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十二話 これって、もしかして……

 和室にいる俺の手には、スマホと機種変更する前のガラケーが握られている。

どちらも乾電池式充電器を使って充電完了状態にしてある。

そして、310分後にアラームをセットしてある。


 ただし、ガラケーの方は音量最大の通常モード、スマホの方はマナーモードに設定してある。

ガラケーを和室の中央、畳の上に置いた。


 俺はそのまま発光少女に見つからないよう、裏庭の倉庫に向かう。

無事に倉庫にたどり着いたところで、イモビライザーのスイッチを押す。


 ガレージにある車のウインカーが二度光る。

ウインカーの光に反応した発光少女が車の方に向かっていく。


 その隙に倉庫内に身体を滑り込ませ、内側から28φのG管(鉄パイプ)をつっかえ棒に、外から倉庫の扉を開けられないようにする。


 やった! 何とか籠城成功だ!


 あとは発光少女が入ってこないこと、倉庫そのものが破壊されないことを祈るのみだ。


 大きく安堵のため息を一つついて、完全な暗闇の倉庫の片隅で丸くなってわずか数秒の内に眠りに落ちていく。

もはや、この睡魔に抗うことは不可能だった。




 ヴゥーン……ヴゥーン……ヴゥーン……




 スマホのバイブレーションで意識が引き戻された。

五分くらいしか仮眠を取っていないような感覚だ。

だが、スマホのバイブレーションが発動しているということは、がっつり五時間経過しているということだ。


 今回の籠城作戦で最も危険なのは倉庫から外に出る時だ。

何せ、俺には倉庫の外の状況が全然わからないのだから……。


 倉庫の扉を開けた瞬間、発光少女と鉢合わせしたら即座にゲームオーバーである。

そこで、和室の床に置いたガラケーがスマホと同じタイミングでアラームが鳴るようにしておいたわけだ。

倉庫の扉前に発光少女がいた場合、アラームの音が聞き取れつつ、最大限の距離が取れる位置関係を考慮して和室をガラケーの置き場所にしてある。


 発光少女がガラケーに引き付けられている間に、倉庫から出ることできれば、安全に脱出できる。

ぐずぐずしていたら折角の脱出チャンスが失われてしまう。


 開ききらない瞼をこすりながら、G管をはずして倉庫の引き戸を開けて外に出た。


裏庭に面している仏間から赤い光が漏れている。

仏間の隣が和室なので、発光少女は間違いなくガラケーのアラームにおびき出されている。


 こちらの思惑に嵌ってくれたようだ。

今のうちにブロック塀を乗り越えてコインパーキングの車の陰に身を隠す。

およそ五分経過してアラームが停止し、発光少女が裏庭に姿を現した。


 ??


 なんだか光が心なし弱いような気がする。

しかも、よく見ると発光少女の外見に散発的にノイズのようなものが走っているみたいだ。


 「これって、もしかして……」


 発光少女の変化に、俺の中で希望的仮説が確かに一つだけあった。

この変化はその仮説の信憑性を引き上げる一要素だ。


 光は色によってエネルギーの大きさが違う。

コンロの炎は青い先端部が一番熱い、とかよくマンガやアニメのネタになったりするアレである。

初めて発光少女が出現した時は青紫色で光っていた。

二階の自室にいてなお、裏庭が光源だとはっきりわかるくらい光っていたわけだ。

今は赤く、なんとなく暗い印象さえある。


 青紫から黄緑そして赤……。


 発光少女の発する光の波長が長くなり、エネルギーが少なくなっている。

……のではないだろうか?


 ここにきて時折、発光少女に見えるノイズのような陰り。

これはひょっとして、発光少女が自身を維持し続けるのが難しいほどに消耗しているせいでは?

もしそうなら、発光少女は遠からず消滅すると推測できそうだ。


 いや、むしろ俺が生き延びるにはそうである可能性に賭けるしかない。

なら、あとどのくらいで発光少女は消滅するのかが問題だ。

見た感じでは、それほど長くはもちそうにないと思う。

しかし、実は赤色が省エネモードで、ここからが消滅までが長い場合、俺が先に参ってしまうかもしれない。

だったら、ここは攻勢に出るべき局面だろう。

積極的に消耗させて、消滅を促進させることはできないだろうか。


 発光少女のエネルギー消耗が高そうなことと言えば、浮遊と壁抜けかな。

これを狙って頻繁に使わせることができれば、もしかしたら短時間で発光少女が力尽きるかもしれない。


 危険な賭けだ。


 特に浮遊させるには俺自身が高所にいる必要がある。

二階・ベランダ・屋根の上……。

いずれも退路が非常に限定されるうえ、落ちればそれだけで終了だ。

まだ壁抜けの方がリスクは少ないだろう。

チャンスがあれば浮遊も狙いつつ、壁抜けを使わせる状況に誘導する方向でいこう。


 早速、準備に取り掛かる。


 発光少女に見つからないように、今まで通りの逃走ルーティーンを行いつつ、透明なガラス窓は全て施錠した。

逆にそうでないものは全て開放して退路を確保する。

これでひとまず準備完了だ。


 行動を開始しよう。


 まずは、地上を中心にガラス越しに、わざと姿を発光少女の視界に晒せば、壁抜けを使ってこちらに向かってくるはずだ。


 ガラス窓の外側からこちらの姿を視認した発光少女はすぐさま反応を見せた。

……が、ここで致命的に大きな計算違いが発生した。


 発光少女が使ったのは、壁抜け・浮遊の同時使用だ。


 今までならガラス戸をすり抜けて、小走り程度の速度で駆け寄ってくるはずだった。

だが、発光少女は俺が小学生くらいの頃、ブレイクしたアニメヒロインであるビキニの鬼っ子宇宙人のごとく、ぴゅーんと滑空してこちらに向かってくる。(効果音はないが……)

はっきり言って、今までの発光少女の倍以上のスピードが出ている。


 ヤバい。


 全力で逃げないとすぐに捕まってしまう。


「a9ZsjZw! 3qdkfudgew! s@4dwi:@a’4k?」


 何か意味不明なことを口走っているが、当然かまっていられない。


 俺は全力で門から道路に飛び出し、隣家の玄関に駆け込み扉を施錠する。

扉のサムターンを回した次の瞬間に、外からガチャガチャと取手を回す音が響く。


 まさに間一髪だ。


 やがて、あきらめたのか玄関の外から音がしなくなった。


 扉の壁抜けは出来ないはずだから、反対側か二階のガラス窓から侵入してくると思われる。

それでも最低でも20秒は稼げるだろう。


 赤い光がどこからくるのか細心の注意を払いながら、いつでも玄関から外に出られるよう、今さっき施錠した鍵を解錠する。

これは、発光少女も限界が近いので、なりふり構わず本気で俺を捕まえに掛かっているということだろうか?


 すでに30分以上経過したが、発光少女がこの家に入ってくる気配はない。

発光少女の追跡にブーストがかかったせいで、一瞬、反応が遅れただけでも命取りになりそうな事態になってしまった。

次の退路を思案していると、家の裏手の窓ガラスから赤い光が差し込んでくる。


 どうやら入ってきたようだ。


 すぐに玄関から外に飛び出し、自宅の門扉を引き開けて、更に玄関扉に手をかける。

ドアノブを回して扉を開こうとしたその瞬間、初めて異変に気付いた。

発光少女の猛チャージのせいで自宅の門扉を閉める余裕なんてなかった。


 なんで閉まっているんだ?


 ものすごく嫌な予感がする。


 だが、このままここに居たら間違いなく捕まってしまう。

俺は意を決してドアノブに力を込めて扉を開こうとした。

しかし、ドアノブはビクとも動かない。

施錠されていたのだ。


 合鍵はポケットに入っている。

この扉の合鍵を使わずに施錠するには内側からサムターンを回すしかない。

それができるのは、このシャボン空間内に俺以外には一人しか心当たりがない。


 どうする?


 選択肢は二つだ。


一、合鍵を使って解錠し、扉を開けて家に逃げ込む。


二、玄関から家に逃げ込むのを諦めて別の退路を行く。


 この闇の中で、ポケットから鍵を取り出して扉を開くのは5秒から15秒程度の時間ロスだ。

今の発光少女の行動速度ならこの時間ロスは致命的かもしれない。

俺は玄関扉を開けるのを諦めて、ガレージの横を通り抜けて裏庭へ至る退路を選択した。


 ガレージを抜けて家の側面に足を踏み入れた時、俺は眼前の状況に立ちすくむ。


 発光少女に発見されるリスクも意識から飛んで、スマホのライトで数秒、状況を確認してしまった。

目の前には俺の身長くらいの高さまで、廃材やお隣さん家の机や椅子などが積みあがっていて、裏庭へ回るルートが塞がれていたのだ。


 本日の投稿は以上です。十三話の投下は明日、4月5日の21:30ぐらいを見込んでいます。

社畜としてのリアルが立て込んだ場合は時間が前後するかもです。

 待っている間にぜひブックマークと評価の★マークをポチってほしいのです。

どうかよろしくお願いいたします。

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