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百十話 俺もとことんチョロい甘ちゃんだよ

 大通りから居住区を通り抜け、低所得者層の領民が多く集まる区画に足を踏み入れる。

いわゆる貧民街というやつだ。

敗戦直後の日本のドヤ街のような空気感があるな。

もちろん実物は知らんから、映画やドラマで見た雰囲気だけで判断してるわけだが……。


 こんな治安に問題がありそうな地域でも、ピリカを連れているから誰も近寄ってこない。

おかげで安全に道を歩くことができる。

この手の地域だとすれ違いざまに悪ガキに肩ぶつけられて、そのタイミングで財布掏られたりするのがお約束なわけだが、このフラグが建つ気配すらないな。


 地図が正しければそろそろ目的地が見えてくる頃合いかな?

……っと、あれか。

異世界ラノベや漫画だと、孤児院ってボロボロで経営的にも負債を抱えていて……。

しかも、地上げ目的でヒャッハーとか言いそうなチンピラどもが、孤児たちを追い出しに来るのがお約束なわけだけど……。

全然そんな気配はないな。

さすがは勇者が仕切っているだけはあるな。

他の建物と比べても一線を画する立派さだ。

これは…… 絶対、周りの住人よりここの孤児の方がいい暮らししてるだろ?


 そのまま、孤児院の門を抜けて入り口をノックする。


「はーい! 誰だい?」


 扉の向こう側から少年の声と共にパタパタ足音が聞こえてくる。

すぐに扉が開いて、今の俺より少し年下ぐらいの少年が姿を見せる。


「ん? お前たち誰だ? こっちのやつは何で光ってるんだ? ヘンなやつだな」


 あれ? ピリカを恐れないだと?

いや、これは……。

ピリカが精霊だって理解していないな。


「!! リスタ! 駄目! そのまま…… ゆっくり先生のところにいらっしゃい」


「?? サリィ先生、何言ってんだ? それよりお客さんだぜ」


 奥から出てきた中年の女性が、応対に出てきた少年をピリカから引き離そうとして声を掛ける。

まぁ、彼女の反応がこの世界のスタンダードなんだろな。

このまま黙っていると騒ぎになるかもしれないから、フォローが必要そうだな。


「えっと、この子は大丈夫! 危険はないよ……」


俺はサリィ先生と呼ばれた女性に見えるように精霊術師のメダルを掲げて見せる。

ここは年相応の子供っぽく振舞った方がいいかな?

一応、相手を見て色々と接し方や話し方は使い分けている。

これでも元ジャパニーズビジネスマンだからな。

俺の本質はコミュ障だが猫かぶるのには慣れている。


「精霊術師? ……こんな子供が?」


「えっと、アルドとリコ来てない? 緑の泥から一緒にモンテスまで来たんだけど……」


「何? お前らアルドとリコの知り合いか? 二人共帰ってきてるのか?」


 リスタと呼ばれた少年が二人の名前を聞いた途端、喰いついてきた。

目がキラキラしている。


「そう……。昨日セラスが来てあの子たちが死んだって言ってたけど…… 無事だったのね。よかった……。きっとセラスも喜ぶわね」


 それはどうだろうか?

少なくともリコはセラスの言う通りこの世にいないけど、今ここで言うべきじゃないな。

サリィ先生と呼ばれた女性はすでに俺の前までやってきている。

ピリカに危険はないと判断したのだろう。


「それで、アルド達は戻って来てない?」


「ええ。二人共、指名依頼で出かけてから一度も戻ってないわ」


「そっか……」


「あの、よかったら冒険中のあの子達の様子を聞かせてくれるかしら? 無事に帰っているならそのうち顔を出すとは思うけど……」


「え? ああ…… いいよ」


 リコにとってはこれが最後のクエストになったんだ。

あいつが暮らしてきた孤児院の人達には知ってもらってもいいんじゃないかな。


「それじゃ、あそこのテーブルで……」


 孤児院の庭にテーブルと数人が並んで座れそうなベンチ型の椅子が一対、出されている。


「外でごめんなさいね。中はたくさんの子供たちが居るから……」


「全然平気だよ。じゃ、あそこで……」


 俺は庭のテーブルに場所を移す。


「リスタ、セレネ先生にお客さんだからお茶をお願いって伝えてくれる?」


「ああ、いいぜ」


 リスタが建物の奥に駆けていく。


「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はサリィと言います。この孤児院で子供たちのお世話をしているわ」


「俺はハルト。こっちは精霊のピリカ……。緑の泥から来たんだ」


 詰所でもらった滞在許可証を見せておく。


「そう、秘境集落の子なのね。道理で不思議な雰囲気のする子だと思ったわ」


 その正体は子供ですらない……。

あんた達から見たら異世界からやってきた元社畜のヒキオタニートだがな。


「それで…… その精霊には消えておいてもらうことはできないのかしら?」


 やっぱり言われるか。

俺は首を横に振っておく。


「そう」


 サリィ先生はそれ以上異を唱えることもなく、俺の向かい側の席に着いた。

話のわかる大人は嫌いじゃないぞ。


 ……。


   ……。


 えっと、なんだこれは?


 自己紹介の最中に大学生くらいの年頃のお姉ちゃんがお茶を持ってきてくれた。

多分、この娘がセレネ先生なのだろうが……。

その後ろにゾロゾロとちびっ子どもが付いてきていた。

そして俺はあっという間に子供たちに取り囲まれてしまった。


「……ごめんなさいね。どうしてもこの子たちも、アルドとリコの話を聞きたいって聞かなくて……」


「な! 俺の言った通りだろ! アルドもリコも死んだりするわけないんだって!」


「何言ってんのよ。セラスの話を聞いた時に大泣きしてたくせに!」


「あ、あれは……そう! シュモのしぼり汁が目に染みただけだ!」


「リコ…… 早く帰ってこないかなぁ。 ……ついでにアルドも」


「また、ラティルスが無理しちゃってさ! ついでなのはリコの方だろ? こいつ、どうせアルドが帰ってきたら顔真っ赤にしてクネクネするんだぜ、わかりやすいんだよ」


「!! く……クネクネなんてしてないもん!」


 おうおう…… 二人そろって愛され野郎どもじゃないか。

こりゃとても、リコが二度と戻ってこないなんて言えんな……。


「ハルト君、この子達も一緒に聞いていてもいいかしら? セラスはもちろん、アルドとリコも子供達のあこがれだから、無事だと知って嬉しいのよ」


 サリィ先生が申し訳なさげにそう言ってきた。


「まぁ、何人いても同じだからいいけど……」


 俺は二人に出会ってから、戻ってくるまでの話をざっくりと聞かせてやった。

もちろん知られたくない部分は作り話を混ぜ、違う部分を盛ってそれっぽく改ざんしておいた。


「す…… すげぇ! アルドとリコ! セラス抜きで魔獣を倒したんだ!」


「ふふん! 当然よ! だってアルドだもん!」


「お前、アルドはついでじゃないのか? 何でお前がアルドの活躍で威張るんだよ?」


「それに、ボル車を助けるのに50匹以上のノールを蹴散らすとか…… アルドとリコも勇者みたいだぜ!」


「きっと、二人もそのうち勇者になるって! そしたらモンテス孤児院から勇者三人だ!」


 子供たちは大盛り上がりだが、サリィ先生は少し微妙な顔つきだ。


「本当に大変だったのね。たった三人で魔獣と戦うしかなかったなんて……。よく無事で帰ってきてくれたわ」


 さすがに大人だけあってわかってるな。

そんな無茶をせざるを得なかったということを……。

実の所は俺とピリカだけだったら、ピリカに全部丸投げで追躡竜(ついじょうりゅう)を討伐できていたわけだが……。

アルドとリコという目撃者がいる以上、それをやるのは(はばか)られて俺も死にそうな目にあってしまった。

あの場でピリカの力を目の当たりにした二人を始末するという選択を…… どうしてもしたくなかった。


 もう認めよう……。

あの二人に情が移ってしまっているんだろう。

俺もとことんチョロい甘ちゃんだよ。


 子供の一人がピリカに話しかけてきた。

確か最初に来ていたリスタとかいう子供だったかな?


「そっかぁ…… お前、なんか光ってるし変だと思ったけど、精霊だったのか」


「あたしも精霊って初めて見たよ」


 子供は中々に物怖じしないな。

まだ、精霊が恐ろしいだとかの教育や知識が十分植えつけられていないのだろうな。

それに、ピリカの見た目はこいつらと年のころも大して変わらない女の子だ。

先入観が無ければ恐れる要素なんてないのかもしれない。


 子供たちはアルド達の話が聞けて気が済んだみたいで、遊ぶ相談を始めていた。

俺はもう少しこの二人の先生から情報を仕入れておきたい。


「なぁ、あっちで俺達と勇者ごっこしようぜ!」


 子供の一人がピリカを遊びに誘い始める。

孤児院の子供たちは思いのほか怖いもの知らずかもしれない。


「お前は精霊だから悪い精霊役な!」


「お前じゃない! ピリカだよ!」


「そっか! じゃぁ、ピリカは精霊役な!」


「!! 精霊が……しゃべった?」


 大人二人は驚いているが、子供たちは平気そうだな。

そういえば、アルドとリコもピリカが話すことに最初は驚いたそぶりをしていたな。


「行こうぜ! 俺、セラス役!」


「ああっ! ずりぃぞ! じゃあ俺、アルド!」


 これはヤバい気がしてきた。

このままだと俺も勇者ごっことやらに巻き込まれそうだ……。

だが、俺はもう少し情報収集を続けたい。


「ピリカ、すまない……」


「ん?」


「あっちで子供たちの相手をしておいてくれないか?」


 ピリカがあからさまに嫌そうな顔になった。

そりゃそうだろう。

何で人類の子供遊びに付き合わないといけないんだって思うよな……。


「え~っ! ピリカ、それはなんか嫌だな……」


 ですよね……。

でも絶対に今、ここでしか聞けない話があるはずだ。

その情報を取りこぼしたくない。


「頼むよ……。あとでなんかご褒美あげるからさ」


 途端にピリカの顔がパッと明るくなった。


「ほんと? 約束だからね! 仕方がないからちょっとだけだよ」


 ピリカが庭の中央に向かってぴゅーんと滑空していく。


「すげぇ! 飛んだぞ! みんな行くぞ!」


 子供たちがピリカの後を追って駆け出していく。

テーブルに残っているのは二人の先生と俺だけだ。

さて、ここからが本番だ。

真実に迫るための話が聞けるといいんだけどな……。


 予約していたスケールフィギュアの発売時期が次々と八月に延期になる。

マジで狙ったように集中させるのやめて……。

支払が恐ろしいことになる。

 今から節約せざるを得ない……。


 ブクマつけてくださった方……ありがとうございます!

増えるたびにちゃんと感謝の念を送っています!

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