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十三話 この考えはフラグだったか……。

 やられた。



 ……というよりは、当然だろう。

相手は何の学習能力もない、ただのゲームキャラに過ぎないパニックホラーゲームの追跡者などではないのだ。


 さすがに丸三日も鬼ごっこを続けていれば、相手の退路を断つくらいのことは考えるに決まっている。

よく無事に五時間も倉庫に籠城していられたものだと、逆に自分の幸運に感謝する。

だが、今の状況は非常にまずい。

退路を塞がれ、完全に発光少女に誘導されている。


 状況を打開するには、発光少女の斜め上を行く逃走方法と経路が必要だ。

時間は殆ど無いが考えろ。


 引き返せば、間違いなく発光少女と鉢合わせする。

ガレージの塀を乗り越えて、隣のコインパーキングに逃げるのはきっと発光少女の想定内だ。

次の仕込みがそこにあるだろう。


 なら、俺の逃走経路は目の前のがれきの山を乗り越える!

……のは無理なので、がれきを足場に雨樋に飛び移る!

そのまま壁面を上り、二階の窓から自室内に避難する!


 ……うまくいった。


 小学生の身軽な体に感謝だ。

五十四歳のメタボボディでは、絶対に雨樋の強度では耐えられなかった。


 無事に自室に転がり込んだ俺は、息つく暇もなく次の行動に移る。

まだ、俺が二階に逃げ込んだ事が発光少女に知られていないと思いたい。


 とにかく、二階の窓を全て施錠する。

窓から室内に侵入するには、浮遊&壁抜けを使わざるを得なくするためだ。

次に、隣のかつて両親の寝室であった部屋に移動する。

ここには天窓があり、ここから屋根の上に出られる。

以前、台風でテレビアンテナが壊れた時に一度だけ、ここから屋根に出て修理したことがある。

屋根の上で大の字になり上空を見る。

20mほど先に、シャボン空間の境界であろうシャボン膜が見える。

やはり、ここが我が家を中心とした直径50mほどの閉空間であることを再認識する。

となると、発光少女はどこからこのシャボン空間に侵入してきたのだろうか?


 むしろ、最初からこの空間内に居たと思うべきなのかもしれない。

呼吸を整えながら色々と思考を巡らせる。

シャボン空間内で屋根に上ったことは一度もない。

もちろん、この鬼ごっこの間も含めてだ。

だからこそ、俺が屋根の上に避難していると、発光少女が気付くまでには少し時間がかかるだろう。

残念ながら、屋根には短時間で地上に降りるための退路がない。

この屋根の上で追い詰められたらゲームオーバーだ。

屋根の上に退路を準備する時間は無かった。


 一か八か飛び降りることも選択肢としてはあるが、地上までの距離は7m以上ある。

玄関側と側面の地表はアスファルト。

裏庭側は天然芝だが、確実に大怪我か最悪死ぬ。

動けなくなるほどの負傷をすれば、絶対に発光少女に捕まる。

万一逃げ延びたとしても、結局このシャボン空間から脱出できない。

回復不能なダメージを受ければ、後が続かなくなる。


 今の俺に出来る事……。

発光少女が消滅するまで屋根の上に潜んで見つからないことを祈るのみのようだ。


 ただひたすら息を殺す。

時間さえかければ、自室のベランダに降りることは出来そうだ。

しかし、その間は裏庭のどこにいても丸見えだ。

確実に見つかってしまうだろう。

ここに来て最大のピンチだが、屋根の上に来てから一時間以上経過している。


 意外と見つからないものだ。

少なくとも、発光少女の裏をかくことは出来ていそうだと思った刹那。


 この考えはフラグだったか……。


 俺が屋根に上ってきた天窓からほんのりと赤い光が漏れ出ている。


 だんだん光がはっきり認識できるようになってきた。

これは屋根に上がってくるな……。


 程なく、天窓から発光少女が完全にその姿を現した。

赤い光は前回遭遇した時よりも更に弱いものになっていて、全身のあちこちにチャンネルの合っていないアナログテレビの画面のような砂嵐ノイズが走っている。


 発光少女もかなり限界のように見える。

しかし、触れるだけで俺の命を奪えるとすれば、僅差で俺の負けのようだ。


 せっかくここまでやったんだ。

一秒でも長く…… 最期の瞬間まで足掻いてやる!


 少しでも発光少女との距離を稼ぐために、反対側の屋根の端部まで逃げる。

これ以上、逃げ場はない。

発光少女は滑空しながらこちらに向かってくる。

発光少女との距離はもう一メートルもない。


 すでに砂嵐的ノイズが全身に及んでいるので発光少女の顔は分からない。

発光少女の掌が俺の視線の先30センチあたりまで迫ってきた。


 死の苦痛がやってくるに違いないと覚悟した。


 まさにその時、そこで発光少女の姿がすっと掻き消えた。

なんだかずいぶんゆっくりと感じたが、実際は1~2秒の出来事だろう。


 しばらく完全な静寂の中で呆けた後、屋根の一番高いところにあるテレビアンテナにしがみついて両膝をついた。


「はぁっ、はぁっ。……た、助かった……のか?」


 意識はある。


 呼吸もしている。


 心臓はバクバクいってるが、ひとまず生きてはいるようだ。


 言葉にならないほどの疲労感が全身を襲っている。


 しばらく動けそうにない。


 多分、落ち着くまで10分以上かかっただろう。

ここで足をもつれさせて、屋根から落ちて死んだら元も子もない。


 ゆっくり…… 確実に、足元の安全を確認しながら天窓から屋内に戻った。

室内に動くものは…… 俺以外にない。


 発光少女が現れる前の闇と静寂の空間が戻ってきている。

とにかく、極限まで蓄積している疲労を何とかするために、自室のベッドに倒れ込む。

ものの数十秒で意識がなくなり、深い眠りに落ちた……。


 十四話の投下は一時間後、4月5日の22:30ぐらいを予定しています。

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