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百二十二話 別に倒してしまってもいいんでしょ?

 ピリカを肩車してセラス達の拠点(ホーム)へ向かう。


「それじゃ、作戦を確認しよう。ピリカから見て奴らの中で一番強いのはウィルなんだな?」


「そうだね。あの鎧を着てなんの影響も受けないのはちょっとすごいよね。質は落ちるけどあれも魔法金属だから、アレで体当たりとかされたくはないな」


「だったら真っ先に狙うのはウィルだ。最初の奇襲でウィルを倒す。次にピリカはラッファを抑えてくれ。その間に勇者セラスは俺が殺す」


「別に倒してしまってもいいんでしょ?」


 ここでこのセリフが出るとは……。

やるな、ピリカさん。

何に対してやるのかは知らないが……。


「もちろん構わない。奴の剣も魔法金属なんだろ? ピリカが負けるとは思ってないけど気を付けてくれ。もし、ピリカが死んだら俺も悲しくて死んじゃうからな」


「えへへへ! ピリカも! ハルトがいないと生きていけないから!」


 俺は人間だから天寿を全う出来たとしてもあと70年ぐらいの命だ。

それまでにピリカには俺がいなくなっても生きていけるように、心の折り合いをつけてもらいたいものだけどな……。


「でも大丈夫? 勇者の力自体は大したことないけど、あの能力は計算できないよ?」


「大丈夫! 問題ない。セラスは俺に為す術無く負けるよ。 ……俺が腹を(くく)ることが出来ればな」


 俺の見立てに間違いが無ければ、俺はセラスの天敵だ。

その能力故に一対一では無敵の強さを発揮するセラスだが、俺のようなやつを相手に戦うのは初めてだろう。


「わかったよ。ハルトを信じる! 残った魔法使いの女はどうするの?」


「こいつが最大の不確定要素だ。結局、この毒女の情報だけは取り切れなかった。俺はきっとラッファの援護に行くと踏んでいる。最悪、二人まとめて引き受けてもらってもいいか?」


 奴らの認識では、勇者セラスは一対一なら無敵だ。

その絶対的信頼と実績から俺がセラスに直接戦闘を挑んだ時点で、連中はセラスの勝利が確定したと思うだろう。

必然的にプテラは、ラッファの援護に入ると考えられる。

ここはピリカさんの圧倒的な力の差で、二人まとめて蹂躙してもらうのが最善手だろう。


「いいよ。あんな奴らデカネズミ二匹相手と大して変わらないよ」


「マジで油断だけはしないでくれよ」


 ピリカは【はなまるの笑顔】で頷いてくれる。



 ……。


  ……。


 もうすっかり見慣れてしまった勇者パーティーの拠点(ホーム)

まだ連中が拠点(ホーム)にいる事だけ確認して、その場を離れる。

奴らが出かけていないことが分かれば、今日はここに用はない。

そのまま市街に向かう一本道で目当ての相手が現れるのを待つ。



 ……。


  ……。


 来た。

市街の方から二人の若い女性がこちらに向かって歩いてくる。

拠点(ホーム)の雇われ管理人達だ。

今日はこの二人が来る日なのは今までの観察でわかっていた。

俺は二人に何も知らない子供を装って声を掛ける。


「あのぉ…… すいません」


「あら…… どうしたのかな?」


「えっと、おねえさんたちは、これから勇者様のところに行くんだよね?」


「ええ、そうよ」


「だったら、これを勇者様に渡してくれないかな? さっき、獣人のおねえちゃんに頼まれたんだよ」


 そういって俺は封筒を管理人に渡す。


「これは……」


封筒の裏面に書かれた差出人の名前を見て、雇われ管理人達は笑顔を見せる。


「よかった。無事だったのね……。わかったわ。これは私達からセラス様にお渡ししておくわ」


「ありがとう! それじゃ、頼んだよ!」


 俺は管理人の二人と別れて、市街に引き返した。



雇われ管理人の二人に渡した封筒は【ピリカストレージ】で召喚したもので、ラライエでは決して手に入らないおしゃれな日本製レターセットだ。

もちろん書かれている内容は全て俺が捏造(ねつぞう)したもので、封筒の裏面に書かれている差出人名は【リコ】。

中のオサレな便箋に書かれている内容はこうだ。



--・・--・・--


勇者セラス様達が始末したリコの後任として、自分をパーティーに加えてください。

三日後、グリナ大河に一番近い街道の簡易休憩所でお待ちしています。

そこで自分の待遇について相談をしましょう。


もし、来なかった場合は知っている真実をギルドと連盟に話します。


 精霊術師 ハルト


--・・--・・--



 確実にセラスの手に届くように、ラライエでは入手困難な極上紙である日本製のレターセットを使い、差出人はリコの名前を使った。

書類上の処理は止まっているはずなので、リコの扱いはまだ【行方不明】のはずだ。

リコがもう生きていないことを知っているのは、俺とピリカ以外ではあいつらだけだ。

手紙の信ぴょう性はそれなりにあると判断されるだろう。


 この手紙はまず間違いなくセラス達の手に渡る。

そして、セラス達がこの手紙を読めばまず間違いなく釣れる。

奴らにとっては絶対に外部に知られてはいけない事実だからだ。

手紙を無視してギルドと連盟にたれ込まれたとしても、勇者ならこんなのは子供の世迷言と握りつぶすことは出来るかもしれない。

それでも余計な疑惑は持たれたくないはずだ。

必ず、俺を始末するためにこの誘いに乗ってくるだろう。


「さぁ、賽は投げられた。行くぞ、ここからが正念場だ」


 ピリカを肩車してモンテスの大通りをひた走る。

途中、古着屋で少し大きい目の茶色いフード付きポンチョを買い込んだ。

そしてそのまま街を出る。

もちろん、セラス達を待ち構えるためにだ。


 セラス達の拠点(ホーム)を奇襲したり、町中で暗殺などの選択肢は最初から無い。

失敗した時に俺が死ぬのは…… まぁ、仕方がない。

どっかの復讐を誓った王子様が主人公のアニメの名言の通り、殺そうとしているのに殺される覚悟をしないわけにはいかないだろう。


 それよりも街の中で戦闘の規模が大きくなり過ぎて、関係のない人を巻き添えにすることだけは避けたいと思った。

それに万一取り逃がして、他の勇者に助けを求められたりしたら、最悪モンテスという都市全てを敵に回すような事態になりかねない。

俺は勇者セラス達以外、誰も傷つけるつもりは無い。


 作戦通りことが進めば、さくっとスマートに終わる予定だが、想定外の事は往々にしておこるもの。

であるなら、少々派手にやらかしても被害が出ない環境を勝負の場に設定するのは当然だろう。


 街を出て街道をグリナ大河に向けてひた走る。

すでにピリカを肩車している必要はない。

ピリカは俺の頭の少し上を滑空して、ついてきている。



 11月21日


 丸一日かけて穀倉地帯を抜けて平原に出てきた。

さらにもう一日進めば、セラス達を呼び出した簡易休憩所だが、そこまで行くつもりは無い。

街道を少しそれたところにやや大きい目の岩が見える。

岩の裏側に回れば少しぐらいは身を隠せそうだ。

見える範囲に人の姿も魔物の姿もない。

ここなら被害度外視でピリカがプラズマ火球の魔法をぶっ放したとしても、人的被害は俺一人だけで済むだろう。


よし! ここに決めよう。


「ピリカ、ここで奴らを迎え撃つ。結界を……」


「はーい!」


 ピリカが結界を展開する。

これで認識阻害の効果も得られている。

この辺りを徘徊する魔物に襲われる心配はないし、街道を行き交う人々にも容易く見つかることは無いだろう。

俺はオペラグラスを取り出し、岩の上から顔を覗かせて街の方から来る人影にだけ注意を払う。


手紙で指定しているのは明後日だ。

指定通りに現地に到着しようと思えば、ここを明日通過する必要がある。

多分、今日は現れないと思うが警戒は怠らない。

勝負の時は刻一刻と迫ってきている。


 本日二話目です。

次回、123話は90分後、11:30を少し過ぎたぐらいを目標に

投下いたします。


 よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 突然十話も更新された上、こんな内容とはドキドキですね
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