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百一話  ……ああ、消えておいてくれって事か。

 勇者達は神域にある神の御座にたどり着いた。

目の前に座するのはラライエの創成神、フェシオス。

ついに人類はその刃が神に届く場所に至ったのだ。


 勇者たちと神は互いに言葉を交わすこともなく、剣を抜く。


 戦いは長く激しいものとなったが、勇者たちはついに創生神フェシオスを切り伏せた。

人類はラライエ創生より、世界をその手に握っていた神を討ち取ったのだった。


 この時をもって、ラライエはすべての命が神の手を離れ、自らの力だけで道を切り開いて生きる世界に生まれ変わったのである。


 その後、勇者たちは神域に至る道を永遠に封じて神の力及ばぬ世界の証とした。

これにより世界は神の啓示も天罰も無く、全ての運命を己自身で選び、歩む礎を築くことになった。


 ラライエ……勇者たちが先陣を進む、自らの力で運命を切り開く世界……。


       ラライエ創成記 終章より一部抜粋




 ここまで見通しが良いと、魔物も隠れる場所はない。

見える範囲に敵がいないからとりあえず、すぐに敵のおかわり追加は無いと思ってよさそうだ。

これなら後片付けにかかっても問題はなさそうだ。


「ピリカ、魔物の死骸を片付けるから穴を頼むよ」


「はーい!」


 50匹を超える魔物を埋める穴ともなるとそれなりにデカいものになる。

アルドとリコは何も言わずに手伝ってくれている。

ピリカは相変わらず【ピリカキック】でホールインワンを連発している。

文字通りの死体蹴りである。

 ボル車の護衛をしていた冒険者二人も黙って見ているのも悪い気がしてきたのだろう。

途中からノールの死骸の片づけを手伝ってくれるようになった。

この手の単純作業は人数さえいれば終わらせるのはすぐだ。

強化魔法で底上げされた人間五人とピリカでやれば、ものの10分で終わる。


「これでとりあえず大丈夫だろう」


 一息ついたところで、ボル車の護衛をしていた剣士がアルドに話しかけてきた。


「もう駄目かと思っていた…… 助かったよ。ありがとう」


「これはあんた達の仲間の物か?」


 アルドが回収してきた3枚の冒険者ギルド証を差し出す。


「ああ。 いい奴らだった」


 アルドはギルド証を剣士に手渡してやる。

魔物が全て倒されたことで、ボル車から乗客たちも降りてきてアルドとリコに感謝の言葉を伝える。

俺のところには誰も来ないけどな。

理由はもちろんわかっている。

ピリカが俺の隣にいるからだろう。

なんとなく察しはついていたが、ラライエでの精霊は相当に恐れられているみたいだ。


 例えるなら日本で檻にも入れず、放し飼いで成獣のライオンを連れて歩いていたとしたらそりゃ誰も近寄らんわな。

飼い主がライオンを撫でながら


「ああ、この子? 大丈夫! おとなしいし絶対嚙みついたりしないから」


……なんて言っても、無理なものは無理だろう。

多分、そんな感覚だと思われ……。


 リコの方に視線を向けるとボル車の御者と何やら話し込んでいる。

なんか問題があったのだろうか。


「リコ、どうしたんだ?」


「ボル車が使えないんだってさ」


「?? どこかノールに壊されたのか?」


「そうじゃなくて、【ボルロス】の傷が深くて歩けないかもって……」


 ボル車っていうからこのデカいアルマジロは【ボル】っていうのかと思ってたけど、正式名称は【ボルロス】っていうのか。

一応、覚えておこう。


「リコ、こいつはいきなり襲ってきたり噛みついたりは?」


「大丈夫だと思うよ。草食だし身の危険を感じたら、今みたいに丸くなる動物だから……。大丈夫だよね?」


 リコが、御者に確認を求める。


「そりゃ、坊主の連れてる精霊に比べりゃ、なんだって安全だろうよ。しつけられてるボルロスなんて可愛いもんだ」


 わかっていたが、気に入らん物言いだな。

いちいち気にしていたらきりがないな。

俺はボルロスに近づいて様子を確認する。

丸まっているのでよくわからないけど、体の下に血だまりが出来ているから決して軽傷ということはないだろうな。


「ピリカ…… こいつらの怪我を治せるか?」


「もちろん!」


 ピリカは治癒術式を展開させる。

術式から降り注ぐ光が二頭のボルロスの傷を癒す。

ほどなくボルロスは二頭揃ってのっそりと起き上がる。


「こりゃすげぇ。こいつらはもうダメだと思ってたのに」


 御者は嬉しそうにボルロスの具合を確かめる。

問題なくボル車を曳けると判断したのか、手綱の調整をしたりして出発の準備を整え始める。


「ところで皆さん、これからモンテスに?」


「ああ、戻るところだ」


「でしたら、乗って行かれてはいかがですか? 皆さんが乗る分の席はまだありますよ」


 まぁ、ノールのせいで三人分、空きができただろうからな……。



「そうか。なら頼もうか」


 アルドが御者の申し出を受けてボル車に向かう。

リコと俺、ピリカも続こうとしたところで御者が声をかけてくる。


「すまないが、ボル車に乗る前に精霊を引っ込めてもらえるか? 他の乗客が怖がるから」


 引っ込めろとは?

……ああ、消えておいてくれって事か。


「それはできない。ピリカがそれを望まないからな。俺はピリカの意思は最大限尊重するって決めているんだ」


「な…… 精霊術師なら無闇に精霊を顕現させないのは常識だろ?」


「……そんな常識は知らん。俺は秘境集落から来たばかりだからな」


「そうか、なら坊主をボル車に乗せるわけにはいかないな」


 呼び止められたときにそうなるような気はした。

まぁ、問題はないだろう。

ここまで来たら後は道なりに進めばモンテスには着くらしいからな。


「わかった。なら俺は乗せてもらわなくていい」


「おい、ハルト……」


「二人は早くモンテスに戻りたいだろう? このままボル車で行ってもいいぞ。あとは俺とピリカだけで大丈夫だ」


「なら、あたしも乗らないよ。ハルトとピリカだけ置いていけるわけないよ」


 リコが俺とピリカのところに引き返してくる。


「そういうことだ。俺達はこいつらにとてもでかい借りがある。こんなことでここに残していくような不義理は絶対にできないさ」


「ピリカもあたし達と一緒の方がうれしいに決まってるよね?」


「リコ達は先に行っちゃえばよかったのに!」


「ピリカ…… やっとあたしの事…… 名前で……」


 リコが目をキラキラさせて感激に打ち震えている。

多分、ボル車に乗らずに残る判断をしたから、好感度が【±0】から【+2】ぐらいになったかな?

まだまだピリカと仲良くなるまでには先は長そうだけどな。


「もう! ピリカはかわいいなぁ!」


 ピリカをわしゃわしゃやろうとしてリコが猛然とピリカに駆け寄る。


「!! こっち来んなぁ! シャシャァ!」


 もう好きにさせておこう。

問題はないだろう。


「でしたら、助けて頂いたお礼に何か出来る事は……」


 多分、勇者パーティーのメンバーに助けてもらって何もせずに行くわけにもいかないのだろう。

加えて、同乗してもらって街に着くまでに何かあったらまた頼る打算もあったと見た。

ここは落としどころを示してやるか。


「アルド、なら食料を分けてもらったらどうだ? あと二、三日分あれば足りるんだろ?」


「そうだな……。実は食料が底をつきそうなんだ。三日分の食料を分けてもらえるか?」


「はい、そのくらいなら……」


 御者は荷台から食料の包みをおろしてきてアルドに渡す。


「ありがとう。十分だ」


「それじゃ、我々はこれで……」


「助かりました。ありがとうございます」


 御者と護衛の冒険者がお礼を述べて、ボル車は街道を進んでいった。


「さてと、俺達もいこうか」


「そうだな」


 既に見えなくなったボル車が行った道を俺達も歩き始めた。



 10月6日


 ノールの襲撃から4日。

俺達は極めて平和に街道を進むことができていた。

途中、一度だけ二人が言っていた簡易休憩所とやらで一夜を過ごしたが……。

まぁ、ただのぼろい小屋だった。

屋根があって雨風を凌げますよ……ってだけだ。

ぶっちゃけ屋外でピリカの結界張ってる方が安全なのだが、そこは突っ込まなかった。


 そして今、俺の視界に入ってくるのは見渡す限りの農耕地だ。

遠くの方におそらく農家だろうか?

家屋が点在している。

予想通りの建築様式だ。

異世界だというのに驚くほど違和感を感じない。

やはり、俺のおつむは相当オタク思考に浸食されていると実感する。

アルドの話だと、この辺りまで来ると冒険者や領主の兵士たちが定期的に魔物の駆除を行うそうで、魔物被害もあまりないと言っていた。

(とはいっても、近年……というかここ二百年ぐらい魔物被害は世界的に増加傾向らしい。)


 あと、昨日ぐらいから道行く人とすれ違うことも増えてきた。

見る人全てがピリカを見ると驚き、距離を取ろうとする。

これは確かにアルドたちがいないと街に入るだけでも苦労しそうな流れだな。


「ハルト! 見えてきた! モンテスだよ!」


 グリナ大河の支流が流れ込んでいる、防壁に囲まれた町が見えてきた。

もはやお約束過ぎる風景だ。

あれかな? この町は巨人の脅威にさらされたりしてるわけ?

実際、そこまで防壁の高さはないけど……。

まだ遠いので正確にはわからないけど、脳内PCは防壁の高さを約5m弱と算出している。

単純に密入国(入領)を防止して人の出入りを管理するためだろうと思われる。


 五年以上かけてやっと俺は異世界の文明圏に到達したようだ。

こうして自分の目で街を見ると実感がわいてくるな。

ついに俺の異世界引きオタライフの幕が上がるのか?

この異世界の都市に、それができる土壌があるといいな……。

そんなことを考えながら、俺はケルトナ王国第三の都市、モンテスへと歩を進める。



第一章 (完)


 今回で一章は終了です。

次回、百二話から第二章の区切りです。


 あと、有難いことにトマト様より本作のイラスト提供をいただきました!

とっても嬉しかったです。


 一応、ラノベ表紙ぽく意識していただいた感じなので、

一話の冒頭に挿入しました。

(17日から反映していましたが、気付いた人いるかな?)


 イラストあっても抵抗ない方はご覧くださいませ。


 次回の投稿は、金曜日の夜と言いたいところですが、

おそらく土曜になると踏んでいます。

 なんかスーパーやる気スイッチ入ったらワンチャン

金曜投稿あるかもぐらいに思ってくださいませ。


 そして、今回の投稿までの間にありがたいことに

ブックマーク付けてくださった方がいらっしゃいました!

とても嬉しかったです!ありがとうございます!

 今後ともよろしくお願いいたします。

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