百十三話 愛はいつだってこの胸に満ち溢れているから
予定より少し早いが、宿屋【モンティノ】に戻ってきた。
あのまま予定通りにセラス達の拠点に向かっていたら、目的地に着いた頃には日が暮れていそうだったから仕方がない。
連中の拠点の確認は明日へ持ち越しにしよう。
夕食の時間もまだ少し先だ。
何とも中途半端な時間に戻って来てしまったな。
一旦部屋に戻って明日の対応を再検討しようかな。
部屋に戻るなり、ピリカがとても嬉しそうに話しかけてくる。
「ハルト、ハルトぉ! ねぇ、ご褒美は?」
うわぁ……。
ピリカさん、目がめっちゃキラキラしてるよ。
期待しすぎだろ。
ピリカの事だから何あげても喜ぶとは思うけどな。
出来る事なら、ピリカが望んでいるものをあげたいとは思う。
「そうだったな。ピリカに何か欲しいものはあるのか?」
「ハルトの愛が欲しい!」
どこでそんなマセた言葉覚えてくるんだよ!
いや、それはもうわかっているけど……。
この子の俺に対する好意表現はいつも全開だからな。
言われた俺の方がこっ恥ずかしい気持ちになるぞ。
「い、いや…… 俺のピリカに対する愛はいつだってこの胸に満ち溢れているから。このラライエにピリカより大切なものなんて無いぞ」
かぁぁーっ!
こんな臭いセリフ、元カノにも吐いたこと無いぞ……。
いい年こいてラノベ主人公みたいな言葉を言わされるとは……。
「うえへへへぇーっ! ピリカもハルトへの愛が全身から満ち溢れてるよ! ハルトより大切なものなんて、どこにもないから!」
ピリカさん…… 表情筋がトロトロに溶けていますよ。
クネクネしながら俺の所に飛んできて、そのまま俺の首にぶら下がってしがみついてくる。
相変わらず、全く重みも触れられている感覚も無いけどな。
しかしご褒美をあげると言ってしまった手前、何も渡さないのもな。
ピリカは多分、これで気は済んでいそうな気はするけど、俺の気がすまなくなってきた。
仕方が無いな。
リュックから【ピリカストレージ】の術式を三枚引っ張り出した。
空欄にそれぞれシリアル番号を記入してアイテムを召喚する。
魔法陣が消失して召喚されたものが現れる。
まずは銀細工のネックレスだ。
亡くなった母親の形見の一つだが別にピリカにあげてしまっても問題ないだろう。
いざとなったら換金アイテムになるかもって思ってたくらいだからな。
「ピリカ、じゃあこれがご褒美ひとつ目だ」
そのままピリカの首にネックレスをかけてやる。
ネックレスはそのまま、ワンピースの時みたいに一体化して白金色に光るネックレスになってしまった。
「ピリカ…… 服の時も不思議だったけどこれは一体どういう現象なんだ?」
「ああ、これはね。ハルトに貰った物の存在位相をピリカと同位体に変換してるの。存在がピリカと同列に置き換わることで、ピリカもこれをずっと身に付けることができるんだよ」
なんとなくわかったような…… わからんような……。
きっと本当の仕組みは俺なんかには理解できないトンデモ理論なんだろうな。
そういうものだと割り切るしかなさそうだ。
あとはこれだ。
二個で1セット。
俺が若いころにコスプレで使っていた小道具の一つだ。
肉体的には今の方が若いけどな。
皮のホルダーとフォトンブレードのレプリカ。
世界的に有名なSF映画シリーズの武器……。
地球人ならオタクでなくても誰だって知ってる有名作品だ。
これは、アメリカから直接取り寄せた実寸大の模造品で当時、数万円した。
高いだけあって、起動すると実際に光る刃のエフェクトさえ忠実に再現できる。
しっかりコスプレすればそれなりにSNS映えもする一品だ。
「あっ! ハルト! これって……」
「おっ! さすがにわかるか?」
「フフフっ、まぁねぇ……」
「さすがだな。やるな、ピリカ」
何に対してやるのかは知らないが。
ピリカの腰にホルダーと一緒にフォトンブレード取り付けてやる。
これもすぐに白金色になって一体化してしまう。
「やったー! ハルトのプレゼントだ! 嬉しいな」
「わかってると思うけど、フォトンブレードは模造品だから殺傷能力は全くないぞ。ネックレスと同じでただのアクセだからな」
「うん。わかってるよ」
「ピリカは早速、腰のホルダーから柄を抜いてブレードを展開させてみる」
ブォン!
電子音がして1m弱の青白い光の刃が展開される。
ピリカはぶんぶんと振ってみてポージングしてみる。
剣術の心得などまるでないピリカなので、動きそのものは明らかに素人丸出しだ。
見た目は超絶美少女ロリなので、キメポーズだけはそれっぽく見える。
「理力と共にあらんことを……」
「おおっ! かわかっこいいぞ! ピリカ!」
地球でSNSにあげれば絶対に万単位で【いいね!】が付くと確信できる。
「えへへへへ」
今日もチョロいな、ピリカさんは……。
俺もピリカに対してはチョロい自覚はあるけどさ。
「そろそろ夕食の時間だ。ご飯に行こうか」
「はーい!」
……。
……。
食事中も部屋に戻って来ても、ピリカはいつにも増してごきげんだった。
ネックレスやフォトンブレードを眺めては、にま~って笑ったり、コロコロ転がったりしている。
気に入ってくれて何よりだ。
「ピリカ、俺は明日に備えてそろそろ寝るぞ」
「はーい! おやすみなさい」
ピリカはフォトンブレードを愛でるのに忙しいようだ。
こんなに喜んでもらえるとプレゼントのしがいがあるよ。
元カノなんて、ン十万円のブランドバッグでもここまで喜んでくれなかったぞ。
おっと、いつまでも睡眠を必要としないピリカの相手をしていると、体がもたないのでそろそろ寝よう。
……。
……。
10月9日
今日からいよいよ勇者セラスのストーキングだ。
やはり直接、勇者とその仲間をこの目で見ないと分からないものはあると思っている。
でも、直接会って話をするには危険な相手の可能性もあるから、ストーカーにならざるを得ない。
地球でもストーカーなんてやったことが無いので、みようみまねでやるしかないな。
そもそも日本でやったらほぼ100%犯罪だし。
脳内PCの地図の通りに高級住宅街を抜けて、貴族の別邸などが立ち並ぶ区画も通り抜け、少し閑静な緑の多い区画にやってきた。
あれか……。
結構いい所に住んでるな。
もはや、ちょっとしたお屋敷だぞ。
アルドは戻っているのか?
俺の推測通りならきっと戻っていないだろうな。
もし戻ったら、アルドもリコと同じ運命が待っているはずだから。
まだ、生きていてくれるといいんだけどな。
よし、ここが良いだろう。
勇者セラスの拠点から120mほど離れた木の枝に登り様子を伺う。
ここからなら、遮蔽物も無く拠点を監視できる。
「ピリカ、プテラとかいう魔法使いが探知魔法をつかった場合、俺達はその探知に引っかかるか?」
「多分、引っかかるね」
「そうか、なら探知された場合、ピリカは探知されたことを認識できるか?」
「もちろんだよ」
「よし、なら今は探知魔法が使われている様子は?」
「無いね」
とりあえず、まだ連中に俺達の存在は気取られていないか。
「あの拠点からプテラが探知魔法をつかった場合、ここにいる俺達は探知されてしまうか?」
「それは術者の能力次第だけど、勇者の仲間なら見つかると思った方が良いと思うよ」
それでも多分、あそこを見張るならここがベストポジションだろう。
「なら、あっちが探知魔法を使ったとしてもなお、探知されずにいる事はできるか?」
「もちろん! ハルトのためだったら余裕だよ」
さすがピリカさんだ。
「緑の泥で使っていた結界を認識阻害に特化させれば問題ないよ」
「そうか、なら早速頼む」
「はーい!」
ピリカが結界を展開させる。
いつもの結界とは記述してある術式の内容が所々違うな。
俺には理解できない謎理論の記述が多すぎて、詳しくはわからないけど。
「これで大丈夫だよ。でもこの結界に障壁の機能は無いから気を付けてね」
「わかった」
見つかったらそのまま攻撃が通るのか。
気をつけないとな。
俺は胸ポケットに【プチピリカシールド】を忍ばせておく。
そしてポーチからオペラグラスを取り出して勇者セラスの拠点の監視を開始する。
さて、ここから勇者との我慢比べだ。
別にあいつらは何も我慢なんてしないけどな。
俺達が一方的に我慢するだけだ。
あいつらがボロを出すまで、何日でも何か月でもストーカーを続ける覚悟をすでに決めている。
まぁ、俺とピリカだけだから24時間ずっと張り込むわけにはいかないから、朝から日没前までの間だけだけどな。
無理していざというときに動けなかったら元も子もない。
最初のうちはこのぐらいで十分だろう。
半分意地で113話を投下しました。
多分、次回の投稿は週末以降です。
今回みたいに連投できるぐらい進めることができればいいのですが……。
これからもよろしくお願いいたします。




