百六話 もはや義務と言っても過言ではない!
これでも50年以上生きてきているわけで、人の死に目に会ったことだって一度や二度じゃない。
それでも顔と名前が一致する知り合いが殺されて、非業の最期を迎えた亡骸を見たのはさすがに初めてだ。
地球でも最高クラスに平和な国に生きる日本人ならなおのことだ。
日本人で知り合いとそんな死に別れを経験する人間は、ほんとうに一握りだろうな。
全く…… この小娘は……。
何やらかしたらこんな殺され方で人生終了するんだ?
誰からどんな恨みを買ったんだよ?
万人から慕われ尊敬を集める勇者のパーティーメンバーだろ?
この最期をお前は受け入れられたのか?
「……?? ハルト? ……どうしたの?」
橋の欄干を掴んでプルプルと手を震わせ、下の遊歩道を見つめる俺を心配してピリカが声をかけてきた。
自分の名を呼ばれたことで、ぐるぐると堂々巡りしていた意識が現実に引き戻された。
「リコが…… 死んだよ」
「え? あの騒ぎの中で死んでるのはリコなの?」
「ああ…… 【(U^ω^)わんわんお!】Tシャツを着た獣人の娘はこの世界に一人しかいない」
「……そっか。リコ、死んだんだね」
昨日まで、ガールズコントを繰り広げていた相手の死をピリカはどう捉えているのだろうか?
ようやく名前で呼ぶようになったというのに……。
俺は再びオペラグラスを覗き込んで、ここから見える範囲の状況を詳細に確認する。
もちろん脳内PCに全て記録する。
下に降りて直接確認しないのは、余計な嫌疑をかけられたくないからだ。
アルドとリコに連れられて、ピリカと共に街に入ったことはさすがに記録に残っているだろうからな。
こんな異世界じゃ意味不明の理由で冤罪をかぶる羽目になるかもしれない。
叩いた石橋が崩れるかもしれない世界なので、そもそも橋自体を渡らない方が良い。
一通り状況の確認が終わった。
「ピリカ、待たせたな。帰ろうか」
「……ハルト」
ちょっと受けた衝撃が大きくて、ピリカに変な気を使わせてしまったな。
ピリカと二人、そのまま宿への帰路についた。
宿に戻ってすぐ、カウンターにアルドかリコが俺を訪ねてきていないか確認してみたが、来ていないとのことだった。
もっとも、リコが来るはずがないことはすでに知っているが……。
アルドも丸一日経っても来ないのは少し気になるな。
明日、冒険者ギルドで聞いてみるか。
そのまま、宿で夕食を取って部屋に戻る。
自室に戻り、まずは持ち帰った情報を脳内PCで色々検証する。
……とはいっても、素人の浅知恵。
俺自身の持ちうる知見と、脳内PCにある資料の範囲のものでしかないけどな。
とりあえず、リコが何でこんな最期を迎えることになったのかくらいは、知っておいてやろうと思った。
おそらく、このままだとあいつは身元不明の死体として闇に葬られてしまうだろう。
俺自身の身に危険が及ぶかもしれないから、遺体を引き取って埋葬してやることはできない。
たった一月ほどの短い間だったが、共に追躡竜と戦い、緑の泥を抜けて、同じ火を囲んで飯を食った仲間だったんだから……。
え?
仲……間……だと?
そっか……。
全く持って駄目だな。
おっさんになると、こんな感性さえも擦れてきてしまってさ。
俺はもう、リコの事を仲間だと思ってしまっていたのか。
俺は異世界に来て初めて出来た仲間を……。
初めてやって来た街で、早々に殺されてしまったのか……。
10月8日
朝食を済ませて、出かける前に宿屋に金貨を一枚支払い、宿泊期間を25日延長しておいた。
宿を出てまっすぐ冒険者ギルドに向かう。
今のところ、ここが最大の情報源足り得るだろうからな。
予想通り、朝はそれなりに冒険者達で賑わっている。
入口をくぐった一瞬、注目を集めはしたが、すぐに元の喧騒が戻ってきた。
皆、少しでも条件の良い依頼を受けるためだろう。
出されている依頼書の確認に余念がない。
受付カウンターもそれなりに忙しそうだったので、少し空いてくるのを席に座って待つことにした。
一時間ほど待ったところで、大分ギルド内も掃けてきたのでカウンターに向かう。
ちょうど一昨日、俺達の対応をしてくれた受付嬢の姿が見えたので声をかける。
「シルティさん、おはようございます」
「あ、あら……確か、ハルト君よね? 今日は一人? アルドさんは一緒じゃないの?」
「今日はピリカと二人だけです。ちょっといいですか?」
「え? ええ……どうぞ」
そんなに警戒しなくても……。
ピリカにビビり過ぎだよ。
「あれからアルド……あとリコもですが全然宿に来ないのですけど、こっちには来ましたか?」
「いいえ、お二人共来られていないわね。ちょっと待っててね、他の子にも聞いてくるから……」
シルティは席を外してカウンターの奥に行ってしまった。
そのまま数分待っていると、シルティが戻ってきた。
「お待たせ。他の子もアルドさんもリコさんも見てないって言ってるから、来てないと思うわ」
「そうですか……」
「アルドさんは連盟に行くって言ってたけど、それから全く見かけないなんて……。どうしたのかしらね?」
リコがここに来ている可能性は皆無なのはわかっているけど、アルドも来ていないのか……。
「わかりました。自分で二人を捜してみます。それでちょっと教えて欲しいことが……」
「何かしら?」
「勇者連盟、勇者セラスの拠点、あとアルドとリコ、勇者セラスがいたという孤児院の場所を教えてもらえますか?」
「確かにいるとすればその辺りよね。……ちょっと待ってね」
シルティはモンテスの地図を使ってそれぞれの場所を教えてくれた。
俺は町の地図と教えてもらった三つの場所を記録する。
これはいいものを見られた。
俺は見たもの、聞いたものは脳内PCに保存できるからな。
街の地図ゲットだぜ!
「ありがとうございます。これって情報料なんかは?」
「ふふふっ、要らないわよ。こんなのは普通に町中で道を聞いても教えてもらえることだからね」
成程、街に住んでいる者にはそれなりに認知された場所か。
それじゃ次は……。
「あと、俺にもここに依頼出すことってできますか?」
「え? 依頼? もちろんできるけど、どんな依頼? 内容によっては高額になるかもだけど……」
「そうですね、お願いしたいのは……」
…………。
…………。
「本当にそんな依頼でいいの?」
「問題ないです。この条件だから意味があると思っているので」
「わかったわ。この依頼内容なら、ギルドへの手数料は最小額の銀貨一枚で大丈夫よ。あと冒険者に渡す報酬を……」
「それじゃ、これでお願いします」
ギルドに手数料の銀貨一枚を含め、冒険者への報酬となる硬貨を手渡す。
この瞬間、俺はギルドへの依頼人になったからだろう。
シルティは今までの砕けたものではなく、事務的な口調へと変わった。
「……確かに。依頼を受理いたしました。依頼票が準備出来次第、依頼を張り出すようにします。二時間後ぐらいになるので、それまでには戻って来てください」
「わかりました」
ちょうど昼ご飯時になってきていたので、ひとまず昼食がてら一旦ギルドを出ることにした。
大通りで早速、目的の昼ご飯を売っている店を探す。
異世界に来たからには、絶対に食べておかねばならないと思っている。
これはオタクとしてはもはや義務と言っても過言ではない!
むっ!? あれは…… フフフ、早速見つけたぞ。
大通りの店先で目的物を発見したので、迷わず購入した。
お約束の【なんかの串焼き】を購入!
なんの肉なのかは知らない。
知ってしまったら、躊躇するようなものだったら嫌なので敢えて確認しなかった。
知らないほうが良いこともあるよな。
冷めないうちに一口かぶりついてみる。
うん! 普通の食肉の串焼きだ。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
「?? ハルトどうしたの?」
ピリカが微妙な表情で覗き込んでくる。
「ああ…… 地球では必須儀式のはずの【異世界串焼き】がな……」
「ん?」
「こんなもんか ……で、終わってしまった。ちょっと切ない」
言っちゃなんだが、緑の泥でピリカが撃ち落としてくれていた、【いつもの鳥】の方が下手したらうまいぞ。
「これならピリカが獲ってくれる鳥の方がおいしいかな ……って思ってしまった」
ピリカの顔にパッと笑顔が咲く。
「そうなの? じゃ、ピリカが鳥獲ってあげる!」
ピリカが街の上空を飛ぶ鳥を撃ち落とすべく、鳥の姿を探し始める。
「ちょい待ち! 街の中で鳥撃つの禁止! 兵士がすっ飛んでくる未来しか見えない」
何とかピリカが【ピリカビーム】をぶっ放す前に制止できた。
俺が喜ぶと思ったら、即座に行動に移そうとするところあるからな……。
これもこの子のかわいいところではあるが、街の中じゃ気をつけないと。
さて、もう依頼が出ている頃かな……。
「そろそろ冒険者ギルドに戻ろうか」
「はーい!」
冒険者ギルドに戻ってくると、シルティが俺の戻りを待っていいた。
「おかえりなさい、待ってたわ。ハルト君が戻ってくるのを確認してから、依頼票出そうと思って」
「そうですか。それじゃお願いします」
シルティは静かに頷いて、ボードに俺の依頼を張り出す。
依頼者:ハルト(精霊術師)
依頼内容:勇者セラスとそのパーティーメンバーについて知っている情報を全て
冒険者等級:不問
報酬:小金貨3枚
備考:提供する情報が報酬金額に釣り合うという自信のある者に限る
ギルド内のテーブルで声がかかるのを待っています。
すぐにギルド二階の個室で情報を受け取り、問題なければその場で依頼完了とします。
前話投稿後、ブクマと評価増えてました!
デスゲーム終わってからでも、新しく読み始めてくれる人がいることが素直に嬉しかったです!
今回で28万文字……
デスゲーム終了後から一か月……5万文字積み上げた計算です。
このくらいのペースが社畜やりながらの自分ではほぼ上限ぽいのが
分かってきました。
焦らず、少しずつエタらせずに最後まで投稿し切ることを
目標に続けます。




