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百三十三話 日輪級のノブレス・オブリージュって事か……

「……誰も戻ってこないから嫌な予感はしていたんだ」


 最前列に座っていた男がそう言葉を絞り出した。


「それで今、ペポゥはどこに?」


「ラソルトを出て街道を60km進んだ丘陵地帯だ」


 クリーゼと呼ばれていた偵察に出ていた男が答える。


「くそっ、いやなところに陣取りやがって」


「ああ。あそこだと発見されずに突破するのは難しいな」


「でもよ、位置は気持ちエーレ寄りじゃないのか? これならエーレの方に行ってくれるかも……」


「そんなエーレを生贄にするみたいな言い方はよせ!」


「でもよ! だったらお前はこのままラソルトにいるやつ全員、ペポゥのエサになってもいいのか?」


「何もそんなことは言ってねえだろ!」


 ギルドに集まっている冒険者たちは思い思いに話し始めて、フロア内はかなりざわついてきている。


「ピーチクパーチク(さえず)ってるんじゃないよ!」


 ギルマスと思われる女性が一喝する。

一瞬で喧騒が収まってフロアが鎮まった。


「あたしらが選べる選択肢はそんなに多くない。お前らがいくら騒いだってどうせ何も決まりはしないだろう。だからあたしの考えをいくつか話す。その上でどれを選ぶか、お前らで決めな」


 なんか、姉御肌というよりは劇場版・どっかのガキ大将みたいだな。

ここのギルマスは……。


「一つ目…… ペポゥを突破してエーレに援軍を要請する」


 ギルドにいる全員が悲痛な面持ちでギルマスの続きの言葉を待つ。


「二つ目…… 船で一人でも多くの住民をミーデン島に脱出させる」


 で…… 三つめは?


「以上だ。選ばせてやるから好きな方を選びな」


 おい! いくつかって二択かよ!

つまり、ここにいる冒険者を二手に分けて作戦を並行で走らせるということか……。


「ギルマス…… ペポゥを突破するってのは……」


「言葉の通りさ。こっちの作戦を希望した者は街道を突っ切ってエーレで救援を要請するんだ。誰でもいい……。 誰か一人でもエーレにたどり着ければ、周辺都市に早馬で勇者の出動要請を出してもらえるだろう」


 誰か一人でもって…… こっちは決死隊か……。

ペポゥ…… どんだけだよ。


「なら、住民を脱出させるのは……」


「半島のど真ん中に居座られている以上、袋の口を閉じられているのと同じだ。退路は海にしかない」


 ……ですよね。


「いくらラソルトが港湾都市とはいえ、全ての住民が脱出できるほどの船はない。だから住民全員をミーデン島に逃がすまで、全ての船に全力でピストン輸送してもらう」


「おいおい……。そんなの一体何日かかると思って……」


「そんなことはわかっている。もし、ペポゥが内陸ではなくこっちに向かってきた場合は、あたし達、冒険者の出番だ……。駐留軍と共に全員の避難が終わるまでペポゥを食い止めるよ」


「じょ…… 冗談じゃないぞ! 俺なんかがペポゥ相手に戦っても2秒で奴のエサになっちまう……」


 これを聞いたギルマスはニヤリと笑う。


「2秒? 上出来じゃないか! お前の命で2秒稼げるなら、10人でかかれば20秒稼げる! 20秒あれば4人多く船に乗れる! いいかい! ペポゥがこっちに来た場合は、住民が全員脱出するまで、冒険者ギルドと駐留軍の関係者が乗る船は無いからね!」


 うわぁ……。

残る方も決死隊か……。

これでペポゥ…… ゆるキャラみたいなやつだったら驚くよな。


「知っての通りラソルトは半島の港湾都市だ。エーレが防波堤になっているおかげで、今まで魔物の被害は限定的だった。故にここにいる冒険者は一番等級の高い者でも銀等級だ。ラソルトの戦力で出来る事はこれしかない! 覚悟を決めな!」


 ギルマスは剣を抜いてギルドの床をガリガリとひっかき傷で一本線を引く。


「エーレに援軍要請を志願するものは右側へ」


「住民脱出支援を志願するものは左側だよ。 今、ここで決めな!」


 ギルド内いる冒険者たちの判断は様々だ。

即座に動き始める者。

頭を抱え、迷いに迷った上に移動する者。

最終的に冒険者たちは左右に散っていく。


「で…… よそ者の俺達はどうする? 俺としては右でも左でもなく、あそこの出口から外に出たいわけだが……」


 今、俺達が座っている席はフロアの右隅だ。

このままじっとしていたら援軍要請組にされてしまいそうだ。


「ハルト達はこのまま出てくれても構わない。俺はそうもいかないだろう。これでも勇者パーティーの冒険者だからな。災害級の危機に戦えない者を置いて逃げることは許されていない」


「やれやれ…… 日輪級のノブレス・オブリージュって事か……」


「まぁ、そういうことだ」


 こうなったら【アルドを残してギルドを出る】という選択肢は消えてなくなったも同然だ。

俺の選択肢はこのままこの席に残って援軍要請組に加わるか、アルドを連れて脱出支援組の方に移動するかの二択だ。

俺には【ポータル】という究極の脱出手段がある。

いざとなれば、アルド共々緑の泥にある俺の家に逃れることが出来る。

なので、この状況でアルドと別行動はあり得ない。


 見たところ左右の比率は3対1ぐらいか……。


 おおむね予想通りだ。

そんなところだろうなとは思っていた。

脱出支援組はペポゥとかいう魔獣がこちら側に移動して来ない場合、生存できる可能性がある。

援軍要請組は魔獣がどう動こうとも強行突破を成功させない限り生き延びられない。


 アルドは席を立たない。

援軍要請組に加わるつもりか……。

まぁ、どっちでもいいけどな。

俺はどちらを選ぶつもりも今のところはない。

もちろんアルドにも選ばせるつもりは無い。

俺達三人は右でも左でもない第三の選択肢を行かせてもらう。


 ……。


  ……。


「全員、腹は決まったようだね。 ……おや? なんか見ない顔がいるね」


 見つかったか……。

というか全身光っているピリカがいる以上、見つかるのは確定か……。

アマゾネスチックないかついギルマスが俺達のところにやってきた。


「服を着た精霊ってのは見た事が無いね。珍しい契約精霊を連れているじゃないか」


「……俺は冒険者じゃないんだけどな。それに俺達は昨日モンテスからここに来たばかりで状況がさっぱりわかっていないんだ」


「そうかい、それは災難だったね。だが坊やは精霊術師だな? そして連れの若造は冒険者だ」


「ああ、そうだ」


 アルドがギルマスの言葉を肯定する。


「坊やの名前は?」


「ハルトだ」


「年は?」


「13」


「リエラ! 聞いていたね! 3分で用意しな!」


「はい? ギルマス? いったい何を……」


 カウンターにいたさっきの受付嬢が突然、話を振られて慌てふためく。


「同じことを言わせるんじゃないよ! 話を聞いていたなら3分で用意しな! こんなことしてる間にあと2分になったよ!」


「は…はひぃ! しゅ、しゅぐによういしまひゅぅ!」


 テンパってまた噛み噛みになった受付嬢は奥にカウンターの奥に消えていった。


「国外から渡ってきたばかりで悪いんだけどね……。知っての通り、冒険者に国境は関係ない。ラソルト存亡がかかった緊急依頼だ。このまま作戦に加わってもらうよ」


「ああ、わかっている」


 アルドはさも当然のように返答する。


「あの…… ギルマス…… 出来ました」


 受付嬢が遠慮がちに木札をもってギルマスのところにやってきた。


「ああ、ご苦労。坊や、これはお前のだ」


 ギルマスはそのまま木札を俺のところに投げてよこす。


「おっと…… 何だこれ?」


 木札には冒険者ギルドの焼き印と【ハルト 13歳 精霊術師】とだけ刻印されている。


「今はなりふり構わず使えるものは何でも使うしかないんだ。貴重な精霊術師を遊ばせるなんて論外だよ!」


「……で、これは?」


「見たらわかるだろ! 冒険者ギルド証だよ! よかったじゃないか! これであんたも晴れて冒険者だよ!」


「マジかぁ……」


「すごいなハルト……。審査開始から3分で冒険者になったやつを俺は見た事が無い」


 どこまで本気か知らないが、アルドが率直な感想を述べる。

このアマアゾネス ……無茶苦茶だ。

ガキ大将どころのレベルじゃなかった。


 21日に二回目のワクチン接種に行ってきます。

何か二回目は結構強く副反応出るとか聞きます。

平気そうなら何とか日曜日に次回分を投稿します。


 ダウンしちゃったらごめんなさいです。

引き続きよろしくお願いいたします。


 前回の投稿からブクマ1増えていました!

ブクマつけてくれた方、ありがとうございます。

これからも切らずに読んでくれると嬉しいです。

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