百二話 勇者セラスは依頼達成だ
モンテスの入口らしき大きな門が見えてきた。
それなりにでかい門だが常時解放されている感じだ。
入口に数名の武装した男が立っている。
装備が均一だからこの都市の門番的な連中だろうな。
防壁の上に立っていた見張りと思われる男がこちらを視認して下の門番に何やら話している。
しばらくして、3人だけこちらに駆け寄ってきた。
他の兵士より少し上等そうな装備を身にまとっている。
二人は既に剣を抜いていてもう一人は杖を手にしている。
多分…… いや、絶対ピリカを見ての反応だろう。
兵士がわらわらと来ないのは、ピリカ相手に普通の攻撃が通じないのを見越してか……。
なら、あの二人の剣は魔法金属製かな?
ピリカに対して有効な手立てを持っている奴が出てきたということだろうな。
さて、どうなることやら。
念のため、すぐに術式を発動できるように忍ばせておく。
ピリカへの対策をした上で来ているとなれば、最悪【ポータル】でとんずらも選択肢に入れておいた方がいいかもしれない。
そんな俺の動きを察したのか、アルドが俺の挙動を制してきた。
「大丈夫だから、俺達に任せておいてくれ」
アルドは手を振って駆け寄ってくる三人に合図を送る。
アルドとリコの姿を確認した3人は剣を鞘に納め、歩いて近づいてくる。
危険が無いと判断したのだろう。
「アルド! それにリコも! 二人とも無事だったのか!」
「ああ、こいつらのおかげで何とかな」
「そうか、それでこの精霊は?」
「この子の契約精霊だよ。野良じゃないから害はないよ。かわいいでしょ?」
ピリカはジト目でリコに視線を向けている。
これは、わしゃわしゃされないか警戒してると見た。
「光の精霊とは珍しいな。それに服を着た精霊は初めて見たぞ」
「俺もだ」
「それで、この子が本当に精霊術師なのか?」
「緑の泥にある秘境集落の子らしい。街に行きたいって話だったから連れてきた」
「わかった、詳しい話は詰め所で聞こう。一緒に来てくれ」
俺達は三人に続いて街の入り口に向かう。
ここが門番たちの詰め所なのだろうな。
そのまま門をくぐってすぐのところにある建物の一室に通された。
二十人ほどで使うような大きなテーブルがあるから、会議室と思われる。
各々椅子に座り、ようやく事情の聞き取りが始まった。
俺はアルド達に話したものと同じ内容の作り話を、部屋に集まっている兵士達に聞かせてやった。
「なるほど。事情は分かった。アルドが身元引受人になるのならいいだろう。滞在許可証を発行してやろう」
俺の聞き取りを行っていた服装の少し違う男は、この詰め所の兵士長とのことだった。
入り口近くにいた兵士に許可証の発行を命じる。
指示を受けて兵士はそのまま部屋を出て行った。
「ありがとうございます。本当なら結構時間かかるって聞いていたので助かります」
「礼ならアルド達にな。日輪級冒険者が身元を保証するというから特例だ。次にそのアルド達の事だが……」
「ん? 何か問題があるのか?」
少し歯切れの悪い兵士長の反応にアルドは話の先を促す。
「……ああ、実は五日前に勇者セラス達が戻ってきた。指名依頼に失敗して、アルドとリコが死んだと言ってな……」
「なんだって?」
「だから、私も驚いている。勇者が死んだと言っている仲間が二人共そろって我らの目の前にいるのだからな……」
「そんな…… セラス…… 何で?」
リコは驚きのあまり、声を失っている。
「それで、セラス達は?」
「ああ、四人共無事だった。とにかくギルドと連盟に状況の報告に行くと言っていたよ。それ以来、見かけていない」
「そうか」
「まぁ、緑の泥で分断されたとなれば、合流できなくなった時点で死んだと判断するのはわからんでもないけどな……」
兵士長はそう勇者セラスの話から感想を述べる。
「確かに…… しかも今回は追躡竜の討伐だ。奴の活動域ではぐれたとなれば尚更か」
周りの兵士たちも兵士長の見解におおむね同意のようだ。
「それで、追躡竜はどうなんだ? 勇者セラス達は依頼失敗と言っていたが…… 奴の居場所や移動ルートぐらいは特定できたのか?」
ようやく復活してきたリコがどや顔で兵士長の質問に答える。
「何言ってんの? 勇者セラスのパーティーが指名依頼を失敗するわけないじゃない! アルド!」
アルドがやれやれ……ってエフェクトの見えそうな表情で、ロープで背中に縛ってある物を机の上においた。
その包みをほどくと、中から追躡竜の討伐証明部位である放射体が姿を現す。
「!! おい…… これは……」
「見ての通りだ。勇者セラスは依頼達成だ」
「こいつは驚いた。まさかアルドとリコの二人だけでか?」
「まさか、ハルトとピリカが加勢してくれたおかげだ。二人がいなかったら今頃、こいつの胃袋の中だ」
「それでもたった三人で追躡竜討伐か……。 さすがは日輪級だな。恐れ入ったよ」
こいつらもピリカを頭数には入れてこないか。
分かってはいたけどな。
「ところでハルト君、君の契約精霊を引っ込めておいてもらえないか?」
「それはできません。ピリカがそれを望んでいないので……」
ボル車の時にも言われたから遅かれ早かれ言われるとは思っていた。
俺の答えは一貫して変わらない。
「別に良いんじゃないの? ずっと精霊を顕現させてちゃダメなんて法律はなかったよね?」
「確かに法的にはそうだが……」
「なら良いじゃない」
リコが援護に入ってくれた。
この国にはピリカを引っ込めないといけないという法的根拠はないようだ。
良いことを聞いた。
この手の反論材料は集めておくにこしたことはないからな。
「わかった。だが気を付けてくれ。社会通念上、精霊を出したままで町を歩くのは剣士が剣を抜いたまま街を歩いているのと同じと見られるからな。ちなみに、正当な理由なく剣を抜いたまま市街を歩くのは違法だ」
「わかりました。気をつけます」
「くれぐれも頼むぞ。もめ事を起こして我々の仕事を増やさんでくれよ」
そう言われると不要なトラブルを呼び込むリスクになりそうな気がしないでもないが、今までの感じだと精霊連れている人間に話しかけてくる奴というのはかなり限定されそうだ。
逆の考え方もできそうだな。
そんな話をしていると、部屋の扉が開いてさっき出て行った兵士が戻ってきた。
手に書類となんかメダルっぽいものを持っている。
「ハルト君、滞在許可証が出来たみたいだ。求められたときはこれを提示しなさい」
兵士から滞在許可書を受け取る。
紙の質はあまりよろしくない。
地球の工業製品であるコピー用紙と比べるのは可哀そうかな。
俺の名前や発行日、発行者名などは手書きで後の定型と思われる部分は判子?
……いや、版画的な印刷かな?
次に渡されたメダルのようなもの……革紐が通してあって首にぶら下げられそうだ。
彫られている模様は何だろうか? ……六芒星でいいのか?
「これは君が精霊術師であることを示すものだ。外を歩くときはこれを身に付けておくこと。そして、精霊は常にそばに置いておくように。精霊が単独でいるところを誤って討伐されてもどこにも文句は言えないからな」
「わかりました」
かつて精霊王と呼ばれていたらしいピリカが容易く討伐されるとは思わないけど、用心は必要だろう。
ここは街のルールには従っておくことにしよう。
俺は渡されたメダルを首からぶら下げておく。
「滞在許可証の有効期限は三か月だ。それまでに身の振り方を決めて、役場に住民登録を済ませるか、滞在許可の延長を行うかする必要がある。」
なるほど。
住民登録をすればここでずっと暮らせるが多分、納税の義務が発生しそうだ。
腰を落ち着ける場所選びとタイミングはよく考えて決めないとな。
「ここでの手続きは以上だ。もう行ってくれていいぞ」
俺達は詰め所から解放された。
これでモンテスに入ることができるわけか。
「アルド、ハルトとピリカをお願い」
建物を出るなり、リコがアルドに声をかける。
「?? どうした?」
「あたしは先に拠点に戻るよ。セラス達に無事を知らせてあげないと。きっとあたし達が死んだと思って悲しんでる。早く安心させてあげなきゃ」
「それなんだけどな、俺は先に……」
「きっと依頼も達成して二人共無事だって知ったら、びっくりして喜ぶだろうな」
アルドが何か言おうとしたが、リコは全く取り合わず話を続ける。
よほど勇者セラスに会いたいのだろう。
耳や尻尾の動きを見るまでもなく、心が逸り過ぎているのが手に取るようにわかる。
「ハルトとピリカもまた後でね! すぐ合流するから!」
「おい! ちょっとリコ!」
アルドの制止も聞かずにリコは街の雑踏の中に消えていった。
「しょうがないな……。じゃぁ、俺達はギルドに行くか。まずは依頼達成の報告をしないとな。それに、ハルトの素材換金とこれからの事を決めておかないと……」
「悪いな。よろしく頼むよ」
俺とピリカはアルドに連れられて、ギルドに向かって歩き始める。
すいません。遅くなってしまい、日付を跨いでしまいました。
今回から二章です。
今まではデスゲームを意識して一話当たりの文字数(2000字程度)を
絞り気味だったりしたのですが、デスゲームも終わったので一話当たりの
ボリュームを本来、自分が持っていきたかった水準(3000字以上)に
戻しながら投稿していきます。
その分、投稿頻度は下がり気味になりますがそこはご容赦いただければ
幸いです。
これからもよろしくお願いします。




