にかかる深い色合いの茶髪ロン毛……。
第一印象は人懐っこそうに見えるが、飄々とした雰囲気は掴みどころがないような感じもする。
あれ?
この顔…… どっかで見た事があるような……。
ちょっと思い出せないな。
ま、いいか。
「ヴィノン ……行ってくれるかい?」
「もちろん! 日輪級と組める機会なんてなかなか無いからね。それに、彼らに乗っかるのが一番勝率ありそうな気がするんだ」
「こいつがペポゥの確認された場所まで案内してくれる」
ギルマスが案内役がこのヴィノンに決まったことを告げる。
「お二人さん初めまして……。僕はヴィノン。 銀等級だから一応、ラソルトでは最高等級の冒険者の一人だよ。よろしくね!」
にこやかに手を出してくる。
「アルドだ。よろしく頼む」
アルドが最初にヴィノンと握手する。
「俺はハルト、こっちは精霊のピリカだ」
続いて俺も握手をしておく。
「よろしく、ハルト君。すごくかわいらしい精霊を連れているんだね」
ピリカはヴィノンには興味なさげにツーンとしている。
「それで、君たちはすぐに出発するのかい?」
「まだ何も準備が出来ていないからな。出発は明後日になりそうだ」
出来るなら今日から出発の準備にかかりたいところだが、思った以上に時間を食ってしまった。
準備は明日からだな。
「わかったよ。それじゃ、明後日の朝に町の出口で待っているよ」
俺達はギルドを後にしてひとまず宿に戻ることにした。
今わかっているのは、このペポゥとかいう魔獣を何とかしないとこの街から進むことも引き返すことも出来そうにないということだ。
ワクチンの副反応で明日更新できなくなるのもアレなので……。
出かける前に一話投稿しておきます。
問題なければ明日にもう一話いきたいところですが……。
駄目そうならごめんなさいです。
ブクマと評価が増えてました!
超嬉しかったです。ありがとうございます。
おかげで様でモチベーションが上がって
この一話を前倒して投稿する気力を
振り絞ることが出来ました!
今後ともよろしくお願いいたします。




