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百三話 日本では絶対に偽っちゃいけないことなんだけどな。

 アルドの後ろについてモンテスの街を歩く。

ピリカは俺のすぐ隣をてくてくと歩いている。

道行く人々は、ピリカの存在に気付くと驚いて距離を取ろうとするので歩きやすくて助かるが、これはこの世界の人々から精霊が恐れられている事実の裏返しでもあるのか。

大昔に種族間の戦争があったと聞いてはいるけど、どの程度のものだったのか……。

機会があれば調べてみるのもありだろう。

それよりも詰所からも出たことだし、最優先で確認しておきたいことが一つある。


『ピリカ、お前から見てこのメダルに何か小細工されたりしていないか?』


 盗聴・位置の特定・起爆など……。

この大きさのメダルなら地球の科学技術でだってこのくらいの小細工はやってのける。

ましてやここは異世界だ。

魔法的な手段でその手の小細工をされてしまうと、残念ながら俺にそれを察知する手段はない。


『……大丈夫。これはただの金属製のメダルだよ』


『そうか。ありがとう』


 大丈夫そうだ。

ならこのまま首からぶら下げていても大丈夫か。


「?? また内緒話か?」


「気にしないでくれ。他愛のない話だ」


 アルドもそれ以上突っ込んでこなかった。

さすがは空気の読める常識人だ。


 しばらく街の大通りを歩いていると、他より二回り以上大きい木造建築物が視界に入ってきた。



「あれが冒険者ギルドだ」


 この街並みもそうだが、冒険者ギルドの建物にも違和感を感じない。

俺の感性が異世界に順応しているのか、元々あるオタク感性がラライエに順応しているのかわからんが……。


 アルドがギルドの入り口を開けて中に入る。

俺とピリカもそれに続く。

俺達がギルド内に入ってきたのと同時に、フロアに居た者全員の視線が俺達三人に集まる。

全員の表情がくるくると目まぐるしく変わる。


「アルド! あんた死んだんじゃ……」


「光の精霊だと!? 何だこいつ…… 服着てるぞ」


「待て! 契約精霊だ。そこの子供が精霊術師のメダルをかけてる」


「あんな子供が精霊術師だってのか? あの精霊、ほんとに大丈夫なのか?」


 アルドは周囲の反応はすべて無視して奥のカウンターにずんずんと進んでいく。

とりあえず、ここでのルールがさっぱりわからないので、アルドについていくしかない。


「ピリカ、俺から離れるなよ」


「はーい!」


 ピリカが先走った冒険者に不意打ちされたりしないように、そう声をかける。

ピリカは俺の左腕を抱きかかえて、ぴったりくっついて歩く。

とりあえず、これで問答無用で襲われたりは無いだろう。


 カウンターにはお約束の受付嬢が近づいてくる俺達に視線を向けている。

この組み合わせが意味不明なのだろう。

 なんかアワアワしている。


「すまない、シルティ。すぐにギルマスに取り次いでくれ。あと別室を用意してくれると助かるな」


「アルドさん? えっと、あれ? あたし訳が分からないんですけど? だってこの前、勇者セラス様がアルドさんとリコさんは……」


「わかってる。ここで話しても長くなるし外野がうるさいからな。ギルマスに直接説明するから」


「そ、そうですよね。わかりました……。二階にどうぞ」


 シルティと呼ばれた受付嬢が一度、奥に下がって、突き当りの扉から出てきた。

カウンターからこちら側に回り込んできたのだろう。

俺達に階段から二階に上がるように促して、別室に先導する。


 普通にテーブルと椅子が向かい合わせに三脚ずつ。

ごく普通の打ち合わせや会合に使われる接客用スペースといった感じだ。


「この部屋でお待ちください。ギルマスに取り次いできます」


「わかった。よろしく頼む」


 受付嬢は俺達を残して部屋を出て行った。

席についてしばらく待っていると扉が開いて、身なりの正しいすらっとした中年男性が部屋に入ってきた。

ちょっと予想が外れたな。

ギルマスというから恰幅の良いガハハって笑いそうな、腕っぷしに自信あり! 的な髭のおっさんが来ると踏んでいたのだが……。

ギルド運営に戦闘力は不要だろうから当然か……。

スポーツと同じで、強い冒険者と優秀なギルマスがイコールということでは無いということだな。


「待たせたね。シルティからアルドが帰ってきたと聞いて驚いたよ。とにかくよく生きて戻ってきてくれた。それで……リコは?」


「もちろん、一緒に戻ってきました。あいつは真っ先に拠点(ホーム)に向かってしまいましたよ。セラスに無事を知らせるんだってね」


「はははっ、リコならそうなるだろうね。早速だけど何があったのか報告を頼むよ。……その子と服を着た珍しい精霊の事も含めてね」


 アルドは頷いて緑の泥で何があったのか、掻い摘んでギルマスに説明した。


「そうか。それは大変だったね。まさか、たった三人で追躡竜(ついじょうりゅう)を倒してくるとは……。それじゃ、その話を証明する物を見せてくれるかい? もちろん日輪級のアルドを信じているけど、ルールだからね」


 アルドは詰め所の時と同じように背中の包みを机の上で広げて見せる。


「……確かに追躡竜(ついじょうりゅう)の討伐証明部位だね。勇者を含まない冒険者がたった三人でこれを倒した前例は、僕の記憶の中には無いね。すごい記録を打ち立てたものだよ」


「それで、セラスの指名依頼は?」


「もちろん、これにて達成だよ。先日、セラスが依頼失敗の報告をしに来ていたけどね」


「ありがとうございます」


「それにしてもハルト君……。話を聞く限りじゃ、君の契約精霊の力は凄まじいね。追躡竜(ついじょうりゅう)に通用する力を持つ精霊術師は中々いないよ」


「はぁ、それはどうも」


 奴に通用する力があるのは俺ではなくピリカなのだが、ここを突っ込んではいけないみたいなので流しておく。


「この子が加われば、セラスのパーティーは大幅な戦力強化になるんじゃないのかい?」


「いや、ハルトは冒険者になりたいわけじゃないみたいなので……」


「え? そうなのかい?」


「まぁ、これからどうするのかは街をゆっくり見て回ってから決めます」


「ギルマスの立場としてはもったいないと思ってしまうけど、仕方が無いね。それよりアルド、急いだほうが良いよ」


「何をです?」


「セラス達はギルドと連盟にアルドとリコの死亡届の書類を提出している。このままだと二人共、手続き上は死んだことになってしまう。いろいろと面倒くさいことになるよ」


「そんな…… 早すぎる。俺達が死んだところを確認したわけでもないのに……」


「そうだね。今回の場合だといくら生存が絶望的でも、一旦行方不明の扱いにして半年間生存確認が出来なければ死亡の扱いにするのが通例だね……。シルティ!」


「およびですか?」


 ギルマスに呼ばれてさっきの受付嬢がやってくる。


「すまないが、アルドとリコの死亡届の書類を持ってきてくれ」


「わかりました」


 受付嬢が書類を取りに退出する。


「とりあえず、ギルドに出された書類は僕のところで止めておく。アルドの書類は目の前に本人がいるからこのまま廃棄でもいいのだけど……。リコの書類の事もあるから、直接あの娘の顔を見てから書類はまとめて廃棄扱いにするよ」


「わかりました。お願いします」


「お待たせしました。二人の書類です」


 受付嬢が書類をもって戻ってきた。


「ありがとう。仕事に戻ってくれ」


 ギルマスは書類を受け取り、受付嬢を返す。


「セラス達が持ってきたアルドとリコの死亡届だ」


 ギルマスが、二人分の書類をアルドに見せる。


「ギルマス…… これって……」


「二人共、追躡竜(ついじょうりゅう)に喰われたことになってるね。アルド本人はテゴ族に寝込みを襲われたって言ってるのに…… 実際のところ、緑の泥で何が起きたって本人たちにしかわからないから、死因なんて大した問題じゃないんだけどね」


 それは、日本では絶対に偽っちゃいけないことなんだけどな。

死因を偽れば、それだけで罪に問われる国で生きてきた俺には充分大した問題だが……。

ましてや二人共生還してるからな。

魔物が現れる前の日本だったら普通に新聞に載る事案だぞ。


「とにかく、連盟に出された書類を早く止めてもらった方がいい。死者にされてしまったら相当面倒くさいことになる。」


「そうですね。すぐに連盟に行きます。ハルトの事をお願いしても?」


「ああ、構わないよ。何ならこのまま近くの宿を紹介してあげるよ」


「すいません、お願いします。ハルト、聞いての通りだ。俺はこのまま連盟に事情を説明に行く。ここでいったんお別れだ。」


「わかった」


「ひと段落したら宿屋に会いに行くから……。ギルドに紹介された宿を替えるんじゃないぞ。ピリカ、ハルトをしっかり護るんだぞ」


「ふん! アルドなんかに言われなくてもハルトはピリカが護るから大丈夫だよ!」


 アルドは俺の肩を軽く叩いて、部屋から出て行った。


 うん、躍起になって投稿しようとしたら凄まじい勢いで睡眠時間が失われますね。

社畜の自分には命取りです。

 そんなわけで、次回の投稿は週末以降になります。


 少し前に見たら、評価とブクマが増えていました。

つけてくださった方、どうもありがとうございます。とてもうれしいです!


引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ面白いです。一気に読んでしまいました!特に程よく各種族が身勝手なのがリアルな面倒くささを感じて個人的にはツボです! あとピリカ可愛い……性格的なチョロインではなく種族特性が地球人…
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