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百七話 漫画やアニメだとその手のやつはたまにいるぞ

 午後になって閑散としてきたギルド内に貼りだされた新しい依頼票。

このタイミングで追加される依頼は殆ど無いのだろうとは思う。

しかし、そこはあまり問題ではない。

情報の出所は誰からでも構わないのだ。

大事なのは情報の内容が正確であることだけだ。

俺とピリカはギルドのフロアで声を掛けてくる奴が現れるのをまったりと待つ。


 ……。


   ……。


 今日はお目当ての依頼にありつけなかったんだろうな……。

フロアで暇そうにしていた冒険者が数人、貼りだされた依頼の内容を確認しては俺達の方を見て立ち去っていく。

俺の隣りにくっついて座っているピリカがおっかないのか。

報酬に釣り合うだけの情報を持っていないと判断したのか。

依頼が怪しすぎると訝しんでいるのか。

そこはわからないが……。


 おかしいな。

速攻で釣れると思ったんだけどままならんな。


 ……。


   ……。



 もうすぐ夕方になりそうだ。

今日はもう無理かな?

そろそろ切り上げて宿に帰ろうかと思い始めていた矢先、男三人の冒険者パーティーが戻ってきた。

誰もカウンターに向かうことなく、空いているテーブル席に座ったので、依頼達成も失敗も無く、今日は成果が出なかったのだろう。

それとなく聞き耳を立てていると、明日はもう少し南を探そうとか、諦めて依頼失敗にしてはどうか…… 等の話が聞こえる。

そんな話をしながら、視線を泳がせていたこの中の一人がボードに依頼が一つ増えていることに気付いて確認に向かう。

男は依頼の内容を食い入るように見つめた後、ボードから依頼票を剥がすと、そのまま仲間のところに戻る。


「おい、これどう思う?」


「!! 何だこれ…… 大丈夫なのか?」


「大丈夫なんじゃないのか? 堂々と貼りだされてるってことはギルドの正式依頼だろ? 場所も二階の別室だし完全容認ってことじゃね?」


「なら、決まりだな。ここで待っててくれ。俺一人で大丈夫だろう」


 三人で依頼を受けるか相談した後、依頼票を剥がした男が俺の方に向かってくる。

どうやら釣れたようだ。


「坊主がこの依頼出したハルトかい?」


「ああ、俺がハルトだ。 あんたが情報を提供してくれるのか?」


「銀等級のレッドだ。俺がこの依頼を受けよう」


「わかった。じゃあ、話は二階の部屋で」


 俺はピリカと席を立ち、カウンターのシルティに声を掛ける。


「シルティさん! 二階の部屋、いいですか?」


「あら……レッドさん。確かに適任かな」


 シルティはこのレッドという冒険者がこの依頼を受ける事に問題は無いと思っているみたいだな。

なら、それなりの情報が得られそうだ。

シルティに案内されて一昨日と同じ部屋に通された。


「それじゃごゆっくり。無事に終わったらここに依頼完了のサインをお願いね」


 シルティは依頼完了の確認書類を残して部屋を後にする。

部屋に俺とピリカ、レッドの三人だけになったのを確認してレッドが口を開く。


「まずは何で勇者セラス達の情報が欲しいのか聞いてもいいか?」


 俺はレッドにギルマスに話した内容と同じ話をした。


「……なるほどな。読めたぜ、坊主。見た目以上にあざといな」


 ??

この男……何が読めたんだ?

何か勘違いしてないか?

俺はガセネタを掴まされないために最良の手段を取っただけなんだが……。

こいつが何を早とちりしていても別に困らないので、このまま放置しておこう。


「今からセラス達の事を調べておいて、これから自分が加わる勇者パーティー内で優位に立つ気だな?」


 俺とピリカがセラス達のパーティーに加入する可能性はゼロだ。

そういう意味ではレッドの読みは完全に的外れだ。

だがそれでも、俺はセラスとその仲間の事を知っておきたい。

なぜならセラス達はきっと……。


 とりあえずレッドがどうとでも受け取ることができるように、意味深ぶってニヤリと笑っておいてやった。


「まぁ、いいさ。報酬に見合うとっておきのネタをつけてセラス達の事を教えてやるよ。依頼を受けたのが俺とは…… 運がいいな」


「そこまで言うということは ……期待できそうかな?」


「なんせ、魔法使いのプテラはセラスのパーティーに入る前は俺達のパーティーメンバーだったからな」


 ほう。

それは確かに面白い話が聞けそうだ。


「まずはリーダーのセラスからだな。あいつは勇者になるまでは、腕が立つだけのお人好しだった」


 ……だった?


「アルドとリコが一緒だったならもう聞いただろ? セラスは元々孤児院上がりでな」


 確かに二人もそんなことを言ってたな。


「最初は同じ孤児院にいたダリオとモニカってダチの三人で冒険者になったんだよ」


 初めて聞く名だな。

脳内PCのテキストメモを確認する。

セラスのパーティーは勇者セラス、アルドとリコ、魔法使いのプテラ、あとはウィルとラッファとかいうやつの六人パーティーのはず。

ダリオとモニカ……それ誰?


「三人共、筋はよかったけどな……。俺の第一印象じゃ冒険者として大成するほどの連中には見えなかったよ。しかし、あいつらが依頼をしくじることは殆どなかった」


「その理由を聞いても?」


「もちろんだ。知っている情報は全てという依頼だからな。セラスだよ……。あいつは戦闘において負け知らずだ。剣術は我流で技も動きも優れているわけではない。魔法だって冒険者としては凡庸だ。だけどあいつはなぜか【戦えば負けない】のさ」


 何それ?

わからんけど、幸運値みたいな隠し要素が振り切れてるとかなのか?


「俺もあいつと何度か模擬戦をやったことがあるけどな……。訳が分からん。あいつが使うのは素人に毛が生えたような我流剣術なのにどうしても奴には勝てん」


 もしかして、実は究極まで剣術を極めていてわざと弱いふりしてるとか?

あ~やだやだ。

漫画やアニメだとその手のやつはたまにいるぞ。

今は事実だけを記録して、セラスの強さの秘密を考えるのはよそう。

幸運値カンストなのか、実力隠してるだけなのか、今の段階では情報が足りなくて判断できないな。

考えても泥沼に嵌るだけだ。


「そのうち、あいつらは何度か魔獣討伐なんかもやるようになってな。どんどん成り上がっていったわけだ。魔獣討伐の功績や貧民街への慈善活動なんかが認められて勇者認定されたってわけだ」


「慈善活動ってのは?」


「自分が育った孤児院のために、かなりの寄付をしたらしい。その時に当時の孤児院長が領主からの補助金を殆ど着服していたことが発覚してな。その院長を告発して追い出して、そのまま自分が後任の院長になったって話だ」


「なるほどな。リコが入れ込むのも分かる気がしてきたな」


「セラスが院長をやるようになって孤児院は見違えるように良くなった。今じゃこの町で孤児院の子供を蔑むようなやつはいなくなったよ。なんせ勇者が院長だからな。勇者を敵に回したらこの世界じゃ生きていけないからな」


 それ程の権威持ちか…… 勇者ってのは。


「そんなわけで勇者セラスは貧民街では希望の星ってわけだ。街の上流層は面白くないかもしれんが、勇者相手じゃどうにもならんだろ」


「えっと、ちょっと気になることを聞いてもいいか?」


「俺にわかることならな」


「さっき、セラスの仲間にダリオとモニカって名前が出てたけどさ。俺はその二人は初耳なんだが……」


「次にその話をするつもりだった。このまま続きを聞いてくれ」


 今聞いたレッドの話とアルドとリコの話から分かる範囲では、セラスは悪い奴ではなさそうな気がするな。


「勇者パーティーとして順調だったある日、魔物の討伐依頼中にモニカが死んだ。セラス自身は無敵の剣士でも、仲間の二人もまとめて無敵とはいかなかったって事だ」


 モニカがパーティーメンバーにいない理由はわかった。

……と、いうことはダリオって奴もかな?


「モニカが死んだ事でセラスのパーティーに魔法支援ができるメンバーがいなくなった。当然、セラスとダリオは魔法職のメンバーを募集し始めたよ」


 さすがに次の展開は読めたかな。


「その話に飛びついたのが、当時あんたたちのパーティーメンバーだったプテラって事?」


「察しが良いな。その通りだ」


 いやいや、今の流れでそれ以外の展開は無いだろ。


「プテラは魔法使いとしては優秀だし、見た目もそれなりに美人だ。けどな…… ちっとばかし自意識過剰で欲の皮がつっぱり過ぎてる」


 あ~、どこの世界でもいるのか…… その手のメンドクサイ属性のやつは……。


「自分はこんな冴えないパーティーにいるべき女じゃない、勇者パーティーの日輪級がふさわしいって、セラスが勇者になった途端に猛アピールしていたからな。モニカが死んだときにこうなるような気はしていた」


 俺ならそのプテラって女がどんなに優秀でも命を預ける仲間としては勘弁してほしいかな。


「セラス達が新人の頃は孤児院上がりの薄汚い貧民って見下してたくせに、あの掌返しの早さは同じパーティーにいる俺達もさすがに引いたぜ」


「えっと…… 今まで自分を見下してきていたそんな女をセラスは仲間として受け入れたと?」


「言ったろ? セラスはお人好しだって。あいつは人を疑うって考えを母親の腹の中に忘れて生まれてきたんだろうよ」


 ……えっと、それって他人の感情がうまく理解できないある種の精神疾患じゃないのか?

地球だったら要治療の事例な気がするぞ。

そっち方面の知識は全然ないから分からんけど……。

ラライエじゃ精神医療的な概念自体が無いのかもしれない。


「まぁ、そんなわけでプテラはまんまとセラスのパーティメンバーになって日輪級の肩書きとなったわけだ。……で、それからだな。セラスがただのお人好しじゃなくなってきたのは……」


 このレッドという男…… 当たりかもな。

確かに報酬に見合うだけの話が聞けそうな気がしてきた。


 私事ですいません。先週、母が病気で入院しました。

命に関わる重い病気で、今も予断を許さない状況が続いています。

そんなわけで、しばらく更新の頻度が大きく下がります。

可能な限り投稿をするようにしますので、長い目で見てもらえると

助かります。

 丸一週間、更新できなかったのにブックマーク付けてくれた方が

いるのですね……。

 ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 内容を忘れてきたので読み返してるのですが、やっぱり面白いですね。 非テンプレ的(今は異世界モノがかなり下火だからテンプレ自体なくなってそうですが)に感じる展開が良いです。最初に出会った内の一…
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