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百二十九話 二人共平気なら別に良いんだけどな……

 11月26日


 モンテスを出港して三日が経った。

船は順調に航海を続けているようだ。

たまに甲板に出て海の様子を見たりしているが、基本は船室でヒキオタライフだ。

ラソルトまでは約半月の航海との話だ。

モンテスの河川港に来ていた定期便が半月に一度だって話だったから、二隻の船が入れ替わり行き来している計算か。


 なんかここまでまったりとした時間を過ごすのはずいぶん久しぶりの気がする。

ベッドに横たわって、脳内PCでアニメ鑑賞する。

ピリカも同じベッドで横になってなんか鼻歌を歌っている。


「お前ら……。一日中こんな狭い所でゴロゴロしていて平気なのか? 俺は暇すぎてこれ以上じっとしていられんぞ」


「この幸福感が分からんとは…… そんなに生き急いでも良いことなんて無いぞ」


「ピリカはハルトと一緒ならどこでも幸せ!」


「そうか…… 二人共平気なら別に良いんだけどな……」


 アルドは立ち上がるとドアノブに手を伸ばす。


「アルド、どこ行くの?」


「こんな所に押し込まれ続けていたら体が鈍ってしまう。甲板で素振りでもしてくる」


「そう、いってらっしゃい!」


 ピリカが手を振ってアルドを送り出した。

再会して以来、ピリカもアルドと急速に打ち解けてきている感じがする。

リコが生きていたならやきもち焼きそうだ。

しかし、アルドの言う通り半月もこんな閉空間に引きこもっていたら体が鈍ってしまうな。

最低限、体はいくらか動かしていた方が良いだろう。

俺もタイミングを見て演舞で体を動かしておくことにしようか。



 ……。


   ……。


 脳内PCで見ていたアニメシリーズの再生が終わったので、俺も遅ればせながら甲板で体を動かそうかな。


「俺も甲板で体動かすけどピリカはどうする?」


「ハルトが行くならピリカもいくよ」


 ピリカもベッドから降りて来て俺についてくる。

甲板に出ると海特有の潮の香りを強く感じる。

どの方向を向いても海面しか見えない。

GPSなんて気の利いた機器は当然ないだろう。

まぁ、羅針盤やそれに準ずるものはあるだろうけど ……大丈夫なのか。

どうやってここまで全方位が海の状況で航路を見失わずに進めているんだろうな?

甲板に出ているのは殆どが船の乗組員で乗客の姿はまばらだ。

結構な人数の乗客がいたような気がしたけどみんな船室にこもっているのか……。


 アルドはどこかな ……と、いた。

甲板の船尾付近で鞘に収まった状態の剣を振っている。

アルドの方に向かって歩いていくと、俺とピリカに気付いたアルドが手を止める。


「どうした? 結局お前たちも出てきたのか」


「まぁね。さすがに少しぐらいは体を動かしておかないと ……と思ってな」


「だろ?」


 軽く準備運動を済ませ、G管を取り出して俺も演舞で体を動かして過ごす。

一時間ほどアルドと共に汗を流して一息ついたところで、ピリカの姿が見えなくなっていることに気付いた。


「あれ? ピリカはどこに行った?」


「さっきまでその辺にいたぞ。部屋に戻ったんじゃないのか?」


「……ならいいんだけどな」


 甲板をざっと見まわした感じ、ピリカの姿は…… あ、いた。

メインマストの下の方に浮かんで…… またやってる。

何なんだろうな。


「シャシャァーっ!」


「おい ……何やってんだ? あれ……」


「実は俺もよく知らん。本人はデカい羽虫を追い払っているって言ってたけどな。俺はその羽虫を一回も見た事がない」


「シャー! シャシャァーっ!」


「おーい、ピリカ! そろそろ戻るぞ!」


「!! あ、ハルト! 分かった!」


 ピリカが俺のところに降りて来てそのまま首に手をまわしてぶら下がる。


「ふふんっ!」


 上空に向かって何やら勝ち誇ったような強気な笑みを浮かべている。


「えっと…… ピリカさん…… お前何やってんの?」


「ハルトは気にしなくていいよ。羽虫を追い払ってピリカが満足しているだけだから」


 まぁ、ピリカが満足しているなら別に良いかな。

俺達は夕食の時間まで船室でのんびりと過ごすことにした。



 ……。


  ……。



 11月30日


 さらに4日が経過した。

ようやく水平線から光が漏れ始めている未明の時間だ。

普通に気持ちよく寝ている俺達の安眠は突然破られた。

ピリカさんは睡眠をとらないので起きているけどな。


「魔物の襲撃だ! 戦える者は甲板へ頼む!」


 外から乗組員のそんな声が響いてくる。


「おいおい…… 何時だと思ってるんだよ?」


「ハルト ……行くぞ」


「マジかぁ……」


 航海中、この手の非常時には戦えるものは乗組員に協力して戦闘に参加するのはラライエの人類の常識らしい。

こんな所じゃ逃げ場もないし、船が沈められでもしたら全員揃って死ぬしかない。

当然と言えば当然か。

俺には【ポータル】があるからいざとなったら脱出出来る。

今となってはアルドを見捨てる選択肢は俺には無い。

俺が地球人だとばれることも含めて、アルド共々脱出する覚悟はできている。

そうならないように、戦闘に加わるしかないな。


 ……。


  ……。



 ピリカ、アルドと共に甲板に出る。

既に戦闘が始まっていて、かなりの乱戦になっている。

水面から次々と弾丸ライナー軌道で魔物が飛んできて甲板に上がってくる。

あれは…… 地球の魔物データベースにもあったな。

サハギン……。

まぁ、半魚人ってやつだ。


「なんだあれは? これまた奇怪な魔物だな」


「アルドはアレ見た事ないの?」


「ああ、俺はミエント大陸から出たことが無いからな。海の魔物は初めて見る」


「俺もあれは資料でしか知らない。普通に剣は通用するはずだ。絶対に海に引き込まれないようにな。それだけは要注意だ」


「わかった。行くぞ! キムウガハサウンソウョハノモゴトリキレノムガトネワ」


 アルドが強化魔法を詠唱して、剣を抜いて飛び出していった。

仕方がない…… 俺も行くしかなさそうだ。

【ブレイクスルー】と【プチピリカシールド】を発動させてサイを装備してアルドに続く。

甲板の上だと広さもあるしG管でもよかったのだが、乱戦になっているのでサイの方が良さそうな気がした。

アルドもいるし【フルメタルジャケット】を絡めて戦う方が良いだろう。


「くそ…… 移動中のキャリプルの群れにかち合うとはな…… 今日はついてないな」


 水夫たちが悪態をつきながら、魔物を迎え撃っている。

あの半魚人は【キャリプル】って言われているのか……。

例によって俺の感覚に合わせて以降は【サハギン】に脳内変換……っと。


「ピリカ、あんな奴らに船を沈められるわけにいかない。サハギン共を始末してくれ」


「はーい!」


「ただし、他の奴らを巻き込まないように気をつけてな」


「大丈夫! わかってるよ」


 ピリカは無防備にテクテクとサハギンに向かって歩いていく。

そしてそのまま【ピリカ美利河 碑璃飛離拳(ピリカ ピリピリけん)】でサハギンの首を跳ね飛ばす。

薄い赤の体液をまき散らして、サハギンが倒れる。

血の色が薄いな……。

人間よりもずっと赤血球が少ないのだろう。

俺も射線が通っているサハギンに【フルメタルジャケット】を見舞う。

頭に風穴を開けられたサハギンがどさりと崩れ落ちる。

大丈夫だ。

俺の攻撃も問題なく通用する。

そうであるなら船上で戦っている限り、やつらはゴブリンと大差ない。

直接戦闘でも行けそうだ。

敵の数を減らすべく、俺も前へ出ることにした。


「戦況はどうなんだ?」


 アルドが水夫に問いかける。


「見ての通りだ、何とか持ちこたえてるが数が多い。結構大きな群れに遭遇したかもしれん」


 水夫たちもサハギンとの戦闘は慣れているようで、次々と甲板上に飛んでくるサハギンを一匹ずつ切り伏せている。

奴らが打ち止めになるか、俺達の体力が尽きて数に押し切られるか……。

そのどちらかでしか決着はつきそうにない。


 本日の投稿はあと一話で打ち止めです。

次回、130話の投下は90分後……。

22:00を少し過ぎたぐらいを目標に投下します。


 あと一話……よろしくお願いします。

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