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百三十二話 ものすごく脱力感のある名前が出てきたな。

「ピリカに土地勘があるのなら、ここから次に行く方法を探そう」


 アルドがそう言って、子供の描いたようなざっくり漫画地図を広げて次の目的地を調べる。


「地図を見る限りここは半島になっているから北上一択か。次の目的地はエーレ ……村かな?」


 地図を横から覗き込んでいた俺が方針をアルドに伝えた。


「わかった。エーレからは四方に道が整備されているように見える。まずはここまで行って次の目的地を決めればいいんじゃないか?」


 この半島を北に進めばこの国の本土に行ける。

そこから少し内陸に入ったところにエーレと呼ばれる村がありそうだ。

ピリカの言う通り地図の端から端までが800kmだとすると、エーレまでの距離はラソルトを出て100kmちょっとか……。

そこそこ遠いな。

この半島自体が日本の伊豆半島の倍ぐらいある感じか……。


 緑の泥を100km進むとなればかなり絶望的な距離だが、あそこは世界有数の魔境らしいから、中央大陸ならそこまで過酷でもないかな。

しっかりと準備さえできれば、歩いて数日で行けるかもしれない。


「隣接している集落がこのエーレだけだとすれば、行き来するに乗合のボル車とかあるんじゃないか?」


 アルドがそんなことを言う。


「あったとしてもほら、ピリカがいるからさ」


「そうか……。あれは消えているわけじゃないとか言っていたな。」


「ああ。あの状態になるには術式を発動させて、ピリカとある程度密着している面積が必要だ」


「それで肩車か」


「別に抱きかかえたり、おぶったりでもいいんだけどな……。両手を自由にするにはあれが一番だっただけだ」


「なるほど。まぁ、別に急ぎの旅でもないなら歩きでもいいだろう」


 出発前に食料を始めとする消耗品を買いそろえる必要がある。

なので、今日すぐに出発とはいかないが、場所と様子だけでも見ておこう。

そう思って街の出口まで来てみた。

予想通り兵士の詰め所があって、出入りする者の確認を行っているみたいだ。

この辺はモンテスと大差ないな。


 ただ、詰め所への衛兵の出入りがモンテスより多い気がする。

いや、これはそういうのではなくて、なんかあったのかもしれない。

衛兵たちの空気が平常時のものではなさそうだ。


 俺達の姿を見た衛兵が一人、俺達の方にやってきた。


「ん? 何だお前達。こんな時に用もなくうろつくんじゃない! こいつはお前の精霊か? 非常時に精霊を顕現させて連れ歩くな! 不要な誤解を受けても知らんぞ!」


 俺がぶら下げているメダルを見て衛兵はそんなことを言ってくる。

このメダルは国が変わっても通用するみたいだ。


「はいはい…… すいませんねっと」


 俺の魂の影に隠れる術式を発動させたピリカを抱え上げる。

抱え上げると言っても、俺からピリカに触れることはできない。

ピリカの方から俺に抱え上げられることを受け入れないとすり抜けてしまう。


 ピリカは満足げに俺にくっついている。

他の連中からはピリカの姿は見えなくなっているはずだ。


「俺達は昨日ミエント大陸から来たばかりなんだ。できれば数日のうちにエーレに向かいたいんだけどな……。無理なのか?」


 アルドが俺達の事情とラソルトを出たいことを衛兵に説明してくれた。


「そいつはついてなかったな。……というか、ついてなさ過ぎたな。今、街から出ることが出来るのは、領主から許可された駐留軍の関係者か、ギルドから許可を受けた冒険者だけだ」


「何でまたそんなことに……」


「先週ここにやってくるはずのキャラバンの一隊が到着してない。そして駐留軍二個小隊が確認に向かったが、誰も戻ってこない。ラソルトの議会はこのファルクス半島に魔獣が出現した可能性が高いとみている」


「マジかぁ……」


「斥候能力に長けた冒険者パーティーも確認に出ているが、戻ってくるかどうか……」


「どうする?」


 アルドは俺にどう動くのか決めさせるつもりのようだ。


「どうするもラソルトから出られないんだろ? なら、準備だけ整えて規制が解除されるのを大人しく待つさ」


「そうか。なら一度、冒険者ギルドに行ってみよう。ここよりも情報が聞けるかもしれない」


 ここに突っ立っていても仕方がないのも確かだし、アルドの言う通りギルドに行ってみようか。



 ……。


  ……。


 冒険者ギルド・ラソルト支部の建物に入る。

モンテスの半分ぐらいの小さな建物だが、許可がない者は街から出られないせいか、それなりの人数の冒険者が集まっている。

街から出られず、依頼を受けることもできないのだ。

当然、かなりやきもきしている雰囲気が漂っている。

建物に入ったときはやはり俺とピリカが注目を集めた。

しかし、すぐに元通りの空気に戻った。

珍しくはあるが、今は構っていられないといったところかな。


「まだ、ここにも情報は来ていないみたいだな。俺達もしばらくここで待ってみよう」


 アルドが隅の方の空いているテーブルに着いたので俺も習って席に着いた。


「魔獣か……。俺は追躡竜(ついじょうりゅう)しかお目にかかっていないからよくわからないけど、こんな大きな騒ぎになるものなのか?」


「どんな魔獣がどこに出たかにもよるけどな。ほとんどの場合、魔獣は出現が確認できれば特級の討伐対象に指定される。こうなると普通は勇者の出番だ」


「で、追躡竜(ついじょうりゅう)討伐の時はセラスだったと……」


「そういうことだ。残念ながらセラスはその役割を果たす気が最初から無かったみたいだが……」


 これ幸いとばかりにこの機に乗じてアルドとリコを……。

これはダメすぎるだろ。

もう死んだやつを責めるつもりは無いけどさ……。


 そんな話をしていると入口から一人の男が駆け込んできた。

軽装だがしっかりと実戦を想定した装備に身を包んでいる。

これは状況確認に出ていた冒険者が戻ってきたかな?


「クリーゼ! 戻ったのか! 他の奴らは?」


 顔見知りと思われる冒険者たちの声に一切構わず、クリーゼと呼ばれた男は息を切らせながらカウンターの受付嬢に声を掛ける。


「おい! すぐにギルマスを頼む! 最優先だ!」


「ク、クリーゼさん!? は…… はひぃ……。 こちらへどうぞ!」


 突然声を掛けられた受付嬢は嚙みながら、今入ってきた男と奥の部屋に入っていった。


「なんか動きがありそうだな。追躡竜(ついじょうりゅう)以外だとどんな魔獣が出るんだ?」


「ハルトは他の魔獣も見てるよ」


 ピリカが意外なことを言ってくる。


「え? いつ? どこで?」


「六年前にハルトのおうちで」


「ピリカさん…… どれの事を言ってるのか思い出せないんだが……」


「ほら、ピリカにテレビでおっきな鳥、見せてくれたじゃない!」


「!! あれか!」


「そう! あれ!」


 ラライエに来て最初にドローンで空撮した時に映っていたデカい鳥……。

とりあえず【ガルーダ】と呼称したあれか……。

あれも魔獣か……。

確かに街に来たら甚大な被害が出そうだ。

俺も絶対にあれとは戦いたくない。


 ピリカとそんな話をしていると、奥の扉が開いて、さっき入っていった冒険者と受付嬢、そしてアマゾネスみたいな屈強な年配の女性が出てきた。


「ギルマス! クリーゼから話を聞いたんだろ? 状況は何かわかったのか?」


「ああもう、うるさいよ! ちゃんと話すからちょっと黙ってな!」


 なんかモンテスのギルマスより、こっちの方がオタク脳の俺には異世界ギルマスっぽい気がする。

この際そんなことはどうでもいいけどな……。


「残念だが、偵察に出た斥候パーティーで生還できたのはここにいるクリーゼだけだ……。連中が命と引き換えに持ち帰って来てくれた魔獣の情報だ! 絶対に無駄にできないからね! 覚悟して聞くんだよ!」


 フロア内はギルマスの次の言葉を待って静寂に包まれる。


「現れた魔獣は【ペポゥ】だよ……」


 は?


 何それ?

ペポゥ……って。

ものすごく脱力感のある名前が出てきたな。

子供向けモンスター収集アニメに出てきそうな感じがする。

テイムしたモンスターを封じたカプセルを投げて【頼むぞペポゥ! お前に決めたぜ!】ってやればなんかゆるキャラみたいなのが【ぺぽ~っ!】とか鳴いて出てきたりとか……。


 あれ?


 全員、めっちゃ暗い顔で沈んでいるけど……。

空気があり得ないほど重くなった気がする。


 どゆこと?

状況が理解できていないのは俺とピリカさん、アルド…… お前もか……。

アルドも頭の上に【??】のエフェクトが見えそうな顔をしている。


 出現した【ペポゥ】とかいうお茶目な名前の魔獣……。

名前のイメージ通りお茶目じゃないかもしれない……。

 お休みは今日まで……。

明日からまた社畜モードの日々です。

でも折れずに投稿は続けますとも!

 少しペースダウンするかもですが、引き続きよろしくお願いいたします。

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