百十九話 あんな変なヤツにプレゼントしちゃやだぁ!
姿を現したのはオーガが二体だ。
筋骨隆々の男女のオーガか。
一応、番ということいいのか?
それぞれに棍棒を手にしている。
二体のオーガが棍棒を振り下ろし、柵を破壊して侵入してきた。
冒険者たちは現れた討伐対象に対処するべく、オーガの前に立ちふさがる。
戦闘が始まるな……。
すぐにオペラグラスを取り出して連中の行動を監視する。
目の前に現れた五人の人間に対してオーガーがひるむ気配は全くない。
むしろ、新しく追加された五つのエサに喜んでいるようだ。
……。
数秒のにらみ合いの後、ウィルがオーガに向かって進み始めた。
構えも何もない。
普通に道を歩くのと変わらない動作でゆっくり歩いているだけだ。
そのまま、オーガの事を警戒するそぶりも見せず、オーガの攻撃が届く間合いの内側へ踏み込んでいく。
「おいおい……。 ノーガードで大丈夫なのか?」
ウィルの鎧が強力だという前情報はあるが、いくら何でもそれはどうなんだ?
最低限、直撃を避けるとか捌くとかは必要だろう。
オーガが棍棒を振るえば、もはや躱せない位置にいるにもかかわらず、ウィルはお構いなしに進む。
オーガは当然のようにウィルに棍棒を振り下ろす。
あ、ウィル死んだ。
普通にそう思った。
オーガの持っている木製の棍棒の長さが約1.5m。
木の比重が地球の樫の木と同じだと仮定すると、あの棍棒の重量は約130kgだ。
そんなものをメジャーリーグスラッガーの数倍のスイングスピードで振り回されたらその威力は……。
もうよそう。
とにかく、脳内PCが算出している威力は金属鎧をつけているぐらいで、人間が生存可能なものではない。
ゴィン!
木材で金属を打ち付けた鈍い音が響く。
そのままウィルがライナー軌道で吹っ飛んでいくと思ったのだが……。
ウィルは微動だにせず、オーガの打撃などお構いなしにオーガに向かって進む。
「……マジかぁ」
オーガも想定外だったのだろう。
最初の一撃で血肉の塊になっているはずの相手が、全く意に介さずに進んでくる。
「グオオォ!」
雄たけびを上げて、オーガは力任せにウィルに棍棒の攻撃を見舞い続ける。
ウィルは全く意に介さない。
これは洒落になってない。
ウィル、無敵すぎるだろ……。
マジでノーダメージなのか?
これはマズいと察したのか、番の女のオーガも加わって二人がかりでウィルをボコボコの滅多打ちにする。
しかしウィルにダメージを与えるどころか、1ミリもウィルの行動を阻害することすらできていない。
ウィルは何事も無いかのようにゆっくりとハルバードを構えた。
ようやくウィルがハルバートの穂先を女のオーガに向ける。
長尺武器のハルバードを振るうには男のオーガは間合いが近くなり過ぎたせいだろうな。
最初の標的は少し下がったところにいる女の方に決めたようだ。
そのまま無造作に女のオーガへハルバードを突き入れる。
次の瞬間、ハルバードは女のオーガの胸を容易く貫いた。
ウィルが乱暴にハルバードを引き抜くと、オーガは盛大に鮮血をまき散らして崩れ落ちる。
間違いなく即死だと分かる。
「マジかぁ……。ウィルにも【2マジかぁ】プレゼントだ」
「あんな変なヤツにプレゼントしちゃやだぁ!」
いや、だからピリカさん……。
【マジかぁポイント】まで欲しがるのはどうかと思うぞ。
それにしても驚きだ。
オーガの体表はアルドの剣も全く通らず、傷つくことが無かったというのに……。
あれを一撃で突き殺すとか……。
番のオーガが瞬殺されて、たじろいだオーガの隙を見逃さず、ウィルがオーガの足を払って転倒させる。
そして、倒れたオーガに馬乗りになり、膝でオーガの両腕を極めて抑え込む。
身長3m越えで圧倒的に体格に勝るオーガを2mのウィルが抑え込んでいる。
すぐに振りほどかれると思われたが、オーガが渾身の力で抵抗してもウィルはビクともしない。
「何あれ? 意味が分からんな。何でオーガは抵抗できないんだ?」
「あの鎧男が乗っかっているからだよ」
「どゆこと?」
「あの鎧に使われている金属はすごく重いんだよ。あの大きさだと鎧全部で2トン以上あると思うよ」
「マジで?」
「マジで」
「マジかぁ……。ウィル【3マジかぁ】だぞ」
「また、あいつに【マジかぁ】あげてる! ピリカも!」
「ピリカも見ただけであいつの鎧の重さが分かってすごいな!【1マジかぁ】進呈だ」
「えへへへ、やったぁ!」
すまん……。
ピリカは【マジかぁ】もらえて何が嬉しいのか…… 俺にはさっぱりわからん。
ピリカがそれで納得しているのなら、別に良いんだけどな。
それにしても、ウィルは2トン越えの鎧を身に付けて普段通り動き回っていたのか……。
すさまじいな。
そりゃ、オーガも動けなくなるよな。
自分の上に2トン以上の金属の塊がのしかかったら、俺だったら即死してしまう。
オーガを押さえながらウィルが冒険者たちに合図を送る。
それを見た冒険者たちが武器を手にオーガに殺到する。
冒険者たちが、ウィルに押さえ込まれて一切抵抗できないオーガに止めを刺した。
「ここで見られるものはこんな所だろう。奴らに見つかる前に帰るぞ」
「はーい」
俺は連中が後始末を終えて撤収する前にその場を離れ、二日かけてモンテスに引き返した。
……。
……。
11月11日
ウィル達より一足早くモンテスまで戻ってきた。
しばらくベッドの上で休むことが出来なかったから、疲労がたまっていたのだろうな。
戻ってすぐ、泥のように眠ってしまった。
そのため、一日ストーキングをお休みすることになってしまった。
11月15日
セラス達の監視を再開して数日が経った。
今日は全員でお出かけのようだ。
しかし、今日は連中を追跡しない。
なぜなら、そろそろ頃合いだからだ。
以前、ここに仕込んだヴォイスレコーダを回収しておきたい。
すでに、容量の半分以上使っているはずだ。
拠点の手入れに管理人が来たのは昨日だから、今日は来ないはずだ。
まさに千載一遇のチャンスだ。
「ピリカ、頼む」
ピリカはふわりと浮かんで、前回と同じように窓から拠点に侵入する。
その後、すぐにカチャリと入口の鍵が解錠される音がする。
玄関の扉を開けて拠点に忍び込む。
基本、プータローの奴らはいつ戻ってくるのか分からない。
忘れ物しちゃった! ってこの瞬間に戻ってくる可能性だってある。
最低限の用事だけをさっさと済ませてしまおう。
今回も目的は二つ。
一つ目の目的はもちろんヴォイスレコーダの回収だ。
最短で居間に向かいテーブルの裏に張り付けているヴォイスレコーダを回収してポケットに捻じ込んだ。
二つ目の目的だ。
「ピリカ、手分けしよう。ウィルの鎧を探してくれ。きっと一階のどこかにあるはずだ」
「いいよ。」
ピリカと二手に分かれて、あのバカげた防御性能の鎧はできれば現物を間近で見ておきたい。
前回、少し離れたところからは見られたし、その能力も確認できた。
データは脳内PCに記録もされている。
それでも、もっと詳細なデータが欲しい。
精度は高ければ高い方が良い。
問題はあの鎧がどこにあるのか……だな。
全回忍び込んだ時には見かけなかった。
見てすぐわかるような場所にはないのは確実だ。
しかし、2トンを超える重量ともなれば、床や階段が抜ける可能性がある。
普通に考えて二階に収納しないとは思う。
……となれば、一階の閉空間。
ウォーキングクローゼットのような収納場所があるはずだ。
脳内PCで拠点の見取り図を参照しながらそれっぽい場所を潰しこんでいく。
「ハルト! あったよ!」
ピリカの声が聞こえた。
声のした方に向かうと、小奇麗な物置のクローゼットに収納されている大きな黒い鎧が見えた。
「ありがとう、意外と早く見つけられた。さすがピリカだ」
「えへへへ」
ピリカは表情をほころばせてクネクネしている。
それを横目に早速、至近距離で鎧を観察する。
もちろん脳内PCに鎧のデータを更新させている。
軽く鎧を叩いてみる。
コンコンと乾いた音がする。
金属の知識は素人なのでさっぱりわからないけど、感触は鉄と大差ない気がする。
ちょっと、兜の部分を持ってみることにする。
「うっ、そんな気はしたけど1ミリも持ち上がらないな。この兜をかぶっただけで首が折れて俺は死んでしまうな」
「だめぇ! そんなのかぶっちゃやだぁ!」
ピリカが全力で兜をかぶるのを阻止しようとしてくる。
「いや、かぶらないから……。そもそもかぶれないから……」
俺はポケットから【フルメタルジャケット】の術式を取り出して鎧に放ってみる。
キンッ!
乾いた音がして弾丸は弾かれてしまう。
「ですよね……」
命中した個所を確認してみるが、どこに命中したのかわからないぐらい何ともない。
更に数発撃ち込んでみるが結果は同じ。
弱そうな関節部も、鎧の内側も【フルメタルジャケット】では全くビクともしない。
「これはアカンな……。この鎧を破壊する手段は俺には無い。ピリカ、これに【ピリカビーム】を当ててみてもらえるか?」
「はーい」
ピリカは指先に術式を展開させて【ピリカビーム】を放つ。
【ピリカビーム】は間違いなく鎧に命中したが、特に目立った変化は見られない。
「これ、どうなんだ? 見た目は何ともないけどさ……。中の人間には効いていたりしないのか?」
「全然だめ、ちょっと面倒な鎧だね」
「そうか、わかった。……今日はここまでだな。長居しすぎた。これで撤収しよう」
クローゼットを閉じて俺は拠点を後にする。
ピリカは再び入口の鍵をかけ直して二階の窓から出てきた。
「よし、ミッションクリアだ。宿に戻ってこいつの確認をしよう」
ポケットに入っているヴォイスレコーダを軽く叩いて、ピリカと共に宿に引き返す。
すいません。117話と118話の表現が壊滅的に駄目でした。
自分の頭の悪さに軽くへこみました……。
ひとまず、最低限の部分はしれっと、修正しました。
これから一回目のワクチン接種に行ってきます。
副反応で寝込むような事態にならない限りは、明日中に
120話を投下できればいいな……と思います。
無理だったらごめんなさいです。
今回更新するまでにブクマが1増えてました!
とても嬉しいです。これからもよろしくお願いします!
前書きと後書き間違えた!
かっこ悪すぎる......。
大慌で修正しました。




